ガールズ ザ パンドラ3
「あら、嫌だわ。こんなところに溝ネズミが一匹・・・」
「あはっ。こんな所に怖いストーカーが一人・・・」
お互いを罵倒し合いながら、笑顔を交わす季凛と希沙樹。
「ストーカーって誰の事かしら?」
にっこり。
本当に嫌になるわ。何故こんな牛乳巨乳が真紘を付け狙っているのかしら?
まぁ、仕方ないわね。なんたって真紘はどんな者よりも恍惚な人だもの。
でもだからって、真紘に近づけさせるわけにはいかないわ。さっさとこの溝ネズミを駆除しないと。
笑顔の裏で希沙樹がそんな事を思っていると
「え?希沙樹ちゃんのことに決まってるでしょ。あはっ、もう変な事言わないでよ。真紘くんのストーカーなんだから。それと、溝ネズミってどこにいるの?季凛には見えなーい」
ニコッ。
うわぁ。すっごいウザい奴と会っちゃった。最悪すぎ。てか、なんでこんな奴に溝ネズミとか言われないといけないわけ?おまえ何様だよ?
でも、真紘くん情報を割らせるためには、このストーカー女を上手く利用しないと。
と季凛も希沙樹と同じように内心で思いを巡らせていた。
「うふっ、うふふふふふふ。私の目を舐めるんじゃいわよ。小娘。私がどれだけの貴方のような女子から真紘を守ってきたと思ってるの?」
額を手で押さえながら、クスクスと希沙樹が笑いを溢す。
「え?守った?すごい勘違いしすぎでしょ。あは、あはははははは。希沙樹ちゃんは守ったって言うより、女の子を威圧して蹴散らしただけでしょ?真紘くんも変な人に絡まれて、大変だ~」
季凛が口元を手で覆いながら、希沙樹への罵倒を続ける。
だがしかし、希沙樹はそれを鼻で失笑した。
「なんとでも言いなさい。私は貴方の様な腹黒糞溝ネズミにどんな暴言を吐かれようと、私の痛手にはならないもの。ざまぁないわね」
「変にポジティブなのも困るよね。というか、もう希沙樹ちゃん、諦めたら?小さい頃から一緒にいるのに、叶う兆しがないんだから。あはっ、もう絶望的じゃない?」
すると今まで笑顔を崩さなかった希沙樹の眉がぴくりと動く。
だがそれもすぐに低位置に戻った。
「諦める?そんな言葉私の辞書にはないわ。残念ね。あなたこそ、ぱっと出の裏切りヒロインなのだから、退くべきよ。・・・身の程を知りなさい」
希沙樹の言葉に、今度は季凛が口元を少し引き攣らせる。
二人がいるのは校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下。渡り廊下は夏の太陽に当てられ、物凄く暑い。平日ならば、冷房機器によって冷やされているが、今日は休日。そんな物は作動しているはずがない。
けれどそれにも関わらず、二人の間には底冷えするような冷気が漂っていた。勿論、希沙樹が放っているわけではなく、精神的な面での冷気だ。
「ほーんと、ストーカーの人って嫌だ。自分の都合の方に思考回路が動いちゃうから、現実見れないんだよね・・・現実逃避にも限度あるとおもうけど?それに裏切りヒロインって、なんか新鮮じゃない?やっぱ、恋愛には新鮮さ重視でしょ」
「ごめんさない。私、貴方の夢妄想に付き合っている暇ないのよ。夢妄想話がしたいなら、一人で叫んでいれば?誰かが聞いてくれるかもよ?いえ、むしろ、どこぞの誰かさんに習って、ポエムでも書けばいいんじゃない?」
「えー、自虐ネタで武勇伝書けるのは、希沙樹ちゃんの方でしょ?「ああー、私は悲劇の女~。どんなにやっても報われない~その女の名前は五月女希沙樹~」的なね。それと季凛思ったんだけど、希沙樹ちゃんって、自分、真紘くんの良妻ぶってるけど、それこそ妄想だからね?あはっ、残念な女。どんまい希沙樹!!」
「なんですって?この溝ネズミ風情が。あなたが私に敵うところなんて皆無だと思うけど?」
「ああ、言う言う。ストーカーの人って、そういうことよく言うよね。あるストーカーの歌でも、今の希沙樹ちゃんと同じこと言ってたもん。もしかして、あれ希沙樹ちゃんを見て作った歌なんじゃない?あはっ、そしたらすっごい、おもしろいよね~」
