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反逆の始まり4

 南米のベネズエラに向かう輸送機の前で、立たされていた出流たちは色彩柄の軍服に身を包んでいた。そこに駐留する米国軍の支援兵士として向かうためだ。

「まず、これから四名ずつ名前を読み上げて行く。その四名とは連携を取りながら任務を行うように。また……不審な行動をする者がいたら直ちに対処し、上に報告するように」

 そんな前置きをした上官が、次々に名前を読み上げ、列を組み直して行く。

「次の部隊、一号棟・コールサイン、22キアラ・オニール、二号棟・コールサイン38、ダイチ・モーガン、三号棟・コールサイン17、クラリス・ハイド、五号棟、コールサイン96、イズル・ササクラ」

 名前を呼ばれた順で列に並ぶ。

 列を編みながら、出流は内心で辟易としていた。腹の底では何を考えているのか分からない奴等と小隊なんて組みたくない。きっとそう思っているのは自分だけではないだろう。

 小さく溜息を吐いていると、前から二番目に並んでいる大柄な男、ダイチが自分の方を見ている事に気がついた。けれど、出流がその事に気づいたのが分かると、すぐに顔を前へと戻してきた。

 ダイチという名前からしても、この男は英語圏内に住む日系だというのが分かる。けれど、この時の出流は、同族意識などの感慨は抱けなかった。

 名前が日系だとしても、体格は大きく顔の造りも外人の要素が強い。それに、ここにいる奴等だ。安易に信用はできない。

 出流は視線を下げたまま、ベネズエラに向かう輸送機へと乗り込んだ。

 自分の隣に座ったのは、ふわっとした長い金髪とライラックの瞳が印象的な少女、キアラ・オニールだ。一瞬だけ目が合うと、丸い目を瞬かせて少し気まずそうに視線を別の場所へと移している。肩幅も狭くして少し萎縮している様子だ。そんなキアラの前に座っているのは、同じく絹糸のように綺麗な長い金髪を腰のあたりまで伸ばし、長い足と腕を組みながら目を瞑っているクラリス・ハイド。クラリスの横にいるダイチは、端末を見ながら黙っていた。

デトロイトの基地からシウダー・グアヤナまでは普通の軍輸送機で八時間程度。大きな貯水湖がある都市で、そこから流れる河からカリブ海や大西洋にも出ることができる。

 トゥレイターの武器庫があるのは、丁度その貯水湖から一キロほどしか離れていない場所だ。

 上の話だと、武器を密輸している奴等と国家警備隊の衝突を契機に今の戦闘が始まり、そこに国際防衛連盟の奴等が国家警備隊側を支援するという形で戦いに参加してきたらしい。

 アストライヤーたちにとっても、手を焼いている反逆組織の物資パイプを切断したい考えなんだろう。

 しかも今の戦況はこちら側が劣勢。武器庫の近くに陣営があるといっても、安い消耗品のように使い回される戦闘員と、精鋭の設備で訓練を受けている国際防衛連盟の隊員とでは、人的能力にも差が出てくるし、使う武器の性能も大きく変わってくるのだから当然だ。

 大事な武器の経由地を死守するためと言ってはいるが、ナンバーズを別の場所に向かわせ、戦闘員ばかりを使っていることを考えると、ここの重要度が低いというのは明白だ。

 それでも、自分たち戦闘員を増援として送るのは、海老で鯛を釣るような感覚なのだろう。

 戦闘員だけで、向こうに痛手を負わせられれば良い。そんな考えだ。アストライヤーたちも、自分たちの負うリスクが少ない状況で、敵物資の流れを一つ潰せるという考えで動いている。

