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二人の戦闘狂

 熱と熱がぶつかり合っていた。互いに相手を焼き尽くすために。

「もう、おじさん、最近ハードなんじゃない?」

「くはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 軽い口調で話すフォースと、高笑いを止めない綾芽。

 二人のゲッシュ因子の熱で、部屋は灼熱と化していた。

 フォースから繰り出される、不死鳥のような姿をした炎が綾芽に襲いかかり、服を髪を肌を焦す。だが綾芽の足は止まらない。

 自分に纏わりつく炎をも、自身の鎧にしているかのように、フォースへと拳を突き出す。

「うおっ、参ったな~。公家の姫が、これじゃあ、ファイアーウーマンじゃないの。ちょっと、その姿じゃ、流石のおじさんもときめかないな~。いや、ホントに」

 ベラベラとそんなことを話しながら、大剣を横薙ぎに払い綾芽の胴を真っ二つにする軌道を描く。綾芽はその大剣を横目でちら見してから、身を屈め、腕で受け止める。その反動で、綾芽に纏わりついていた炎が吹き飛ばされた。

「嗚呼、この身体に伝うこの振動、熱・・・嗚呼、嗚呼、嗚呼。下腹が疼く。肉体の快楽はまさに、戦場にのみ存在するのだ」

 陶酔しきったような、視点の合っていない綾芽は誰に言うでもなく、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にする。

