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明蘭のジンクス

 押し寄せてくる壁トラップを抜け、狼は少し息を切らせながら愚痴を吐いた。

「なんか、最近こういう下らない事に巻き込まれる率が高いような気がする」

「ああ、確かに金曜にあった、あの変な集会といい、いったいなんなんだ?」

 横を歩いていた真紘も、疲れ切った顔でそう呟いた。

「変な集会?」

 前を歩いていたイレブンスが、眉を眇めながら後ろを振り返ってきた。

「そう金曜の時、二軍の寮で、一軍・二軍の男子を集めた集会があったんだ。その内容がすごく、物凄く下らなかったけど」

 そんなイレブンスに狼が、脱力したまま答えた。

「へぇー、集会なんて大抵下らないもんだけどな」

「いや、その寮でやった集会は、イレブンスが考えてるようなもんじゃないと思う」

「ふーん。なんか、そういう風に言われると、知りたくなるな。で?どういう議題だったんだ?」

 イレブンスは興味が湧いたように、狼の話に食いついてきた。

「聞いたら、多分イレブンス笑うと思うよ?」

「黒樹、今はこうして話しているが、敵に情けないところは見せない方がいい」

 真紘が渋い顔で、狼を制する。

 だが、その真紘の行動こそイレブンスにとって、さらに興味を沸かせる要因となった。

「ますます、気になる。早く話せよ。もう、ここまで言ったら良いだろ?」

「いや、でも・・・」

 真紘の鋭い視線に、狼が口を渋らせると、イレブンスがニヤリと笑みを作った。

「おい、狼。おまえしゃべらないと、俺と戦った時の失態をバラすからな」

「なっ!!」

 きっとイレブンスが言っているのは、戦闘中にビニールシートでこけたという事だろう。真紘だったら、それを聞いても「誰しも、失敗はある」と行ってくれそうだが、その優しいフォローが妙に、恥ずかしい。

 それなら。

「わかった、言うよ」

「黒樹!?」

「真紘、真紘はまだ良いと思う。だって、真紘は5%に入ってるんだから」

「5%?」

 イレブンスが意味が分からないように、首を傾げている。

 まぁ、それもそうだろう。

 いきなり5%と言われ、分かる方がおかしい。

 そして、狼はゆっくりと口を開いた。



 金曜日、二軍生男子寮、午後7時。

 リンリンリン。

 甲高いベルが鳴らされ、寮にあるダイニングルームに二軍生の男子と、一軍生の男子が集められた。

 その際に、戸惑いを見せているのが一年生の男子。残りの二・三年は「ああ、もうそういう季節か~」「夏だもんなー」などと話している。

 狼も疑問符を浮かべながら、ダイニングに向かうと、円を作る様にして男子生徒たちが部屋に並んで作っていた。

 そしてその円の中心には、何故か高坂先輩と稲葉先輩、久保先輩が立っていた。

 この三人が中心にいるということで、狼は何となく下らない事が起こりそうという予感を薄々感じていた。

「明蘭学園の男子生徒の諸君!!よく集まってくれた。この集会の取り仕切りを、ここにいる俺と稲葉、久保で進行させてもらう。意義ある者はいるか?」

 生徒の顔を見ながら、高坂先輩がいたって真面目な顔つきでそう言い放つ。

 すると皆が「異議なし」と答えた。

 一軍の男子まで異議がないのは、少し奇妙だ。

 いったい、これから何が始まるんだ?

 周りには狼と同じことを考えているのか、顔を見合って首を傾げる一年生の姿が見られる。

 そんな一年生を余所に、秀作たちによる奇妙な集会が始まった。

「それで、今から集計に入りたいと思うが、これまでに5%になった者!!素直に挙手!!」

 ビシッと秀作が声を張り、そう言い放つと何人かの生徒が何故か申し訳なさそうに、手を上げている。

 そしてその上がった手を瞬が厳しい眼差しで数え始めた。

「寮長、今手を上げているのは、十三名。まだ5%に達していません」

「そうか。これはまずい事態だな」

 神妙な面持ちで、秀作が考え込む。

 いや、周りを見れば二年、三年の男子も秀作と同じかおをしていた。しかも若干だが、三年の男子はより一層肩を落としているようにも見える。

 高坂先輩たちが言ってる数字ってなんだろう?

