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対抗者

 選手たち召集を掛けられている控室に狼が入ると、既に綾芽や周、慶吾、柾三郎は集まっていたが、やはり、そこに真紘の姿はない。

 狼はまたもがっくりと肩を下ろした。

「よし、黒樹は来たな。あとは輝崎だけか・・・」

「やっぱり、真紘は来てないんですか?」

「ああ。困ったものだ」

 周が少しうんざりとした様子で溜息を吐いた。

 その様子に狼は何とも言えない気持ちになった。せめて真紘が来ない理由が分かれば弁護だって出来るが、何一つ分からない狼には、何も出来ない。

 出来るとしたら・・・

 狼は周の後ろでふんぞり返って座っている綾芽に視線を向けた。すると、綾芽の狼の視線に気づいたのか、気怠そうに口を開いた。

「心配せずとも、輝崎は来るぞ?」

「えっ、それ本当ですか?」

「妾が嘘を言ってどうする?」

 それもそうだ。

 だがその情報は正しいのだろうか?だが、綾芽が断言するだけに信用性は高い。もしかしたら、綾芽には連絡を入れていた可能性だってある。

「では、会長。今輝崎と連絡は取れますか?」

 周が綾芽に向き直り訊ねると、綾芽は手をすっと上げ慶吾の方を指差した。

「奴とのやり取りなら、條逢に任せている。だから訊くなら條逢に訊けば良い」

「わかりました。・・・慶吾、それで今は輝崎とコンタクトは取れているのか?」

「まぁ、してるよ。もうそろそろここに着くみたいだから、本人に直接訊いてみれば?」

 慶吾がいつもの微笑を浮かべて、呑気にそう言ってきた。

 本人に訊けるのなら最初から訊いてると、狼は思ったが、そこは口に出さず呑みこんだ。

 この人に何か反論したって、絶対に勝てない気がする。なんせ、あの理事長の息子だし。

「すみません。遅れました」

 狼が急いで声が聞こえた方に、視線を向けると表情を硬くさせた真紘が立っていた。

「真紘!今までどこ行ってたんだよ?みんな心配してるんだぞ」

「すまない。黒樹にも迷惑をかけたな」

 狼に謝ってきた真紘の表情はやはり硬く、どこか壁を作っている感じだが、それ以外に代わった様子は無さそうだ。

 何があったのか、すごく訊ねたいが、こんな色んな人がごった返している場所で訊いて良い物だろうか?けれど、狼はそんな考えを頭を振って払拭した。

 いや、でも今訊かずいつ訊くんだ!?

「あのさ、真紘・・・一つ訊きたいんだけど、昨日、何かあった?」

 狼は単刀直入に疑問を真紘へと投げかけた。もし、ここで遠回しに訊いたとしてもはぐらかされるような気がしたからだ。

 真紘は目をしたに伏せ

「いや、何もない。気にするな」

 そう言ってきたが、ここで引き下がるわけにも行かないと、狼も切り込む。

「いや絶対嘘だ。はっきり言って、今の真紘は変だし、他人との壁を作ってる気がする。それって、昨日真紘がいたあの、公家の人が関係してるんじゃないのか?」

 この際、とことん訊いてやる。

 狼が勢いでそう訊くと、真紘が狼と久しぶりに目を合わせながら、目を見開いた。

「・・・見てたのか?」

「うん。ただの偶然だけど。・・・五月女さんたちだって心配してるし、僕だって友達なんだから心配だろ?」

「・・・言えない。これは俺の問題だ。黒樹たちには関係ない」

「なっ」

 狼が頑な真紘の頑固さに、少し苛つきを感じた。

 こんなにも色んな人が真紘を心配しているのに、当の本人がこの態度。自分たちが心配してるだけに、物凄く腹が立ってきた。

「そんなに訊かれたくないのなら、変に態度に出すなよ!そんな態度取られたら誰だって心配するだろ!!」

 狼が少し声を荒げる。

 だが、真紘はそんな狼とは反対に静かな声で

「すまない。黒樹の言う通りそれは俺の落ち度だ。次からは気を付けよう」

 むかっ。

 なんなんだよ?この態度!?

