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男の目にも涙

 木曜日、午後。

「はぁー、やっと終わった。長かったー。真里もう少しでネバーランドに行きそうだったし」

「ああ、俺も。難しい話って苦手だし」

「まったく。貴様たちには呆れるしかないな。輝崎の懐刀と知り合いなんじゃないのか?」

 勝利は、細目で真里と大志を見ながら溜息を吐いた。

「知り合いですよ。だって真里、あの二人と学生時代のタメで、仲良かったし」

「仲良かったくせに、少しの心配もしないのか?薄情な奴め」

「いやいや、これでも心配してますって。でも、結局は大丈夫だったんですから、良いじゃないですか」

 真里が可愛くもないのに、頬を膨らませている。

 やめろ。

 そして真里の言う通り、さっきの査問は結局、輝崎の当主である真紘が、確固たる態度で意見を変えず、「今は様子見」ということになった。

 それもそうだろう。

 大城の怒声も雪村の皮肉も一切、耳に入れず

「当主である俺が外さないと決めた。なら他の者の意見など聞かない。よってこの査問も元より意味など持っていない」

 そう言いきったのだ。

 そして、それに一番に反論すると思っていた大城が頷いたのだ。

「そこまで言うなら、もう何も言う必要はあるまい。だが、もし次に少しでも粗相を犯し九卿の名を汚すような事をしでかしたら、貴様ともども、首を斬る。いいな?」

 そんな脅しとも取れる大城の言葉に、真紘はゆっくりと頷いた。

「いいだろう」

 そんな感じで、九卿家による話し合いは幕を閉じたのだ。

「それにしても、輝崎の懐刀は美人だったなぁ」

 先ほどの話し合いの一幕を思い出しながら、真紘の後ろについていた懐刀の二人を反芻させた。

 二人とも表情を崩さず、沈黙を保ったまま座っていた。左京は自分に下される処分を、どんな事でも受け止めるという決意が瞳に宿していた。その隣にいた誠は話し合いの行方を見守るような表情をしていた。

 その二人は、自分の横を歩く真里とは月と鼈というほど、美人だ。

「確かにあの二人は美人ですよね。学生時代の時も男子に人気あったし」

「まぁ、そうだろうな。あの二人は文武両道を体現している。懐刀としての忠誠心も!!」

 最後の言葉は皮肉を込めた。

 もちろん、両脇にいる懐刀に向けて。

 だが、そんな皮肉も通じない様に真里が「やれやれ」という感じで首を横に振った。

「ええ、確かにあの二人は文武両道でしたよ。で・も!いくらモテても、あの二人は恋人出来たことないですよ。それじゃあ、意味ないでしょ。せっかくの青春も花散らせたら」

 すごく、偉そうだな。おい。

「・・・そういうおまえは、恋人出来たことあるのか?」

「え・・・?」

 フッ、この反応・・・偉そうに言っていた割には、こいつも青春を散らせた奴か。

「もう、勝利様やあの二人じゃあるまいし、いたに決まってるじゃないですか。むしろ、今もいるし」

「なっ」

 真里から衝撃的な言葉を聞き、勝利の声が引き攣る。

「俺は、俺は・・・」

 こんな、こんな、忠誠心もない懐刀に先を越されていたのか。

 その事実に愕然とする。

「・・・もしかして、大志。貴様にもいたとか言うんじゃ・・・」

 恐る恐る大志の方に向く。

 隣にいる大志は横目で勝利を見ながら、意味深な笑みを浮かべた。

「勝利様、・・・俺は勝利様の懐刀だよ?・・・そんな俺が勝利様を裏切るとでも思ってるんですか?」

「大志・・・」

 男同士の絆が生まれたような気がした。

 そんな絆を確かめ合っている勝利と大志に対して、真里が冷ややかな目で見ていた。

「ヤダヤダ。モテない男の同調姿・・・」

 そんな心無い真里の言葉を勝利と大志は、一切耳に入れず話を続けた。

「あの二人は絶対、高望みのタイプだって。俺はそんな気がするね」

「そ、そうなのか?そんなようには、見えないが・・・」

「いやいや、勝利様、あの見た目に騙されちゃダメだって。女なんて生き物はどれも一緒。イケメンが好きなわけ。あ、それか金ね」

「金って・・・」

 おまえは本当に金しか、頭にないのか!とツッコミたくなったが、大志の意見も一理あるような気がする。この前、新聞で結婚詐欺とか、保険金殺害とかあるくらいだ。あー、怖や、怖や。

「はぁ?勝手な事言ってるけど、男だって同じじゃん。それに、恋人が出来ないのは大志と勝利様の方に問題があるんじゃないの?」

 半目で真里が勝利と大志を睨みつける。

 その真里の言葉に上手く反論できる言葉が浮かばず、勝利と大志は真里から視線を逸らした。

「まぁ、その話は負いといて、今週の土曜日、勝利様の別荘行きません?」

「ん?いきなり何故だ?」

「理由なんてないですよ。ただの気分転換。たまには息抜きしないとね」

 たまにはって、いつもしているではないか。

 むしろ休暇を取りたいの自分の方だ。

 こんな舐めた懐刀に、我が儘な九条の当主。

 ふっ、泣きたいぜ。

「なに、決め顔してるんですか?そんな顔、真里、求めてませんけど」

「いいじゃん。勝利様がやりたいんだから、好きにさせてやりなよ」

 こいつら・・・。

 やっぱり、変えたい。

「それに、確か別荘の近くに廃墟みたいな所あったじゃないですか?ついでに行ってみません?」

 真里があっけらかんとそんなことを言ってきた。

「そんなとこ行って、なんの得があるんだ?無意味だろう」

「えー、無意味じゃないですよ。ワクワクするじゃないですか。あっ・・・それとも勝利様・・・もしかして怖いんですか?」

 そう言いながら真里と大志がジト目で見てくる。

「そんなわけないだろ!俺は由緒正しき齋彬の当主だぞ?怖いわけないだろ。戯け者!!」

「「ですよね!!」」

 この二人はどこまで当主を陥れれば気が済むのか?もうそろそろ、「誰かが自分を陥れようとしている」という項目にチェックをしてしまいそうだ。

 なんとかして、廃墟という意味不明な場所に行くと言う空気を変えなくては。

 仕方ない、ちょっと高級な食べ物か何かで、この二人を釣ろう。

 そう内心で決意し、九条の当主が待つ、御所に向け歩くスピードを速めた。


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