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重なる悲鳴

「勝利様、この林を抜けた先に、廃墟みたいのがあるらしいですよ?」

 ウキウキとした声を出しながら、真里が勝利に話しかけてきた。

「真里、昨日も言ったがこういう類の物を面白半分で、行ってはいけないと俺は思う」

「えー、大丈夫ですよ。もしかして、勝利様・・・そういう類の話を信じてるんですか?二十八にもなって」

「さらっと主人の実年齢明かすな!!馬鹿者」

「馬鹿者って言った方が馬鹿者なんですよ?」

 今度は真里に代わって、反対側を歩く大志が、そんな幼稚染みた事を言ってきた。

 おまえは、小学生か。

 それにしても、なんで自分が久々の休みを使って、別荘に来ているというのに、こんな所に来ないと行けないのか?

 はっきり言おう、出来れば来たくなかった。

 これでは身体を休ませようとしてここに来たのに、精神をすり減らしに来たようなものだ。

 昨日も別荘についてから、真里や大志の好物を用意して気を逸らそうとしたのに、その努力も敵わず、真里が無理矢理勝利をここに連れて来たのだ。

 本当は『夜に行こう!』と言ってきたのだが、それは断固として拒否した。

 勿論、二人は駄々をこねたので、ここは権力を行使したわけだが・・・

 夜でも朝でも行きたくないのに、変わりはない。

 そのため、勝利は深い深い溜息を吐いた。

 ただ唯一良かったのは、真里が道を間違えてこの林に入り込んだことだ。さきほど、真里が林を抜けた所に、例の建物があると言っていたが、今の所、この林を抜けられる気配がない。

 そう、つまり、道に迷ったということだ。

 しかも三人の中に情報操作士はいない。つまりどこの道を行けば抜けられるかも分からないため、手探りの状態で抜け道を探している最中だ。

 このまま疲れて、真里と大志の気が変わればいいが・・・。

 勿論、別荘までの道のりには二人に気づかれない様に、マーキングばっちり。

 本当に後はこの二人の気力が削がれれば、良い話だ。

 勝利は内心でニヤリと笑みを浮かべながら、林の中を練り歩く。

「そういえば、勝利様。この間お見合いしたんですよね?どうでした?」

 抜け道の散策に飽きたのか、真里が突然ニヤリと意地悪い笑みで、勝利に笑い掛けてきた。

「貴様、その話を一体どこで?」

「まぁー、風の噂って奴ですよ!で?どうなんですか?」

「あ、その話、俺も聞きたい」

 こいつら完全に、俺を馬鹿にしているな?

 まったく。

お見合いが上手く行っていれば、こんな所に真里や大志と来ているはずがないだろう。そしてそれを真里や大志も分かっているはすだ。

 そのことを、二人の悪意ある笑みで分かる。

「あれー、九条様に用意してもらったんですよね?美人でした?」

 ニヤニヤ。

「真里、そんなの当たり前じゃん。あの九条様が容易してくれたんだよ?きっと勝利様好みの清楚系美人が来たって」

 ニタ~~。

 よし、ここは無言を貫こう。

 ここで反応してしまっては、この二人が図に乗るだけだ。

 そう思い、勝利が無言を貫いていると、真里が再び口を開いた。

「確か九条様に仕える家の中の一家の令嬢でしたっけ?あー、可憐だったんだろうなー」

 棒読み。

「あれれ、でも何で勝利様、俺たちとこんなとこ来てくれてんだろ?もしかてし、俺たちに気を遣ってくれてる?あー、めっちゃ優しい主人を持って、俺は幸せだなー」

 これまた棒読み。

 くっ。この反応・・・。こいつら本当は全てを知っているな?

