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「何故、君にそっくりの人物がいるのかな? もしかして、君は双子だったのか? 少し向こうの彼の方が老けている様にも見えるけど……」

 呆然とする狼にアーサーがそんな問いかけをしてきた。狼はすぐさま首を振った。

「いえ、あの人は、僕の……父親だった人です」

 狼が言葉を少し詰まらせながら、アーサーに答える。するとアーサーが狼から視線を外し、正面に立つ晴人の方へと向けた。

「うん、そっくりだ。DNA判定も必要ないほどに。それにしても、何故君の父親は、こちらに敵対てきなのかな? それと過去形で答えるのも奇妙だ」

「あの人は、僕が小さい頃に死んでるんです。どうして、その人がここに立っているのかは、不思議ですけど……」

「なるほど。だが何はともあれ……戦わなくてはいけない相手ということは分かったよ」

 狼にそう頷いたアーサーが一歩前に出た。

 攻撃態勢に入ったのかもしれない。

 そうだ。僕も驚いてばかりはいられない。驚く前にまずやる事がある。

 狼がイザナギに因子を込める。

 すると、隣に居る名莉も戸惑いながら、横に広がった。

 きっと、先ほどの様にアーサーからの強烈な攻撃が放たれるに違いない。

 狼と名莉は、そう思い息を呑んだ。

 けれど……

「初めまして。私の名はアーサー・ガウェイン。イギリスの代表にして王位継承2位に当たる男だ。戦う前に改めて、貴方の名前をお聞かせ頂こう」

 といきなり、自己紹介を始めた。

 得体の知れない人物相手に、律儀に自己紹介をするアーサーに狼と名莉は肩透かしを受ける。

「アーサーさん、こんな自己紹介をしたって意味なんかないですよ」

「あっ、初めまして。大城晴人です。えーっと、日本の初代アストライヤーでした」

 ぺこりと頭を下げて、自己紹介を返してきた晴人に対して、狼と名莉は唖然とした。

 幽鬼のような存在だと思っていたからこそ、会話など成立するはずがないと思っていたからだ。

 嘘だろ?

 狼は、本当に生きている人間かのように返事をした晴人に対して驚きが隠せない。

 これでは、まるで自分たちと同じ生きている人間だ。

 しかし、大城晴人は死んでいる。それは疑いようもない事実だ。だからこそ、豊はこんな暴動を起こしている。それに今、自分たちの眼の前に現れた大城晴人は、今の狼の年齢にしては若すぎる。

「では、挨拶も交したことだ。日本の初代アストライヤーの実力……見せてもらおう」

 戸惑う狼を余所に、アーサーが口許に笑みを浮かべ晴人へと肉薄し、高速の突きを繰り出す。

 一分の隙もない見事な突き。

 けれど、晴人はその突きを何事もないかのように、右手で握っていた刀で受け止める。槍と刀が衝突した甲高い鳴き声だけが、部屋に響く……だけではなかった。

 衝突した瞬間、勢いよく接近したアーサーが後ろへと吹き飛ばされる。吹き飛ばされたアーサーが背中から壁に激突し、倒れ込む。

「なっ!」

 予想外な出来事に、狼と名莉が目を丸くする。

「強い力で押すと、その分跳ね返りも強くなるんだ」

「……つまり、私は私の攻撃によって吹き飛ばされたわけか」

 そう言ったのは、口許の血を拭い立ち上がったアーサーだ。まさか、先制攻撃を敢行したアーサーが、こうもあっさりと吹き飛ばされるとは思いもしなかった。

 これが大城晴人の実力なのだろうか?