「さぁ。私はそんな歌知らないもの。それに私はストーカーではなくてよ。私は真正面から真紘へと向かっているもの。貴方ごときには、到底理解できないでしょうね、私のこの深い愛が」
まるで舞台の上で一人芝居をする女優のように、希沙樹が高らかと叫んでいる。それを季凛が見てため息をついた。
「自分に酔ってる人っていたーい。真正面からって言ってるけど、それって真正面から精神的攻撃を与えてるの間違えじゃなくて?」
「なっ」
「よかったね。真紘くんが優しくて。普通の男の子なら多分、警察に駆け込まれてると思うよ?」
「いいえ。違うわ。私のはただ素直に気持ちを表現しているだけ。貴方の様に気づかれない様に、コソコソ動くような真似はしないの。まぁ、私にはバレバレだったけれど」
「はぁ?」
二人とも突かれたくない所を突かれ、少々表情も崩れてきた。
暑い中での言い合いに疲れてきたと言ってもいい。
汗を浮かべながらお互いを睨み合う二人。
もはや、お互い最初の思惑よりも感情論で口を動かしている。
そんな二人に別の方から声が掛かった。
「キサキと確か・・・キリンよね?こんな暑い所で何してるの?」
声を掛けて来たのは手で顔を仰いでいるセツナだ。
そしてそんなセツナを見るやいなや、
「「出た、金髪の悪魔」」
二人が声を揃えてそう言った。
「えっ?何、その金髪の悪魔って?」
セツナがきょとんとした表情で希沙樹と季凛を見返す。
すると、希沙樹がため息をついて
「あなたの事に決まってるじゃない。まったく、剣の稽古とか言って、上手い具合に真紘に取り入ったわね」
と言った。その顔は辟易としている。
「そうそう。セツナちゃんって思わぬ伏兵だよねぇ。季凛困っちゃう」
希沙樹に続いて季凛までも、そんなことを言う。
「ちょっと、取り入ったとか、伏兵とか、どういうこと?」
セツナが困惑した表情で希沙樹たちに聞き返すと、今まで罵倒し合っていた二人の矛先が一気にセツナへと方向転換をした。
「あはっ、セツナちゃんったら、白々しいなぁ~。あっ、でもセツナちゃんって向こうにいい感じの人がいるんだっけ?」
季凛が作り笑いを浮かべながら、わざとらしくセツナに訊ねる。勿論、この情報はセツナを女の感で危惧した季凛が調べた情報だ。
「いい感じとは・・・わかんないけど・・・・。でも、それとこれとは関係ないんじゃない?」
「あら、遠恋なんて素敵じゃない。憧れちゃうわ。私は真紘と離れるなんて無理だけれどね」
「あはっ。希沙樹ちゃん、支離滅裂すぎ。でも、季凛もムリ~。女の子の気持ちって秋の空って言うし」
「私には真似が出来ないから、憧れるんじゃない。本当に素敵だわ。・・・・そうね、だからこそ、金・・・ヘルツベルトさんには、あんまり男性と親しくしない方がいいわ。あっちにいる彼が心配してしまうもの」
「あはっ。その意見、季凛も賛成!!」
希沙樹が完璧な笑顔をセツナに向け、季凛ははしゃぐように手を上げている。
「ちょっと、二人とも変に話を進めてるけど、私とフィデリオはそういうんじゃなくて・・・」
「へぇーフィデリオくんって言うんだー。良い名前だね」
「ええ、真紘には到底及ばないけれど、良い名前だわ。・・・そういえば、もう少し後に「世界武勇競技大会」、WVAが開始されるのだから、もしかしたら、出場するんじゃない?」
「ああ、この前電話が掛かってきたときに、そんな事言っていたかも・・・」
セツナが上を見ながら、思い返すように呟く。
「ふふ、決まりね」
希沙樹が何故か嬉しそうにそう呟いた。
セツナ的には、何が決まったのか分からない。
だが、希沙樹の隣にいる季凛には意味が分かったらしい。
「心配して損しちゃったかな?あはっ。そのまま上手く行ってくれると、季凛も快眠できそう~」
「ええ、私もよ。・・・あとは次から次へと湧いてくる蛆虫が出てこなければ・・・」
希沙樹がそう言いながら、横目でちらちりと季凛を見る。そしてすぐに笑顔に戻った。
「うん、そうだね。あとは金魚の糞みたいに邪魔な女子が消えてくれれば・・・あはっ、超完璧」
季凛は顔を誰に向けると言うわけでもなく、笑顔でそう言った。
二人の奇妙な笑顔にセツナはたじろぎながら、黙って二人を見ているしかなかった。




