決着
「すごいですね」
「感心してるとこ悪いけど、黒樹くん。あと7秒後にテレサ選手からの銃弾が黒樹くんの脇腹付近に来るよ」
「えっ、あ、はい」
狼がそう答え、すぐに左へと移動する。それとほぼ同時にテレサから銃弾が放たれ慶吾が予測した軌道で通り過ぎて行く。
やっぱり、この人の情報すごいな。
「今度はさっきの銃弾がD地点の経由しながら、黒樹くんがいるA地点に向かう予想。それから、黒樹くんが避けた場合を想定して、そのままG地点を通過して柾三郎を狙うみたいだよ」
「了解」
「心得た」
慶吾の情報を元に、狼たちが動きを合わせテレサの銃弾を躱す。
「あら、あたしの攻撃読まれてたのね。もう、ミーシャはちゃんと情報妨害してるのかしら?」
ミーシャが慶吾による策に落ちていることを知らないテレサが少しため息混じりにそんな事を言っている。
だが、それでも狼への攻撃をやめはしない。
テレサはちゃんと次の手を考えながら撃っているのがわかる。
だが・・・
「僕だってただ避けてばかりじゃない!!」
狼はイザナギに因子を注ぎ、エネルギーを連弾してテレサに撃ち込む。
だが狼の連弾は難なく躱されてしまう。
「まるで素人ね」
狼の攻撃を避け後ろへと跳んだテレサは、含み笑いを溢している。
確かに狼はテレサが言うように、射撃はあまり得意ではないが、今回はテレサに当てると言うのが目的ではない。
狼の目的はテレサを後ろへと誘導させること。
「これこそ、飛んで火にいる夏の虫だな」
「え・・・」
背後にいる綾芽の気配に気づかなかったテレサが短い声を漏らす。
帝血神技 火遠
次の瞬間、綾芽の回し蹴りを喰らったテレサの身体が発火しながら、蹴り飛ばされグランド内を囲む壁に叩きつけられ、沈黙した。
会場内が一気に轟く。
綾芽はそんな観客からの声を気にしていない様に、ニヤリと笑みを浮かべているだけだ。
きっと楽しんでいるんだろう。
「やっぱり、僕には理解できない」
狼はそう呟いてから、前に目を向けた。
そこには真剣な表情で狼たちを見据えているライアンとビリーがいる。
二人からはビリビリとした空気が遠くにいる狼にまで伝わってくる。
すごい気迫だ。
その気迫に負けてはいけない。気圧されてはいけない。
自分はただここに立っていたいわけじゃない。
綾芽と同じように、戦い好きというわけもでも、日本の代表としてでもない。狼の中にあるのは、ほんの少しのプライドだ。
やるからには勝ちたい。そんな誰にでもあるプライドだ。
だからこそ狼はイザナギの柄を強く握り直し、駆けた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
叫びながら、ライアンへと疾駆する。
「おいおい、いきなり頭を取りに掛かる気か?意気込みは良いと思うぜ?だがな、それは敵わない夢だ。なんせ・・・スーパーヒーローである俺がいるんだからな!」
ビリーが狼へと迫って来るが、狼の足は止まらない。
ただ只管にライアンへと向かって行く。
ビリーの前には、黒い影が広がる。
「またニンジャか・・・」
まさに因縁といわんばかりに、影から出てくる柾三郎とビリーが見合い、そしてお互いが同時に動いた。
暗雲忍術 鬼火
影がまるで炎のようにゆらゆらと揺れだし、ビリーに向かって迸る。
ビリーは自身に向かってくる黒い炎に、右拳を突きだした。
超神通力 フィスト オブ ゴッド
ビリーが突き出した拳から、巨大な拳の形をした気功波が柾三郎の炎とぶつかり合い、衝撃が会場内を包む。
「俺の超越された一発に勝てるものはなし!!」
ビリーが高らかに宣言し、再び自身の身体へと因子を充填した瞬間。
「ビリーとか言ったな?昂賀の末裔である小椙柾三郎、そなたの首を討つ者なり」
そう言ってビリーの背後に回っていた柾三郎が、クナイ型のBRVを取り出し、そのままビリーの首元に向け、動きを完全に封じた。
狼は柾三郎たちが起こした、攻撃の余波で足を止めそうになったが、辛うじて前へと進む。
それは目前に向かってくるライアンも一緒だ。
「キッド、お前もろともフラグを圧し折ってやるぜ」
ライアンが持つ光の刃が、より一層輝きを放つ。ライアンのBRVは無形エネルギーで刃の形状を取っているが、その中身は鋭く尖ったダイヤモンドが鋸刃のようになっている。
そのため、斬られたらひとたまりもないだろう。
そしてライアンも自身の技を繰り出す。
結晶剣技 スターソード
ライアンが光りの刃を天井へと向けると、光の刃が真上へと一直線に光を放ち、天井付近でその光が天井一面へと広がり、そして流星のようにグランド内へと光の刃が降り注ぐ。
そんなライアンの技とほぼ同時に狼も技を放っていた。
大神刀技 天之尾羽張
イザナギの刀身が強く光り、ライアンの流星の様なスターソードを全て殲滅していく。天之尾羽張とスターソードが衝突し、小規模な爆発がグラウンド中で起こる。その爆発の中を狼が奔る。
「まだまだああああああああああああああ」
「やらせるかあああああああああああああ」
狼とライアンの叫びが重なり、二つの刃も重なる。
重なった武器の破片が狼の頬を掠めた。
「マジかよ・・・」
苦笑を含みながら、そう呟いたのはライアンだった。
そして、ライアンの手にしていたBRVが粉々に砕け散り、その瞬間、日本の勝利が確定するホイッスルが鳴り響いた。