 ますますわけが分からなくなってきた所で、秀作から数字についての説明が始まった。

「四月から入ってきた新入生は、この数字が何のことなのか、さっぱり分からない者が多いと思う。なので、今から説明する。・・・・この数字は明蘭高校に伝わるジンクスだ。そして、その明蘭に伝わるジンクスとは、この明蘭学園の女子・男子を合わせた童貞・処女の比率のことを表している。そしてさっきの5%と言うのは、非童貞の、平均的数値。そして、俺たちは95%=童貞。5%=非童貞という形で呼び分けをしている。つまり、だ!!今のご時世、童貞・処女の方が少ないのにも関わらず、ここ明蘭ではそれを逆転させてしまっているんだ。分かるか?この危機的状況。こんなに均等に男女がいるのにも関わらず、95%の奴が童貞なんだ。つまり、彼女なし!!うわー、この最悪状況・・・ない。実にない。そして今、二年・三年の男子に聞いた童貞卒業率が5%にもいっていないという、残念な結果になったということだ。とまぁ、ジンクスについての大まかな説明をしたところで、一年男子、正直に5%分類に入る奴、正直に挙手しろ。正直に言ったって、先輩たちは何も咎めない。安心したまえ」

 く、くだらない。

 狼は秀作の力説を聞きながら、顔を思わず引きつらせた。

 やっぱり、この人たちが考えることってくだらない。

 少し身構えてただけに、狼は一気に脱力した。こんなの真紘とか陽向が聞いたら、怒るんじゃないか?『ふざけるな』とか言って。

 そう思い、狼が真紘や陽向の方に向けると・・・

 陽向は苦い顔をしながら、悔しそうに俯いている。その隣にいる正義までも、視線を上に向け頬を掻いている。

 意外にみんな、気にしてるのか?

 少し驚きながら、狼が正義の陰になっていた真紘を見る。

 すると・・・・

 あ、上げてる。確実に、そして申し訳なさそうに手を上げている。

 それを狼だけではなく、秀作を含めた先輩たちが目を丸くして見ていた。

「お、おまえ・・・嘘だろ?」

 恐る恐る秀作が、真紘を指しながら間抜けな声を上げていた。

「いえ、事実です・・・」

 みんなの注目を浴びながら、真紘が小さく答えた。

 それを見て、行方副会長まで目を丸くして、驚いている。

 そして一瞬の静寂が過ぎ、男子のざわめき声が上がり始めた。

「おい、輝崎、嘘だろ?なぁ、嘘だって言えよ」「そうだよ。おまえは清純キャラで売ってんじゃん」「そうだ、そうだ。そんな奴が5%っておかしいだろ」「詐欺だーーーー」

 そんな罵詈雑言が飛び交う中、秀作が大きく手を叩いて、そのざわめきを静まらせた。

「おまえ等、もっと落ち着け。確かに、俺も今すげー、お前たちの気持ちは痛いほどわかってる。だが、その前に、確認すべきことがある・・・」

 秀作は目を瞑りながら、静かに皆を宥めた。

 さすが、二軍の寮長をやっていることだけはある。

 そう狼が感心したのも束の間。

 秀作をいきなり、目をカッと見開き

「相手は誰だあああああああああああああああああああああ!?」

 と声を張り上げた。

 その威圧は、綾芽とはまた別の意味ですごかった。

 それを真紘も感じ取ったのか、茫然としている。

「早く言いたまえ。そしたら君も楽になれる・・・」

 まるでどこぞの眼鏡キャラを彷彿させるような言い方で、真紘を追い込む。

 だが、真紘はそんな秀作から目を離すことなく、きっぱり言い切った。

「すまないが、相手が誰なのかは言えない」

「あぁん?」

 悪態を吐く秀作は、もう寮長どころかただの田舎のヤンキーにしか思えない。

 さっき、咎めないとか言ってたのに。

 狼は半ば呆れながら秀作と真紘のやりとりを見ていたが、やはり内心は少し真紘が隠す相手が誰なのかは気になる。

 真紘の相手って誰なんだろう?やっぱ、都会の人は進んでるなぁ。島でははっきり言って、子供が少ないということもあって、特定の誰かと二人きりで遊ぶことなどなく、ほとんど5~6人で遊ぶことが多かった。

