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二つの斬撃

 そんな狼を見て、晴人が満足気に微笑む。

「先に言っておくけど、手加減はしないよ」

 刀を横に一振りしてきた。斬撃を放ってきたわけではない。晴人の周りに再び鬼武者が出現した。しかも先ほどよりも数が多い。

「余程、息子との戦いに茶々を入れられたくないらしい」

 アーサーが何故か微笑ましい物でも見たかのような微笑を浮かべてきた。

 これから、戦おうとしている親子に対しての笑みじゃない。と狼はアーサーの表情を横目に静かに突っ込みを入れたくなった。

 けれど、そんな悠長な事をしている暇ない。

 もうすでに、晴人が狼に向かって動き出しているからだ。狼は静かに深呼吸をして気持ちを落ち付けさせる。

 身体に満ちた因子の熱を感じる。

 勢いだけで倒せない相手であることは、とうに分かっている。だからこそ、狼は熱を上げる因子を練り上げる事に意識を集中させた。

 ただ、視線は向かってくる晴人から離しはしない。二人は、瞬く間に衝突した。

 交叉した刃越しに、晴人との視線があった。お互いが刃を離し、斬り返す。晴人の刃を受け止めた狼。晴人の刃を受け止めた晴人。

 その動きを繰り返す。空中で斬り合う二つの刃が衝突しては弾き合うことを繰り返している。

 鬼武者を相手にしているアーサーや名莉からすると、晴人と狼の鍔迫り合いは拮抗してるように見えているかもしれない。

 けれど、実際は狼が劣勢に立たされていた。

 晴人の刃を受ける度に、身体に電流でも走ったかのようにビリビリとした痛みが走る。大上段に刀を構えた晴人が勢いよく振り下ろしてきた。狼が痺れの残る身体でそれを受け止める。

 けれど、その瞬間に身体に蓄積されたダメージが限界を超えた。先ほど受けた首元の傷口が開いた。狼の視界に飛散する血飛沫が映る。

 痛みが狼の表情を歪ませた。

 それでも、狼は拳柄を握る手に力を込め、下方向から受け止めた晴人の刃を上へと押し返し、後ろへと距離を取る。

 しかしたちまち晴人が距離を詰めてきて、新たな攻撃を加えてきた。刃を揮う速さ、軌道、刃に込められた重み、その全てが狼たちの行く手を塞いでいる。

「本当に、手加減なしだな……」

 狼のやや嫌味混じりの小言に、晴人が苦笑を零してきた。

「きっと、手加減なんてしたらもっと怒るだろ?」

 晴人の言葉に、狼は肩を軽く上下させた。すると開いた傷口がズキッと痛んだ。

「それにしても、変わったよなぁ……」

 呟き声を漏らしながら、晴人が跳躍して狼へと肉薄してきた。狼もそんな晴人の動きに合わせて、跳躍し敵へと近づく。

 丁度、部屋の中央。その空中で狼と晴人が衝突した。

 衝突した瞬間に、ぶつかった余波で鏡がピシピシッという音を上げて、蜘蛛の巣状に亀裂が入る。

 右側では、アーサーが鬼武者へと衝撃波を放っている。

 左側では、名莉が二丁銃による銃撃で鬼武者の首を撃ち抜き、胴体から頭を弾き飛ばしている。けれど、二人の猛攻を受けても鬼武者の数は留まることを知らずだ。

 狼の視線に気づいた晴人が再び口を開いてきた。

「僕たちが初代を務めてた頃からすると、日本のアストライヤーもグローバルになったと思うよ。やっぱり九卿家の息が強い国内だと、海外のアストライヤーが活動し辛い……というか殆ど活動できなかったからね。やっぱり、豊の影響もあるのかな?」

 そんな世間話をしながら、晴人の刃が狼の頭の上を掠め去って来た。狼は内心でヒヤヒヤとしながら、頭上を過ぎた刀を見つめる。

「不意打ちを狙ったんだけどなぁ……。やっぱ避けられるか」

 と言葉を漏らしながら、苦笑を浮かべる晴人。

 狼は内心で、冗談じゃない。と内心で言葉を吐いた。

 先ほどの晴人の一閃を狼は見切っていたわけではない。次の攻撃に移ろうと身を低くした結果、晴人の攻撃を避けたに過ぎなかった。

 けれど、晴人はそれを狼が見切ったと思ったらしい。

 しかし、これで連続して不意を突かれる可能性は低くなったはずだ。もしまた自分の不意を突くなら、時間を開ける可能性が高い。

 それまでに決着をつけないと……。

 狼が因子を上げる。その瞬間、晴人の放った斬撃が飛んできた。狼はイザナギを正面で構え受け止める。けれど全ての勢いを殺すことはできなかった。

 そのため、狼は数メートル後ろにある壁へと吹き飛ばされる。

 背中が壁に激突して、身体中に鈍痛が走る。打撲した背中が火を吹いてるんじゃないか? と思ってしまうほど、熱い。

 けれど、狼はその痛みを振り払うように奥歯を噛んだ。背中と衝突した壁を足裏で蹴る。晴人へと向かう。

 晴人へと斬撃を放った。

 その瞬間、耳を聾するような爆音と共に晴人の姿が消えた。

 どこかへ移動した?

