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シンパシー

 正直、気まずい。

 物凄く気まずい。

 これは今まで経験してきた中で一番の罠なんじゃないかと、思ってしまうくらいだ。

 イレブンスは後ろを歩く二人を横目でちらりと見た。

 二人いる中の一人とは目がばっちりと合った。

 マイアだ。

 マイアは険しい視線でイレブンスを見ている。

 なんで、俺がこんなに目の敵にされないといけないんだ?はっきり言って、イレブンスはマイアから睨まれるような事をした覚えがない。

 むしろ、そんなに関わっていない。

 マイア自身、特にこれといって自分と接触をしてくる素振りもないし、イレブンスもこれと言ってマイアと話すこともない。

 だからこそ、マイアがイレブンスに敵意を向けるのは不合理にも思える。

 いや、今はそんなことよりも・・・

 イレブンスは今一番頭を抱えたい問題の方へと、視線を動かせた。

 視線を向けた方にいる誠は、腕にどこから連れて来たのか分からない犬を抱えながら、視線を下に向け、眉間に皺を作っている。明らかに嫌悪感を表している顔だ。

 イレブンスは視線を前へと向け、溜息を漏らした。

「あらあら、イズル、ため息なんか吐いてどうかしたの?」

 唯一ここにいるメンバーの中で、イレブンスに好感的な笑みを見せるヴァレンティーネ。

「いや、別に・・・特に意味なんてねぇーよ」

「そうなの?じゃあ、溜息なんて吐いたらダメよ。幸せが逃げてっちゃうもの」

 にこにこ顔でヴァレンティーネがそう言ってきた。

 だが今のイレブンスにとって、この状況で幸せがどうのこうの言っている場合じゃない。

 溜息を吐くのを押さえたからといって、この淀んだ、居心地の悪い空気が改善されるわけでもない。

 まさか、こんなにも早く再開するとはな・・・

 イレブンスは自身の不運さに嘆いた。

 もう会うことはないという決意で、あの時誠にキスをしたのだ。だがそんなこと最初から無理な話だ。自分がトゥレイターとして真紘と戦う限り、その戦場には誠もいるに違いない。なんせ、誠は真紘の懐刀なのだから。

 きっとここにいるのも、真紘を探しに来たというような理由だろう。

「いっそのこと、ここを破壊して無理にでも脱出するか」

 この呟きはイレブンスの願望だ。

 そう、早くここから出たい。

 だが、そんなイレブンスの呟きに、後ろから淡々としたマイアからの返事が返ってきた。

「それは無理だな。私はもうすでにここを破壊して脱出という手段が取れないということを、実証済みだ」

 イレブンスの願望は、マイアによって一蹴されてしまった。

 しかも、極め付けにはその横で、誠が無言のまま呆れたような溜息を吐いた。

 なんなんだ?この最悪なダブルコンボ?

 イレブンスは思わず頭を抱えた。

 横にいるヴァレンティーネは「困ったわね~。どうしましょう?」的な表情を浮かべている。

 こんな面子で、何をどう切り抜けろって言うんだ!!

