眠れる獅子
「さぁ、始まるぞ!WVAの第一試合!!対戦国は中国対カナダだ!!いったい、どんな試合を見せてくれるのかぁぁぁぁぁぁぁ」
試合のルールは実際のアストライヤーの試合と同じ物で、二国の代表選手五名が総当たりする形だ。勝敗のルールは相手の敵チームを戦闘不能にするか、敵国のフラグを折ることだ。
そしてマイクの司会と共に、大きな花火音が響いて、観客たちが沸き立つ。そこに現れたのは得意げな笑みを浮かべた万姫率いる、中国の代表五名だ。
驚くことに、中国の代表には男性がおらず、全員が女子だ。
彼女たちは華やかなチャイナドレスに身を包み、堂々とグラウンドの中心に立った。それを迎え撃つのは、カナダの代表選手五名だ。そんな万姫とカナダ選手の後ろには、中国国旗とカナダ国旗が高らかに上がった。
「ふん。あたしの敵じゃないわね」
肩にかかった髪を手で払い、万姫は自身のBRVを復元した。万姫が使うBRVは西遊記に登場する如意棒のような形をしたBRVだ。
現在使用されているBRVは各国の有名企業が国防軍等と連携して開発したものが主で、最初に開発された物が第一世代機。そして、第一世代機はただ単に因子をエネルギーとして放出するだけだったのに対し、今使われている第二世代機は様々なエネルギーに変化させることに成功したものだ。
そしてそれをさらに改良したものが、今万姫が手にしている第三世代機だ。
これは中国の軍事開発部隊が手塩にかけた、正真正銘の第三世代機で、次世代の物よりも因子を別のエネルギーに変化させる速度が向上し、耐久性も格段と上がっている。
「中国の万姫め。このために第三世代機の調整を速めたな」
そう呟いたカナダの代表選手の大将である男が前へと出て、第二半世代機であるM1ガードランドを、手にノア・ウィブリーが万姫に向かって、突撃していく。
「悪いけど、あんたみたいなガッツいてる男は好みじゃないわ」
そう言って、万姫が身軽な動きで相手へと一気に近づき、それに続いて中国の選手がウィングスリー型に開く。
カナダの代表選手たちもダイヤモンド・ワンの形状を取り、包囲殲滅を狙う中国選手を切り抜けようとするが、既に中国の代表である万姫がカナダの陣営に深く潜り混んでいた。
「啊呀―。太晩(遅すぎる)」
そう言って、目にも止まらぬ速さで、カナダ陣営を崩す。
「なにをっ」
そう言って、M1ガードランドの銃口を向け、万姫の足元を狙い撃つ。だが、万姫はそれをアクロバットな動きで軽々しく躱し、如意棒で地面を叩く。
それを見ていた中国選手たちは高く宙に跳ぶ。
「しまった」
そう呟いたのはカナダの大将であるノアだ。そしてその言葉を口にしたときには、もう遅い。万姫の攻撃は既に発動していた。
神通技 火尖鎗
万姫が如意棒で突いた地面が火山噴火のように、地面が爆発を起こした。歓声が沸き立ち、会場内の士気が高潮していく。
「さっそく、出たぞ。万姫の火尖鎗!!これをまともに受けて、ノア選手率いるカナダ陣営は無事なのか?」
そんなナレーターが入り、さっきの攻撃による誘爆が起きたグランドを見守る。そして誘爆が一通り静まり、煙が立ち込める中、人影が見えた。
「我々がそう簡単にやられない」
ノアが万姫を睨みながら、そう言った。