 なので、恋人関係というのは遠い話の様に感じていたし、ましてや男女の関係なんて想像域を超えていた。

「じゃあ、いつの頃、卒業したんだ?」

 ごくりと生唾を呑む音を立てながら、俊樹が真紘に問い掛けている。

 すると、真紘は少し考えるような素振りを見せてから

「十四のときだ」

 きっぱりと言い切った。

 すると今まで詰め寄っていた秀作と俊樹が後ずさり、それにつられる様に95%の男子たちが身を後ろに下げた。

「じゅ、じゅ、じゅうよん!?そのとき、俺・・・・なにやってたんだろ?」

 自分の手の平を見ながら、秀作が慄いている。

「高坂先輩、俺まだ全然、部活で汗流す系男子でした」

 瞬が秀作にフォローを入れるように、そんなことを言った。

 だがそんな言葉、誰の耳にも入っていない。

 正義や陽向でさえ、未だに驚きの表情を見せているくらいだ。

 5%の先輩たちも、『まさか、輝崎が』という感じで、95%の人たちよりは軽いとはいえ、驚いている様子だ。

 そんな中で唯一、落ち着いているといえば、涼しげな表情で周りを見ている慶吾くらいだろう。そんな慶吾と狼の目が合う。すると慶吾はにっこりと微笑みながら手を振ってきた。

 手を振り返しながら、やっぱりマイペースな人だなー。と狼はしみじみ感じた。

「先輩、もう俺の事はいいですか?」

「ならん!」

「ならんと言われても・・・」

 とうとう真紘の表情にも困惑が浮かんできた。

 狼もそんな真紘を見て、同情する事しかできない。もし、下手に口を挟んだらめんどくさくなりそうだ。

 なので・・・。

 ごめん。真紘。

 心の中で謝るしかできなかった。

 真紘を見据えながら、腕を組んでいた秀作は大きな息を吐いたあと、またも口を開き始めた。

「第一、なんで女子の初めては重宝されて、男の初めては粗雑に扱われないといけないんだ?おかしいだろ?何が男女平等だよ?もうすでに不平等が始まってるじゃんか。俺は世間に訴えかけたいよ。男だって「貴方色に染めてね!」ってくらいのシャイボーイがいるってことを!!」

 そんな恥ずかしくてみっともない事を訴えかけられる勇気があるなら、恋人をつくる徒労に費やせばいいのに。狼は心底そう思う。

 しかも95%の男子、つまりここにいる大半の男子が秀作の意見に同意のようで、深く頷いている。

 この光景を見て、いつもの勇ましさはどこに行ったんだ?と思ってしまう。いつもは二軍の生徒でさえ、BRVを使った実技では真剣な表情で臨むのだが、今の彼らにその真剣さは微塵も感じられない。

 なんで、こんな下らない事をここの人たちは、ここまで真剣に話せるのか?

