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狼VS馬1

 狼は二軍男子寮長である秀作の部屋に呼ばれていた。

 木板の廊下を歩きながら、秀作に呼び出された理由を考えていた。

 何だろう? 秀作の事だ。あまり重要な呼び出しではない気がする。多分。これまでの付き合いの中で、秀作から真面目な話を持ち出されたことはないからだ。とはいっても、ここでいきなり真面目な話を持ち出されたら、それはそれで大変になる。なんとも複雑な気分だ。

 寮長の部屋は一階にあり、基本二人一部屋の寮でも一人部屋を使用することができる。

 前に一度行った時は、ゴミとまでは行かないものの、雑誌やゲーム、学校関係の物などで部屋が溢れていた記憶がある。

 もし、またあの状態だったら……ネズミじゃないけど入るのを躊躇いたくなるよなぁ。

 自分が生活している寮の長なのだから、もう少しきちんとして欲しいものだ。

「高坂先輩、いますか?」

 部屋の扉をノックしながら、狼が秀作に声を掛ける。

 すると、次の瞬間、勢いよく部屋の扉が開かれた。

 ……やっぱり、都合が悪いって言って断れば良かったかな?

 そんな事を思ってしまうほど、扉を開けてきた秀作は狼に怪しい含み笑いを浮かべている。この笑みはどんな風に見ても、下らない、そして面倒なことを言い出す顔だ。

「先輩……僕に何か用事ですか?」

 口を開いたら、終わる。何か訊ねたら、終わる。内心ではそう思いながらも、狼は声を掛けないわけには行かなかった。きっと、ここで何も口を開かず、黙っていたとしても秀作が自分をそのまま帰すわけがないからだ。

 すると、口を開いてきた後輩に含み笑いの色をさらに濃くし、秀作が口を開く。

「黒樹、よくぞ訊いてくれた。だけど、立ち話もなんだ部屋で座りながら話そう。口煩い後輩の気分が滅入ったら大変だと思ったから、ちゃんと片付けたんだぜ?」

「そうなんですか。へぇ――……」

 やばい、これは完全に僕が簡単に逃げないようにだ。秀作の思惑を感じ取った狼が口許を引き攣らせる。

 けれど、そんな狼の表情を無視する秀作は、気分良く部屋へと狼を招き入れてきた。

 相変わらず部屋には物が多い。けれど秀作自身が言う様に、掃除はしたようで以前きたときよりは、すっきりと片付けられていた。

 前は洗濯する前の服などに占領されていたソファーもちゃんと人が座れるようになっている。

 けれど、そんな部屋の変化より、狼はこれから秀作たちにどんな面倒な事を押しつけられるのか、それが心配だった。いつもは怠惰な生活リズムを送る秀作が、まるで何かに目覚めたように部屋の掃除をし、狼を逃げられなくするほどだ。

 相当、面倒な事を言い出されるに違いない。

 真向かえに座る秀作を見ながら、狼が生唾を飲む。するとそれが口火を切る合図となり、秀作が口を開いた。

「黒樹、三年の二軍にいる津崎将(つざきしょう)()を知ってるか?」

「いえ……知りません」

 同じ二軍といっても、秀作が出た名前に聞き覚えはなかった。

「まぁ、そうだな……コイツは良くも悪くもノーマルだ。部活はサッカー部だしな。けど津崎がサッカー部に入っていたおかげで、俺たちはとある恩恵が受けられる」

「恩恵?」

「ああ、恩恵だ。いくら明蘭って言っても普通の部活で因子を使うのは御法度になっている。そうしないと、他の学校との練習試合が出来ないからな」

「それは分かりますけど……でもどうして、それからさっきの恩恵の話になるんですか?」

 狼はやや本気で首を傾げる。すると秀作が哀れんだ視線を狼に浮かべて、それから短い溜息を吐いてきた。

「えっ、僕……変な質問しました?」

 割と本気で呆れられて、狼も思わずたじろいだ。

「おまえって、本当に男か? 男の皮を被った女じゃないか?」

「違いますよ! 何でそうなるんですか?」

「普通な、他校との練習試合をするってなった時に気になるのは、他校のマネージャーだ。確かに男をマネージャーにしてる学校もある。でもな、それは名門校とかに多い。つまり、そこそこの学校だと、女子がマネージャーをやってるんだよ」