 行き場のない思いの所為で、イレブンスは精神的に参っていた。

 すると、コソッとヴァレンティーネが小声で耳打ちをしてきた。

「もしかして、あの黒髪の人がさっき話をしてたマコトさん?」

「まぁな」

 イレブンスが素っ気なく返事を返すと、ヴァレンティーネが後ろを振り返って誠を見ている。

 そして少し観察した後、イレブンスへと向き直った。

「綺麗な人ね」

 ニコニコとした笑みを浮かべながら、ヴァレンティーネがそう言ってきた。そんなヴァレンティーネに対して、イレブンスは妙な気まずさを感じていた。

 ヴァレンティーネは純粋に誠を見た感想を述べただけなのだが、イレブンスとしては歯痒い。

 勿論、ヴァレンティーネはイレブンスが誠に対して思慕を抱いているということは知らない。話さなかったし、話す必要もないと思ったからだ。

「イレブンス、ティーネ様とコソコソと何の話している?」

 マイアが鋭い視線をイレブンスに向けながら訊いてきた。

 だが言えるわけがない。

 話の話題である本人がマイアの隣にいるのだから。

「別になんでもない。おまえには関係ないことだ」

「何?」

 マイアの目つきの鋭さが増す。けれどイレブンスも引く気はない。

「ただの雑談なんだ。気にする必要もないだろ」

「ある!貴様になくても私にはある!」

 マイアがそう叫んだ。

 いきなり叫んだマイアに、隣にいる誠も目を丸め、ヴァレンティーネもきょとんとしている。

 叫んだマイアは、きょとんとしたヴァレンティーネを見てから、悔しさと悲しさが入り混じったような表情を浮かべ、目を逸らした。

「マイア?」

 ヴァレンティーネが心配そうに、マイアの名前を呼んだ。だが、マイアは視線を逸らしたままだ。

 それを見たイレブンスがマイアの腕を引いた。

「なんだ?」

 マイアは冷たい声でそう言いながら、拒むような力強い視線を向けてきた。だが、そんな事はお構いなしにイレブンスはマイアの腕を引いて、歩き出した。

「いいから来い。・・・少しお前らはここにいてくれ。こいつと少し話がある」

 すると、ヴァレンティーネが「はい」と言いながら頷き、誠も黙ったまま頷いた。

 そして、イレブンスがマイアの腕を引きながら、ヴァレンティーネと誠の姿が目で見える範囲内で、足を止めた。

 すると、マイアは腕を振り払い、イレブンスと正面になりながら少し距離をとった。

「・・・なんのつもりだ?」

 敵意を向けながら、マイアが静かに訊いてきた。そんなマイアにイレブンスは溜息を吐きながら、一言伝えた。

「俺はおまえから、アイツを取ったりしない」

「なっ、何を馬鹿な事を言っている?」

 マイアが明らかに動揺していた。

 図星か。

 イレブンスは内心で、そう思った。

「おまえ、俺がヴァレンティーネといるのが気に食わないんだろ?俺にアイツを取られるとでも思ったか?」

 マイアが息を詰まらせたように、目を見開いた。

 それから、顔を伏せながら消えるような声で口を開いた。

「楽しそうなんだ。貴様といるときのティーネ様は・・・。どんなときよりもずっと。私はそれが嫌なんだ」

 そう話すマイアはいつものような攻撃的な雰囲気が出ていない。そのことがより一層マイアの気持ちが真剣なんだという事を、ヒシヒシと伝えてきた。

 そしてマイアは、何かを振り払うように、首を強く振った。

「私はおまえが思っているような安い感情を持っていない!私はただ・・・傍に、傍に入れればそれで良いんだ。他に何も望まない。それなのに、貴様が、貴様なんかが、私たちの中に入ってこようとする・・・」

 黙ったままマイアの言葉を聞いたイレブンスは、小さく笑った。

「何故、笑う?貴様、私を馬鹿にしているのか?」

 真剣に問い詰めてくるマイアが、おかしくて堪らない。イレブンスは肩を揺らして笑っていた。

 同じだ。同じなんだ。自分と。

 イレブンスは笑いながらマイアにシンパシーを感じていた。

 マイアがイレブンスに向けている感情は、自分が真紘に対して向ける感情と同一なのだ。だからこそ、マイアの言いたい事が分かる。少なくとも今マイアが持て余している感情に対しては。

