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破壊しなければならない2

「みんなっ!」

 狼の視線の先には、自分たちよりも先に戦っていた根津や希凛、フィデリオや左京に誠、オースティンやライアンたち、操生やマイア、ヴァレンティーネ、万姫や雨生、アーサーにホルシアなどが立っていた。すぐ近くには負傷した様子の和巳や中国代表の武煌飛や涼子たちのす姿だけでなく、静かに座るように目を閉じている晴人の姿があった。

 はっとしながら、狼も真紘たちに続いて甲板に着地する。

 すると、狼と名莉に根津と希凛が近づいて来た。

「遅いじゃない。さっさと決着をつけるわよ? アンタもデンの副部長なんだからシャキッとしなさい」

「あはっ。狼君にシャキッとしろっていうのが無理でしょ? ねぇ? メイちゃん?」

「でも、狼がシャキッとしてても、それはそれで変な気がする」

「メイ、それ僕へのフォローになってない!」

 狼が希凛と名莉の言葉に、狼が反射的に突っ込んでいると……根津と希凛の間を割るように、万姫が顔を出して来た。

「ちょっと、どうでもいい話をしてんじゃないわよ。今からあたしの旦那の晴れ舞台なんだから」

 万姫が、腕を胸の前で腕を組み得意気な表情を浮かべさせて来た。

「いや、晴れ舞台って言い方は語弊があると思うんだけど……」

 狼が渋い表情で万姫にそう言い返すと、万姫が表情をそのままで肩を竦めて来た。

「啊呀――、今からあたしのサポートで、旦那がド派手な打ち上げ花火を上げるのよ? 目出度いじゃない?」

「打ち上げ花火って……」

 この状況で、ミサイルを打ち上げ花火に例えられるのは万姫だけな気がする。

 と内心で思った狼だが、不意に目が合ったテンションが上がっている様子のライアンを見て、考えを改めた。

 アストライヤー関係者って、可笑しい人が多すぎる。

 でも……おかげで肩の力が抜けた気がする。

「狼、ミサイルの迎撃に備えて、因子の熱を上げといて。あたしたちもその為に、急いで準備してるから」

「何か策がある感じだけど、良い考えが思いついたのか?」

 根津に言われるがまま、狼はイザナギを復元し因子を練り始める。

「策って程のものじゃないわ。ただミサイルの迎撃に間に合うように……」

『ミサイル発射まで二〇秒。一九、一八、一七……』

「時間がないわね。狼、真上に跳んでっ!! それからあたしたちの攻撃を上手く使って上へ跳ぶのよ!」

 カウントダウンを聞きながら、根津が青龍偃月刀を構えて来た。それを見るのと同時に狼が跳躍する。

 ゴゴゴゴゴオオオオ……という音が狼たちの耳を打つ。その音が小さくなることはなく、どんどん大きくなっていく。

 その所為で、根津が何かを叫んでいるが聞き取ることができない。

 狼がその事に思わず眉を寄せた瞬間に、根津が狼に向かって斬撃を放って来た。自分へと飛来する斬撃を見ながら、狼がさっき早口で言われた言葉を浮かべた。

 イザナギに注いでいた因子を足の裏の方へと回す。それから、足裏全体で下から跳んで来た斬撃を蹴りつける。足裏と斬撃の間に反発が生まれ、それを利用して狼は、さらに上へと跳躍する。

 視界の端には、自分と同じように跳躍する真紘と出流の姿が見えた。

 真紘や出流も、ミサイルを気にしながら狼よりも少し高い位置にいる。

 二人に遅れるわけにはいかない。二人の姿を見ながら、狼は気を引き締めさせる。

 今度は希凛が放った光矢が土台となり、狼をさらに上へと昇らせた。気圧が低くなっているせいか、頭がズキズキと痛み始める。

 そんな狼を余所にミサイルの方も真っ赤な炎と煙を巻き上げて打ち上げられた。空気を切る音は地響きのようだ。

 轟音が狼の耳を劈き、地味に耳にまでダメージを与えてくる。ミサイル発射を機に、再び狼の中での緊張が上がって行く。

 間近で見るミサイルは、もはや飛行物というより巨大な円筒の塔のように見える。

 緊張と気圧の関係で、気分まで悪くなってきた。

 しんどいな。

 自分でもつくづく、無茶な事をしていると思う。目標地点は地上から100キロ。そこは宇宙と地球の丁度、境目の位置。

 そんな場所に、生身で向かおうとしているのだから身体に異常が生じるのも無理はない。

 打ち上げられたミサイルは、あっという間に狼たちの高さにまで到達しようとしている。

 そして、今の狼がいる場所は地上から70キロの所にはいる。跳躍してから一分も立っていない。しかし狼の身体は悲鳴を上げていた。酸素が薄く、肌が凍り付きそうなほど寒い。

 けれど、この高さではまだ駄目だ。まだ安全圏とは言えない。

 狼が眉を顰め、奥歯を噛んだ瞬間に、よく知る因子の気配を感じた。

 この因子って……

『もっと、高く打ち上がりなさい!』

『私も少しばかり手伝わせてもらう』

 因子の気配を感じたすぐ後に、狼の耳元威勢の良い声音の万姫と、落ち着いた声音のアーサーの声が届く。

 ミサイルの弾頭は、狼の事を追い越した所だ。しかし、それとほぼ同時に熱を帯びた熱風を帯びた竜巻と衝撃波が狼へと向かって来た。

 これで、一気に!

 狼はさらに身体に巡らせる因子量を増やし、反発力を高める。

『狼、もう少しだけ因子の量を増やして。そうすればギリギリ、ミサイル破壊目標地点に到達できるから。それから目標地点に到達したら、その瞬間に迎撃開始。真紘と出流の方にも伝えてあるから』

「鳩子っ!」

 それと同時に、狼の元へと万姫が放った熱風と衝撃波が到達した。

 狼が放出した大量の因子と二人の攻撃が衝突し、強い反発力が発生する。それを利用して狼は先程よりも勢いよく上空へと跳んだ。

 跳びながら、イザナギへと一気に因子を降り注ぐ。

 狼が巨大なミサイルの弾頭よりも上に出る。時間にすればほんの一瞬。刹那的な時間だ。しかしその刹那の時間に、幾万人の命がかかっている。

 逃せない、逃せるはずのない時間だ。

 狼はその一瞬を不思議な感覚で捉えていた。一瞬のはずの時間がスローモーションに感じる。視線をミサイルから外せば、自分と同じように真紘と出流がミサイルの弾頭に向かって、一閃を、一矢を放とうとしている。

 出流の放った一矢が確実に二つの弾頭を貫通し、真紘の一閃もまた二つの弾頭を斬り裂く。

 そしてそれは、狼も同じだ。

 息をすることも忘れ、その一瞬をイザナギで斬り裂く。

 大神刀技 千光白夜

 破壊すべき二つのミサイルと共に、他のミサイル諸共を目が眩むほどの白い閃光で全てを包み込む。

 光が止んだ後、凄まじい爆発の光が上空に大きく広がった。

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