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思惑2

 風の渦が部屋中を掻きまわしていた。

 そして、その風の塊を大剣で受け止める和巳の姿がある。和巳の因子の熱が上がり、紫炎が辺りに勢いよく燃え広がった。

 真紘の引き起こした風がその炎を激しく揺らす。炎がそれに抗うように火柱を天井高くまで燃えあがった。

 炎の熱で、真紘の身体から一気に汗が流れ落ちる。

 そんな真紘の隣に、フィデリオが立ってきた。

「マヒロ、このままだと破られるよ?」

「ああ。だが……それで終わりというわけではない。そうだろ? ハーゲン」

 真紘がイザナミを構えながらフィデリオにそう答える。

 するとそれとほぼ同時に、真紘の零が和巳によって打ち破られた。

 その瞬間を狙って、真紘とフィデリオが和巳へと疾駆する。

「ガキ共は元気だね〜」

 和巳が自分に迫り来る真紘たちの姿を見て、口笛を吹く。

 そして、向かって来た真紘たちへと大剣を振るう。力任せに見せて、その剣戟は巧妙かつ繊細で、油断できない。大剣が真紘の顔の表面を撫でてきた。眼前を冷たい刀身が通り過ぎて行く。フィデリオが和巳の腕を切り落とさんと剣を走らせる。けれどその剣が振り下ろされるよりも前に、和巳の拳がフィデリオの顔面を強打し、殴り飛ばす。

 真紘がフィデリオの方へと視線を向けていた和巳へと、突きを繰り出す。けれどその突きを大剣で受け止められた。

 やはり、相手に全くの隙がない。

「おまえさ、親父から先の先の先を読め、って言われなかったか? 黒樹の剣技を習得するならこれ、常識中の常識ね」

 真紘の刺突を受け止めた和巳が説教染みたことを垂れてきた。

「貴様に指南される筋合いはない」

「可愛げねー返事だな。せっかく教えてやったってーのに。まっ、それをしっかり捉えられなかったら、おまえに勝ち目はねぇーな。残念ながら」

 和巳の剣身から勢いよく炎が吹き出し、真紘のことを後ろへと押し返してくる。

 真紘はその勢いに乗る形で、一度和巳との間合いを取る。

 自分たちの背後では、左京と誠が宇摩の懐刀との戦いを継続している。左京の重力操作によって、戦況が左京たちに傾いていると思ったが、そうではない。若干ではあるが、左京と誠の方が疲労の色が濃い気がする。

 宙に浮いていたはずの二人は、今はすでに左京の干渉を受けていない。

 干渉力の強い左京の技が破られたと言う事だろうか?

 しかしそんな真紘の思考は、目の前まで迫って来た和巳の大剣によって、引き裂かれる。

 真紘が身体を横にし、間一髪の所で振り下ろされた剣を避けた。

 避けるのと同時に、和巳へとイザナミを振るう。今の和巳は、大剣を振り下ろしたばかり。その直後の姿勢だ。横に跳んで逃げる事もできない。

 真紘の一閃が、和巳の横腹へと滑るように入って行く。

 血飛沫が飛散した。

 飛散した血飛沫が真紘と和巳の顔を汚す。

 しかし、イザナミで斬ったのは和巳の横腹ではない。和巳の左手だ。和巳の左手が躊躇うことなくイザナギの刃を止めて来たのだ。

 いざ波に流れていた真紘の因子が和巳の左手を斬り、熱で表皮を爛れさせている。

 しかし、敵の手を切り離せなければ意味はない。

 思わず、真紘の口から舌打ちが溢れる。

「まだだっ!」

 叫び声が真上から聞こえた。

 真紘のイザナミを受け止めた和巳に影がかかる。

 剣を胸の位置に両手で掴みを持ったフィデリオが、真上から和巳に向かって突貫した。フィデリオの因子は、最高潮に引き上げられている。和巳が因子を放出する。フィデリオの因子と和巳の因子がぶつかり合い、その熱に真紘の因子が誘爆を起こす。

