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ガールズ ザ パンドラ4 プラス ボーイズ

 何故あんな男がティーネ様の近くにいる?

 トゥレイター内の廊下を歩きながら、自身の内にある疑問について考えていた。

 マイアは幼い頃にフラウエンフェルト家に拾われた。家族は内乱に巻き込まれ、自分以外の全員が死亡。家も瓦礫と化してしまい、そこでフラウエンフェルト家の使いの者と会った。ヴァレンティーネと会ったのは、その後、遊び相手という名目で連れて行かれた時の事だ。

 ヴァレンティーネはあの頃と何一つ変わらない。優しい笑顔。そして何より自分を信頼し、まるで本当の家族のように接してくれる。

 そのことがマイアにとって何よりも嬉しいことだ。

 ヴァレンティーネが外に出られない分、自分が外で見た事、聞いた事をヴァレンティーネに伝えたし、時には外にある物を持って帰ってきたりもした。

 小さい頃よく二人で寝たりもした。そんなとき、ヴァレンティーネが優しく手を握っていてくれて、とても安心した。

 だからこそ、そんな二人の間に入ってくるあの男が許せない。

 あの男とは、ヴァレンティーネが『イズル』というナンバーズ。

 自分はあの男とヴァレンティーネのやり取りで、何を見たというのだろう?

 自分は何がそんなに気に食わないのだろう?

 いや、本当はわかっている。

 自分からヴァレンティーネを奪ってしまう、あの男が気に食わないのだ。

「嫌だ・・・」

 知らない間にヴァレンティーネが遠くに行ってしまうことが。

 だからこそ、イレブンスに問うた。

 自分が少し離れている間に、ヴァレンティーネに何をしたのかと。

 だが返された言葉は、マイアが求めている答えではなかった。答えられたのはヴァレンティーネに訊けということ。

 そしてマイアは言われた通り、ヴァレンティーネに訊いたのだ。『何故、イレブンスに構うのか?』と。

 すると、ヴァレンティーネはくすりと笑った。

「そうね・・・私がいたいって感じたかしら。イズルはすごく優しいのよ」

 そういうヴァレンティーネの表情は、彼女らしい暖かな表情だった。それなのに自分や周りの者に向ける物とは、まるで違うようにも見えた。

「わからない。私には・・・理解ができない」

 マイアはそう言いながら、自分の肩を抱いた。

 悔しかった。

 動揺した。

 今まで自分が一番理解していると思っていたヴァレンティーネの気持ちを理解できていないことが。

 どんなことよりも悔しかった。

 ヴァレンティーネは、マイアの頭を優しく撫でながら

「きっと、マイアにもわかるわ。だって、マイアとイズルは似てるもの」

 と言ってきた。

 何故自分が、嫌いな男と似ていると言われるのかが分からない。

「私とあの男が似ている?」

 ヴァレンティーネは自分とイレブンスのどこを見て、そう思ったのだろう?

 自分とあの男では、まるで違う。

 まず性別も違う。

 人種も違う。

 そして、あの男を観察していて分かったこと。

 イレブンスは言っている事とやっている事が相反していることが多い。自分ならそんなことしない。

 それなのに、何故ヴァレンティーネは自分たちを似ているというのだろう?