 そしてそんな綾芽をフォースが鼻で笑う。

「過激な思想だね~。さすが九条様様。でも快楽と言えばやっぱベッドインでしょーが」

 再び刃と綾芽の蹴りが、ぶつかり合い爆発が起きた。爆風が部屋の内装を荒削り、もう外との境目がない。

 外から吹く夜風が、フォースと綾芽の間に吹きつく。

「なにを・・・。貴様の目。それは妾と同じ目を持っているように見えるぞ?」

「うそん。えー、そんな目、おじさんいつしたかな?」

「妾の前で白を切る気か?まぁ、良い・・・。やはり、黒樹の者は愉快な者が多いな。一つ訊くが、貴様と彼奴、どちらが強いのだ?」

 目を細めながら、興味津々にフォースに問い掛ける。

 フォースはそんな綾芽の質問に、首を回しながら答えた。

「どうだろうね?おじさんは興味ないけど~」

「ほう。言葉を濁すか」

「濁してるわけじゃありませんよ~。これでも真摯に答えてますとも」

「食えない男よ。だがそれも一種の楽しみだ。訊くより実戦する方が妾の好みぞ」

「へいへい。どうぞどうぞ。八つ裂きにしてやってくださいよ」

「そうだな。だが今は貴様からだっ!!」

「やっふーーーーーーーーー」

 そんな声を上げ、綾芽とフォースの戦いは再開された。

 もう、二人は無言で戦いに身を投じていた。その戦いはすぐに高速化し、人の速度を超える。超人レベルの戦いへと突入した二人の表情は、笑み。

 綾芽の足刀がフォースに襲い掛かり、フォースの刃が綾芽へと襲い掛かる。

 互いの攻撃が互いに直撃し、互いを吹き飛ばす。

 砂埃が部屋中に散乱し、人影など見極められない程だ。

 けれど、フォースも綾芽も相手の姿が見えずとも、相手を感知し疾走していた。

 帝血神技 神武滅戦

 綾芽の身体からゲッシュ因子が漏れだし、その因子が空気に触れた瞬間に起爆する。だが、そんな物はただのおまけだ。

 この技、最大の特徴は自身の身体能力を極限にまで高めること。

 極限にまで高められた綾芽の身体能力は、少し触れただけで相手を滅するほどの力を持つ。

 そこに

 炎爆剣技 片輪車

 フォースの技が放たれた。

 片輪車のように燃え盛る巨大な炎の車輪が綾芽へと向かい、綾芽とぶつかり合う。

 燃え盛る炎が綾芽に猛威を揮うが、綾芽はその炎を撒き散らす車輪に向け拳を突きだし、押し返す。

 綾芽の拳により突き返された車輪は、一度は離れるが逆回転でも掛かっているように、綾芽へと猛スピードで跳ね返ってくる。

「はぁあ」

 綾芽は自身に向かってくる車輪を今度は足蹴りをし、外へと吹き飛ばした。

「あれまぁ・・・」

 自分の技が跳ね返されたというのに、フォースはまるで他人事だ。

 そんなフォースに気を留めないまま、満面な笑みを浮かべた綾芽が近づいてくる。

「猪突猛進とは、若いね。でも、後ろにはご用心」

 そう言いながら、フォースが大剣で綾芽の後ろを指す。

 フォースへと肉薄していた綾芽の後方には、先ほど外に吹き飛ばした炎の車輪が綾芽の真後ろへときていた。

 車輪はスピードを緩めないまま、綾芽へと直撃。

 勢いよく直撃された綾芽は、壁へと弾き飛ばされ瓦礫の山に埋もれる。

「だからおじさん、注意したのに~」

 フォースは諧謔(かいぎゃく)を弄する言い方で、綾芽が埋もれた瓦礫へと近づく。

 そしてその瓦礫の中へと、炎を纏った大剣を突き刺す。

 炎爆剣技 蟻地獄

 瓦礫の山がすぐに炎により溶解され、高熱の溶岩へと変貌する。

 溶岩へと変貌した瓦礫はすぐに部屋に充満し、辺り一帯が火山地帯のように、熱される。

 その中でフォースは悠然と立つ。

「これだけやっても死なないって、もう化物ですよねー。はは。人間止めちゃってますよねー」

 どこまでも諧謔口調のフォースに、溶岩の中から強烈な蹴りが繰り出され、フォースの顔面を叩き蹴る。

「妾がこれしきで倒れると思うかえ?貴様、妾を見縊(みくび)るでないぞ?」

 綾芽はむくっと立ち上がり、やはり愉悦な笑みを浮かべていた。

 蹴りを入れられたフォースは口の中の血を吐きだし、立ち上がり綾芽と見合う。

「まったく跳んだじゃじゃ馬引き当てちゃったよ。こうなるんなら、おじさん出てこなきゃよかった。もうマイッチング!!ねぇ、もう帰りません?」

「今宵は本当に楽しい宴ぞ。このまま己の欲のみに動き、身体が果てるまで戦い抜ける・・・。堪らんな、堪らぬぞ」

「もしもし、聴いてます?」

「もっと、もっと熱くならなければ、もっと、もっと。さすれば妾の欲は満たされる・・・」

「ダメだ、こりゃあ。あの人、耳ついてないみたい」

 フォースはそう言いながら、大剣を構え綾芽へと疾駆した。

 綾芽はその光景にうっとりしながら、炎で所々やかれた着物を棚引かせる。

「はよ、来い」

 再び開始される拳と剣の交戦。

 連弾される拳と蹴り。

 幾重にも放たれる斬撃。

 何回も繰り返される平行線なやりとりは、見る者を圧倒していただろう。

 けれど残念ながら、この戦いに傍観者はいない。いるのは当事者のみだ。

 継続される戦闘は、大気を燃やしながら続けられる。

 そんな中、二人の背後では警告アラームが鳴り響く。

 だがその音は二人の耳には届かない。

 綾芽の拳がフォースに連打され、フォースの剣技が綾芽へと振り下ろされる。

 少しでも油断すれば、油断した方が死者となり果てるだろう。

 そんな二人の戦闘とは別の場所で爆破が起こる。次々と研究施設が破壊され、地響きが鳴り、建物が崩れて行く。

 すぐに綾芽とフォースの足場も崩壊し、空中戦へと切り替わる。

 崩壊し地へと落ちて行く瓦礫の中で、綾芽は右足をフォースへと振り下ろす。綾芽の振り下ろされる足を、フォースが片腕で受け止めるが、勢いに負け、弾き飛ばされる。

「ふむ」

 綾芽は唸りながら、吹き飛ばしたフォースの方に目を向け、細める。

 振り落した足に、まるで感触がない。

 わざと綾芽の攻撃を受けたかのような、そんな感じだ。

 フォースが吹き飛ばされた方は、もうすでに燃え盛る炎に包まれて、どうなっているかのかさえ分からない。

 だがこれだけは言える。

 あの男は生きている。

「ふん、どこまでも舐めた真似をしおって・・・」

 綾芽は不服そうな表情を浮かべながら、地面に背を向けたまま落下し、未だに爆発が起こっている方へと睨む。

 そのとき

「会長、御無事ですか?」

 円筒のような形をした砂の塔に立ち、行方が綾芽の場所へとやってきた。

 綾芽はその砂の塔の上に降り立つ。

「行方か。他の方はどうしておる?」

「はい。すでに、立てる生徒はすでに撤退しています。敵もすでに施設を完全放棄し、撤退したもようです」

 行方は端的に、現状を綾芽へと伝える。

「そうか。ではもう、ここに用はない。・・・行くぞ」

 綾芽は砂の塔を蹴り、地上へと着物の袖をはためかせながら、再び降下する。

 次への戦場へと思いを馳せながら。


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