 ある意味感心してしまう。

「あの、高坂先輩?さっき、これって明蘭のジンクスって言ってましたけど、女子もなんですか?」

 狼がふと疑問に感じたことを口にした。

 すると秀作は狼の方に向いて。

「もち!!きっと今頃女子の方も前原筆頭に、集会を開いてると思うぞ?」

「ば、馬鹿げてるのにも、程がある・・・」

 狼はがっくりと肩を下ろした。



 金曜日、二軍生女子寮、午後7時。

 談話室に置かれたホワイトボードを囲うように、女子たちも集まっていた。

「はーい。さっきの説明でここの恐ろしいジンクスは十分に理解したわね?」

 そう言って、ホワイトボードを使いながら変なジンクスを女子寮長である前原みゆきと、二年の三田奈緒、そして小嶋沙希が並んで立っていた。

 そのホワイトボードを囲う円の中に立ちながら、季凛は眠たげに欠伸をしていた。

 あはっ、すっごい、くだらなーい。

 既に5%である、自分にとって大した問題でもない議題に季凛は、眠たさとマッチして辟易としていた。

 だが、周りにいる女子はまんざらでもないようで、響いていた。

「みんな、静粛に!あたしたちの危機は、男子よりも5%の数が少ないってこと。どうしてか、分かる?」

 みゆきが手を叩きながら、そんな質問をしてきた。だが、みんな意味がわかっていないようで、シーンと黙り込んでしまった。

 まるでこの事が分かり切っていたように、みゆきが首を左右に振りながら。

「そうよね。あたしたちが何故、男子よりも5%住人が少ないのか、そ・れ・は!!一般の男より強すぎる所為よ!!」

 すると、みんな納得したように声を揃えた。

「「「「なるほど!!」」」

「でもね、あたしたちだって、乙女。自分からそんな肉食みたいにガツガツいけないっていう気持ちも分かる。だって、あたしたち、一応、出は良い所の御嬢さんだし。けど、そうも言ってらんないのよ。だって、一番可憐って言葉が似合わない綾芽が5%っていう事実。本人曰く、暇つぶしでとか、なんとか言ってたけど、あたしたちより色気はあっても、可憐さがない綾芽に負けてるのよ?それってやばいわ。なんとか、してこの状況を抜け出さないと」

 みゆきはみんなに活を入れるように、声を張り上げている。

「あはっ、季凛一つ質問なんですけどー、三田先輩ってそっちにいるってことは、95%?」

 季凛が笑顔でそう質問すると、書記係をしていた奈緒の手がピタッと止まった。

「・・・・え?」

 奈緒がきょとんとした表情で聞き返してきた。

 なので季凛も首を傾けて。

「え?」

 と聞き返す。

 微妙に気まずい空気が流れ出すと、そこに沙希が乱入した。

「奈緒には触れないで上げて、この子言動と外見に反して、ピュアだから」

「ちょっ、沙希!!」

「はぁーい」

 少し恥ずかしいように、奈緒が動揺している。だが、そんな奈緒を余所に季凛は元気な返事を返した。

 そして季凛は続けて

「あはっ。もしかして、ここにいる人みんな、頭の中だけがピンクの残念系女子ってことでいいですかね?」

 いつもみたいに、意地悪でそう言った季凛だったが・・・・

「「「うん」」」

 みんなが素直に頷いてきた。

 ま、まじかよ?

