夢と栄光の剣
「え、なに?」
急いで狼と根津がグランドの方へと視線を戻す。
すると、ついさっきまでロシアと交戦していたイギリス選手が自分の陣地の方に立っている。しかもその手には、先ほどのBRVを手にしていない。
だがそれよりも、目に飛び込んでくるのは、装飾品の輝きなど色あせてしまうほど、神々しく輝いているロングソード型の剣だ。
剣はアーサーの頭上で不自然に浮いた、恐ろしいまでに神々しく光っている剣に会場中の人々の目が囚われてしまっている。
「どうだ?美しいだろう。これは伝説の剣、エクスカリバー。我々の夢と理想・・・そして全ての技術が詰まった素晴らしい武具だ」
陶酔しているかのように、アーサーが自分の頭上に浮いているエクスカリバーを眺めている。イギリス技術の結晶と言わんばかりのそのBRVは、まさに息を呑むほどの美しさだ。
「迷夢なことを言うのはやめなさい。見苦しいわ。そんな夢物語の産物が、我らの歴史に通用すると思ってでも?・・・・ふふふ、イギリスにもユーモア性があったのね」
「おやおや、自分たちの窮地の時に、そんな見栄を張れるとは驚いた」
「ふん。どうせ、貴様達のBRVはその夢の産物を作るために使ってしまったのでしょう?だったら、丸裸も同然!!おまえたち、我々の世界をこの夢にうつつを抜かしている連中に思知らせてあげなさい」
「「「「はっ」」」」
その掛け声とともに、ロシア選手がさっきとは違う陣を組み始め、其々が因子を外気へと放出させ、グランド内にロシア選手の因子が吹き荒れ、一瞬、その流れでロシア選手の姿が見えなくなる。
だがそれも一瞬のことだ。
一瞬で全ての準備は整っていた。
「見なさい。私の素晴らしき要塞を」
吹き荒れる因子が止まり、ロシアの選手の姿がくっきりと見える。だがそこには、ロシア選手だけではなく、後ろにロシアが誇る動く要塞、ホバークラフト「ポモルニク型エアクッション揚陸艦」が壮観な姿を現した。
「これはなんだー?ロシアの側にいきなりデカいのが飛び出してきたぞ!!これは前回の大会では出てきていなーい!!イギリスに対抗して新しい連携技を見せて来たか!?」
マイクの声には明らかに驚愕と興奮が入り混じった声を聞き、エカチェリーナが満足そうな笑みを浮かべた。
「確かに要塞だね。しかも4人分の因子を合わせて、それをエカチェリーナが自身のBRVを媒介にして造り出した因子要塞。あれは危険だね」
突如として現れたホバークラフトを見ながら、鳩子が冷静に分析した。
「危険って、まだ技も出してないのによく危険ってわかるね。まぁ、見た目からすごそうなのは出てるけど」
「狼、なに言ってんの?さっきも言ったでしょ?あれは全部ゲッシュ因子から出来てるの。だから、やろうと思えば、あの超巨大な揚陸艦が、超巨大爆弾にも変貌可能ってこと」
「えっ!もしそうなったら、ここの建物もただじゃ済まないんじゃないのか?」
あんな巨大な物が一気に爆発したら、確実にこのアリーナは吹き跳ぶだろうし、怪我人どころか死人さえ出かねない状況だ。
そんな最悪の光景を想像して、狼は身震いをさせた。
「いや、そこまで考えられなくなるほど、ロシアだって考えなしじゃないでしょ」
「だよね。それにしてもあのデカい揚陸艦が全部、因子で出来てるなんて、未だに信じられないや」
「まぁね。それにしても今回の試合、伝説の剣エクスカリバー対世界最高の揚陸艦なんて、デンジャラスにも程があるでしょ」
隣で短い息を吐いている鳩子を横目に、狼はまじまじと両国の選手たちに目を向けた。
ロシアの選手たちは、余裕そうな笑みを浮かべ、イギリスを倒す気満々の表情を浮かべている。余ほどの自信があるのだろう。
一方でイギリス選手たちも、真剣な表情はしているものの、動揺しているようには見えない。こちらも自分たちが造り出した勝利の剣、エクスカリバーに揺るぎない自信を持っているのが窺えた。
「さて、お互いの手札も揃ったことだ。チェックメイトといこうじゃないか」
「ええ。その意見には賛成だわ。さっさと終焉を迎えましょう」
二つの国の大将が意見を合わせた所で、エクスカリバーがさらに黄金の光を放ちながら、輝きを強め始めた。ロシアはホバークラフトの艦に装備されたイグラー1Mをエクスカリバー及び、イギリス陣地を標的として照準した。
そして、ホバークラフトからイグラー1Mが放出されると、それに合わせてエクスカリバーがアーサーの手元に落ちて、それをアーサーが掴む。
そしてその剣で飛んでくるイグラー1Mに向け斬撃を放ち屠ると、今度はその剣を惜し気もなく投擲し、ロシア陣地を眩い光りに包み込んだ。
イギリス代表たちが造り出したエクスカリバーは名の通り英国に勝利と圧倒的な強さを世界に知らしめることになった。