 九条様に用意された相手が、清楚系美人とは程遠い、昔女子プロレスラーグランプリ―で世界制覇を果たした、元重量級レスラーだったということを。

 俺だって、人間は見かけに寄らない中身だと思って、ストライクゾーンを大きく見積もっていた。だが、だが、そんな考えは甘かった。

 お互いの趣味や得意なことを言い合う場面があったのだが、彼女はいきなり立ち上がるやいなや、勝利にハンマーロックを決めてから、続けてアイアンクローを決めてきたのだ。

 いきなりの先制攻撃になす術もなく、勝利は攻撃を受け気絶。

 勿論、見合いも破談。勝利としてはほっと胸を撫で下ろす気分だ。

 あれは最悪の記憶だ。

 まったく彰浩様も何を考えて、あの女性を見合い相手に選んだのか?そう思ったが、九条彰浩という人物を考えれば、簡単に答えは出た。

 きっと元プロレスラーという理由だけで選んだのだろう。そんな不明な理由で、お見合いをさせられるこっちの身にもなって欲しいものだ。

 自分はまんまと美人の妻に、美人の娘。

 これだからイケメンは嫌いなんだ。しかも自分勝手ですぐ人の顔を殴るし、もう懐刀だけじゃなくて、仕える主人もチェンジしたくらいだ。

 それにしても、何故そのことをこの二人が知っているのか?

 勝利は横目で真里と大志を交互に見る。

 二人の顔は今にも吹き出しそうな顔をしている。

「貴様等・・・」

 勝利が低い声で、口を開く。

 だが、そんな勝利の凄みも虚しく、二人が肩を降らし始めた。

「くくく。勝利様・・・今度は視界を奪うレッグダイブとか受けたらどうですか?」

 大志が顔を押さえながら、ふざけたことを言ってきた。

「へぇーそんな技もあるんだー。勝利様も良い人紹介されましたねー。真里もやっと一息つけますよ」

「人を虚仮にするのも大概にしろーー!!よし、ここまで虚仮にされたら当主としての威厳がない。ということで!貴様達は今日の夕飯抜き!!」

 すると二人の笑いがピタッと制止した。

「やっぱ、まだ勝利様は結婚しなくて良いよねー。もし結婚して、勝利様で遊べ・・・じゃなくて、お守りできなくなったら、寂しいしね。ねっ、大志?」

 今、遊びとか、なんとか言ってなかった?このビッチ?

「そうそう。まじ俺たち懐刀の鏡でしょ。勝利様の幸せ者」

 えっ?不幸者の間違えじゃなくて?

「はぁ・・・」

 勝利はいつもこの二人のペースに呑まれる自分に不甲斐なさを感じ、深い溜息を吐いた。

 すると

「あ、感激しちゃった?」

 してねぇーよ。

「こんな昼間から、感涙とかやめて下さいね。俺たちも照れますから」

 感涙じゃなくて、ただの悔し涙だよ。

 だが、そんな言葉さえ言う気になれない。

「疲れたし、帰ろうかな?」

 無気力な声で勝利が、そう呟くと、真里と大志が首を横に大きく振った。

「ダメですよ。勝利様。なに言ってるんですか?」

「そうですよ。まだ目的地に着いてもいないのに。それでも九卿家の一人ですか?敵に背中を向けるとか、一番ダブーでしょ」

 一番やりそうなおまえが言うか。

 行きたくもない所に、こんな奴等と一緒に行くなんてやなこった。

 なので。

「帰る」

 くるりと踵を返し、勝利が目印を辿って帰ろうとした、丁度その時。

 ガサガサガサ。

 茂みの葉が小刻みに揺れ始めた。

 また、真里や大志の悪戯だろう。そう思ったが後ろにいる二人はアホ面で揺れる葉を見ている。しかも地味に真里が大志の腕の裾を掴んでいるところを見ると、二人の仕掛けではないらしい。

「な、なんだ?」

 勝利は思わず、固唾を呑んだ。

 そして、揺れる草木の動きがより一層早くなり・・・・

「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 二つの悲鳴が重なった。




 デンのメンバー(女子)と希沙樹にセツナ、そして誠と左京が、帰りが遅い、狼と真紘を迎えに保管庫がある場所へと、八人が優に乗れるハイヤーで向かっていた。

 その車内。

「すまない。少し気分が悪いから車を止めてくれないか?」

 そう申し出たのは、もちろん左京だ。

「左京・・・その手はもう通用しないぞ。これで何度目だと思っている?」

 左京の隣に座る誠が呆れ顔でため息を吐いた。

「本当よ。おかげで時間を無駄に使ってしまったわ」

 前に座っていた希沙樹が辟易とした表情を作っている。

 希沙樹は誠と左京が保管庫へと行くというのを聞き、一番最初に同行すると言ったのだ。そして、その情報が鳩子に渡り、デンメンバーも同行。その場に居合わせたセツナまで一緒に行くことになったのだが、その移動時間が大幅に伸びていた。