 机上の計算だけで、よくこんな都合の良いことばかりが考えられるもんだ。

 腐ってる奴等が考えることは、どこまでも腐ってるってことか。トゥレイターにしても、アストライヤーにしても。

 違いがあるとすれば、その腐敗部分を隠すか、隠さないかの違いだけだ。

 出来ることなら、自分はそんな腐った部分なんて見たくなかった。見なくて済むならその方が良い。自分はただ何も知らず、呑気に暮らしたかっただけだ。

 あの時、フォースの手を取ったのは間違いだったのかもしれない。いや、平穏な暮らしをしたいなら、絶対にそうだ。

 けど、平穏な暮らしを取るために、見てしまった物を無視することは、自分にはできない。なかった事にはできない。

 奪われたままなんて、嫌だ。自分から大事なものを奪った、アイツ等がいけしゃあしゃあと正義を掲げているのが許せない。

 もう自分の行きたかった道からは大きく脱線している。けれど、自分はそれでも進むしかない。後に引き返す道は存在していないのだから。



 目の前では飽きることなく銃撃音が鳴り響いていた。街の道には戦闘で壊れた瓦礫が山積みとなっている。出流たちがここに来て、すでに一週間が経過していた。

「向こうの建物の端に、敵数名が潜伏している。頼んだぞ」

 後ろにいる自分たちに、そう声を掛けながら正面に手榴弾を投げ込んだのはクラリスだ。

 手榴弾が起爆し、短い絶叫と激しい爆音が辺りに響き渡る。その音を聞きながら出流は、反対側から、自分たちに突撃するようにやってきた敵の四名を仕留める。

「この付近での敵は0。B地点、F地点の方向に敵の遊撃部隊が進行中みたい」

 情報操作士であるキアラが、急いで周囲の動きを報告してきた。今の所、キアラの情報は正確で、情報事態に信じる価値がある。それに情報操作士がいるのは、かなり運が良い。

 辺りが混乱する中で、正確な情報が得られるだけで生存率は群と上がるのだから。

「なら、俺はF地点に行く」

「わかった。なら、二手に分かれて進んだ方が良さそうだな」

 クラリスが頷き、他の二人を見る。

「俺は別にいいぜ」

「私も」

「なら、私とモーガンでB地点に。オニールとササクラでF地点に向かおう。連絡は変わった事があり次第すること」

 出流がクラリスの言葉に肩を竦め、キアラと共にF地点へと向かった。

 自分たちがF地点へと向かう最中、密輸連中が金で買ったのか、まだ一〇歳にもいっていないような子供が、大きなAK―47を肩から下げ、重そうに歩いている。

 キアラがそんな少年兵を見ながら、少し眉を寄せている。そんなキアラが妙に癪に障った。

「おい、情なんて持つなよ。そんな物に意味なんてないんだ」

 釘を刺すように、出流が横目でキアラを見る。するとキアラが表情を曇らせたまま、頷いてきた。

「分かってるよ」

 本当に分かっているのか疑問ではあるが、出流もこれ以上言及する気はない。自分の言葉をどう捉えるかは、最終的にキアラ次第だ。

 F地点に近づくにつれ、敵の数が増えてきた。色々な方向から銃弾が飛んできた。連射される銃弾を全て正面から相手にすることはできない。

 出流たちが建物の陰に身を潜めて銃撃をやり過ごす。だがその間にもっと遠くの方に陣地を構えているM1エイブラムスから、容赦ない砲撃が自分たちへとやってくる。

 砲撃は建物の陰に隠れただけでは、やり過ごせない。

「今から砲撃が飛んでくる軌道の正確な方向を教えろ」

「……一射目、この位置から左二〇度の方向。二射目、同じく左17度、三射目右に22度の方向からくる」

 出流の言葉に少し訝りながらも、キアラが即座に砲撃方向を答えてきた。

 出流はそこの方角を見て、因子を放出させる。

 キアラが示してきた地点の空間が歪み、その歪みの中に砲撃が飲み込まれていく。飲み込まれた砲撃の新たな飛翔先は、M1の真上。そして自分たちから約三〇〇メートル離れた所にいる敵遊撃部隊。

