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隠し撮りバスターズ3


「福原真里菜……学年は二年生みたいだよ」

 鳩子が端末で、福原真里菜という人物の学年を特定している。学年が分かれば、後は一軍の女子が使用している寮に向かうだけだ。

 部屋は5階建の一軍女子寮の三階だ。

「あーー、やっぱり一軍の寮は綺麗って言うか、近代的? 便利そう。エントランスホールの所にコーヒーサーバーとかあったし。ちょっと意味分かんなくない?」

 設備は近代的でありながら、上品さが漂う一軍女子寮内を見て、鳩子が不満げな表情を浮かべている。

「鳩子、上を見たら限がない」

「そうだけどさぁー、二軍の寮にあるのそこら辺にある自動販売機だよ? むしろ一軍の寮にも自販機あるし。こういう所で格差を付けるの、マジで反対」

 鳩子の言葉を聞きながら、名莉は綺麗に磨かれた大きい窓ガラスに、フカフカのソファが置かれているエントラスを抜け、エレベーターで三階へと上がった。

 鳩子が調べた所、部屋番号は334号室。

 今は夕食前の時間ということもあり、ほとんどの生徒が寮に戻って部屋にいるはずだ。

 部屋の前に立った名莉が、部屋の扉をノックする。すると、部屋から一人の女子生徒が出てきた。

「あの、福原真里菜先輩ですか?」

「……そうだけど。何か用?」

 名莉に答えてきた福原先輩が名莉の顔を見た瞬間、不愉快そうに眉を潜めさせてきた。そんな表情を浮かべた先輩に対して、名莉は内心で首を傾げた。

 いきなり押し掛けたのがいけなかったのだろうか?

 もし、嫌悪感を抱かれているとしたらそれくらいしか、思い当たる理由がない。そんな事を考えながらも、名莉は狼についての質問を訊ねた。

「あの、私たちの学年にいる黒樹君の写真を持ってたりしますか?」

「持ってないけど?」

「でも、別の人から福原先輩が黒樹君の写真を落としたのを見たって聞いたんです」

「だから、持ってないって言ってるでしょ? 黒樹狼なんて興味ないし」

 名莉たちを福原先輩が、丸い鼻を鳴らして煙たがっている。

「今日に会う人たち……外れの人、多くない?」

 ぼそっと呟く鳩子。

 名莉もそれは重々に思っていることだ。けれど、もしこの人が隠し撮りの犯人だとすると、簡単に引き下がるわけにはいかない。

 とはいえ、自分たちが狼の写真を落とした所を見たわけではない。どうしたものか……?

 名莉が表情を微かに歪めつつ、次の言葉を逡巡していると……

「あーー、あれっ!?」

 鳩子から驚愕の声が漏れた。

 鳩子は声を上げながら、福原先輩の部屋の中を指差している。名莉もそんな鳩子につられて、部屋の中を見る。

 福原先輩が立っている奥に見えたのは、壁にびっしりと張り付けられた真紘の写真。しかもポスターサイズに拡大されている。

 どの写真も視線が合っていないのを見ると、壁に貼り付けられている写真はどれも真紘の盗撮だろう。

「あーー、これ希沙樹がマジギレする奴だ」

 鳩子が口許に手を当てながら、風呂上がりらしき真紘の写真を見ながら、そんな事を呟いている。

「べ、べつに良いでしょ? あんた達には関係ないんだから!」

 自分の隠し撮り写真のコレクションについて話を振られ、動揺を露わにする福原先輩。確かにあの壁のポスターを見る限り、狼を狙うことはないと思うが……

「ごめんなさいっ!」

 名莉が一言謝ってから、福原先輩の隙をついて部屋の中へと入り込む。

「ちょ、ちょっと!!」

 慌てて名莉を制止する福原先輩を無視し、名莉が部屋の奥へと入った。

 見事に真紘ばかり……

 まるで、テレビの中の芸能人のように部屋の壁一面に張られた真紘の写真。ベッドの真上の天井にも張られている所を見ると、相当のファンである事が窺える。

「うわっ、真紘だらけ」

 後から部屋に入って来た鳩子が、壁に貼り付けられた真紘を見て唖然としている。視線は合ってないと言っても……四方八方に真紘ポスターが貼られているため、まるで真紘に監視されているような錯覚に陥ってしまう。

