射貫く瞳
上へと通じる道を探していた狼とイレブンスは、イレブンスの放った銃弾が何かのトラップのスイッチを押したのか、いきなり天井が開き、そのまま上へと飛ばされたのだ。
そして真紘の唖然とした表情を見ながら、上に飛ばされたのだが、飛ばされた勢いが強すぎて、狼とイレブンスは思いっきり身体を強打し、それぞれ別の場所に落下した。
「ありえねー・・・」
天井に強打したあと、辛うじて床へと着地したイレブンスは、辺りを見回し溜息を吐いた。
ここに来て、散々なめにしかあってない。
狼たちに会う前に、水溜みたいな所に落ち、その後嫌な真紘にも会い、そしてまた意味分からない場所に落とされるという・・・。最悪にも程がある。
思えばミーティングルームでの出来事が全ての始まりだった。
ミーティングルームにいきなり、ヴァレンティーネが入ってきて
「ミッションスタートです」
と言ってきたのだ。
「いきなりすぎだろ。ちゃんと内容言えよ」
イレブンスがそう反論すると、ヴァレンティーネは「ああ!」と言いながら、手を叩き、内容を説明した。内容は「アストライヤーが所有しているBRV保管庫に残っている武器を鹵獲すること」なのだが、その場にいた者が渋い顔をしていた。勿論、イレブンスも。
なんせ、そんな保管庫の話、これまで一度も聞いたことがないからだ。
そんな皆の顔が不満だったのか、ヴァレンティーネは頬を膨らませていた。
「どうして、そんな微妙な顔するんですか?宝探しみたいで楽しいと思うんですけど」
「俺たちが宝探ししてどうするんだよ・・・」
イレブンスが呆れながらヴァレンティーネを見ると、ヴァレンティーネは口をへの字に曲げ始めた。
そして、
「こうなったら、奥の手です」
そう言いながら徐に、ヴァレンティーネが右の肘を床につけ、手を開き構えた。
「私と腕相撲で勝負です」
「腕相撲って・・・おまえじゃ誰にも勝てないだろ。やめとけよ」
やる気満々のヴァレンティーネにイレブンスがそう言うと、頑なにヴァレンティーネが首を横に振る。
「いいえ。心配ご無用よ。私はこれでも3兄妹の中で、腕相撲に負けたことないもの」
「おまえに手加減したか。あるいは兄妹揃って相当弱いのかの、どちらかだな」
「ぶぅー。イズルは意地悪ね。でも、手加減なんてされてないと思うわ。だって、私に負けたとき、兄も妹もすごく驚いた顔してたもの」
「じゃあ、選択肢は消えたな。おまえの兄貴と妹は、おまえ以上に弱かったんだろ」
「違うわ。兄は欧州地区、妹は北米・南米地区を纏めてるボスよ。弱いはずないわ」
何故か自分のことのように、胸を張っているヴァレンティーネを見て、イレブンスは頭を掻いた。
目の前にいる、ヴァレンティーネだってここ東アジア地区のボス的位置にいる。だがヴァレンティーネ自体、高い戦闘能力を持っているわけではない。
それを考えるとボスをやっているからと言って、ボス=強い、にはならない。
けれど、トゥレイターの中でも地区によって、組織内の色がある。
欧州地区でいえば、自身のプライドが強い者が多く、扱い辛い。北米・南米地区にしてはデカい戦闘を好むため、まぁ、ガンガン攻めるタイプ者が多い地区だ。アメリカ人であるサードがよくその色が出ている。
サードは元より、北米地区にいたのだが、いきなり「イレブンスが東アジア地区なら、私もそっちに行く!」と高らかに言い始め、こっちに来たのだ。
そしてここ、東アジア地区はアストライヤー制度を始めた国である日本があるせいか、三つの大まかな地区の中でも、アストライヤーとのぶつかり合いが多い地区だ。
確かに北米・南米地区でも戦闘は多いのだが、あっちは派手に動く者が多いため、大型武器重視で、白兵戦をメインにする東アジア地区とでは戦い方が違って来る。
欧州地区は戦闘回数的には、一番少ないものの、あっちはトゥレイターの本拠地が置かれている場所だ、それなりに厳重態勢を引き、緊張した空気は常日頃あるのだ。
だから北米・南米地区では、勢いのある思い切りの良いタイプの先導者を好むだろうし、プライドの高い欧州地区では、高貴かつ紳士的な騎士風情が好まれるだろう。
その点、ここ東アジア地区はボスというのは、象徴的意味が強いため、戦闘に参加させる事に意味を持たない。
むしろ、静かに鎮座していろ。という雰囲気さえ醸し出している。
だからこそ、あまり戦闘タイプではないヴァレンティーネでも文句を言う者はいない。
ファースト、サード、ナインスは、誰でもいい。フォースはよくわらない。セブンスは言わずとも美人ならウェルカム!むしろ、男、来るな。シックススは、俺より目立たなければ良し。