 狼が握り拳を作り、さらに声を上げようとした瞬間、声になる前に違う声で掻き消された。

「本当に五月蠅いわね。あと5分待ちなさい。あたしたちは朝食を食べてたのよ?見て分かんなかった?」

 そう叫んでいるのは、中国代表の万姫だ。

 会場スタッフに連れて来られた万姫の後には、不服そうな顔をしている中国代表選手が続いている。

「いえ、ですが集合時刻にも遅れてますし、他の代表選手の方も待っていますから」

 会場スタッフがそう説明すると、万姫はジト目でそのスタッフを睨んだ。

「啊呀―。中国の代表であるこの私が時間を遅らせろって言ってるの?そんな事も出来ないの?融通が利かないわね」

 そんな自己中心的な文句を言っている。

「まったく。万姫め、規律ある行動が取れないのか?決められたルールを守れないなんて・・・」

 スタッフに怒っている万姫を、冷静な言葉で侮蔑したのはドイツの代表選手のルカ・フリッツだ。

「まぁまぁ、女性がゆったりなのは仕方ないことさ。男ならそういう広い心で女性を受け止めてやらないといけないだろ?それが男のルールだ」

 仏頂面で怒っていたルカの肩を叩きながら、そう言ったのはイタリアの代表選手兼、大将のバリージオ・アマルフィだ。

「自国の勝手なルールを押し付けるな。だから初戦に遅れるんだ」

「あー、あれね。でもあれは不可抗力だ。だってそうだろ?自分の目の前に美人が歩いていたら、ナンパしない男はいないさ。それにしても、あの時はラッキーだったな、まさかアメリカの奴も、自分のコスチュームを着るのに手間取って、時間が遅れたんだもんな」

 ヘラヘラとバリージオは笑っている。

 だが能天気に笑うバリージオと話を聞いていなかったアメリカの代表選手、ライアンたち以外の選手が呆れ顔を浮かべている。

 片やナンパし、片やあの派手なコスチュームに手間取ったというのは、あまりにも間抜けな話だ。

 まさかこんな下らない理由で試合を遅らせていたなんて・・・。

 強い事は認める。認めるけど・・・アホすぎるだろ。

 狼は口をあんぐりさせて驚いた。

 さすがの真紘もこの理由には驚いた様で、信じられないという顔をしている。

「ちょっと、こんなふざけた理由で時間を遅らせられるんだから、あたしの意見は当然通るはずよ」

 万姫がバリージオの言葉を聞き、自分の我を通そうとしている。これも随分身勝手な話だ。

 そのため、スタッフも埒が明かないと思ったのか、トランシーバーを使い、何かを話している。

 そして話終えると、控室にあったモニターに大きく、ドイツ対中国戦の開催会場と共に、開始時刻が表示された。

 先ほどまで色々な事を言っていたが、対戦相手を見てニヤリと嬉しそうな笑顔を作った。

「へぇー。こんなに早く推荐(目玉)商品(賞品)に当たるなんて、ツイてるわね」

 そう呟いた後、万姫はドイツメンバーの近くまでやって来て、人差し指をフィデリオ達へと突き出しながら高らかに宣言した。

「残念だけど、去年の王者は次の試合で、この武・万姫に負けるわ。覚悟しとくのね」

 自信満々の笑み浮かべている万姫を、その周りにいる諸外国の選手達が、煽る様に囃し立てている。

「望むところだ」

 ドイツの大将であるデトレスがそう返すと、万姫が満足そうに笑い踵を返して、仲間の元へと戻って行った。

「あの性格・・・本当に揺るぎないよなぁ」

 狼は万姫を半ば呆れ、半ば感心したように見ながら呟いた。

「態度はあれだが、あの性格は妾の好みではある。実に好戦的というのは有り難ない。ああいう輩は潰し甲斐があるという物だ」

 万姫よりも鋭さが増した笑みで綾芽が笑っている。

 だが、そんな綾芽の言葉をまともに受けても会話は成立しない。その事はここにいるメンバーなら重々に承知している。

 だからこそ、周でさえ綾芽の言葉を聞き流している。

 本人も返事がこないことを、気にも止めていない様子だ。

 狼も最初の内は反応しようか戸惑ったが、今ではもう慣れてしまった。

 細かい所は気にしないというのは、彼女の素晴らしい所だが・・・、生徒会室でのあのだらけた姿は少し気にした方が良いとも思う。

 生徒会室での綾芽は、着物を着崩して御座に寝そべっているのが、いつものスタイルなのだが、仮にも自分以外は皆男子なのだから、危うい格好はしない方が良いとは思う。

 狼はそう思いながら、短くため息を吐いた。

 するとそこへ、さっき万姫から敗北予告を受けていたフィデリオが近づいて来た。

 フィデリオは、狼と目が合うと軽く手を上げて挨拶してきたが、すぐに顔を強張らせ真紘へと視線を向けた。

「確かドイツ代表のフィデリオ・ハーゲンだったな。俺に何か用か?」

 自分の目の前に来たフィデリオに真紘が訊ねると、フィデリオは少し迷ったような表情を作ってから、一息吐いてから口を開いた。

「用って程じゃないけど、一言言いたくて・・・・俺はマヒロに負けるつもり無いから。云いたかったのはそれだけ。・・・それじゃあ」

 そう言ってフィデリオは戻って行ってしまった。

 負けない宣言をされた真紘は、さっきと変わらない表情の為、どんな胸中なのかは分からない。きっとフィデリオが言う「負けない」は、セツナの事を言っているのだろうが、はっきり言って、いきなりこんな事を言われた真紘からしたら、意味が分からないだろう。

 だがそんな真紘が誰に宛てるでもなく、独り呟いた。

「俺は何と戦えばいいんだ?」

 そんな真紘の声は本当に困っているような、そんな静かさがあった。


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