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隠し撮りバスターズ2

 と言っても、多分奈緒が求める様な内容はあまり持っていない。

 きっと隣にいる鳩子も同じはずだ。だから、奈緒に話す内容を探すために、黙っていると奈緒が呆れたように、溜息を吐いてきた。

「黒ちゃんに、大したアプローチを掛けられてないみたいね。ダメでしょ? 好きな人を落としたいなら、もっと中国の選手みたいにグイグイと押し迫んないと」

「「グイグイ……」」

 奈緒の言葉に、鳩子と名莉が二人で固唾を飲んだ。すると、奈緒がニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべて、徐に端末を弄り始めた。

「ちょっと待ってね……奥手な二人のためにプロっぽい人を呼び出したから」

「プロ? 明蘭の女子にそんな恋愛マスター居ましたっけ?」

 鳩子が不思議そうに奈緒に首を傾げさせる。すると奈緒が心外そうに目を眇めさせた。

「ちょっと、明蘭の女子を舐めすぎじゃない? そりゃあ、彼氏がいる子だっているわよ。ただその、男女の最終段階に行ってないだけで」

「なるほど……」

 奈緒の言葉に名莉が頷く。

 確かに九十五パーセントの生徒が未経験だからって、恋人がいないというわけではないだろう。

 そして、奈緒が誰かを呼んで五分ほど経ち、部屋に入って来た人物を見て名莉たちは思わず目を見開いた。

「うふふ。三田先輩が言っていた重要案件っていうのは、お二人の事でしたか」

「えーっと、一軍の如月さん?」

 鳩子が少し呆気に取られた様子で、目をパチパチと瞬かせている。けれど内心で驚いているのは名莉も一緒だった。

 お淑やかそうに見える雪乃は、奈緒が言う恋愛マスターそうには見えない。どちらかというと自分たち寄りにも思えてしまう。

「二人とも、この子の見かけに騙されちゃ駄目よ? この子、見かけに寄らず経験豊富でピロトークも上手なのよ」

「嘘っ!?」

「ふふ。それほどでも……」

 驚く鳩子にゆったりとした笑みを返す雪乃。どこから見ても奈緒が言う、そっち系の話が得意そうには見えない。

 けれど、そんな事を名莉が思っていると雪乃が先手を打って来た。

「お二人は、黒樹君のことが好きなんですよね?」

「如月さん、ド・ストレート!!」

 直球玉を受けて、顔を赤くしながら面喰らう名莉と鳩子を余所に、奈緒が一気に盛り上がり始める。

「この子たち、見ての通り奥手なのよ。だから、その奥手さを何とかするように如月さんが良い助言を送ってあげてよ」

「ダメダメな私でお役に立つか分かりませんよ? なにせ、私が見た所……黒樹君はかなりの慎重派ですから。きっと、相当な事がない限り向こうの方には、行き難いかと」

「向こうの方向って、どっちっ!?」

 赤面の鳩子が、思わず雪乃に聴き返す。すると雪乃が含みのある笑みを返してきた。

「御想像にお任せします」

「うっ、返しが上手い!!」

「それから、助言的な事を言うと、黒樹君は自分を支えてくれる人が好みだと思いますよ?」

 思いも寄らなかった雪乃の言葉に、名莉と鳩子が耳をそばだてる。

「支えてくれる人……」

 名莉が思わず復唱すると、雪乃がにっこりと満面の笑みを向けてきた。恥ずかしくなって、名莉は身体を小さくする。

「まぁ、私の見解ですが……きっと輝崎君なんかは自分を立たせてくれるような人が好みそうですが……」

「ああ――、分かるかも」

 奈緒が雪乃の言葉に同意するように頷く。

 確かに、真紘は叱られることが少ないだろう。だからそういう人物の方が真紘には良い刺激になるのかもしれない。

 つまり、これを考えると狼が『支えてくれる人』が好みという見解も間違ってないのかも? と思ってしまう。現に狼の隣にいる小世美は、狼がうっかり見落としていた事をフォローするのが上手だ。

 名莉がそんな事を思っていると、隣の鳩子が……

「ヤバい。鳩子ちゃん、結構、狼のこと支えてない?」

 と前向き思考の事を呟いている。

 確かに、鳩子は情報操作士として名莉たちには出来ないフォローを狼に入れている。否定はできない。

 私には、何かあるだろうか? 狼の支えになっているようなこと?