 道の渋滞などではない。

 左京から度々出る申し出のためだ。

 初めの内は、みんながその申し出を聞き入れていたのだが、それも何回か繰り返されるうちに、皆が呆れ返っていた。

「でも、意外だったなー。左京さんがホラー系が苦手なんて」

 いつものように鳩子が後ろ座席に座る左京の方に、身を乗り出し茶化す。

「別に私は・・・怖いわけではありません。私は本当に気分が悪くなっただけです。当たり前でしょう。こんな両脇を人に囲まれ、外の空気を吸えないのですから」

 左京が両脇に座る、誠と根津を見ながら、如何にも正論らしいことを述べた。

 そんな左京の弁論にいつもなら、賛同してくれる誠も今は首を横に振った。

「こうでもしないと、左京がドアを突き破ってでも逃走しそうだからな」

「なっ!私がそんな事、するか!!」

 だが左京の言葉は聞き入れられない。

「はぁー、尊敬してたのに。まさか、こんな、こんな・・・」

 頭を抱えながら根津が、顔を押さえながら失望していた。

 根津は左京と誠を尊敬している節があった。きっと女性なのに凛々しく、強いという点で羨望の眼差しを送っていたのだろう。

 だが目の前にいる左京の哀れな姿を見て、がっくりとしていた。

 そんな根津の姿に、ばつが悪くなったのか、左京は口を噤んだ。

 だが、それを見逃さないのが鳩子と季凛だ。

「あはっ、左京さんさっき凄かったよね。走行中なのに涼しい顔のキメ顔で『忘れ物をした』とか言って、逃げようとするんだもん。まぁー、誠さんにあっさり止められてたけど」

