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狼VS馬3

 将太を横目に見て、美琴が余裕の笑みを浮かべる。まるで、こっちの実力はこんなものじゃないと言わんばかりだ。

 そして次に女子チームでダーツを投げるのは、雨宮千代という子だ。千代は、長い黒髪を二つに結っており、きりっとした印象の女の子だ。

 千代が三本のダーツを手に持ちながら、ダーツ台に立ち入念に角度や的までの距離を確認している。

 そしてそれが終わると、厳しい表情のまま狼たち男子勢の方を見てきた。

「……改めて言っておくが、手加減はしないぞ」

 千代の言葉に、狼、秀作、将太が頷くが、次に投げる準備をしていた有馬が頷かなかった。するとそれを不服と思ったらしく、千代の鋭い表情がさらに鋭くして有馬を睨む。

 あっ、これは一番反応取って貰いたかった人に取って貰えなくて、怒ってるパターンだ。

 狼は内心でそう思ったが、一部始終を知らない有馬は千代からの睨みつけに、首を傾げているだけだ。

 ここは、こそっと教えてあげるべきなんだろうか?

 いや、下手に教えてあれやこれやと言及されるのも大変だ。もしそれで、『何で、俺に一番反応取って欲しいんだ?』なんて言われても、『君に好意を持ってるから』なんて口が裂けても言えるはずない。

 やっぱり、ここは有馬の疑問は放置しておいた方が良さそうだ。

 静かな怒りを燃やす千代が投げるダーツは、力強い音と共に10のトリプル、16のシングル、18のダブルという所に突き刺さる。

 最初の二名に比べるとぐっとポイントは下がるものの、まずまずのポイントだろう。

 千代がダーツ台から離れる際に、再び有馬を一睨みして女子の中へと戻って行く。

「千代のやつ、何であんなに怒ってるんだ?」

 去り際に一睨みされた有馬が、頭の上に疑問符を浮かべながらダーツ台へと立つ。

 しかしダーツ台に立ってからは、狙い定めることに集中したらしく表情が真剣になっている。

「なぁ、黒樹」

「え? 何ですか?」

「女子の方を見てみ」

 秀作の抑揚のない言葉の通り、狼が女子の方に視線を移す。女性メンバーが、ややうっとりとした表情でダーツ台に立っている有馬の姿に見惚れていた。さっき、怒っていた千代でさえ、口をヘの字にしたまま、有馬のことをチラ見している。

「分かるか? 一人だけが女子の視線を独り占めしてるっていうカオスなこの状況の残酷さが」

 ……どうしよう? なんて答えよう?

 この状況把握はできるが、残酷さまでは分からない。けれど秀作は狼に同意を求めているのは確かだ。

 妥当に『分かりますよ』と頷いておくべきなんだろうか? いや、でもそんな適当に答えて良いんだろうか? 何故だか分からないが、適当に答えてしまうには、自分の胸につっかえるものがある。