 マイアにとって、分からないことが増えて行くばかりだ。

 どうして、あの男の所為でここまで悩まなくてはいけないのだろう。

 意味が分からない。

「あの男を、イレブンスを知れば何かが見えてくるのか?」

 マイアは虚ろな視線で前を向きながら、そう呟く。

 イレブンスを知れば、間接的にヴァレンティーネの気持ちも知る事ができるかもしれない。そうマイアは考えた。

 まるで幼子が玩具を取られ、それを奪い戻すような気分でマイアはやっと見出した打開策に手を伸ばすしかなかった。




「それにしても、左京・・・本当にあれで良かったのか?」

 湯呑みに入ったお茶を飲みながら、目の前にいる左京に向け誠が口を開いた。

「何の事だ?佐々倉?」

 返事を返した左京は、如何にも涼しげな表情でお茶を飲んでいる。

「いや、真紘様と黒樹様に出した課題のことだ。あれは・・・本当なら我々の役目のはずだろう?」

「誤解をするな、佐々倉。確かにあれは我々に言われた言葉だが、お二人の協調性を高めると共に黒樹様にもいい経験になる。そう思って私が課題にしたまでだ」

「いや、しかし・・・」

 言いきる左京に対して、誠が渋い顔を作った。

 そんな誠の表情に気づいているのか、気づいていないのか左京は黙ってお茶を飲み続けている。

 いや、気づいているだろうな。

 誠は内心で溜息を吐いた。

 だがそれをあえて無視しているのだろう。

「左京、本音を言ったらどうなんだ?」

「本音とはなんだ?」

「その、オカルト系が嫌で、行きたくなかったということだ」

 すると左京の眉がぴくりと反応した。

 図星か。

「なにを馬鹿なことを。私がそんな事で任務を放棄するわけない。私は真紘様と黒樹様なら大丈夫だと判断したから、あちらに向かわせたのだ」

 まったく失礼な。と言わんばかりの左京の口ぶりに、誠は目を細めた。

 口ではもっともらしいことを並べてはいるが、それも建前なのだろう。その証拠に左京の口調は少し速くなっている。

「左京は本当に昔から、ああいう類の物が苦手だな」

 誠が呟くようにそう言うと、左京がしばしの沈黙の後。

「あんなオカルトハウスに誰が行くものか・・・」

 と小さい声で言ったのを、誠は聞き逃さなかった。

 左京の本音に誠は呆れるしかない。

 真紘と狼の事を考える前に、自分も査問に掛けられたりと大変だったのに、こういう所は抜かりないのは、左京らしいと言えば左京らしい。

 だがそれを容認してはいけないというのも事実だ。

「左京・・・・」

「話を切って悪いが、佐々倉。私は一つ疑問に思っていたことがある」

 誠の言葉を遮り、左京が口を開いた。

「なんだ?」

「それは、黒樹様のことだ」

「黒樹様の?」

「ああ、貴様もわかると思うが、黒樹様はきっと九卿家である黒樹の家の者だろう?」

「ああ、そうだろうな。イザナギを扱えるくらいの素質で、黒樹となると、まずあそこしか考えられないからな」

「そうだろう。だが、私は次期当主に息子がいるという話は聞いた事がない。そうではないか?」

 言われてみればそうだ。

 黒樹の次期当主が初代アストライヤーメンバーという事も、勿論知っているし、家督を継ぐ気もないということも知っている。

 だがそれでも息子がいるならば、九卿家の中でも話題に上るはずだ。けれど、そんな話は一切、耳にしたことがない。

 誠は顎に手を当てながら、思考を巡らせた。

「もしや、黒樹様も出流と同じように・・・」

「そうかもしれないな。多分、その確率が高いと思う」

 誠の言いたいことを理解した左京が、同意した。

「黒樹様も佐々倉出流のように、へそを曲げないと良いが・・・」

 左京がお茶を飲みながら、続けてそう言った。

「左京・・・。もし、本人に聞かれたら、また言い返されるぞ?」

「まったく。奴は減らず口だからな。佐々倉、おまえが甘やかしたのではないか?」

「そんなことはない。私も父も母もしっかり叱るところは叱っていた」

「そうか?なら、良いんだが・・・。だが、やはり奴は佐々倉の事を姉とは見ていなかったようだな」

 予想外に左京から紡がれた言葉に、誠は思わず持っていたお茶を溢しそうになった。

「な、何をいきなり言っている!?」

「実際そうだろう?口唇を奪われたのだから」

「そ、それはッ・・・そうだが・・・いや、その・・・」

 いつもの様に動いてくれない口に、誠は内心で焦った。

「佐々倉は、この手の話が苦手だからな。少しは免疫をつけたらどうだ?」

 左京には言われたくない。

 内心ではそう思ったが、やはり口は動いてくれない。

 まるで自分の口は固まってしまったのではないか?そう感取してしまうほどだ。

 しかも左京に言われていることが事実だからこそ、尚の事、憎たらしい。

 言ってしまえば、あの時の事は考えてはいけないと思い、頭の隅に追いやっていた。それなのに、こんな所で掘り返されるとは思ってもいなかった。

「そうか。佐々倉はそうやって、恥じらいという物があるから、私よりも男どもから女扱いをされるのだろうな。まったく失礼な奴らだ」

「そんなことはないと思うが・・・」

「いいや。ある!!」

 何故か慷慨している左京を余所に、誠は小さくため息を吐いた。

 出流がいなくなって、四年近くの歳月が経った。そのため、成長しているのは当然だ。だがしかし、自分の記憶にあったのは、まだ幼さがある、自分と背丈も然程変わらない弟でしかなかった。