だがそんなノアの身体には、幾つも負傷が見られる。それに加え他のカナダの選手たちも相当ダメージを受けている。
だからこそ、万姫は不敵な笑みを浮かべた。
「あたしの技をまともに受けても立ってるなんて・・・まぁ、そこは褒めてあげる。でもね、今は初戦だし、あんまり体力も使いたくないのよ。だから・・・結束(終わりよ)」
「ふざけるなっ!」
雄叫びを上げ、ノアのM1ガードランドが乱射される。だが、その攻撃も如意棒を使い、防御し、万姫は叫んだ。
「紫薇!!」
「イエッサ!!」
紫薇と呼ばれたツインテールの少女が、95式自動歩槍型のBRVを構え、狙うはカナダの国旗であるフラグ。
先ほどの万姫の強力な技を受け、まともに立てないカナダ選手は、防御に挺することも出来ない。そのため、丸裸状態のカナダのフラッグはいとも簡単に紫薇の射撃に折られ、試合終了のホイッスルがピー―――――――――――――と鳴り響き、第一試合の幕を告げた。
そんな万姫たちの戦いを見ながら、狼は思わず息を呑んでいた。
万姫たちの圧倒的な戦いぶりに、純粋にすごいという感想しか出てこない。あの試合は時間的に換算すれば、あっという間だったが、価値のある試合だったとは思う。
これが世界レベルなんだと。
狼は無意識に身体を強張らせ、意識を引き締めた。
「さすが、代表って感じよね」
そう言ったのは、同じ列の席に座っている根津だ。根津の顔はすごく真剣だった。確かにこの大会には参加できないが、彼女なりにこの試合を通して、学ぶべきことを考えているのかも知れない。その行動はすごく彼女らしいと思った。
「狼はあれと戦うかもしれないんだよ?」
鳩子が意地悪な笑みを浮かべてそう言ってきた。
「うっ、人が不安に思ってるとこ言うなよ」
「はいはい。大丈夫。鳩子ちゃんたちは狼を信じてるからさ」
「信じてるって・・・、まぁ気持ちは嬉しいけど、僕がちゃんと戦えるかな?」
「ちゃんと左京さんたちと、特訓してるんでしょ?それに、ネズミちゃんやメイっちと戦ってみても、最初の頃はバテてたけど、最近は余裕そうに見えるし」
「いや、余裕ではないよ」
「そう?あたしにはそう見えないけど。ねっ、メイっち!ネズミちゃん」
すると、名莉と根津が一瞬顔を見合って頷いた。
「狼は強くなってると思う」
「そうね。なんかこれを言うのは悔しいけど、すごく伸びるのが速いのよ。・・・・戦闘センスが良いとも前に左京さんが呟いてたし」
そんな二人の言葉を聞いて、狼は素直に嬉しくなった。だがそれと同時に胸に何かが引っ掛かる感じがした。
何故だろう?
狼が自分の中に生まれた違和感に首を傾げていると
「そっかぁ・・・」
何に対しての言葉なのかは分からないが、小世美が少し寂しそうにそう呟いた。
「何がそっかなの?」
「あ、ええっと、オオちゃんも頑張ってるんだなぁって」
ぎこちない笑みを浮かべながら、小世美がそう答えた。そして付け足す様に
「偉い、偉い」
と小世美が言葉を続けた。
「小世美?」
「ん?なーに?オオちゃん」
「あ、いや別に。なんでも・・・ない」
小世美はさっきのようなぎこちない笑みではなく、いつもの小世美らしい明るい笑顔を狼に向けて、「そっか」とだけ答えた。
少しだけ小世美に元気がないように見えたのだが、今の小世美は既に名莉たちと他愛もない話を開始している。
僕の気にしすぎかな?