 辺りに幾つもの爆発が起きる。けれどその爆発すらフィデリオが剣先で斬り裂く。

 和巳を脳天から斬り裂くために。

 フィデリオが引いていた腕を伸ばす。剣先が上を見上げていた和巳の額に触れる所まで近づく。

 しかし、その瞬間に重い衝撃音が辺りに散った。粉砕された床の破片が真紘の顔を掠めさり、空中を漂う水分が蒸発した。湯気のような白い蒸気が辺りに拡散する。

 けれどその蒸気はすぐに、霧散された。

 真紘が鎌鼬を放ったためだ。

 フィデリオの剣先から逃れた和巳を、今度こそ切り刻むために。

「おいおい。そんなに焦るなよ」

 和巳が言葉を唾棄しながら、真紘の放った鎌鼬を甲高い金属音と共に次から次へと往なして行く。

 和巳に体勢を整えさせる隙など与えなかったはずだ。

 それにも関わらず、和巳は悠然とそこにたち、円転自在に己の身体と大剣を操り、真紘とフィデリオを翻弄している。

 まだまだここには計り知れない強さがある。

 己がまだ手にしていない強さがここにある。

 しかし、それは自分たちが越えなければならい壁だ。いや、絶対に通り越さねばならない壁だ。

 和巳を挟んで真正面にいるフィデリオの息が微かに乱れている。

 けれど、その口許には笑みが浮かべられていた。

 それにつられた訳ではないだろう。

 しかし、真紘の口許にも無意識のうちに笑みが浮かんでいた。

 ああ、そうか。

 真紘は、この時。自分たちの目の前にいる和巳という男の強さの根源を知った。

 この男の強さの根源は、戦という物を楽しんでいる。

 どんなに自分の命を狙われようとも、それを踏み越え、斬り裂く意志をこの男は持っている。だからこそ、この男の強さは揺るがない。

 諧謔的な言葉は、この男の本性ではない。全ては腹の内に巣食っている獣を隠すための物だ。

 そうでなければ、高速で己へと突貫して来たフィデリオの剣先から逃れられるものか。自分の放った攻撃を受け止められるものか。

 この男は、腹の内で全ての動きを見据え、動いている。

 そして、そんな男が抱える意志は何なのか?

「その腹の内……暴かせてもらうぞ」

 真紘が低く言葉を吐き捨てた。

 イザナミの剣先を紅く紅く染め上げ、放つ。

 大神刀技 曼珠沙華

 イザナミから放たれた斬撃が、赤く細い花弁のような光を舞い散らしながら、和巳へと飛翔する。その様は思わず見惚れてしまいそうな美しさだ。

 けれど、その美しさに惑わされれば、その瞬間に紅い熱が肉を溶かし、鋭い熱の刃が骨を粉砕する。

 後には何も残らない。

 そう待っているのは、無の世界。

 そして、真紘が放った曼珠沙華と対向するように、フィデリオからの一閃が放たれた。

 聖剣四技 アルゴスの刺突

 一つの斬撃が無数の針状に空中で分散し、左右上下に広がり、和巳に逃げ場などない。全ての斬撃から分散した刺突は、和巳を貫くためにある。

 この攻撃に死角など存在しない。

 真紘の放った曼珠沙華とフィデリオのアルゴスの刺突が和巳を挟撃せんと迫る。

「これぞ、史上最悪の親父狩りだな。これで生きて帰れたら、お前等の事を警察に突き出してやらねぇーとな。日本の警察ってのは、執念深くて、おっかねぇーぞ?」

 二つの攻撃に挟み撃ちにされた和巳が肩を揺らしながら、せせら笑いを浮かべてきた。

 どんどん和巳の因子が膨れ上がる。

 やはり、受け止める気か?

 真紘とフィデリオが一瞬だけ息を飲む。二つの技が和巳に接近する。視界が一瞬漂白される。轟音が耳朶を激しく撃つ。

 衝撃と熱の余波が、これでもかと真紘の身体を激しく揺らした。

「いやぁ〜〜、俺の悪運、最強説」

 轟音が鳴り止んだ真紘たちの耳に聞こえて来たのは、いつもの和巳の軽薄な言葉だ。

 しかしその言葉は、どこか呆れているような、面を喰らっているかのような声音だ。しかも和巳は真紘たちではなく、横を向いている。

 真紘たちも反射的にそちらを向いていた。

 視線の先には、壁に巨大な穴が空いており、一人の女性が特殊な形をした剣を手に握っている。

「間が……悪かったようだな。すまない」

 毅然とした態度を崩さない彼女が困惑の表情を浮かべていた。

 そう、先程の真紘とフィデリオの技が和巳と接触することはなかった。

 その直前に、彼女が放った技に寄って相殺されてしまったからだ。その証拠にキラキラと粉状になった銀が宙で待っている。

 その粉状になった銀は、まさに真紘たちの前に立っているフランス代表候補だったホルシアによるものだ。


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