 それにもう一つ、マイアと似た感情がある。

「俺はおまえを馬鹿にはしない。俺もおまえと似たようなもんだからな」

「貴様まで、私と貴様が似ていると言うのか?」

 マイアは明らかに怪訝そうに表情を歪めた。

「ああ、まぁそうだな。似てるな」

「どこかだ?そこを提示してもらわなければ、私は納得ができない」

「おまえも面倒な奴だな・・・」

 呆れながらイレブンスは目を細めた。

 そう話している時に、ヴァレンティーネたちがいる方個から悲鳴が聞こえてきた。

 悲鳴を聞いたイレブンスとマイアが一斉に、ヴァレンティーネたちの方に振り向く。

 すると・・・イレブンスには見覚えのある大きなテディベアが、小さな群れを引き攣れてヴァレンティーネたちの前に立っていた。

「あのクマ・・・まだいたのか!!」

「なんだ、貴様あのクマを知っているのか?」

「ああ、まぁあな。そんなことより、早くあのクマをなんとかするぞ」

「わかった」

 イレブンスとマイアはBRVを復元し、ヴァレンティーネと誠の元へと急ぐ。

 誠も刀型であるBRVを復元し、ワラワラと群れている小クマを薙ぎ払っているが、その数が尋常ではない。

 しかも、ヴァレンティーネと犬を後ろにし、守っているため、上手い具合に動きがとれていないようだ。

 そこにマイアの鎖鎌が飛んでいく。

「群れるな!鬱陶しい!」

 マイアがそう叫び、鎖鎌に絡まる様に払われた小クマの人形が、鎖鎌から放出される高電圧の電流によって丸焦げにされていく。

 そのとき、またもやヴァレンティーネの悲鳴が響いた。

 見るとヴァレンティーネが巨大クマの太い腕に、まるで人形のように持たれている。

「ふざけやがって・・・」

 イレブンスはM63型の機関銃でヴァレンティーネを抱えている腕の付け根を銃撃する。

 イレブンスに銃撃されたクマの腕は綿を辺りに撒き散らしながら、吹き飛ぶ。そして腕の切れ端と共に、落下するヴァレンティーネを受け止めた。

「ナイスキャッチです」

「当然」

 得意げにイレブンスがヴァレンティーネに答えると、今度は別の方から金切り声が上がった。

 意外にもその声を上げたのは誠だ。

「チャ・・・チャッピー!!」

 はっ?チャッピー?

 誠の方に視線を向けると、小クマに担がれるように運ばれ誠から離れて行く犬と、小クマのせいで身動きが取れなくなった誠が、まるで今生の別れのようなポーズをしている。

「おまえは遊びに来たのか!!」

 そんな光景を見て、イレブンスは思わずツッコんだ。

「・・・私は・・・・意地が何でもチャッピーを助け出す!!許さん!クマ共!!」

 凄みを含んだ声を上げながら、誠は刀を揮う。

 まるで指揮棒の振るように、揮われた刀は強力な音波を放ちながら、無限とも思えるクマを一気に一掃していく。

 すげぇ。

 イレブンスは呆れ顔を浮かべながらも、感心していしまった。

 そういえば、小さい頃から犬を飼いたがっていた。いつもは駄々を捏ねない誠が唯一、駄々を捏ねたのが『犬を飼いたい』だった。そのため、犬に対する思いも強いのだろう。

 それにしても、チャッピーって・・・・・。ネーミングセンスなさすぎだろ。

「私からチャッピーを奪えると思うな」

 そんな事まで言っている。

 こんな誠の姿を見ていると、この位、自分にも興味を抱いてくれていたら・・・とそんな仕様もない事を考えてしまった。

 だが、今はそんな事より・・・

 イレブンスは小クマたちの親玉とも言える巨大テディベアの頭に銃口を向けた。

「こんな茶番は、もう終わりにしよーや」

 そう言って、イレブンスが銃弾を放つ。その銃声と共にジャラと鎖鎌の鎖の音が重なる。

 銃弾が頭を撃ち落とし、鎖鎌がテディベアの胴体を横薙ぎに引き裂く。

 テディベアからは、綿帽子のように綿が上から緩やかに降ってくる。その中に、テディベアの首元から、チャリンという音と共に古臭い鍵が床へと落ちた。

 イレブンスがそれを拾いあげる。

「鍵か・・・」

 そう言ったのは、無事に小クマから助け出したチャッピーを、しっかりと腕に抱えた誠だ。

「そうみたいだな。それにしてもどこのだ?」

「分からない。ここに来るまでの道のりには、こんな鍵を使うような場所は見かけなかったが」

「同じく」

 そう言って、ぱちりと誠と目が合った。

 お互いはっとして、視線を逸らす。

 流れで普通に話していた。これは十数年という年月を、共に過ごしてきたからこそなのか?

「もしかしたら、この扉に使うのでないのか?」

 バツが悪くなり、沈黙となった二人にマイアから声が掛かった。

 イレブンスは内心で助かったと思いながら、マイアの方へと足を運んだ。

 マイアの前には、まるで牢獄に使うような金属の分厚い扉がある。その扉の取っ手の上には、鍵穴もしっかりある。

「これっぽいな」

 そして、イレブンスが手に持った鍵を鍵穴を差し込んだところで、ドアが勢いよく開かれた。

 大量の水と共に。

 イレブンスは大量に流れ込んで来た水を被りながら、開いた扉の中を覗くと、そこからイザナミを手にした真紘が、現れた。

「よし。何とか脱出は出来たな」

 中にいる女子に視線を向けていた真紘が、イレブンスの方へと顔を向けた。

 そして・・・

「また貴様か・・・」

 と怪訝な表情を浮かべてきた。


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