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アストライヤー  作者: 星野アキト
第四章

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horror house探索

 土曜日、旧保管庫。

「ここであってるのかな?」

 隣に立つ真紘に狼は恐る恐る訊ねた。

「ああ。ここで間違いないだろう」

「それにしたって、これは……」

「黒樹の気持ちはわかる」

 そんな会話をする狼たちの前にあるのは、森林の中にぽっかりと空いた空き地に建てられた、木造建築の建物が、ひっそりと立っていた。

「保管庫っていうより、これじゃあ、廃墟じゃないか!!」

 狼がそう叫ぶ。

「なんだ、黒樹怖いのか?」

 真紘がきょとんとした表情でそう訊ねてきた。

 狼からしたら怖い怖くないの問題ではく、時間をかけてやって来たのにも関わらず、目的地がこんな廃墟だったという事実に騙された感が尋常じゃない。

 いや、左京から位置情報を共有された時にも、想像以上に辺鄙な場所で驚きはした。まずここに来るためには車or電車&徒歩を使わなければ、まず辿り着けないような場所だったからだ。

 しかし狼が住む島には公共交通機関は無いため「良い電車旅になるかも」と前向きに考え電車を選択。真紘はというとここに来る前に別の急用が入っていたらしく、狼が下車した駅まで車で向かい、駅前で合流した。

 そして真紘と共に勇んで旧保管庫へと来た狼だったが、あまりの荒んだ木造建築の外観にすっかり面食らってしまった。

 ーーここまで来るのに、結構運賃かかったのに。

 その運賃があれば、特売スーパーで結構な量の食材が買えただろう。

 そう考えると狼は溜息しか出てこない。

 脱力している狼を隣で見ている真紘は、疑問符を浮かべながら首を傾げている。

「真紘は本当にこんな所にBRVがあると思う?」

 気の抜けた声で狼が真紘に訊く。

 すると、真紘は一瞬考えるような仕草を見せてから、狼に向き直った。

「あるんじゃないか? 建物は古いが、崩壊するほど朽ちている様子はない。……もしかすると、誰かがまだ手入れをしているのかもしれないな」

「わざわざ、こんなところまで来て?」

「一応、学園が管理しているものだからな。ありえなくはないだろう」

 いまいち納得ができない狼を余所に、真紘が周囲を見渡している。

 すると、真紘が一点に視線を集中させた。

「どうかした?」

「今、二階の方で人影が見えた気がしたんだが……気のせいか?」

 真紘の言葉に狼が一歩後ずさる。

「ん? どうかしたのか?」

「いや、なんか真紘が言うと、冗談に聞こえないというか、真実味がありすぎるというか」

「そうか?」

「うん」

 狼が真剣な表情で頷くと、真紘は困ったように苦笑を浮かべた。

 そして、狼は真紘と共に、廃墟のような旧保管庫に足を踏み入れた。

 旧保管庫の中は、薄暗くひんやりとした湿気を漂わせている。しかも埃とカビ臭い。そう重うと、誰かが手入れをしているようには、到底思えなかった。

 狼たちが入った入口から、真四角の広いフロアになっていて、吹き抜けとなった天井からは、いかにもという感じの、蜘蛛の巣と埃まみれとなっているシャンデリアがぶら下がっていた。左右には二階へと続く階段があり、階段の間には、奥へと続く扉がある。

 なんか……どこかで見たことあるような造りだなぁ。

 主に、ホラーゲームとかで。

 狼がそんなことを考えていると、隣にいる真紘の視線が鋭くなっていることに気がついた。

「真紘?」

「静かに……」

 手短に狼を黙らせると、真紘が周囲を窺う。狼もそれにつられるように、周囲を見るが、特に変わった様子もない。

 狼が不思議そうに首を傾げていると

「微かだが、人がいたような気配がある」

 真紘は真面目な顔でそう言った。

 真紘は先ほども人影を見たと言っていたが、まさか自分たち以外でこんな廃墟風の建物に近づく者はいないと思う。しかし、二回も真紘が何かを感じているということは、本当に何かいるのか?