そう思い、狼は頭を自分の試合の事へと切り替えることにした。
狼たちの初戦となるのは、アメリカがイタリアのどちらかだ。慶吾の予想だと前回二位のアメリカの確立が高いと言っていた。
確かアメリカとイタリアが対戦するのは、幾つかあるグランドの中でも、ここから近いグランドで試合が行われるはずだ。
狼たちはシード権のため、まだまだ時間は十分にある。
「あのさ、向こうのグランド行かない?あっちでアメリカとイタリアで試合するみたいなんだ」
「ああ、なるほど。敵情視察ってわけか」
「まぁ、そうかな」
「狼も頑張ってることだし、鳩子ちゃんも一肌脱ごうかね」
「本当に?」
「情報操作士だからね。言っとくけど、さっきの中国とカナダのだってばっちり情報取集はしてあるよ」
「へぇー」
狼は感心した声を上げて、鳩子を見た。
「何さ?」
「いや、鳩子もやっぱり気になるんだなーと思って・・・」
「そりゃあね。BRVの研究に携わってる家だし、気になるところではありますよ」
鳩子は情報端末に収集したデータを映し出す。するとさっきの万姫のBRVの記録がステータス状で攻撃力などが映し出されている。
「やっぱ、第三世代機だからすごい数値ではあるね。エネルギー放出度が軽く150%に耐久性110%って何よ?第二世代機の数値より20%以上は数値が上がってるし」
「そんなに違うんだ。・・・ちなみに僕のってどのくらいなの?」
「それよ!!」
狼が興味本位で訊いた事だったのだが、想像以上に鳩子が話に乗ってきた。
「あたしも何度かイザナギにアクセスしてるんだけど、見事にフラれるんだよねー」
鳩子がきぃーという声を上げて悔しそうにしている。するとそこに季凛が来て耳元で何かを囁いている。
それを聞いた鳩子がブンブンと首を振り、頭を抱えた。
「あーーー、それはいけない。そんなん想像したら乙女の心臓破れる!!」
そんな意味の分からない鳩子に狼が首を傾げていると、名莉が狼の腕を引っ張ってきた。
「ん?どうしたの?メイ」
「もうすぐ、試合始まるみたい」
「ああ!そっか。早く行かないと。ほら、鳩子も来てくれるんだろ?」
頭を抱えながら唸っている鳩子に声を掛け、狼たちはアメリカとイタリアの試合が行われる試合会場へと向かった。
だがその途中。
「あっ」
短い声を漏らした、如月雪乃が立っていた。
「如月さんだよね?どこか行くの?」
そう狼が声を掛けると、少し悲しげな表情で首を横に振った。
「それが・・・どこに行けばいいのか分からなくて、私、ここに来たばっかりだから、その・・・お友達とかもいないし」
「だったら、僕たちと来る?これから、向こうの試合を見に行こうと思ってるんだけど」
「いいんですか?」
狼の誘いを受けて、雪乃が慎ましい笑顔を見せる。
すると、後ろのデンメンバーから
「すぐ可愛い子には、鼻の下伸ばすんだから。このアホオオカミ」
「たまにわざと?って聞きたくなるよね」
「オオちゃんのスケコマシ」
「あはっ。狼くんも隅に置けないよね」
「・・・・・狼」
そんな狼を非難する声が女子たちから聞こえてきた。
「ええ、なんで皆が怒るんだよ?如月さんが困ってるっていうのに」
「いや、それは分かるけどね・・・乙女の事情たるもんだよ」
「はぁ?」
狼が本気で首を傾げていると、女子たちからの重い溜息が降ってきた。
「まっ、アホオオカミだから、誰にでも尻尾振っちゃうのよね」
根津が額を手で押さえながら、呆れた声を出している。
「でも、さっき如月って言ってたよね?」
鳩子が雪乃に向けて訊ねると、雪乃はこくんと頷いた。
「もしかして、二年にいる加夜先輩と関係ある?」
そんな鳩子の言葉を聞いて、狼は思い出した。
確かサマー・スノウ宣戦で一緒にいた忍者の家系で、しかも柾三郎先輩とライバルとか言われていた人だ。
「もしかしたら、血筋を辿ればそうかもしれませんね。その方と会ったわけではないので、断言は出来ませんが」
「ふーん。なるほどね」
鳩子が納得したように頷いた。




