ナンバーズ
「あーあ、なんか楽しい事はないのかね~」
ソファーに寝そべりながら、フォースは欠伸をしていた。
それを真向いのソファーに座り、武器のメンテナスをしているイレブンスは呆れた表情で見ていた。
イレブンスは、黒色のサラサラな髪に、鋭い目つきをしている青年だ。見ためからすれば、年は十八というのがいい線だろう。だが、本当の年齢なんてフォースにはどうでもよかった。
「俺たちが、こんな所で干されてるのが、誰のせいなのか自覚していってんの?そこの没落中年」
イレブンスには、一回り上のフォースに対しての敬意というものはない。
むしろ、嫌味と嫌悪の視線で見ている。
「まったく、今のガキは言葉が悪いの、なんのって・・・おじさん、傷ついた」
「死ね」
「うわっ、あっさり切ったね。またまた傷ついた」
そういう割には、フォースの口元は、笑っている。
ここはトゥレイターの動員たちの軍事基地だ。基地には様々な設備があり、イレブンスたちがいる場所もその一つで、上から割り当てられた自室だ。
自室には、必要最低限の家具しかない。そのため、部屋は殺風景で殺伐としている。
イレブンスとフォースが、自室での、待機命令を受けたのは、二週間ほど前のことだ。
二週間前、イレブンスとフォースはイザナギを入手するために明蘭学園に潜伏していた。だが、その作戦は、イザナミを持つアストライヤー候補の輝崎真紘に阻止された。じかに真紘と戦ったのはフォースだが、一部始終ならイレブンスも見ている。
確かに輝崎真紘を見た時に、他の候補生よりも強いとは思ったが、勝てないとは思わなかった。それなのにイザナギを入手せず、丸腰のまま帰還を選んだフォースの考えが不快で仕方なく思えた。それに加えて、作戦失敗ということもあり、今は完全に干されている。
ありえない。自分は干されるためにここにいるわけじゃない。そう思いイレブンスは軽く舌打ちをした。
「まぁ、そんなに焦るなよ、イレブンス。他の連中じゃ、イザナギはダッシュできないさ」
禁煙パイプを口元で、遊ばせながら何の脈絡もなくフォースが笑っている。
「根拠を出してから、そういうことは言えよ」
「根拠?」
「ああ」
「はは、根拠ならあるよ~」
「へぇ、それは驚きだな。言ってみろよ」
挑発するような口調で、フォースに言葉を紡がせる。
「好奇心旺盛なのは、いいね~。若いねぇ」
「そんなのは、訊いてねぇよ。さっさと本題を話せ」
苛ついた声で、フォースを威嚇したが、フォースは特に気にしていない。
「ほら、また焦る。まっ、いいけどな。まっ、理由は簡単だ。あいつは俺たちしか倒せない」
「すげー、自信じゃん」
「伊達におまえよりは、生きてないんでね」
「ふん」
鼻を鳴らして、イレブンスは白けた表情になる。
するとフォースは、寝そべっていた体を起こし、イレブンスに怪しげな笑みを浮かべる。イレブンは、こういうときのフォースの笑みは嫌いではなかった。
こういうときのフォースは、絶対なにかを企んでいるときというのを知っているからだ。まるで、子どもが悪い悪戯を考えたときのような笑みをする。
いい年の癖に。と心の中で毒づくが、一方でイレブンスはワクワクしている。
今度は何を起こそうというのだろう。
フォースの笑みは、イレブンスを期待させるには、十分すぎる効力を持っていた。
だから、その笑みを瞬きせずに見る。
「・・・もうすぐだ。もうすぐ、イザナギが自分から顔を出す。だからその時に俺らがイザナギを奪えばいいだろう」
「上にバレたら?」
「そんときは、そんときだろ。結果を残せば上だって大人しくなる」
「ああ、そうだな」
やはりだ。イレブンスは確信し口角を上げ、心を躍らせる。
フォースは、何か重要なことを知っている。それがどんな事なのかは、予想できないが、そんなのは関係ない。今はアストライヤーという妄想連中を叩きのめせれば、それでいい。
「おまえって、戦い好きなわけ?」
「はぁ?」
唐突なフォースの問いに、眉を潜める。
「いや、だってさぁ、今の自分の顔がどういうのか分かってる?」
「知らないね」
「言おうか?・・・敵と戦えるのが嬉しすぎて胸が高まってます。って顔してるぞ」
「へぇ・・・」
否定はしない。本当のことだ。フォースがどんな理由でアストライヤーを嫌っているのかは、知らないし、知る必要もない。ここに入っているということは、自分と同じでアストライヤーを潰したいという気持ちに、変わりない。
トゥレイターとは、アストライヤーに反逆するための者たちだからだ。
だから、仲間だからといって馴れ合いは不要。そんなことをしている者がいれば、イレブンスは鼻で笑っていただろう。なんてくだらない奴等なんだと。
一面ガラス張りの窓から、満月から少しかけた月をただ黙って、イレブンスは見つめていた。早くアストライヤーと戦う日を心待ちにしながら。