 思わず季凛はドン引き。

 さすがにこの反応は、予想外すぎた。

 しかも隣にいる名莉は、両手を頬に添えてポッと顔を赤らめている。その隣の鳩子はだらしない笑み。根津はあきらかに動揺していた。

 駄目だ、これはみんな、頭の中下心ありすぎ。

 しかも、季凛のもう片方では、希沙樹が小さい声で

「真紘と初夜・・・」

 何妄想してんの?このストーカー女。

 でも、まぁ気持ちは分からなくも・・・ない。

 見るからに真紘は、引き締まった体をしていて、それでいて繊細な顔つき。

 そのギャップがなんとも・・・。

 はっ、しまった。

 危うくこの妄想族の仲間入りを果たしてしまう所だった。

 自分も危うく左右の女子たちと同じ種族になってしまいそうな、危うさに冷や冷やしながら季凛は短く息を吐いて、平常心を保つ。

「でも、あたしたちには、男子とは違って救いがあるのよ!!」

 みゆきがホワイトボードの前から談話室の入口の方まで、足を進め、徐に扉を開いた。

 開かれたドアの先には、視線を落とした左京と誠の姿があった。

「この人たちは、あたしたちのOG。しかも未だに彼氏がいず、あたしたちと同じ95%の住人。でも、この二人はそんなことを気にせず、頑張ってる!!」

 みゆきから敬意の念を送られている二人は、どこか微妙な顔をしている。

「ちなみに、左京さんと誠さんはいくつですか?」

 沙希が司会者のように、手で造ったマイクを左京たちに差し出す。

 すると、視線を下げたままの左京がぼそりと呟くように口を開いた。

「あなた達よりは、その・・・、上です」

 あはっ。ですよねー。むしろ、当然。言わなくてもわかるみたいな。

「みゆき様、我々のことは触れない約束では?」

 誠も慌てたように、みゆきに抗議を入れているが、みゆきは苦笑いを浮かべているだけだ。

 季凛は内心呆れながら、目を細めた。

 まさか、左京や誠くらいの年になってもこの呪いとも言えるジンクスが続くとしたら、ここにいる95%の生徒たちは、さぞ不安だろう。

 いや、この学園内だけではそこまで焦りを感じることもないだろうが、世の中の男女関係話は、テレビをつければいくらでもやっている。

 だからこそ、このまま彼氏もできず、未体験のままでいることに焦っているのだろう。

 まっ、この中で勝ち抜けるのは一人だけなんだし。

 そう思いながら、季凛は狼に気がある女子たちを見た。

 名莉たちは、未だに自分の思考から戻ってきてないのか、ぼーっとしたりしている。

 あの鈍感君を捕まえるのは、名莉たちが相当、頑張らないと無理だろう。季凛から見た狼は恋愛事に対して、目を逸らすタイプに見える。

 それは季凛から見た推測でしかないが。

 でも、自分もとんだ朴念仁な奴を好きになってしまったと思う。真紘からは、狼とはまた別の意味で、恋人になるのは難しいだろう。

 なんせ、恋というより強くなることを望んでいるタイプだ。恋愛なんて二の次。

 しかも。

 季凛は横目でちらりと、隣の希沙樹を見る。

 ストーカー女と呼んではいるものの、確実に真紘を一番理解しているのは彼女だろう。ならば、その希沙樹に太刀打ちできる手段を探さないと。

 季凛は冷ややかな目で、集会を進行する先輩たちを見ながら、内心で熱く決意した。



 一方、男子寮。

「今さっき、俺の端末に女子たちの集計結果が届いた。やはり、女子は俺たち男子よりも少ない結果だったが、これは例年通りのため、驚かない」

 うわー、やっぱり女子もこんな下らない集会開いてるんだ。鳩子は面白がって聞いてるだろうが、きっと名莉・根津・季凛は呆れているに違いない。

「よしっ、ここは俺たち男子の集計結果も送るとして・・・」

 一度話すのをやめた秀作は、真紘の方に向き直り、そしてニヤリ。邪悪な笑みを浮かべた。

「フッ。女子たちに一言メッセージとして、真紘くんは5%です。って送るか。女子も王子の情報は知りたいだろうに」

「なっ!!」

 真紘が引き攣った声を漏らす。

「ちょっと、先輩、それは止した方が・・・」

 狼が手をあげながら秀作に反対案を出した。

「なんでだ、黒樹?」

「いや、だって・・・」

 真紘が5%と聞いて、五月女さんが暴走しかねない。もしそうなったら、女子寮が氷の世界になってしまうに違いない。

 その光景を想像して、狼は身震いをさせた。

「だって、なんだよ?」

「ほら、なんか女子の夢を壊すのもあれだし!!」

 苦し紛れに言葉を出したが、まったくもって説得力がない。真紘でさえ、「夢?」という疑問符を浮かべている。

 ああ、でもここで五月女さんの名前も出せないし。どうしよう?

 狼がそう困っていると、助け舟がやってきた。

「おい、豚ども。なにここで屯してやがる?用がないならさっさと自分の部屋に戻りやがれ!!」

 そう叫んだのは、点呼を取りに来た榊だ。

「うわ、今日の点呼榊かよ。俺、まこっちゃんが良かった」

 俊樹が肩をがっくりし落として、ぼやいた。俊樹が言う『まこっちゃん』というのは、男子の間で密かにつけられた、誠のあだ名である。

 左京と誠では、何故か誠のファンの方が熱狂的で、本人も時々困ってるときがあるくらいだ。

「それにしても、榊もここのOBだろ?アイツはどっちなのかな?アイツが95%だったら、ウケねー?俺らにあんな怒鳴りまくってる奴が、実はチェリーでしたとかだったら、マジウケるよな」

「確かに「俺実は、怖い顔して本当はピュアなの―」とかな」

 俊樹と瞬がふざけながら、そんなことを話している。

 するとその話が、榊に聞こえていたようで。榊は二人の首根っこを掴み。

「おまえら、舐めた事言ってんじゃねぇーか?これから、たっぷり教官を敬うってことを教えてやる」

 首根っこを掴まれた俊樹と瞬は顔を青ざめさせながら、されるがままに榊と共にダイニングルームを出て行ってしまった。

 それを見ながら、残った男子たちは俊樹と瞬に向け、「なーむ」と唱えるしかできなかった。


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