 狼は生唾を飲み込んだ。

 名莉に目配せをし、そして狼は晴人へと肉薄した。

「はぁあああああ!」

 声を張り上げ、晴人へと肉薄した狼が脇構えからの横薙ぎの一閃を晴人へと揮う。晴人が少し眉を顰めながら、狼の刃を受け止めた。

 けれど、アーサーのように吹き飛びはしない。このイザナギに因子を流してはいないからだ。

「イザナギか……。大城家専用の特化型BRVなんだけど。それをまさか自分の息子が持つとは思わなかったなぁ」

 晴人が狼と視線を合わせる。

 その表情が少し残念そうで、狼は何とも言えない気持ちになる。息子という言葉に動揺してしまう。

「狼、駄目だよ。こんな事くらいで動揺したら」

 晴人がそう言った瞬間に、狼も先ほどのアーサーと同じ様に後ろへと吹き飛ばされた。

 これもまた一瞬の出来事だった。因子の気配を感じたと思ったら、狼は吹き飛ばされ床に倒れ込んでいる。

 けれど、まだ吹き飛ばされただけだ。ダメージ事態はそんなに大きいものではない。

 狼がすぐさま立ち上がる。

「まさか、あの後ろにいるのも君の親族とか言わないだろ?」

「えっ?」

 狼の近くにやってきた、アーサーの言葉に首を傾げる。

 けれどアーサーが指差した先を見て、狼は目が点にした。晴人の後ろに無数の鬼武者が出現していたのだ。

「さすがに、あれが親族なわけないだろっ!」

「ああ、だよね。…………安心して欲しい。軽い冗談だよ。はは」

 はは、じゃないだろ。

 むしろ、『だよね』の後に少しの間があった。もしかして、実は半信半疑だったんじゃ……。

「では、私が周り奴等を駆除しよう。君は存分に父親と対決した方が良い」

 さっきの言葉をやや誤魔化すように、話題を変えたアーサーが自然な仕草で狼に片目を瞑り、鬼武者の方へと疾走する。

「どうでもいいけど……アーサーさん、誤魔化すの下手だな」

 アーサーに続いて、晴人へと肉薄する。

 何の策もなしに、真っ向から剣戟戦に持っていても無意味だ。狼がイザナギに因子を込め、晴人へと斬撃を放つ。

 大神刀技 大黒天

 イザナギの穂先に凝縮された因子の球体が晴人へと放つ。

「これなら、どうだ?」

 もし、先ほどのように自分の因子で押し返そうものなら、その瞬間に強烈な衝撃と熱と爆風に襲われることになる。

 けれど、晴人は迷いなく狼の大黒天を一刀両断してきた。

 二つに切られた大黒天が晴人の左右で爆発を起こす。狼の目には信じられない光景だ。けれど、晴人は何事もなかったかのように、狼を見る。

「狼っ!」

 一瞬だけ呆然としていた狼に、名莉の甲高い声が上がった。

 狼の目の前には、いつの間にか晴人が放っていた斬撃が向かって来ていた。名莉がその斬撃を霧散させようと、銃弾を放つ。

 けれど、名莉の銃弾が晴人の斬撃に食い殺される。まるで意味がない。

 駄目だ。避けられない。

 反射的にそう悟った狼が、イザナギを構えて防御の姿勢を取る。

 次の瞬間に、全身が切り刻まれたような痛みが走る。全身が焼かれるような痛みが走る。けれどダメージは最小限に押さえられた。

 しかし、斬撃の衝撃で後ろへと押し返されてしまっている。

 まるで、大人と子供の押し合い相撲だ

 どんなに狼が押そうと足掻いても、向こうにはまるで効いていない。

「ッ……!!」

 悔しさで狼は思わず奥歯を噛んだ。

「いい加減にしろよなっ!」

 叫びながら、狼は因子の身体に込める因子の熱を一気に上昇させた。そのまま思いきり床を蹴る。勢いよく跳躍した。

 眼前に晴人の顔がある。

 狼は下段に構えていたイザナギを振り払う。晴人がそれを再び止めようと刀を構える。

「そう来ると思った!」

 叫び、振り上げようとしたイザナギを引っ込める。

「えっ?」

 晴人から自分もよく上げるような間抜けな声が聞こえた。そしてその瞬間、狼の足蹴りが晴人の横腹を思いきり蹴り飛ばしていた。

 狼に横蹴りを入れられた晴人が、アーサーと対峙していた鬼武者の軍勢に突っ込む。

「僕の顔で、余裕面浮かべたって……似合うわけないだろっ!」

 胸の内に溜まった苛つきを狼が言葉と共に吐き捨てる。

「別に余裕面してたわけじゃないんだけどなぁ……自分でもらしくないと思うし」

 横腹を右手で擦りながら立ち上がった晴人が、へらりと笑って来た。

 その顔もやはり自分と似ていて、狼としてはなんとも言えない。

「まさか、君の父親が人間ロケットになって飛んでくるとは予想もしてなかったよ……まぁ、私としては一向に構わないけどね」

 やれやれ顔のアーサーにそう言われ、さらになんとも言えない気持ちになる。

「駄目だ。さっさと倒して先に進まないと……戦い辛くなる」

 狼がそう言って、イザナギを正眼に構え直す。

 すると、アーサーの言葉を聞いて恥ずかしそうにしていた晴人の表情が、一変して真剣なものになった。

「させないよ。こんなに早く息子に越えられたりしたら、父親としての威厳がまるでないからね」

 晴人の口許には微笑が浮かんでいた。

 けれどそんな彼から放たれる因子は、大城時臣に感じた因子の威圧を遥かに凌駕している。

 ここからが、大城晴人の本気なんだと狼は思った。


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