「えーっと、そうですね……いっ」

 秀作に答えようとした口から思わず引き攣った声が出た。何故なら抑揚のない視線で秀作が狼を恨めしげに見ていたからだ。

 こんな不気味な顔で見られていたら、さすがに怖い。

 けどそんな狼の短い声は、ダーツ台にいる有馬に影響を与えていた。

「さっきの黒樹の言葉で、驚いたのと同時にダーツの矢投げちゃったんだけどさ……一本目でBULLに的中って、偶然とはいえ、凄くないか?」

 ダーツ台にいる有馬がBULLに刺さっているダーツの矢を見ながら、狼たちに苦笑を零してきた。

「ごめん。僕が変な声出した所為で……。でもそれで高得点が出せたみたいで良かったよ」

 有馬に苦笑を返す狼だが、そんな狼は有馬女子からの怒りの視線を向けられているのが分かった。

 狼に向けられる女子の視線には「あの男子、余計なことを……」という怒りが込められている。

 しかし、狼はそんな女子の視線を見なかったことにした。

 女子の腹の内が分からないでもない。けれど今の自分が味方すべきは、BULLに矢を当てた有馬なのだ。

 狼は突き刺さる視線を気にしないために、そう自分に言い聞かせる。

 そしてBULLに当てた有馬が、次に18のシングル17のダブルに当て、この女子のメンバーの中では一番温厚そうな優菜へとバトンタッチする。

 ボーリングはあんまりやったことがないと言っていたが、ダーツはボーリングより自身があるらしく、投げる様子は安定しており、結果は三本で96ポイントという結果だ。

 現時点のトップが、美琴の140点、次が将太の139点、有馬の102点、優菜の96点、千代の87点という順だ。

 現時点での女子チームとの差は82点。残りのポイント460点。

 とりあえず、難しいだろうけど82点以上を取らないとな。

 もしここで女子に逆転されたら、後で秀作たちから変な言いがかりをつけられそうだ。

 やっぱ、高得点を狙うからには20のトリプルを狙わないと。

 そう思いながら、狼がダーツ台へと向かうと、思っていたより得点を伸ばせずしょんぼりとした優菜と肩がぶつかってしまい、優菜がやや身体のバランスを崩す。そんな優菜の腕を狼が咄嗟に掴み、バランスを立て直させようと自分の方へと引く。すると狼に引き寄せられた優菜は引き寄せられた勢いで、顔を狼の胸に当てたあと、少し恥ずかしそうな表情で狼を見上げてきた。

「あ、ありがとう。ごめん。私がすぐ退かなかったから……」

「ああ……全然気にしなくて大丈夫だよ。僕も強く引き過ぎちゃって」

 上目遣いで恥ずかしがられると、さすがに狼の方も恥ずかしくなってくる。そのため、地味にお互いに気恥しくなりながら、謝っていると……

「もしかして、狼ってあのタイプに弱いのかな?」

「狼もなんだかんだ、ミーハーな男子ってことでしょ?」

「あはっ。鳩子ちゃんとネズミちゃん落ちついて。ほらほら、メイちゃんと小世美ちゃんも無言はなしなし。まだまだ狼君の鉄壁ガードは破られたわけじゃないんだから」

 怒り口調の鳩子と根津、そして若干愉快そうな口調の季凛の声が聴こえたような気がする。けれど、狼はそれが現実なのか確認することはできない。

 もし周りを確認して、怒る四人と面白がる季凛の姿を見つけたら、それこそこの場が大変なことになる。

 僕の気のせい、そう気のせいだ。

 狼がそう自分に言い聞かせながら、気持ちを落ち着かせる。そしてダーツ台に立って、有馬たちと同様に狙いを定めることに意識を集中させた。

 そして、ダーツの矢を放つ。20のシングル、18のトリプル、20のダブル、合計114ポイントを取る。

 男子からガッツポーズと共に喜びの声が上がる。

「やったな、黒樹! 流石だぜ!」

 将太からのハイタッチに答え、狼がほっと胸を撫で下ろす……のも束の間。背中に女子からの厳しい非難の視線が狼を襲ってきた。

「ちょっと、先ほど男性の中では一人以外は初心者だとおっしゃっていませんでした?」

「そうだ。普通に考えて初心者があっさり100越えのポイントを叩き出すのは可笑しい」

「矢に何か仕込んである可能性がある。お前等の矢を見せてみろ」

 美琴、千代、ゆずの三名が狼に疑いの言葉と、手を伸ばしてくる。

「えっ、別に……良いけど?」

 狼は片眉を眇めながら、ボードから矢を取り外し、疑念を抱く女子三名に手渡す。

「むー、確かに普通のダーツの矢のようですね」

「じゃあ、あの黒樹という男子は初心者にも関わらず100点越えを出したということか?」

「そのようだな……。でもまだ私たちが負けたわけじゃないんだ。次に私が最高得点を出してやる」

「語弊があります。私の次に凄い得点です」

「まぁ、どっちでもいい。勝てればな」

 ゆずが美琴とそんなやり取りをしながら、ダーツ台へと立つ。ゆずは今迄のメンバーとは違いあまり、ダーツの的との距離や高さなどを確認せずに、素早い動きで三本のダーツの矢を投げ、20のダブルに三回連続で当ててきた。

「やったな、ゆず」

「本当だね。ゆず、凄いよ」

「まぁ、でも私の得点には及びませんが……うふふ」

 女性陣もゆずが出した高得点に称賛の声を上げている。

「美琴だけじゃなく、ゆずもダーツが上手かったとはな。でも俺たちも次で一巡するだけなんだし、着実に高得点を狙って行こうぜ」

「そうだね。最後は高坂先輩ですよね? 頑張って下さい」

 狼が有馬に頷きながら、秀作へと視線を向ける。すると秀作がダーツの矢を一本手に取り、何がぶつぶつと言葉を発している。

 あの人……何やってんだろう?