 少しだけ、狼たちが身を引き締めた瞬間。

 ゴトッ。

 という単調な音が真正面から聞こえてきた。

 すぐに音が聞こえてきた方を見ると、前にある扉が少しだけ開いていた。

「え? なんで?」

 狼が驚愕の声を上げると、真紘が鋭い視線のまま目を細めた。

「おかしい。ここは、無風と言っても過言ではないはずだ。それなのに、扉が勝手に開くなんてことは考えられない」

 冷静な状況判断を真紘が口に出す。

 狼がやや引き攣った表情をしていると、奇怪な音はまたも聞こえてきた

 ガチャン。

 今度は後ろから。

 嫌な予感しかしないが、狼が後ろを振り返ると、やはり狼たちが開けっ放しにしていた扉が閉じられていた。

 ここまで来るとホラーゲームのお決まりコースで、扉が開かないというのが常だろう。

「ねぇ、これ、左京さんが仕掛けたのかな?」

 狼がそう訊ねると、真紘は首を横に振った。

「いや、左京というのは考えられないだろう。左京はああ見えても、オカルト紛いの物は、全般的に、大の苦手でな。……ましてや、あそこでこちらを覗くように見ている日本人形があろうものなら、暴走しかけない。そんな左京がこんな仕掛けはしないだろう」

「へぇー、そうなんだ……って、ちょっと待った!!」

「なんだ?」

 狼が突然上げた大声に、少し驚いた顔で真紘が聞き返す。

「なんだじゃないよ。あそこにある日本人形、さっきはなかったじゃないか!! あれ、どこから来たの!?」

 狼は驚愕、混乱で、真紘が言うようにこちらを扉の影から見ている日本人形を指で指しながら、叫ぶ。

「いや、俺に訊かれても……」

「真紘も少しは疑問に思おうよ!! 普通に考えておかしいだろ!」

「そうだな。黒樹の言いたい事はわかった。だが少し落ち着いてくれ。それに、人形には造り手の魂が宿るというくらいだからな、そんな人形を指さすのはどうかと思うが?」

 そんな真紘の言葉に、狼ははっとして日本人形の方に視線を動かす。

 視線を向けると、日本人形とばっちり目があった。

 別に狼はオカルト系が苦手というわけじゃないが、好きというわけでもない。ただ目の前で起こっている不可解な事態に混乱しているだけだ。

 きっと、この人形や扉にだって何らかの仕掛けがあるだけだよな。

 内心ではそう理解させるも、やはりこちらを見て微かに微笑んでいる日本人形を無視できない。これまで戦ってきた敵とは違った威圧感がある。

 隣にいる真紘は何事もないかのように、ケロッとした表情で狼を見ている。

 真紘って意外と図太い性格なのかも。

 狼は内心でため息を吐きながら、ちらりと人形の方を再び見る。やはり、人形は不気味な威圧を放ったままだ。

 半ば人形の放つ威圧感に押された形で狼はーー

「指さしてごめんなさい」

 と頭を下げて、謝った。だがしかし、人形は人形。これといって何か変化があるわけがない。そのため、狼は急に虚しくなった。

 僕、何やってるんだろう?

 そんな狼を見透かしたかのように、真剣な表情の真紘が一言。

「人形に謝ってどうする?」

 真紘の一言で狼は、何とも言えない羞恥感が腹の奥から込み上げてきた。

「真紘が変な事言うからだろ!!」

 狼がそう怒鳴ると、真紘は短い息を吐いた。

「……確かに俺は人形を指さすのはどうか? とは言ったが、謝れとは言っていない」

 狼の上げ足を取るような言い方に、狼は反論できず項垂れるしかなかった。

「それよりも、あの人形が進んでいる方に向かってみないか?」

「ええ! なんで?」

 突然の真紘の言葉に狼が驚嘆の声を上げた。

「どちらにせよ、俺たちは目的のBRVがどこにあるのか、分からないからな。なら、何か仕掛けがありそうな物について行こうと考えたんだ」

「もしも、何かの罠だったら?」

「罠か……。だがそれでも歩みを止めては先には進まない。左京が言うには、目的のBRVは見ればすぐに分かる代物らしい。何故か詳細は俺にも伏せられたが」

 真紘はいつもの調子でそう言うと、足を一歩前へと運ぶ。

 もはや、真紘はもうあの人形の元へと向かって行くことを決定してしまっている。真紘の性格上、一度決めたことを、覆すような真似はしないだろう。

 仕方なく狼も真紘につられるように、歩き出す。

 それにしても、見ればわかるBRVってどういうのなんだ?

 もしかして、物凄く大きいとか。あるいは、『もろこれはBRVです』っていうのを体現しているような武器とか……

 色々な想像をしながら、人形がいる扉に真紘が手を掛けると、こちらを向いていた、日本人形は螺子が回るような音を出しながら、器用に方向転換をして動き出した。

 木造の廊下に螺子で動く日本人形。

 誰がどう見てもこの光景は似合いすぎて、不気味だ。

「左京がいたら、卒倒しそうな光景だな」

 隣にいる真紘もそう思ったのか、静かな声で呟いた。

 そして、真紘は何か合点があったかのように「なるほど……」と言って頷いた。

「なにが、なるほどなの?」

「ああ、左京は最初からここを知っていただろう?