 これは、これで真紘が不憫。

 正面のポスターで、柔らかな笑みを浮かべている真紘のポスターを見ながら、名莉は複雑な気持ちになった。

「福原先輩……これはご自身で撮ったんですか?」

 名莉が少し視線を鋭くして訊ねる。

「さぁね。あたしがアンタに答える義理はないでしょ?」

「そうですか。なら……私たちも強硬手段です」

 視線を逸らして、まったく質問に答える気のない福原先輩に対して二双銃を突き付ける。名莉から放たれる威圧に、福原先輩の表情が引き攣り後ずさっている。

 ついこの間のWVAの試合で、名莉の実力は他学年にも膾炙(かいしゃ)されている。

「自分の実力が高いからって、あたしを脅すきなのね? この人でなし! 人殺し!」

 怯えた表情ながらも、名莉に罵詈雑言を口にする福原先輩。けれど名莉はその言葉に首を振った。

「福原先輩がちゃんと質問に答えてくれれば、被害はありません。それに……私が撃つのは先輩ご自身ではなく……」

 名莉が淡々とした表情で、部屋中に張られている真紘のポスターを見回した。

「これは、明らかに盗撮物ですから、撃っても問題ないと、私の見解で判断しました」

「貴女の見解で私の宝物に穴開けないでよっ!!」

「嫌なら真面目に答えて下さい」

 焦燥感を顔に滲ませる福原先輩を、名莉が容赦なく追い詰めて行く。そんな名莉の姿を見て流石の鳩子も「鬼だ……」と小さく呟いている。

 けれど名莉は気にせず、福原先輩へと距離を詰めた。ここで引き下がるわけにはいかない。

「分かった。答えるから、早くBRVをしまって」

 恐怖に怯えた福原先輩が観念したかのように叫び、名莉はBRVをしまった。そして鳩子と共に事情聴取に入る。

「……つまり、この写真は一年二軍のハンナ・ベルンシュタインから購入したということですね?」

「そうよ。あの子は写真部に入ってるから。貴女たちが最初に言ってた写真はきっと、たまたま麗しき若君と映ってただけ」

「へぇー、そうなんですね。むしろ真紘ってファンの中では麗しき若君って呼ばれてるんだ。ウケるね。今度鳩子ちゃんもそう呼んでみようかな?」

「止めてよ。そう呼べるのは、ファンクラブ会員が二〇番台の会員だけなんだから」

 ファンクラブ会員の意地が籠った視線で、福原先輩が笑いを堪えている鳩子を睨む。けれど鳩子はその視線に臆した様子はない。

 きっと、これは後で真紘を「麗しき若君」と呼ぶだろう。そして希沙樹と季凛から怒られる。

 簡単に予測できる一連の流れを頭に想起しながら、名莉は福原先輩に頭を下げた。

「ご協力、ありがとうございます」

 次に向かうべきは、一年二軍の生徒であるハンナ・ベルンシュタインという女子生徒の元だ。

 けれど、この明蘭にセツナたち以外で外国から来た生徒なんて居ただろうか?