 狼が念仏でも唱えるような秀作に不安を感じずにはいられない。でも、順番は順番だ。あの奇妙な念仏で秀作が高得点を取ってくれることを祈るしかない。

 ここに鳩子なんかがいたら、きっとダーツの矢が飛んで行く軌道などを即座に分析して、サポートをしてくれるだろう。

 もしメイとか季凛が敵チームにいたら、そのくらいのハンデは必要だよなぁ。それできっと、高得点が取れなかったネズミと小世美は悔しげな表情しそうだな。

「黒樹、どうした?」

「何がですか?」

「いや、何か一人で笑ってるように見えたからさ。秀作の瘴気(しょうき)に当てられたのかと」

「えっ、えっ、えっ……あっ、いや、何でもないです」

 狼が慌てて将太に首を振りながら、やや気恥しい気持ちになった。狼の前には四人の女子と会話する有馬の姿がある。

 やはり、なんだかんだ四人の女子と話す有馬を、デンメンバーと一緒にいる自分と重ねてしまう。

 恋しいって言ったら、変かもしれないけど……

 それに近い感情を抱いてしまうのは確かだ。

 狼がこっそりと自分の気持ちに苦笑を零していると、ダーツ台に立つ秀作からの威勢のいい声が聴こえ、三本のダーツが放たれた。

 結果は18のダブル、14のトリプル、20のシングルの98得点。

「あんなに気合いを入れて、この得点かよ!」

 将太がダーツ台から降りてきた秀作に不満の声を上げている。すると秀作が苦し紛れに「ダーツの矢が手汗で滑った」とかいう下手な言い訳をし始めた。見苦しい。

 それから残りのポイントは、あと二名ずつダーツを投げて、残りのポイントが少ない方の勝ちということになった。

 男子チームで選出されたのは、将太と狼。

 女子チームで選出されたのは、美琴とゆずの二名だ。

「黒樹、俺はここでおまえに誇れる先輩の姿を見せてやる! ちゃんとその目に焼き付けとけよ!」

「分かりました! お願いします!」

 さっきの投げっぷりからして、期待は大いにできる。だからこそ、狼は力強く頷いたのだ。

 けれど結果は……60点と惨敗。

 しまいには、

「秀作じゃないけど、手汗がな……」

 とか言いながら残念そうにするもんだから、明蘭二軍に誇れる先輩なんていないんじゃないかと、狼は心からそう思ってしまう。

 そして二回目の狼も105点という結果で二人の合計が165点。

 女子チームの合計が美琴、122点、ゆず、124点とことで……男子チームの惨敗という結果になった。

「まっ、最初から目に見えてましたけど」

「美琴とゆずが凄かったからな」

「うん、そうだね」

「私たちの完全勝利だ」

 そう言う美琴たちの一行の言葉を聞きながら、次に向かったのはこのアミューズメント施設に隣接する、商業施設が集まるモールだ。

 さっきのゲームで、勝利した女子チームは円になりながら何やら話しあった結果。次はこっちのモールを見るということになったのだ。

 そして案の定……

「ちょっと、もうちょっとゆずさん、有馬君から離れて下さい」

「ケチ臭いことを言うな。最後に高得点を出したのは私だ」

 有馬の右腕に美事が、左腕にゆずが自身の腕を絡ませ争奪戦を行っている。そしてそんな二人をあまり戦力になれなかった優菜と千代が、羨ましそうに見ている状況だ。

「ふっ、ここにも花の男子がいるっていうのに……」

「将太、嘆くな。俺たちはこの苦しみなんて昔から慣れっ子じゃないか」

「いや、そうだけど、そうなんだけど! 悔しいもんは、悔しいじゃんか!」

「まぁな、気持ちは分かるよ」

「先輩たち……その気持ちは察しますけど、もう少し胸に秘めてて貰っても良いですか?」

 何とも言えない気持ちになった狼がげんなりとした表情を秀作たちへと向ける。

「だって、見て! 本当に見て! ここは日本! 一夫多妻は認められてないんだぞ! それなのにアイツはっ!」

 相当、羨ましいんだろうな。色取り豊かな女子に囲まれている有馬の事が。

 さすがに狼は、秀作たちのような羨ましい気持ちはないが……少し落ち着かない気持ちにはなる。

 まぁ、殆どの人が初めましてだから仕方ないんだろうけど。

 狼がそんな事を思っている内に、モールの中にあるフードコートへと移動した。

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