 それなのに、この間会った出流は違っていた。幼さも消え、体格も自分とまったく異なった青年になっていた。

 嬉しさと寂しさと、そして驚きが入り混じった感情に加え、あのキスは、否が応でも、誠に出流が『弟』ではないということを、痛感させてしまったのだ。

 だからこそ、目を背けたということもある。

 このままでは駄目だ。もっとしっかりせねば。

「そういえば、佐々倉。貴様先ほど何か言い掛けてはなかったか?」

「あ、ああ。そうだったな。・・・私の言い掛けたことは、我々も真紘様と黒樹様の元に向かおうという話だ」

 話を変えるように、誠がそう言うと、左京が眉を少し動かした。

 誠はそれを見て、思わず苦笑を溢した。




「黒樹、起きろ」

 肩を揺すられ、狼が目を開けると、視界に真紘の顔があった。

「あ、真紘。・・・って僕、もしや寝てた?」

「ああ。もう朝だ」

「え!朝!?」

 狼が跳ね起きるようにして、立ち上がり周りを見渡す。すると辺りは、窓が遠い場所は薄暗いが、確かに窓からは日差しが入り込んで、部屋を照らしてる。

「僕、あのまま寝ちゃったんだ・・・」

「そうみたいだな。まぁ、俺も今まで仮眠を取っていたが、あいつはどうした?」

 真紘が言っているあいつとはイレブンスの事だろう。鋭い視線を周りに向けながら真紘がそう訊いてきた。

「それが、天井にぶつかった時に、別の場所に落ちたみたいでさ。僕もイレブンスがどこにいるかわかんない」

「そうか。では、あいつがBRVを見つけ出す前に、俺たちで探そう。それと、昨日はすまなかった」

 真紘が礼儀正しく頭を下げて、謝ってきた。

「別にいいよ。そこまで気にしてなかったし」

「だが、あの時のあれは、完全に俺の落ち度だ」

「いいって。それより、早く見つけ出そう」

「そうだな」

 狼と真紘が廊下の先へと、歩き出す。

 見た所昨日の様な仕掛けがないようにも見えるが、どこに隠れて仕掛けられているか分からないため、BRVを出しながら慎重に歩く。

 だが、幾分か歩いても怪しげな仕掛けは出てこない。

「ここには仕掛けないのかな?」

 少し気を緩ませながら、狼がそう呟いた。

「いや、わからない。だが油断してはいけないということだ。だから、黒樹ももう少し気を引き締めた方が・・・」

 真顔で真紘がそんなことを言っていると、後ろから片手サイズのゴムボールが真紘の頭に強打した。

「なっ」

 真紘が頭を押さえながら、後ろを振り向く。

 すると、そこには真紘に当てたボールと同じ物を持ちながら、半笑い浮かべたイレブンスが立っていた。

「貴様・・・、いきなり何をする?」

 ギロリと真紘がイレブンスを睨む。

「おまえが惚け面で、変な事グダグダ言ってるからな。ついだ、つい」

 すると真紘は、近くに転がっていたボールをイレブンスへと投げ返した。

「はっ。俺に飛び道具が当たるかよ」

「それはどうだろうな」

 真紘が意味深な言葉を呟く。その言葉を訝しんで聞いていたイレブンスの前に、さきほど真紘が投げたボールが向かってくる。それを軽々しく避けたイレブンスだが・・・避けたはずのボールが方向転換し、フラフラと定まりの無い軌道で描きながらイレブンスの顎先へと向かってきた。

「おっと!」

 イレブンスはそれをギリギリで受け止めた。

「おまえ、因子を使ったな?」

「ああ、そうだ」

「おまえが、その気なら・・・」

 するとイレブンスの片手にあったボールが消え、真紘の顔面に前に出現した。

「やられるか!」

 真紘は風を吹きお越し、イレブンスの方へとボールを突き返す。

「なら・・・」

 再びボールが消え、真紘の背後から出てくる。

 それを真紘が避け、代わりに・・・。

「いたっ!!」

 狼の横腹へとクリンヒットしてきた。

「ちょっ・・・痛いじゃないか。なにするんだよ!!」

 狼も腹に走る痛みを感じながら、負けじと因子を込めたボールを真紘とイレブンスの方に投げる。

 狼が因子を込めたボールは、物凄い剛速球と化してイレブンスへと当たった。

 それから、しばし三人でのボール投げが始まった。

「おまえの顔見てるだけで、むかつくんだよ」

「それはこちらも同じだ」

「二人とももう、喧嘩よせよ!!」

「やだね。こいつがぶっ倒れるまで、やめる気なし」

「誰が倒れるか!!倒れるのは貴様の方だ」

「もう、どっちでもいいよ!!」

 そんなことを怒鳴り合いながら、ボールを投げ続けていると、ガコンッという音が廊下に響いた。

 それから両端にあったはずの壁がどんどん三人に向かって、近づいてくる。

「「「今度は壁か!!」」」

 そんな仕掛けにすっかり慣れてきた三人は、そうユニゾンしながら叫んだ。



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