 砲撃により戦車が炎上し、遊撃部隊の隊員たちの身体が四散した。その光景にキアラが少し呆気に取られた表情を浮かべる。

「こんな技が使えるなら、どうしてもっと早く使わなかったの?」

「別に。どんな技をいつ使おうと俺の勝手だ」

 キアラの言葉に出流が素っ気なく答えた。額に滲む汗。疲れが異様な速さで身体に回る。けれどその疲れをキアラに気取られたくはなかった。

 弱っていることが知られる怖さがある。

 あんな事で……。

 キアラに気づかれないように、奥歯を噛みしめる。

「ふーん。じゃあ、また使ってもらえると有り難いかなぁ。情報操作士だとさっきみたいな攻撃に対処できないし。死にたくない」

 出流の様子に気づいていない様子で、キアラが軽い口調でそう言ってきた。

「死にたくないなら、どうしてここにいる?」

「死ぬためにここに入ったわけじゃない。私はただ……ここに来るしかなかっただけ」

「……そうか」

 苦笑するキアラの言葉に、短い相槌を打つだけに止めた。

 キアラが気づかぬフリで、話を上手く流したのが分かったからだ。キアラが上に多少のコネを持っているのは、知っている。

 きっと諜報活動を行っている上で手に入れたコネだ。どれほどのコネを持っているかは知らないが、前線に出されない程度のコネは持っているはずだ。

 疑問は残るが、答える気のない相手に質問を投げても時間の無駄に終わる。それに、キアラのコネを知るよりも、今の自分の身体に溜まっている疲労感の方が問題だ。

 いくら戦闘が続いているとはいえ、膝をつけたくなるような疲労感は異常すぎる。しかも、戦う前には、疲労緩和剤も打っている。

 それにも関わらず、因子を使う度に襲ってくるこの疲労感は何なのだろう?

 けれど、そんな疑問に意識を傾け続けることはできない。炎上を続ける戦車の後ろからまた新たな戦車がやってきているのが見えたからだ。



 次の日の戦闘は、トゥレイター側の明白な劣勢だった。理由は武器倉庫内にある弾薬などが目に余るほど少なくなり、因子を持たない戦闘員の穴を自分たちが穴埋めしなければならないからだ。

 そのため、敵に攻め込まれる隙間も空いて来る。

 同じ部隊のダイチは、頭部に敵の弾が横切ったらしく、髪の毛が血でべっとり濡れている。クラリスも左肩に負傷。キアラは負傷こそないものの広範囲の情報を一度に処理することを命じられているため、精神的疲労が色濃く顔に浮かんでいた。

 出流自身も、身体に残る疲労は濃い。けれど他の三人よりはまだ動ける。

「ササクラは、H地点に向かって敵の主力部隊の殲滅を行って欲しい。私はその補佐を。溢した敵の殲滅をモーガン。その補佐をオニールが担当」

 クラリスがそう言いながら、そこら辺にあった布で左肩の傷口をきつく縛る。出流はそれを見て、微かに目を細めさせた。

 クラリスの提案に、出流も含め異論を出す者はいない。すぐに行動が開始された。

 左肩を負傷しただけのクラリスは、まだいつものように動けてはいるが、頭部に負傷しているダイチとキアラの動きは鈍い。

 もしかすると、この二人は……

 出流の思考を切断するように、地面が大きく爆発した。近くに設置されていた地雷が起爆したのだろう。大きなクレーターが出来た所には、死に切れなかった傭兵や市民たちが悲痛な声で泣いている。聞き慣れた絶叫に何の感慨も起きない。

 ただ地雷付近にいた敵を銃撃で撃ち抜いて行くだけだ。隣に並走するクラリスも女が使うには不向きのデザートイーグルのグリップを握り、瓦礫の後ろに隠れていた敵を片付けて行く。