 名莉がそんな事を考えていると、名莉たちの耳に「ピピッ」という音が微かに聴こえた。音に反応した名莉が急いで、部屋のドアを開ける。

 けれど、そこには誰もいない。

「さっきの音って……」

 訝しげに名莉が眉を潜めると、あっけらかんとした表情の雪乃が口を開いてきた。

「誰かがさっきの会話を録音していたようですね……」

「メイっち、しまったね。まんまと狼のストーカーに有力情報を与えちゃったよ」

「迂闊だった……」

「輝崎君のファンとは考えないんですね……」

 けれど名莉と鳩子の中で、真紘のファンという選択肢は消えていた。鳩子がすぐさまBRVを取り出して、何かを調べ始める。

「因子を使った形式はある。けど……」

 鳩子が犯人の手掛かりを掴んだと言いながら、雪乃の方をジト目で見る。

「何で、如月さん……さっきから無駄に因子を放出してんの? ストーカーの因子の気配が打ち消されんじゃん? ちょっと止めてよ!!」

 にこにこと笑う雪乃に鳩子が文句をつける。けれど雪乃は威嚇する猫でも見る様な感覚で、まったく動じていない。

「いえ、すぐに犯人が見つかってしまったら……詰まらないと思いまして。ささ、犯人に繋がるヒントは、三田先輩が持っているようですし、気長に犯人に辿り着きましょう」

 この人、完全に楽しんでる……。

 笑顔を絶やさない雪乃を見ながら、名莉は小さく溜息を吐いた。別に自分たちはゲーム感覚で、狼のストーカーを探しているわけではないのに。

 しかし、雪乃が犯人を特定する因子の気配を消してしまった以上、当初の予定通り……奈緒から犯人に通じる情報を聞くしかなさそうだ。

「三田先輩、お願いです。私たちの最初の質問に答えて下さい」

 名莉がじっと奈緒の顔を凝視して、頼み込む。すると奈緒が肩を竦めてから、とある男子寮の部屋番号を口にしてきた。

「そいつが何かしら知ってると思う」

 奈緒から最初のヒントを得た名莉と鳩子は頷き合って、すぐさまその部屋へと駆け出した。

「青春ですね……」

 おっとりとした声で呟く雪乃の声を耳にしながら。




 奈緒に教えられた部屋は、二軍の二年男子の部屋だった。

「すみません。田部先輩っています?」

 鳩子が躊躇いなく部屋のドアをノックして、声を掛ける。すると、部屋の中からバタバタという音が聴こえてから、少し経ってドアが開いた。

 部屋からの物音に驚く鳩子たちを余所に出てきたのは、黒ぶち眼鏡を掛けた、ひょろい印象を受ける男子生徒だった。

「……田部先輩ですか?」

 鳩子の隣にいた名莉が訊ねると、鼻を啜り上げてから出てきた男子生徒が頷いてきた。そして、何故か名莉と鳩子の顔を見ながら挙動不審になっている。

 あ、怪しい……。

 鳩子は何故か身体を無造作にくねらせながら自分たちを見る田部先輩に、怪訝な視線を送る。けれど田部先輩は気にした様子も無く、少しどもりながら口を開いてきた。

「そ、それで俺に何か用かな?」

 友好的な笑みを浮かべようとしているのだろうが、その表情が緊張してなのか引き攣り……あまり好感を持てない笑みになっている。

 これは、女子慣れしてない男子の特徴が顕著に出ている。

「実は、少し田部先輩に聞きたいことがありまして、良いですか?」

「あっ、はい。俺に答えられることなら……」

 何故か年下の自分たちに敬語になる田部先輩。しかも、何故かソワソワしている。何かのアンケートとか思ってるのかな? いや、別に悪い人ではなさそうだけど……。

 この先輩が狼のストーカーについて知ってそうには、全く見えない。

 もしかすると、奈緒にからかわれたかもしれないと、鳩子は早くも三田奈緒情報に疑念を抱き始めた。

 けれどここまで、来たのなら聞くしかない。

「実は……ろ、いや一年の黒樹君が誰かに隠し撮りされてるかもしれなくて、それについて何か知ってたら教えて欲しいと思って」

 駄目元で鳩子が田部先輩に本題を切り出す。地味に隣にいる名莉が「よく、訊いた」といわんばかりに、小さくガッツポーズをしているのが見えた。