「まぁ、左京さんも女だよねー。幽霊が怖いなんて・・・まさに乙女の中の乙女」

 季凛と鳩子が不適な笑みを浮かべて、左京へと顔を近づけてきた。

 左京は少し身動ぎ、顔を引き攣らせた。

 そんな三人を見て、根津が顔を上げないまま深い溜息をまた一つ吐く。

「うぅ」

 逃げ場がないというように、左京がそんな声を漏らす。

 すると後ろに座っていたセツナが左京の肩を軽く叩いた。

「そんな身構えなくても大丈夫ですよ!もし、本当に幽霊がいたら、うーん、友達になってみるとか!!」

 セツナが明るい調子で、そういうと皆がしばしの沈黙。

「あ、あれ?」

 自分が滑ったことを悟ったセツナが少し慌てていると、隣にいる名莉がフォローに回った。

「セツナなら、なれると思う」

 表情の変えないまま名莉がそう言うと

「まぁ、金髪の悪魔なら馴れるんじゃない」

「あはっ、そのまま神隠しにでも合えばおもしろいかも」

 希沙樹と季凛が、少しそう返すのに続いて、鳩子、根津、誠が

「でも、セツナだったら幽霊と友達になれそうだよね」

「確かに」

「実にセツナ様らしくて、可愛らしいですね」

 と半ば冗談混じりでそう返した。

 すると、急に自分が言った事が恥ずかしくなったのか、セツナが顔を赤くして俯いてしまった。そんなセツナの背中を名莉が優しく撫でている。

「それにしても、狼たち、なんでこんな時間掛かってるんだろう?」

 鳩子がふとそんな疑問を呟く。

「本当よね。そんなに時間が掛かる所にあるのかしら?」

 根津も鳩子の言葉に同調するように首を捻ねる。

「あはっ、狼くんが神隠しにあってたらウケるよね~」

「馬鹿なこと言わないで。そしたら真紘もってことになるじゃない」

 そう言いながら、希沙樹が季凛を睨む。そんな希沙樹の視線から逃れるように、季凛が舌を出しながら視線を逸らした。

「まぁ、冗談はさておき、左京さんと誠さんは、どこにBRVがあるか知ってるんですか?」

 鳩子が左京たちの方に視線を向け、話を戻す。

 すると左京と誠は、首を横に振った。

「申し訳ありませんが。私たちも保管庫にあるBRVについては、人目で分かるという事くらいしか分からないんですよ」

「そうなんですか?鳩子ちゃんはてっきり、左京さんがこんなに怖がるもんだから、詳しいかと思ってました」

「それが、保管庫がどういう所かと言うのは、私たちが学生時代に話題になったことがありまして、知っているのですが・・・・実際は行ったことがないんです」

 誠が申し訳なさそうに、眉を下げた。その隣では左京が眉間に皺を寄せながら、嫌な顔をしている。まるで、嫌な事を思い出してしまったような顔つきだ。

 そんな左京の顔を見て、鳩子が一気に嬉しそうな顔になった。

「えー、どんな風に話題に上がってたんですか?その保管庫」

「それは・・・」

 期待を膨らませた鳩子の視線を受けて、誠は口を開くが、隣にいる左京のただならぬ視線を感じて口籠らせた。

「うーむ。左京さんが誠さんを威圧してるから、ここで聞きだすのは無理か。まっ、あっちに着いてからの楽しみにしときましょうか!!」

 高揚気分を高めた鳩子が前に向き直りながら、身体を横に揺らして鼻歌を歌っている。

 そんな鳩子を見ながら、左京が

「まったくもって、楽しみじゃない」

 そうぼそっと呟いた。



 そして然う斯うしている内に、八人を乗せたハイヤーが目的地へと到着した。

 誠が運転手の人にお礼を言っている中、左京が頑なに降りようとしない。

「ほら、左京ここまで来たのに往生際が悪いぞ」

「私は別に来たくて、来たわけではない」

 ツンとしながら、そっぽを向いた左京に誠が短い溜息を吐いた。

「左京、今こそ己の恐怖に打ち勝つ時ではないのか?演習の時、強くなろうと誓ったはずだが」

 芯のある声で誠に、そう言われ左京が躊躇うような表情を作る。

 そんな左京への最後の一押しのように、誠が手を差し出す。

「一緒に強くなろう」

 左京はやはりまだ躊躇うような仕草を見せたが、観念したように誠の手を取った。

 そしてなんとか、ハイヤーとも別れ保管庫へと向かうため、皆が足を進めようとした時、左京からの『ちょっと待った!!』の声が掛かった。

「左京・・・」

 誠が頭を押さえ

「あはっ、なんかウザいからここに置いてく?」

 季凛が笑顔でそんなことを言う。

 すると左京は静かに首を振った。

「勘違いするな。私は保管庫に行く前に周囲の確認をしてから、中に入るべきだと思っただけだ。暗くなって、道が分からなくなっては困るからな」

 左京が得意げな笑みを見せる。

「え、暗くなっても大丈夫ですよ?なんせ鳩子ちゃんは情報操作士で・・・」

「シャラップ!!」

 鳩子の言葉に左京が大きな声で言葉を重ねた。

「でも良いんじゃない?周囲を見るくらい。どうせ、この林みたいなのを抜けないといけないんでしょ?」

 セツナが左京に助け舟を出す様に、そう言った。

 そのため、皆諦めたように、周囲を見回しながら林の中を進むことになった。

 林の中はまだ昼間だというのに、薄暗くひんやりとしていて、ムードを高めるにはもってこいという感じだ。

 手で双眼鏡を作った鳩子がワクワクしながら、周囲を眺めまわしている。

 その斜め後ろを歩く希沙樹は不服そうな表情をしながら腕を組んで歩いている。

 言いだしっぺの左京はというと・・・・

 殺気紛いの物を全身から放ち、周囲を牽制していた。

 まるでいつ飛び掛かられてもいいように。

「なんか、サキョウさん凄いね」

 根津にセツナが小声で囁く。

「あれじゃあ、出てくる物も出てこれないわよね・・・」

 そう呟いていると、殺気を辺りに撒き散らしていた左京がピタリと止まった。

「何かいる・・・」

 左京の短い言葉に、皆、歩いていた足を止める。

 そして左京が刀を出すと思いきや、そうではなく、懐からどこから入手したのか分からないお札を取り出してきた。

 そのお札を持ちながら、ボソボソと「悪霊退散、悪霊退散・・・」と呟き、左京が何かを感じたという方に近づいて行く。

「自分から近づいて、本当に幽霊怖いのかしら?」

 希沙樹が怪訝そうに、そんな左京を見ながら呟く。

「先手必勝」

 名莉が希沙樹の疑問に答えるように、短く言葉を口にした。

 みんなが見守る中、左京は林の中へと飛び込み・・・・

 次の瞬間、緊張感が最高潮に達した。

「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 勝利との悲鳴が重なった。


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