「後方から敵の数、三!! 弾が七発! 逃げてっ!」

 疲弊していたキアラが叫ぶ。けれど口にした精神的疲労からか情報はやや粗い。そのため、キアラの言葉が切れた瞬間には、銃弾が自分たちに向かって飛んで来ていた。

 反射的に跳躍し逃げる。

 けれど、そこでキアラの絶叫。

「だめっ!! そっちには地雷がっ!!」

 キアラの視線は出流へと向けられていた。しかし、すでに跳躍した自分の足先は、地雷が埋め込まれている場所に着地しようとしている。

 出流が舌打ちして、地面へと銃口を向ける。爆発には巻き込まれるだろうが、足を失うリスクはほんの少しだとしても、下がるかもしれない。

 そう思った矢先、出流の元に誰かが突っ込んできた。一瞬のことで状況の認識が送れる。自分に何が起きたのか分かったのは、背中をコンクリートの壁に打ち付け、自分の近くで背中から血を流して倒れているダイチを見てからだ。

「お、おいっ!」

 咄嗟に出流がダイチに駆け寄る。するとダイチが口から血を零しながら呻き声をあげながら、視線を出流へと向けてきた。

「ははっ。まさに間一髪だったな」

 砂塵や血や汗で汚れた顔で、自分へと笑みを向けるダイチ。そんなダイチに出流は呆然とし、困惑した。

 なんで、コイツは俺を助けた?

 小隊として一緒に行動はしていた。けれど特に会話した記憶はない。だからダイチが自分に対して何かの情を持っているとは思えない。

 それなのに、何故?

 困惑する出流と荒い息を繰り返すダイチの元に、クラリスが近寄って来た。

「モーガン、動けそうか?」

「……ああ、問題ない」

「わかった。……キアラ」

 クラリスが初めてキアラの事を名前で呼ぶと、キアラが少し身体を震わせ、驚いた様子でクラリスを見た。

「……なに?」

「比較的、敵が少ないルートを検索。それからこの付近に埋まっている地雷の数の把握をして欲しい」

「比較的、敵が少ないルートって……そんなの出来ない。だって、そんなことしたら上が私たちを敵前逃亡だと見なすかもしれないのに。貴女、何考えてるの!?」

 青い顔でキアラがクラリスに非難的な視線をぶつける。

 この戦いで戦争神経症になった人間は数多い。そしてその大半が戦線から逃亡するが、それを指揮官たちが許すはずもない。大抵は一人を見せしめのために拷問にかけ、残りは前線で酷使して戦死させる。

 上からすると弾薬も人兵も同価値として扱っていた。

 そんな状況を知っているからこそ、キアラはクラリスの提案に眉を寄せている。

「……だったら、俺が元のルートでH地点に向かう。おまえら三人はもう一つのルートを使え。後で合流だ。俺たちは二手に別れただけで、何の問題もない」

 出流がそう言いながら、地面に倒れるダイチの身体を起こす。

 そしてダイチをクラリスに預けると、三人の顔を見ずにそのまま当初のルートでH地点へと向かった。

 ここからは因子を出し惜しみするわけにはいかない。

 正面からやってきた敵を、撃たれる前に撃ち殺す。響き渡る銃声の後に飛び散る血滴の音。それで濡れた地面を蹴り、H地点へと向かう。

 硝煙の臭いに混ざって、腐った死体の腐臭がきつくなってくる。噎せ返りそうなほどだ。きっとどこかに、適当に掘った穴に死体が放り込まれているんだろう。

 その方向に、腹を空かせたカラスや野良犬が集まっている。咀嚼する動物たちの姿に、嫌な記憶が蘇り、押し寄せる嘔吐感を必死に抑え込む。

 ここで吐いている場合じゃない。

 ぐっと奥歯を噛みしめ、目標地点へと向かう。疾走する出流の頭上へ砲撃が降ってきた。

 舌打ちして、砲撃を避ける。敵はまだ崩れていない建物の上にいた。

「舐めんなっ!」

 出流が敵を睨みつけ、銃撃する。建物の上にいる敵は油断しているのか出流の銃撃に逃げようともしない。出流がいる地点から自分たちがいる所まで銃弾が届かないと思ったのだろう。