 どうやら名莉も訊くか、訊かないか迷っていたらしい。

 そして、自分たちの目の前にいる田部先輩は両手を合掌ポーズで口許に当てながら、「んー」と唸っている。

 知ってるんだか、知ってないんだか判断し辛い反応だ。

「ちょっと、待って」

 田部先輩がそう言って、部屋の奥に入って同室の男子と何やら早口で話している。鳩子がそっと部屋の中を覗き込み、思わず目を見開いた。

 中には、色々な機械の部品などが散らばっていて、電気コードが乱雑に散らばっていたからだ。部屋からは、電気工具でも使ったのか機械油の臭いが漂っている。

「くっ、こういう人たちが情報操作士=機械オタクというイメージをつけてるのか」

「鳩子、どうしたの?」

 部屋の中を見ていない名莉が、鳩子の嘆きに首を傾げている。

 すると、そこへ部屋の電気コードに足を取られコケそうになっている田部先輩が眼鏡を掛け直して鳩子たちの元にやってきた。

「ちょっと、俺じゃなくて中にいるもう一人が知ってるから、部屋に入って来て」

 田部先輩にそう言われ、鳩子たちは機械油の臭いがする部屋へと足を踏み入れる。

「凄い……機械のジャングル」

 鳩子の前を歩く名莉が、電気コードだらけの部屋を見ながら感嘆を漏らしている。そして部屋の奥へと進むと、田部先輩の奥に壁に寄りかかりながら座る、もう一人の男子生徒がいた。

「俺の同室の木村。今、端末のアプリを開発してるんだ。詳しくは木村が知ってるよ」

 木村先輩は、やや肥満気な体型で目はもったりとして、気だるそうに見える。

「あの、さっき田部先輩にも訊いたんですけど……一年の黒樹君が誰かに盗撮されていて、それをしてる人の手掛かりを聞きに来ました」

「あ――……、それ、触ったら駄目!! 汚れる!!」

 名莉の横で、見慣れない機械に少し触れようとしていた鳩子に、もったりとした顔の木村先輩が、凄い剣幕で鳩子に怒鳴ってきた。

 汚れるって……。手を引っ込めた鳩子がジト目で口を尖らせる。

 すると木村先輩も鳩子をジト目で睨んできた。

「おまえ、俺っちの大事な機械に触ろうとしたな? これだから三次元の女は……」

「なっ!」

 確かに勝手触ろうとしたのは悪かったかもしれないけど……こんなブツブツ文句を言われるほどでもないはずだ。

「鳩子、落ち着いて。今は情報を入手するのが先」

 目くじらを立てる鳩子を名莉が宥める。するとピリッと張り詰めた空気にオロオロとしていた田部先輩が胸を撫で下ろしてきた。

「ほら、木村もこの前、黒樹の写真を落とした女子を見たって言ってただろ? それを話してさ」

 この場を早く治めたいのか、田部先輩がそう言うと木村先輩が鳩子たちの方を煙たそうに一瞥してから、

「三次元の礼儀知らずな雌豚共に、与える情報なんてなんもないんだけど……居据われてもウザいしな。教えてやるよ。一軍の福原真里菜。そいつんとこ行けよ」

「……ありがとうございます」

 名莉が淡々とした口調でそう言うと、鳩子の腕を引っ張って部屋を後にした。名莉に腕を引かれた鳩子は、木村先輩に対する噴怒に燃えていた。

「あの性悪肥満野郎……後で覚えてろよ……」

 狼のことがなければ、今すぐにでもアイツが作ってたアプリを滅茶苦茶に破壊している所だ。そんな鳩子の肩を名莉が、軽く叩いてきた。

「鳩子、あの人に裂く時間なんて無駄なだけ。だから落ちついて」

「まぁ、そうだけどさ……」

「それに我慢した甲斐あって、有力な情報は得られた」

「屈辱的だったけどね」

「あの人の言葉は、同じ人間の言葉として捉えちゃ駄目」

「メイっち……、涼しい顔してる割に酷い事言ってるよね?」

「そう? 気の所為」

 もしかすると、表情を崩さなかっただけで名莉も内心で怒っていたのかもしれない。

 鳩子はそんな事を思いながら、一軍にいる福原真里菜の元に向かった。

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