Dog’s
「俺もまだまだ未熟だな」
真紘は一人、保管庫の二階を歩きながら、そうぼやいた。
さきほどの光景を思い出してだ。
「まさか、黒樹の存在を忘れていたとは・・・」
仕掛けられた罠から抜け出すのと、トゥレイターであり一人で抜け出そうとしていたイレブンスを仕留めたのだが、そのことに集中しすぎて狼のことを忘れていたのだ。
そのせいで狼まで罠に掛けてしまった。
それは予想外の失態だ。
「俺が黒樹の分まで、頑張らなければいけないな」
そう決意し、木の板で続いている廊下を歩く。
それにしても、何故トゥレイターであるイレブンスがこの場にいるのか。しかも・・・
「・・・似ている」
以前学園を奇襲した際は、仮面を被っていて顔を見たことがなかったが、ついさっきその顔を見た。そして内心で驚愕していたのだ。
真紘が内心で驚いたイレブンスの素顔は、公家の一つである九条彰啓に似ていたのだ。
ただ単に似ているだけなのか。ただの邪推なのか。
だが邪推だと拭いされないほど、二人は似ている。
もしあのトゥレイターである男が九条の家と何らかの関係があるとしたら、何故その者がトゥレイターにいるのか?そんな疑問と共に、その事を九条の者である綾芽は知っているのか?という二つ事柄が思い浮かぶ。
「そこは後に確かめるしかないな。今はここにあるBRVを探し出す」
真紘は二階の部屋を一つ一つ探しながら、進んで行く。
だがどの部屋を探してもBRVらしい物は見当たらない。
まだまだ、この保管庫には上の階がある。それを虱潰しに探していくしか今は方法がない。それはかなりの時間を要することだ。
しかも窓から空を見ると、すでに日が落ち始めていた。
このままでは、夜になってしまう。
「どうするか?」
一人考え込む真紘の傍らに、甲高い声が聞こえてきた。いや、声ではなく鳴き声だ。
キャン、キャン。
「この肌を逆撫でるような鳴き声・・・」
真紘は鳴き声がする方へ反射てきに振り向く。
そして悪い予感という物は、よく当たってしまうものだ。
振り向いた先には、立ちくらみを引き起こしそうなほどに、大量に押し寄せてくる小型犬。
大量の小型犬が舌を出しながら、円らな瞳で真紘に迫ってくる。
「やはりか。こんなトラップも存在していたとはな」
引き攣り顔で真紘が後ずさるが、犬たちはお構いなしに後を追う。
まるで追いかけっこだ。
真紘自身は必死だが、犬たちはただジャレているようにしか思っていないだろう。犬たちの高揚感は最初の頃よりも、確実に上がっている。
そしてその内、廊下の端へと追い込まれ、犬の群集に行く手を完全に塞がれてしまった。
「くっ」
真紘は思わず苦渋の声を漏らしてしまう。
俺には、この犬たちを蹴散らすことなど出来やしない。
自分に向かってくる敵は容赦なく屠る。
そう決めている。
だがしかし・・・・
目の前にいる犬たちは、自分の牙を剝きだしにすることもなく、ただ愛くるしい顔で見つめてくるだけだ。そんな犬を斬ることは出来ない。
そう刃を向けるにしては
「か弱すぎる」
真紘は一言そう呟きながら、頭を振った。
そんな真紘を見守るかのように犬たちは、首を上に向け真紘を見つめている。
少しの風を起こして蹴散らすか?
いや、ダメだ。
変に転がって、傷つけてしまっては・・・。
では、自分があの犬の群集を跳躍して、抜けるか。
「よし、そうしよう」
決意し、足に力を込めた、丁度その時。
犬たちが方向転換をし始め、真後ろに一直線に駆けて行く。
「なんだ?いきなり?」
真紘は犬たちと少しの間隔を開けながら、追って行く。そして犬たちが一斉に足を止めたと思ったら、下から吹き抜けとなっているフロアの方に向け、咆哮を上げていた。
そしてその吹き抜けとなったフロアの下から、犬たちの咆哮とは違った音が聞こえてくる。
「今度は一体なんだ?」
真紘は吹き抜けとなった場所から、下を覗き込み、聴覚を研ぎ澄ませた。
すると、何か者が動くような音がしたと思ったら、まるで花火でも上がるような、風を切る音と共に、下からすごい勢いで
「嘘だろーーーー!!」
という狼の驚愕の声と共に、イレブンスと狼が上へと昇って行ってしまった。
「なっ」
真紘はそんな二人を見ながら口を、ぼかんと開いた。
どういうことだ?あれは・・・・。




