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一進

 時間が少し前に戻り。

「皆さーん。とても素敵なお知らせがあります」

 陽気な声でヴァレンティーネが、イレブンスたちのいるトゥレイター本部にある一室に入ってきた。

「素敵なお知らせって、なんだよ?」

 シックススとの攻防戦で疲れたイレブンスが、不機嫌なままヴァレンティーネに顔を向ける。すると、ヴァレンティーネは「あら?」という顔で首を傾げている。

「おお、噂に聴いてたとおり、かなりの美人なボスだ~」

 ソファーに座っていたセブンスが目を輝かせながら、ヴァレンティーネに近づき

「どうも、初めまして。俺のナンバーはラッキーセブン。あたなに幸運をもたらす男です」

 そう言って、ヴァレンティーネの手にキスをした。

「まぁまぁ。セブンスさんですか。これからよろしくね。じゃあ、あそこに座り込んでいるのはシックススさんの方でいいかしら?」

 ヴァレンティーネが壁側で座り込んでいるシックススを指差しながら、セブンスに訊ねている。

「あー、そうです、そうです。でも気にしないで下さい。ただのバカなんで」

 セブンスは調子の良い笑い声を上げて、そう言った。

「はっ、おまえウザくね?一番、おまえが消えればよくね?」

「あーはいはい。好きに言っといてくれよ。俺はレディの言葉しか受付しないからさー。それで、ボスが言っていた素敵なお知らせって何です?もしかして、俺とのデートの日付でも決めました?」

 セブンスにそんなことを言われたヴァレンティーネは、目を輝かせながら

「いいえ、違います!」

 きっぱりと否定した。

 だがそんなことを言われてもまったく動じないセブンスは額に手を当て

「フッ、つれないレディがここにも・・・」

 と言っている。

 そんなセブンスを見て、イレブンスは心の底からこう思った。

 あいつ、死ねばいいのに。

 そして、セブンスの言葉を速攻で否定したヴァレンティーネが再びウキウキしたような声で話始めた。

「素敵なお知らせっていうのはね、私のとても大切な人が、ここに来たからみんなに紹介しようと思って。・・・マイア、入ってきて」

 すると部屋の入口の方から、綺麗な赤髪をポニーテールにして纏めた、綺麗な少女が入ってきた。マイアと呼ばれた少女は、鋭い目でイレブンスたちを見回している。

 印象的にいえば、相手を威圧するようなきつい印象を与える美少女だ。

 だが、そんな事をまったく気に留めていないヴァレンティーネが満面の笑みを浮かべて笑っている。

「うふふ。この子はマイア・チェルノヴォークっていうの。昔から私の護衛係をしてくれているのよ」

 一向に喋り出す気配のないマイアの代わりに、ヴァレンティーネが軽い自己紹介をする。そしてマイアの自己紹介を終えたヴァレンティーネが、とことことイレブンスの近くに来た。それから、イレブンスの頭を手で撫でながら

「それにしても、イズルはさっきから不機嫌ね。喧嘩でもしたの?」

「・・・別に喧嘩じゃない」

「あら、そう。ならよかったわ」

 そう言いながらニコニコとしているヴァレンティーネ。

「ったく、おまえは・・・」

 そう呟いたイレブンスは、自分に向けられる嫌悪的な視線に気づいた。

 マイアだ。

 マイアがとても怪訝そうな感じで、イレブンスとヴァレンティーネを見ている。

 なんだ、あいつ。

 イレブンスは目を眇めて、視線をヴァレンティーネの方に戻した。今はシックススとの攻防戦で疲弊している。

 とても相手にする気になれない。

「てか、こんなことでおまえ、呼ばれたのかよ・・・」

 話題を変えるようにイレブンスがそう口にすると、ヴァレンティーネは首を横に振った。

「いいえ。違うわ。あくまでマイアの件はついでに話された事で、本題は、近くにある研究所に向かうことだそうよ。・・・わたしはお留守番みたいだけど」

 少し口先を尖らせ、不満の表情を見せている。

 それにしても、何故自分たちが研究所なんかに、向かわせられるのか?あそこは自分たち、強襲部隊の管轄ではなく、ゲッシュ因子についてやBRVについての研究をしているアカデミック部隊の管轄だ。

 そのため、強襲部隊が研究所に近づくことはまずない。

 イレブンスはいきなり伝えられた任務に眉を寄せる。それは他のメンバーも同じらしく、皆、不思議そうに顔を見合わせている。

「へぇー、それが今回のミッションですか。おじさん、昔は理系だったのよねぇ~。いいねー、サイエンス。胸が躍るねー」

 眉を寄せあっているメンバーを余所に、フォースだけがそんな軽口を叩いている。まるで、このことを元々から知っていたようだ。

 やはり、フォースという男は侮れない。

 イレブンスはそのことを再確認しながら、笑みを浮かべた。

「わざわざ、俺らを行かせるってことは、アストライヤーの奴等絡みでなんかあんだろ?だったら行くしかないよな」

 すると、その言葉に同調するかのようにファーストが頷く。

「まぁ、そうだろな」

「あーあ、こっちに来てすぐ戦闘かよ。俺はもっと素敵な女性たちとのデートを楽しみたいね」

 そんなことを言いながら、セブンスがため息を吐き部屋を出て行く。それに続いてファースト、ナインス、サード、フォース、シックススが部屋から出て行き、最後にイレブンスが部屋から出て行く。そして殺風景の廊下を抜け、自室に戻り支度をする。