 ここまで言われれば、いくら狼でも秀作たちの意図が掴めてくる。掴めてくるが……そこに自分を巻き込むのだけは、やめて欲しい。

 しかし、そんな後輩の微かな希望を他校のマネージャー女子と仲良くなりたい先輩に届くはずもない。

「今度、津崎の伝手で知り合ったマネージャーの子と遊ぶことになったんだけどさ、そこにお前にも来て欲しいんだ」

「えっ、何でですか? 頭数を稼ぐだけなら僕じゃなくても居たでしょ? 嫌ですよ。特に話す事もないし」

「馬鹿っ! そんなのお前だけじゃない。俺らだって一緒。同条件だ。それにお前は女子と仲良くなれるスキルを持っている。それを持ってさえいれば、今回が駄目でも次に繋ぎやすくなるだろーが。分かるか?」

「いえ、まったく分からないですよ。第一、女子と仲良くなれるスキルなんて持ってないし」

 狼がそう反論すると、秀作から恨めしげな視線を注がれた。

 えっ、なにこの視線?

「黒樹、おまえはな、恵まれ過ぎてる。その所為で今の自分がどんな幸福を手にしているかわからないんだ。そして、そんな愚か者のお前には罰が必要だ。そう可哀想な俺たちをサポートするっていう、役目がっ!!」

「結局、色々言って僕を連れて行く方向に乗せたかっただけですよね?」

 逃げられない事を悟った狼が肩を落とす。そんな狼とは対照的に秀作が勝ち誇った笑みを浮かべてきた。

 ただ、狼が部屋を出て行く時に秀作が一言、声を掛けてきた。

「あっ、でも黒樹……この事をおまえの周りの女子には言うなよ?」

「え? 別に良いですけど。何でですか?」

「アイツ等に言ったら、色々と面倒なことになるからな。お前だって、他校の女の子と今度遊びに行くなんて言ったら、面倒なことになるのは分かるだろ?」

 可能性の話をされて、狼はその可能性が大いにあり得ると思った。絶対に、そんな事をデンのメンバーが知ったら、絶対についてくる。ついてくるなと言っても来そうだ。

 特にこういう話に興味津々の鳩子なら、なおさら……。

「分かりました。皆には言わないでおきますよ。僕も後でこれをネタにされたくもないし」

「よしよし、良い心掛けだ。じゃあ、後で詳細が決まったら知らせるからな。いきなりやっぱ、やめます、は無しだからな?」

「分かってますよ。むしろ、それを言うって事は、僕がそれを言ったとしても頷いてくれませんよね?」

「もっちろん!」

 人をおちょくるようなテヘ顔で頷かれ、狼は静かな怒りを感じていた。



 そして、秀作からの半強制的な頼み事を受けてから一週間。狼は秀作たちと共に色々なアミューズメントが入っている商業施設でボーリングをやる事になっていた。

 メンバーは秀作、狼、幹事役である将太、他校の男子の一名、他校の女子四人の計八人だ。

 瞬や俊樹も行きたがった。けれど実技授業の補習に捕まった二人は休み返上になってしまったのだ。狼としては自分の代わりに二人が参加してくれた方が良かった。

 しかし現実は、そう上手くは回らない。

 他校の女子の四人は、髪の毛を軽く巻いたり、ピアスを開けたり、今どきのテレビの話題を話したりしている普通の女子だ。

 いや、明蘭の女子だって普通にお洒落に関心はある。そういうのに疎そうな根津や鳩子でさえ、それなりに流行りは気にしているらしい。

 けど、それにも関わらず……今、初めて会った他校の女子と明蘭の女子とでは、何か決定的に違う気がする。

 何だろう? 普通の学校の女子と明蘭の女子たちの違いって……?