 そんな疑問を感じながら、名莉たちは福原真里菜の部屋を後にした。



 二軍の寮に戻り、鳩子は名莉と共にハンナ・ベルンシュタインの部屋の扉をノックしていた。

「ハンナって子いる――?」

 鳩子がそう声を掛けると、中から「はい、はーい」という愛想の良い返事が返って来た。

 そして部屋を開けてきたのは、やや彫が深めだが……日本人っぽい、髪を後ろで二つに縛った女子生徒だ。

「もしかして、ハンナ・ベルンシュタイン?」

 鳩子がやや自身なさげに訊ねる。

 すると部屋から出てきた女子生徒が頭を頷かせてきた。

「そうだけど? 大酉さんたちがあたしに何か用事?」

 鳩子に返事をしてきたハンナの口調は、生粋の日本人と同じイントネーションだ。名前と顔、イントネーションのギャップに、鳩子と名莉がしばし面を喰らう。

「まぁ、用はあるんだけど、その前に一つ訊いて良い?」

「どうぞ、どうぞ」

「ハンナって、随分外国人っぽい名前だけど、ハーフか何か?」

「ピンポーン。実はセツナと同じくドイツ人の父親に日本人の母親なんだよね。まっ、日本生まれで日本育ち。ドイツへの渡航歴0だし、日本語と勉強した英語しか話せない似非ドイツ人だけどね」

「そうなんだ。どおりで……」

「セツナと違うと思った?」

「そりゃあ、まぁ……」

 鳩子が正直に、ハンナへと頷く。するとハンナがやれやれと言わんばかりに首を横に振って来た。

「違うのは当然。セツナは成功系ハーフ。あたしは失敗系ハーフだもん。もう最初クラスが同じになったセツナからドイツ語で話しかけられた時は焦った~。宇宙語を話してるのかと思ったもんね。あたしの父親、ドイツ人の癖にほとんど家でも日本語しか話さないからさぁ。あっ、ちなみに漢字検定1級習得ね。いぇーい」

 そう言って、ハンナがピースサイン。

「そうなの? 家で母国語を話さないなんてハンナのお父さんも変わってるんだね」

「うん、何か日本のわびさびが胸キュンポイントだったらしくて、心では自分を日本人だと思ってるみたいよ。前世は日本人だったとか言ってた。もしかしたら、そこら辺の雑草だったかもしれないのにね」

 あっけらかんとしたハンナの言葉に、鳩子たちは頷くしかない。ただ、これでハンナの名前と見た目のギャップの謎は解けたとして……本題はここからだ。

「ねぇ、一つ上の先輩から聞いたんだけど、ハンナは写真部で、真紘の隠し撮り写真を売ってるって聞いたんだけど……」

「ああ、もしかして輝崎君の写真購入希望者? いいよ? 結構、輝崎君のはラインナップ揃ってるから」

「いやいや、違う、違う」

「えー、じゃあ……SSランクのイケメンで言うと、行方先輩? それとも陽向君? 隠し撮りが難しいから、ラインナップは少なめだけど、條逢先輩? はたまた黒樹君?」

「狼のまであるのっ!?」

 思わず、鳩子と名莉が目を輝かせて訊ね返す。するとハンナがニヤリと口角を上げてきた。

「お客さん、勿論ありますよぉ~。安定的な輝崎君と共に売上を伸ばしてるのが黒樹君だからね。ウチの目玉商品」

「勝手に狼を目玉商品にしないで。でも、欲しい……」

 名莉が悔しそうに、けれど物欲しそうにそう呟く。鳩子も全く名莉と同意見だ。そして、鳩子たちの前に並べられる狼の写真。

 その中にはやはり、自分たちと一緒にいる狼の姿もあるが……どれも無防備な狼らしい写真ばかりで、良い写真だ。秀作たちがコソコソ売っている写真とは、レベルが違う。

「やばい。全部欲しい」

「私も。これ全部購入」

「はい、毎度ありぃっ!」

 ハンナが撮った写真を購入し、ホクホク顔の鳩子と名莉。

「また、新しいのが撮れたら二人にメッセージ送るね~」

「はーい。楽しみにしてる……って、狼を盗撮してたのはハンナだったのか!!」

 鳩子が自分の使命を思い出したかのように叫ぶ。


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