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自分なりの花

 真紘は、もう何回目にもなる九卿会議に臨んでいた。会議が行われているのは、赤坂にある国賓の接遇なども行われる場所だ。そこでの主な議題は豊への懲戒についてだ。けれど、その話し合いは難航していた。

 然るべき処罰を示せば良いという問題ではないからだ。元々、豊の意見に賛同していた大城や御厨などは、豊に対する処罰に難色を示している。

「そもそも、宇摩を処罰するだけで治まる話か? もはや、様々なことが世間に露見しているのだぞ?」

「焦っているのですが? 宇摩の次は自分が処罰の対象になると」

 藤華が苦笑混じりに時臣を責め立てる。しかし、時臣はそんな藤華に失笑した。

「何か可笑しいことでも?」

「随分と楽観的な思考を持っていると思ってな。まさか、この状況で自分は無事で居られると思っているのか? もし、このまま宇摩を処罰した瞬間に、どのくらいの暴動が起きるだろうな?」

 時臣の言っていることは、危惧する事案の一つだった。それもかなりの確立で起こるだろう。今でさえ、豊の身の保証を訴える声が上がっている。

 数時間の会議は拮抗し、この日は会議を終えた。

「情けないな。八人の顔が揃って一つの良案も浮かばんとは」

 真紘が会議部屋を出ると、重蔵が重い溜息を吐いて、横へとやってきた。真紘はそんな重蔵に苦笑を返した。

「重蔵様の気持ちは、分かります。けれど……焦る必要はないと俺は思います」

「ほう。貴様にしては悠長な答えだな」

 真紘の言葉を聞いた重蔵が、意外そうに目を見開いて来た。そんな重蔵の姿に真紘が苦笑を零す。

「今さらですが、俺はこれまで決断を下すことに焦っていました。勿論、最善の道をいち早く決断するのが一番望ましいです。ですが、その理想を追うばかりに、自分の決断を悔いることもありました。それは俺の落ち度です。だからこそ俺は……」

「時間を掛けて、思案したいということか」

「はい、その通りです」

 真紘が今度はにっこりと微笑んで頷いた。すると、もう一度、重蔵が溜息を吐いて来た。

「時間を掛けられるのは、若い証拠だ。でもまぁ、そうだな。貴様の言う通りかもしれん。この問題は時間を掛けて行かねばならない事案だ」

「そういうことです。ですが……重蔵様、明蘭学園の次の理事長の件は宜しかったのですか?」

「それこそ、今更だ。まっ、紘永(こうえい)の奴は詰まらん奴だが、責任者としては適任だろう。それよりも、儂は宇摩の時期当主になった奴の方が驚きだ。これまで、宇摩から次期当主の話など、微塵も出ていなかっただろう」

「ええ。ですが当主としての資質はあると思います」

「何故、そう言いきれる? 確かに、儂も先の大会で力量は見た。だが、上に立つ者としての資質があるとまでは、言えまい?」

「どうでしょう? あの人は前当主と似ていますから」

「豊に似てるとなると、厄介だな」

「ええ、本当に」

 真紘は重蔵の言葉に、苦笑を浮かべながら庭先にある築山に視線を向けた。

 築山の木々には彩りはなく、ひっそりとしている。けれど、季節が進めば、木々には紅白の花が咲き誇るだろう。

 今の自分には何の花もついていないかもしれない。けれどだとしても、自分は自分なりの花を咲かせたい。

 それこそ、輝崎真紘という人間だからこそ、咲かせられる物を。

 真紘がそんな事を考えると、自分より前にいた重蔵が思い出したかのように口を開いて来た。

「そういえば、輝崎」

「何でしょう?」

「嫁候補はもう決めたのか?」

「はっ?」

 予期していなかった重蔵の言葉に、真紘が目を丸くさせる。

「いや、これまでの貴様を見ていると、嫁決めが難航しているようだからな。もし、居ないんだったら、儂の親戚にいる若いのでもと思ってな」

「あっ、いえ……せっかくですが、遠慮しておきます」

「何故だ? なかなかの器量を持ってるぞ? それこそ、黒樹の縁者ともなれば、家の者たちも難色は示さないはずだ」

「確かに、家の者は反対などしないでしょう。ですが……俺は自分の意志で大切な人を選びたいと思います」

 残念そうな表情を浮かべる重蔵に、真紘はしっかりと答える。それから、付け足すように真紘が言葉を続けた。

「恥ずかしながら、俺は戦う事や、自分の持つ役割のことばかり考えて、身の回りの事を他者に押し付け過ぎていたようです。それでは、当主というより、人間として未成熟すぎますよ。ですが、そんな俺の事を見てくれている人がいます。俺は、その人を大切にしたい。大切にできる人間になりたい。そう思うんです」

 真紘が重蔵の目を真っ直ぐに見て言い切ると、重蔵が肩を揺らして笑って来た。

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