 狼が目を見開いく。狼の放った斬撃は虚しく空を切り晴人の後ろへと構えていた鬼武者を道連れに壁を破壊した。

 狼が辺りを見回す。

 そして発見した。自分の斬撃から逃れた晴人の姿が。

「えっ、どういうことだよ……?」

 思わず、狼がそんな声を漏らす。

 視界に捉えた晴人は、左側頭部から血を流し、手に胸元を当てて気持ちを落ち着かせていた。

 そして、狼から見て右。晴人から見て左側には突撃槍の穂先を晴人の向けているアーサーの姿があった。

「えっ、消えたのって、もしかして……僕の攻撃を避けたわけじゃなく……」

「私の攻撃を横から受けただけだ」

「あはは……ちょっと、カッコ悪かったかな?」

「ちょっとじゃないし、頭から血を流して笑ってる場合じゃないだろっ!」

 先程まで張りつめていた自分は何だったのか?

「いや……信じられない。私は幻想でも見ているのか?」

 やはり間抜けな自分の父親は間抜けなのかと、肩を落としかけた狼を尻目に、アーサーが愕然とした表情を浮かべて来た。

「えっ? どういうことですか?」

 狼がアーサーへと問い掛けると、愕然の表情を浮かべたままのアーサーが顔を向けて来た。

 なんか、微妙に……訊ねたの失敗だったかな?

 なにせ、アーサーの表情が「君、分からなかったの?」と暗に伝えて来たからだ。そんなアーサーがやれやれと言わんばかりに首を振り、

「君には申し訳ないが、私は殺すつもりで攻撃を放った。それを、あんな小ダメージで押さえるなんて……。信じられない」

 生物として大事な頭部から、結構な量を流しているのに、小ダメージと称して良いのだろうか?

 しかし狼の疑問が口から漏れる前に、晴人が側面から流れる血を腕で拭った。その瞬間に因子が弾けた。弾けたと言ってもそれは些細な光だ。しかし、狼の瞳はその光を視認していた。

「アーサーさんっ、危ないっ!」

 叫びながら、狼はアーサーを庇うための斬撃を放っていた。

 乾いた破裂音がアーサーの眼前から聞こえてきた。

「すまない。助かった」

 礼を言ってきたアーサーの表情に、士気が戻る。その瞬間に晴人が物凄いスピードでアーサーへと突貫してきた。

 アーサーが刀を構える晴人へと槍を構える。

 それに合わせて狼もイザナギを構えた。

 騎士聖槍 聖なる騎士の(ランスロット)

 大神刀技 千光白夜

 強烈な衝撃波による波状攻撃と高熱の斬撃が同時に放たれる。強烈な光と爆音が部屋中を掻き乱し、鏡の大きく割れる音が響き、虚しく消えていく。

 二つが織りなす攻撃の余波を受けただけでも、その身に降り注ぐダメージの大きさは計り知れない。

 しかし、その二つの攻撃が晴人を圧死させる事も、斬殺することもなかった。

 晴人の前には主人を守るように突き立てられた巨大な刃が突き立てられている。

 これも、大城が得意とする技の一つ。鎧武者だ。

 けれど、その鎧武者の姿は狼とアーサーの攻撃によって崩壊していく。

 そこに安堵を感じつつ、先ほどの攻撃では無傷の晴人を見据えた。晴人の因子が膨張するかのように、一気に膨れ上がる。

「狼、ごめん。次で決めさせてもらう」

 淡々とした晴人の言葉に狼は思わず生唾を呑む。けれどその言葉に臆してなどいられない。

「その言葉……そのままそっくり叩き返す」

 狼も晴人に負けないくらいの瞬発力で、因子の熱を跳ねあげる。一瞬だけ晴人の目が見開いたような気がした。

 鬼神刀技 辻斬り

 大神刀技 天下一閃

 けれど、それはすぐに二人が放った斬撃による光に飲み込まれる。

 しかし見えずとも、自分へと向かってくる熱の感触はわかる。速く後退しなければ。理性ではそう思うのに、もはやそれをする時間がない。

 脳裏に、熱に焼かれ倒れる自分を想像する。恐怖が走った。けれど、その瞬間、何かが弾ける数回聞こえた。

 名莉による銃撃だ。何とか晴人の放った攻撃が狼へと直撃することを防ごうとしている。

 しかし、その攻撃は晴人の膨大な因子によって虚しく散り、飲み込まれていく。もうすでに狼の身体はイザナギを身体の正面で構え、防御の体勢を取っている。

 全身に因子をこれでもかと言わんばかりに、注ぐ。

 その瞬間。微かにピーーーーという無機質な、この場にそぐわない音が狼の耳に反響した。

 何だ?

 狼が疑問を感じた瞬間、全身に巡らせていた因子が抜け落ちるような感覚に襲われる。

 また、だ……。

 こんな時に……。

 狼は思わず奥歯を噛んだ。

 さっきの状態でも、耐えきれるか耐えきれないかの瀬戸際だった。けれど今の状態では、いくら構えていたとしても、晴人の斬撃を耐えきることは不可能だ。

 ここまで来てっ!

 狼の胸中に怒りと悔しさが溢れ出る。おかげで死に対する恐怖はない。目の前には晴人の鋭い牙が自分へと向かって来ている。

「まだだっ!」

 叫び声が聞こえた瞬間、石のように固まっていた身体が横へと吹き飛ばされる。からだの皮膚が裂傷する痛みが狼の意識を鋭く刺してきた。

 まともな受け身も取れないまま、割れた鏡の壁に激突した。

 ガラスの破片が身体に突き刺さり、悲鳴を上げた。けれど狼と晴人が放った斬撃による爆音でその声は掻き消される。

 狼は、痛みに身体をよろけさせながら立ちあがる。ボロボロに裂けた服からは血が滲み出ている。このまま戦うのは不可能だ。

 しかし、それで悩む必要はなかった。晴人が放った辻斬りは壁を突き破り、海面を真っ赤に染め上げる爆発を起こし、霧散していた。

 そして……

 狼が放った天下一閃は、正面にいた晴人の身体に大きな斬線を描いていた。

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