 しかし、出流の狙撃に距離は関係ない。視界に入った敵、全ての急所を銃弾が貫通する。

 油断している敵ほど倒しやすいものはない。息を切らしながら、出流は止めていた足を再び疾走させた。

 呼吸が荒い。アメリカにいた頃は因子を使っても、こんなに疲れることはなかった。何かおかしな事が起きているのは、明白だ。

 しかしだからといって、戦いを止めることもできない。

 H地点に出流が到着した頃には、地元の傭兵たちが積んだ土豪の後ろで、凄惨な姿で呻いている人間が数多く留置されている。殆どの者が動けない状態だ。

 前線に立って、国際防衛連盟の隊員たちと戦っているのは、がむしゃらな顔で銃を撃つ因子持ちの戦闘員だ。目が血走り、ただ敵を倒して楽になりたい。その思いだけがひしひしと伝わってくる。

 そんな自分たちを嘲笑うかのように、敵の保有する威力の高い武器は戦闘員たちをなぎ倒して行く。

 血眼になる戦闘員に冷めた視線を送る隊員たちに、怒りが沸き起こってくる。

 きっと奴等は、自分たちを馬鹿な狂人くらいにしか思っていない。ただの傍迷惑な、死にたがり連中としか思ってない。

 疲労が怒りで染められていく。

 お前らだって、裏では薄汚いことをしてる癖にっ!!

 気づけば出流は、前線の戦闘で敵に向かって攻撃していた。汎用型の銃口が因子の熱で溶け、曲がっても関係ない。涼しい顔して正義面している奴等の顔面を血で染めて行く。

 こいつ等は、間違ってる。勘違いしてる。卑怯な奴らだ。因子の熱を上げ、どんどん、敵の数を減らしていくことだけ考える。単身で突っ込んできた子供に、ここまでやられると思っていなかったのだろう。涼しい顔をしていた隊員たちの表情が一気に強張り、青ざめる。だがそんな顔もすぐに赤く染まった。

 といっても、数はまだまだ向こうの方が多く、怒りで奮起した身体も再び疲労感に足を引っ張られ始める。

 クソッ。何でこんな時に……。

 段々、頭が回らなくなり判断が鈍る。その所為で、敵の銃弾が左足に命中し、さらに身体の至る所に貫通していく。

 激痛が身体を駆け抜ける。口から呻き声が漏れる。

 そんな自分の前に、いつのまにかライフル銃型のBRVの銃口を突き出す男の姿があった。

 大丈夫だ。俺はこいつに殺されたりしない。こいつが引金を引いた瞬間に、その弾でコイツを殺してやる。自分にそう言い聞かせる。けれど、因子がうまく練れない。身体が上手く反応しない。何が……。

 男が引金に掛けた指に力を入れる。その瞬間乾いた銃声が辺りに響き渡る。血が視界を覆う。口の中に血が飛び込んできた。

 しかし嫌悪感よりも驚きの方が強かった。乾いた銃声の後に首が吹き飛んだのは、出流へとライフル銃を向けていた男だ。

「大丈夫かっ! ササクラ!!」

 凛々しい声が出流の耳に飛び込んでくる。勿論、そこにいたのは綺麗なモーブ色の瞳で自分を見るクラリスだ。

「驚かれるとは心外だな? 私は最初に言ったはずだ。君を補佐すると。それとも、私が嘘をついて君を見捨てると思ったか?」

 驚く出流にクラリスがクスッと笑みを一つ溢してきた。そんなクラリスからすぐに顔を背ける。正面から本音を言い当てられ、罰が悪くなる。

「先ほどのオニールの情報によると、敵は遠方から後退をし始めたらしい」

「……本当か?」

 クラリスが黙ったまま頷き、一拍置いてから口を開いた。

「この地点での隊員の消耗は、余裕綽々だった向こうからすると予想外の事態だった。だからこそ、安全策を取って陣形を練り直すという形を取ったんだろう。そう、表向きには……」

 目を微かに細めながら、クラリスが最後に意味深な言葉を付け足してきた。出流の表情が暗色に曇る。

「だが、私たちは生き延びた。それが現時点において意義のある結果だ。そう思わないか?」

 そう言って、クラリスが優しげな表情を自分へと浮かべてきた。

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