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「ふー。無事に退避できてよかったね」
「ホントよね。あんなにすぐに爆発が起きるなんて想定外よ」
トゥレイターの施設から少し離れた脇道で、狼たちは軽く乱れた息を整えるため、一休みをしていた。
あの後すぐに撤退しようとしていた狼たちが下へと移動を開始しようとしていた最中に、建物全体を大きく揺らす振動が起き、その振動により起爆のスイッチが予定より早まってしまったのだ。仕方なく、窓から飛び降りるように、撤退したのだが、その間にも大きな爆発が起き、飛んで来る瓦礫の破片やら、砂埃やら、熱風やらで撤退するのにも一苦労だ。
「他の人は大丈夫だったかな?」
狼が空を見上げながらそう呟く。
あんな爆発が起きることは、ほぼの生徒が知らないはずだ。ならさぞかし建物の爆発に驚いただろう。
あるいは混乱して逃げ遅れた生徒も出てくるのではないのか?
けれどそんな心配は杞憂に終わった。
「それは心配ない。さきほど希沙樹たちから、連絡が来ていた。負傷者もいるようだが、一先ず皆、無事だそうだ」
真紘が情報端末の画面を開きながら、狼にそう言葉をかけた。
真紘が見せてきた端末画面には、希沙樹からの妙に長い文章が送られてきている。
なんか、すごいな。
妙に長い希沙樹からの文章を見て、狼は素直にそう思った。文章からは、真紘のことが心配で心配で仕方ないという希沙樹の事が、一発で思い浮かぶ。
「そっか。ならよかったよ。でもみんなよく退避できたね」
「まぁな。生徒とはいえ、皆一軍の中でも優秀な者たちだ。そう簡単にやられるわけがない。それに・・・」
真紘は一度話すのをやめ、鳩子の方に目を向けている。
鳩子は自分の髪を指で遊びながら、鼻歌のような物を口ずさんでいる。
「大酉が皆に知らせたのだろう」
「えっ、鳩子が?・・・いつの間に?」
驚きながら鳩子を見ると、鳩子はニィッと笑みを作り
「鳩子ちゃんはやることが早いからね。当たり前でしょ。真紘から爆発が起こるって聞いた時点で、あそこのエリアにいた明蘭の生徒の端末にリンクして、情報を伝えていたのでーす」
顎に手まで当て、鳩子が決め顔を作っている。
そういうちゃっかりしている所が実に鳩子らしいと狼は思う。
「それにしても、よくあそこの施設が爆破されること分かったね」
狼が真紘へと視線を戻す。
すると真紘は「ああ」と答えてから、狼に向き直った。
「それは、黒樹たちも見たと思うんだが、変な化物がいただろ?あの化物の駆除と発生源を捜し出そうと、怪しい箇所を虱潰しに回っていたところに、何かを管理している管理室のような物があってな。そこが見事に、もぬけの殻になっていたんだ。怪しいと思って、画面を見て見たら、起爆タイマーが作動していたということだ。皆にも伝えようと思ったが、なにせ、そのときは戦闘がいろんな場所で起きていて、ゲッシュ因子による、電波障害も起きていた。きっと大酉や棗のような、情報操作に特化した者がいれば、もっと早く伝えられたんだが、俺はそのとき一人で行動していたからな。・・・だから、運よく黒樹たちと会えてよかった」
「そうだったのか・・・」
「へへん。鳩子ちゃんの偉大さを身に沁みて感じたでしょ?」
「うん。確かに・・・」
狼が少し冗談っぽく言った鳩子に頷く。
「・・・こう、まともに肯定されちゃうと照れますな~」
鳩子が手を頭の後ろに回しながら、照れ笑いを浮かべている。鳩子もこんな風に照れるのかと思い、狼は急におかしくなった。
へらりと笑う狼を見て、鳩子が照れ隠しのように顔を膨らませている。
「そんな照れなくてもいいのに・・・」
「そうだな。照れることあるまい」
狼と真紘がそう言いながら、少し鳩子をからかうと、鳩子はヘッドホン型のBRVを取り出し、聴こえないフリをし始めた。
そんな鳩子を見て、狼や真紘が笑っていると、呟くような声が聞こえた。
「あたし、これからどうしよう?」
そう呟いたのは、名莉の肩にもたれ掛る様に脱力している季凛だ。
「それは・・・」
この後に続く言葉を、狼はしばし考えた。
季凛の言葉はもっともだ。
あのときは、勢いで言ってしまったが、季凛は本当に身寄りをなくしてしまった。そうなると、これからどうするべきかを考えなくてはいけない。
狼てきには、一緒に学校に通えればいい。と思っていたが、その学校に通うための資金を誰が出すのか?という事も考えなくてはいけない。
そのことが分かるからこそ、季凛は力なく呟いたのだろう。
「では、俺が理事長に掛け合ってみよう」
真紘が力強い口調で、そう言った。
「え?」
季凛が驚いたように声を漏らす。
すると真紘は、優しく微笑んでから口を開いた。
「貴様を放っておくわけにもいかない。貴様を生かしたのは俺たちだ。なら責任を取るのは当然だ。違うか?それに、あの理事長のことだ。貴様の目論見は、気づいていただろう。それでも明蘭に入れたんだ。なら、これからする掛け合いは無意味ではないはずだ」
「でも・・・」
季凛が口ごもりながら、俯いていると、肩を貸している名莉が安心させるように
「大丈夫」
と声をかけた。
それを見て狼が小さく笑い声を漏らした。
「なぜ笑っている?」
笑い出した狼を見て、真紘が首を傾げる。
「だって、なんか季凛が子供みたいだなぁって、思ってさ」
狼がそう言うと、俯いていた季凛が顔を上げてから、口をわなわなと動かした。
「なっ、なっ、なー。あたしが子供?意味わかんないこと言わないでよ。しかもいつからあたしを季凛って呼ぶようになったわけ?」
「いつからだろ?覚えてないけど・・・でも、まぁいいじゃないか。もう友達なんだし」
狼がそう言うと、季凛は息が詰まったように沈黙している。
「そんな意外な言葉だった?」
「別に!!」
季凛は素っ気ない態度で横を向いてしまった。
本当に素直じゃないな。
狼が苦笑を浮かべると、季凛は一度狼の方を向いたが、すぐにそっぽを向いた。
「今の所はそこらへんにして・・・そろそろ学園に戻ろう」
少し肩を上下させながら、そう言った。
「あー、お腹ペコペコ~」
根津がお腹を押さえなて唸る。
「ネズミちゃん、よく食べるもんね」
「うっさい」
ひょっこと顔を前に出しながら、鳩子が根津を茶化す。根津は少しむっとしながら鳩子をジト目で睨んでいるが、鳩子はニヤニヤと笑っている。
そんな二人の横を狼はすり抜けて
「ほら、早くしないと置いてくよ?」
そう言いながら笑う。
そして、意地として狼たちの方に顔を向けない季凛と共に、学園へと帰路に着いた。