 そう思いながら、初対面の女子とそれぞれ自己紹介を終え、ボーリングでペア分けをする。ペア分けは、グッとパーで決まり……狼とペアになったのは薄い茶色の髪をミディアムボブにした女の子だ。

 初対面ということもあり、それぞれ軽く頭を下げながら「よろしく」や

「頑張ろう」などの言葉を交しながら、自分たちがボールを投げる順番を待つ。

 すると、狼と一緒に組んだ女の子、小嶋優菜がある一点の方に視線を向けているのが分かった。そのため、狼もつられてそちらの方を見ると、そこには優菜と同じ学校の男子である、小野寺(おのでら)有馬(ありま)が他の女子と話していた。

 何かあの人に用事なのかな?

「あのさ、有馬君だっけ? あの人に用事なら言って来ても大丈夫だよ」

 狼が優菜にそう言うと、彼女がびくっと身体を震わせて狼の方を恐る恐る見てきた。

「別に用事ってほどじゃないよ。だから全然気にしないで」

「そっか。じゃあ余計なことだったね」

 狼が苦笑を浮かべながらそう言うと、優菜も苦笑を浮かべて首を横に振って来た。

 それから、狼たちの順番になる。

 するとボーリングの球を手に持った優菜が、口を開いてきた。

「実は、私……あんまりボーリングをやったことなくて」

「そうなんだ。でも僕もやったことないよ。田舎っていうか、地方の島に暮らしてたからボーリングなんてなくて……」

「本当かな? その割にはストライクを取ってるみたいだけど?」

「いやでも本当に、やったことないんだ。だから、さっき一緒に来た先輩たちにルールとか教えて貰ってたくらいだし」

「じゃあ、センスが良いんだ。羨ましいな」

「センスって程でもないんだけどね……」

 狼がそんな感じで優菜と会話をしながら二ゲームほどを楽しんでいると、背後から狼を突き刺すような殺気を感じた。

 はっ、として狼が後ろに振り返ると、そこには椅子に座りながら狼を恨めしげに睨む秀作と将太が座っていた。

「ちょっと、ごめん……」

 優菜に一声掛けてから、狼が自分を睨む秀作たちの元へと向かう。

「あの、先輩……えーっと、楽しんでますか?」

 声を掛けたら、二人の先輩からギロッと睨まれた。二人からの本気の睨みに、狼が思わず背筋を凍らせる。

「楽しいか? だって? おめぇ、この状況見て言ってんのか? 自分一人だけ割と楽しみやがって。何が、僕もボーリングやったことないだよ? 舐めてんのかよ?」

 やばい。一番楽しまなきゃいけない人たちが、一番最初にやさぐれてる。一体、この短い間に先輩たちに何があったんだろう?

「先輩たち、どうしたんですか?」

「どうもこうも、黒樹……おまえは気づかなかったのか?」

「えっ、なに……」

「やっぱいい。おまえが鈍感だってことは俺たち先輩もよく知ってる。ああ、まったく嫌になるぜ。モテる男とモテない男の不平等さには」

「ああ、わかるぜ。もうこんなの出来レースじゃねぇか。何で、女の子だけじゃなくて、要らないオマケもついてくるんだよ? 普通にあり得ないだろ」

 ぶつぶつ文句を言っている秀作と将太に、狼は哀れみの視線を向ける。けれど二人の先輩は、まるで狼の視線には気づいていない。

「どうせ、こうなるなら馬鹿輝崎レベルの爆弾を落としてやればよかったぜ」

「ああ、そっちの方がなんとなく清々しよな。見物になりそうだし」

 一体、この人たちは何を言ってるんだろう?

 先輩二人の意図が掴めない自分がいけないんだろうか? 狼がそんな事を思っていると、わざとらしく秀作が大きな溜息を吐いてきた。

「まぁ、いいさ。俺たちは今この時だけを楽しもう。そう狼VS馬の戦いを見届けるって感じでさ?」

「いいな。動物的には狼の方が有利だけどな……馬がどこまでやるかだぜ」

 秀作と将太。二人の先輩の言葉の意図が読み取れず、狼は困惑したままペアを組んだ優菜の元へと戻るしかなかった。

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