 支度と言っても、ただ戦闘着に着替えるのみ。

 イレブンスはすぐに着替えを終え、廊下に出る。

「・・・おまえ、俺になんか用か?」

 眉間に眉を寄せ、廊下でイレブンスを射抜くように見ていたマイアに訊ねた。

 鋭い視線を向けてくるマイアも、イレブンスと同じ戦闘着を身に纏っている。

「私には分からない」

「何が?」

「ティーネ様の表情だ。イレブンス、貴様と話すときのティーネ様は、とても楽しそうだ。・・・あんな顔を私は、見たことがない。貴様ティーネ様に何をした?」

 淡々とした口調で、マイアは目つきの鋭さを増してくる。

 イレブンスは一度、ため息を吐いてから

「別に何もしてない。楽しそうに見えるって、あいつが楽しそうなのはいつもだろーが。俺からしてみたら、そんなことを訊くお前の意図の方がわかんねーよ」

 と言った。

「てか、そんな下らないことを訊くだけなのに、いちいち人を睨むな」

 続けてイレブンスがそう言うと、マイアは不愉快そうに眉を潜めて

「私にとっては、下らない事ではない。とても重要なことだ・・・」

 強い意志を宿した言葉にイレブンスは一瞬、言葉に詰まった。マイアに何を返せばいいのか、まったく想像がつかないからだ。

「そんなに気になるんだったら、直接本人に訊いてみろよ。俺に訊くことじゃない」

 やっとのことで浮かんだ言葉をそのまま言うと、マイアは少し考えるような仕草を見せてから、頷いた。

「確かにそうだ。そうか、なるほど。それが一番合理的かもしれない」

 一人で納得したようにマイアは呟き、踵を返した。

 マイアのそんな後ろ姿を見ながら

「なんなんだ、あいつ?」

 イレブンスは心の奥底から呆気に取られていた。



 銃撃戦。

 イレブンスは研究施設に押し掛けて来た明蘭の生徒と戦っていた。

 だがそれも、すぐに決着はつく。

 生徒たちはイレブンスからの硝煙弾雨を受け、もうすでに床に倒れ込んでいる。

 イレブンスは倒れ込んだ生徒を見ながら、不機嫌そうに顔を歪めていた。

「そんな顔をしてどうした?」

 戦闘を終えたファーストが、そう尋ねてきた。

「いや、別に。味気なさすぎてな・・・」

「ほう。戦うことが好きな貴様が、そんな事を言うとはな・・・」

「茶化すな」

 静かに失笑するファーストを、イレブンスが睨んでいると、戦闘により大きく空いた壁の向こうから、近づいてくる足音が聴こえる。

 イレブンスとファーストがBRVを構えながら、足音を立てる人物を待ち構える。

 そして壁の向こうから現れる人物を見て、イレブンスは言葉を失った。

 現れたのは、昔から見慣れた二人の人物。

 一人は黒い刀を持ち、長い髪を結った女、蔵前左京。

 もう一人は左京とは対照となる白い刀を持った、長い濡れ鴉色の髪を棚引かせている女、佐々倉誠だった。

 壁の向こうから現れた二人も、イレブンスたちと変わらない様子で、立ち止まっている。

「な・・・ぜ?右京・・・貴様が・・・貴様が何故ここにいる?」

 途切れ途切れの言葉でそう言ったのは、左京だった。左京はまるで信じられない物を見たかのような表情で、こちらを見ている。

 するとファーストが・・・・右京が短く笑い口を開いた。

「そう、死んだ者を見るような目で見るな。それにしても久しぶりだな。左京。自分の半身と顔を合わせるのは何年振りだ?」

「なっ」

 左京から短い動揺の言葉が漏れる。

 そんな二人を見ていたイレブンスにも誠からの声が届く。

「貴様もだ、出流(いずる)。出流、貴様も何故ここにいる?貴様はあの時・・・死んだはずでは?」

 ああ、懐かしい声。

 動揺している誠の声にすら、懐かしさを感じる。

 その感情に呑みこまれそうになりながらも、イレブンスは言葉を紡いだ。

「俺が死んだ?はっ、馬鹿な事言うなよ。だってそうだろ?現に俺はここにいる」

「確かにそうだ。だがっ・・・私たち家族には、貴様は死んだのだと言われた。確かにそう言われたんだ!!」

 家族。誠から出た言葉にイレブンスの中で苛立ちが募る。目の前の誠は動揺したように身体を震わせているだけだ。

 その姿にイレブンスは、なんとも言えない感情が込み上がってくる。

 それは怒りなのか。

 それとも思慕なのか。

 どちらでもないのか。

 よくわからない。

 だが今、自分と右京、誠と左京。まったく真逆の立場でこの戦場に立っている。誠たちは輝崎真紘につく護衛。自分たちはそれに反逆する者。

 輝崎真紘、学園に奇襲を仕掛けた時にいた奴だ。真紘は自分のことなんて知らないだろう。だが、自分はよく知っている。