憶測だが、本来は左京がBRV管理のためこの保管庫に来る手筈だったんだろうな。だが、廃墟めいた佇まいの場所に自分では赴けず、訓練という名目で俺たちに行かせたんだろう」

「それっていいの?」

 左京は真紘に仕える身なのだから、自分が苦手だからといって、仕える主人に変な所に出向かせるというのはどうなのだろう? そう思い、訊いたのだが、真紘は特に気にした様子もない。

 本人が気にしていないのなら、いいか。

「やっぱ、なんでもない」

「そうか」

 そんな事を話している内に、日本人形はゆっくりながらも、少し離れた場所にまで行ってしまっている。狼と真紘は小走りするように人形との距離を詰めた。

 歩いている廊下は片側に幾つかの部屋があり、その一室の前で日本人形が動きと止めると、部屋の方へと方向を変えた。

「何かあるのかな?」

「解らない。だが行くしかないな」

 部屋の中へと吸い込まれるように、入って行く人形を追い掛け、狼たちも部屋に入ると、そこには異様な光景があった。

「なんだ、これ?」

 狼がそう声を上げ、真紘が顔を顰める。

 二人の目の前にあったのは、古い木目調の簡素な部屋に多種多様な人型の人形が部屋中の棚にびっしりと置かれていた。しかも、その人形たちは着物や色の褪せたドレスを見に纏っているせいか、不気味さ倍増。

 狼たちが部屋を見渡しながら、部屋の真ん中まで歩くと、引き戸式のドアが閉められ、周囲の人形がカタカタと震えだした。

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ。

「うるさーい!!」

 耳を塞ぎながら、狼が叫んでも、一向に人形から出る騒音は鳴り止まない。むしろ音が大きくなっている気さえする。

 真紘がイザナミを復元し、構えをとった瞬間。

 周囲で音を掻き鳴らしていた人形が狼たちに向かって被さる様に落ちてきた。

 その数は膨大で、あっという間に狼たちが埋め尽くされる。

 視界が不気味な人形たちで覆われて行く。

 やばい。このままじゃ……

 そう思い手さぐりで、部屋への入口を探ろうとするが、人形特有のツルツルとした胴体に阻まれて、身動きが取れない。

 どうする?

 どうすれば、ここから脱出できる?

 狼がそんなことを考えていると、ややくぐもった真紘の声が耳に入ってきた。

「黒樹下に出るぞ!!」

「え? 下って?」

 狼の質問に答えぬまま、真紘はイザナミを床へと突き立て床板をひっぺ剥がした。

 床板がひっぺ剥がされた事により、床の下から、別の部屋が現れ、そこに雪崩れこむように、狼と真紘、そして人形が落ちて行く。

 狼と真紘は上にある全ての人形が、落ちてくるより早く、着地し下層にあった部屋の扉を蹴破り、廊下へと脱出することに成功した。

「ふぅー、なんとか……」

「ああ、そうだな」

 狼と真紘が同時に安堵を漏らす。

「それにしても、よく床下に部屋があること分かったね」

「それは、床板の隙間から微かだが、空気が流れ漏れ出していたんだ。きっと、空気口という役割もあったのかもな」

「なるほど。でも、僕は全然わかんなかった」

「一応、俺が得意とする分野でもあるしな」

 苦笑を漏らす真紘に、狼が納得して頷く。

 すると、遠くの方からこちらに近づいてくる人影が見えた。

 今度は狼にも。

 狼もイザナギを復元して、真紘と共に構える。

「今度は等身大の人形かな?」

 そう狼が訊ねる。

 すると真紘が首を振り

「いや、あれは人形じゃない。人の気配だ」

「人の気配って、いったい誰がこんなホラーハウスに?」

 そんな狼の疑問は、驚愕という形で掻き消された。

 だんだん近づいてくる人物の姿がはっきりと浮かび上がった。

「え? なんで廃墟ここに!?」

「貴様! 何故ここに?」

 そんな二人の疑問は、向こうも一緒だったのか、目の前にいる相手も、狼たちと似たような表情をして、驚いていた。

 そして、狼たちを指差しながら

「なんで、お前等がこんなとこにいるんだよ?」

 怪訝そうに顔を歪めながら、そう訊いてきた。


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