と、こんな感じに適当な連中なのだ。
だからこそ、こんなにも緩いヴァレンティーネでもやっていけるのだろう。
そんなことを、イレブンスが考えていると、がしっと手を強く握られた。勿論握った相手はヴァレンティーネだ。
「・・・なんだよ?」
「決まっているでしょ。腕相撲をするんです」
「はぁ、おまえ諦めてなかったのか?」
「当然だわ。それともイズルは私に勝つ自信がないのかしら?」
ヴァレンティーネは目を細めながら、挑発してきた。
だがそんな顔されても全然、挑発的に見えない。
―仕方ない。少し付き合ってやるか。
だが、この考えが厄介事に巻き込まれる火種になるとは、このときのイレブンスは思いもしていなかった。
そして、イレブンスはヴァレンティーネと向かい合うようにして、床に肘つけて、手を握り合いながら見合う。
面白がったセブンスが「レディ・・・ゴー!!」という掛け声をかけ、イレブンスが力を手に掛けた瞬間。
「・・・・・・は?」
イレブンスが短い声を漏らした時には、もう決着がついていた。ヴァレンティーネの勝利という形で。
未だに事態が呑みこめていないイレブンスは、床についている自分の手を数回の瞬きをした後、目の前のヴァレンティーネに目を向ける。
ヴァレンティーネは屈託のない笑顔を見せながら、少し鼻歌まで口ずさんでいる。
「女性に花を持たせるなんて・・・おまえにしては女性を敬う気持ちが少しはあったんだな。でもな、それは俺の専売特許だぜ?」
「いや、別にそんなんじゃない。おまえも試してみろよ」
そう言って、イレブンスがセブンスにヴァレンティーネとの腕相撲を促す。
「おっ!いいぜ。ボスの陶器のような白い手を取れるなら、これ以上に無い幸せだぜ」
そんな呑気な事を言っているセブンスが、先ほどのイレブンスと同じようにヴァレンティーネと腕相撲を執る態勢をしながら、ヴァレンティーネにウィンクをしている。
だがそれも、イレブンスの掛け声の後には、さっきのイレブンスと同じ表情を浮かべていた。
「あれ、あれれ?おっかしいなー」
セブンスがそうぼやく中、ヴァレンティーネは立ち上がり腰に手を当て、えっへん!と言わんばかりに誇らしげだ。
「さて、次はどなたかしら?」
部屋中を見回して、ヴァレンティーネがにっこりと微笑んだ。
そして半強制的にその場にいたナンバーズがヴァレンティーネと腕相撲をし、見事に敗北してしまった。
フォースに至っては、「おじさんのか弱い手が折れたかも・・・」とか呟くほど、力強く床に手を叩きつけられていた。
「あらら、少し力を入れすぎちゃったかしら?」
と戯けた表情を浮かべながら、首を傾げている。
「さて、話を戻しますが・・・誰がミッションに行きますか?」
そして、全員と対戦して、満足したヴァレンティーネが本題へと話を戻した。
すると、部屋にいたナンバーズが一斉にイレブンスに視線を向けた。
「いっ」
部屋中の視線を浴び、イレブンスが短い声を上げた。
「な、なんだよ?」
イレブンスが訊ねると、視線を宙へと逸らしながらセブンスが口を開いた。
「おまえが一番乗りに負けたんだから、おまえだろ」
「は?ふざけんなよ!!おまえらだって負けただろ」
イレブンスがそう吠えると、シックススが肩を上下に動かしてから
「でも、先陣切ってやられたのは、おまえなんだから、ちゃんとミッションやれし。言い訳とか見苦しくねぇ?」
嫌な事を一刻も早くイレブンスに押し付けたいのか、シックススがセブンスに同意して、口を合わせてきた。
「おまえ等・・・」
ギロリとイレブンスが二人を睨む。
「いや、イレブンス。貴様ならきっとミッションを成功するだろう。俺はそう信じている」
そんなダメ押しをファーストまでがしてくる。
しかも、そういう時に限って、息が合うナンバーズ。
みんながファーストの意見に同意という形で、頷いた。
横ではヴァレンティーネがにこやかに笑っている。
「決まりね」
「な、俺はまだやるなんて言ってねぇーだろ」
イレブンスがそう反論すると、背中に鋭い言葉がかかった。
「皆が同意している。なら、貴様がやるべきだ。やれ」
そう言ったのは、部屋の傍らで立っていたマイアだ。
「それとも、貴様では荷が重いか?」
マイアは挑発するでも、嫌味でもなく、真正面からイレブンスに射貫くような瞳を向けてくる。その瞳に降参したように、イレブンスがため息を吐いた。
「わかったよ。やればいいんだろ。やれば!!」
こうなったら、とことんやってやる。
半ば自棄気味に、イレブンスは声を張り上げたのだった。