 昔から大切な者を奪っていく男。

 それがイレブンスの中にある『輝崎真紘』という人物だ。

 しかもその輝崎真紘に、何の疑問も不満も持たず、付き添って行く誠が、嫌で嫌で仕方ない。

 アストライヤーという物が、どんな物なのかさえ知らず、ただ只管にアストライヤーである輝崎の家に仕えている誠に苛々する。

 そんな感情が走馬灯のように一瞬で、イレブンスの頭を駆け回って行く。

「なぁ、こんなとこで同窓会を開いくために、来たわけじゃないよな?」

 自分でも無意識にそんな言葉を口にしていた。

 イレブンスの言葉に、呆然としていた誠と左京の目の色が変わる。

「・・・無論だ。だが一つ聞きたい」

「なんだ?」

「おまえたちは、トゥレイターの者か?」

 誠の言葉にイレブンスは、短く息を吐いてから

「だったらどうした?」

 とだけ答えた。

 そしてイレブンスが答えた次の瞬間、誠の刃が目の前にあった。

 イレブンスは持っていたガバメントで、刃を止める。弾き返す。宙へと弾き返された誠は綺麗に身を翻し、地面へと着地する。そこにイレブンスは息つく暇さえも与えず、銃弾を放つ。

 誠はそれを刀で切り払う。

 そう甘くはないか。

 イレブンスはそう思いながら目を細める。横では左京と右京での剣戟戦が繰り広げられている。だが、それを気にする余裕はない。

 誠がすでに技を練っているからだ。

 イレブンスはそのゲッシュ因子の流れを感じながら、アサルトライフルに持ち替え、数十の銃弾を誠へと降らせる。

 誠は後ろへと後退するが、イレブンスから放たれる銃弾の驟雨に苦い顔を奔らせている。

「はああああああああああああああああ」

 幾つかの弾を身体に掠めながら、誠が吠える。

 音速抜刀技 巫女舞

 誠から放たれる斬撃は、鼓膜を通して頭痛を起こすような、甲高い音と共に、凄まじい斬撃が幾重にもなって、イレブンスの元にやってくる。

 激しい頭痛で平衡感覚が失われ、足がふらつく。まるで踊っているようだ。

 イレブンスは唇を強く噛み、目の前に降りかかる斬撃を跳躍し、躱す。

 だが斬撃からの鳴る強烈な音に、思考回路を掻き乱される。斬撃の大部分は壁に衝突し消え失せているが、その余波の熱がイレブンスの身体を炙る。

 イレブンスは天井へと穴を開け、高く跳躍し続ける。

 そして、誠が小さい粒のように見えたところで、

「空からの落下物には気を付けろよ?」

 と呟いて、技を放つ。

 空間変奏 一射絶命

 その名の通り、イレブンスが放ったのはたった一射だ。だが誠に見えているのは一射ではない。数えきれないほどの弾が、まるで豪雨のように空から降り注ぐ。

 弾の威力は強力だ。球から溢れ出るゲッシュ因子の量は、壮絶な量を保持している。

 そんな量のゲッシュ因子を含んだ弾を受けることは、ひどく難儀だ。

 誠はそれを分かっているからこそ、斬撃による攻撃で、銃弾を空中で払っている。

 銃弾を斬撃が捉え、誘爆している。

 そんな光景を上から眺めながら、イレブンスはアサルトライフルから、ベレッタへと変化させ、誠がいる場所へと急降下した。

 上からやってくるイレブンスに気づき、誠が斬撃を放ってくる。イレブンスはそれを躱しながら誠の横へと着地し、拳銃(ガン)格闘(カタ)へと持ち込む。

 横薙ぎに繰り出される誠からの一閃を身を屈めながら躱し、そのまま誠の横腹をベレッタで殴打する。

「くはっ」

 そんな声を上げながら、誠が地面へと倒れ込む。

 誠はすぐに立ち上がろうとするが、強く殴打された横腹を押さえながら、むせ返っている。

 今の誠は本調子ではない。

 イレブンスは直感的にそう感じた。

 誠はまだ拭えていない。自分の中の動揺を。そして怒りを。

 そのことは、むせ返りながらも射抜くように見てくる誠の目でわかった。

 ・・・馬鹿馬鹿しい。本当にそう思う。

 誠にではない。

 自分に対してだ。

 誠から向けられる怒りと侮蔑の籠った目で見られ、心を痛めている自分がいる。なんて間抜けな話だろう。

 さきほどまで、敵意を剝きだしにし、攻撃をしていたというのに。

 自分の中にある矛盾につくづく嫌気が指す。

 こんなところで、踏み止まってはいられない。

 ならば、誠と決別することは当然だ。

 自分には決意し、やるべきことがある。

 イレブンスはよろめきながら、立ち上がる誠に対して銃口を向ける。

 そして、銃弾を放った。


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