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必要な覚悟

「あはっ、それでノコノコ帰ってきたんだぁ。呆れを通り越して、もはや哀れレベルだよね」

 部室小屋で待っていた季凛がニコニコしながら、狼を嘲笑している。狼はそんな季凛の言葉に言い返せないまま、胸を痛めた。

 だがそれでも言い返せる言葉はない。事実なのだから。

「はぁー、真紘になんて言おう?」

 狼は古ぼけた部室小屋の天井を見ながら、力なく呟いた。真紘も頼りにしてくれているのに。真紘は綾芽との戦いで、強化されたイザナギと共に狼と自分で共闘すれば、何とかなると言っていた。それなのにこんな不慮の事態になってしまった。狼は心の片隅でどんなに特殊なBRVでも、普通のBRVと何ら変わりはないと思っていたし、強化だって簡単にできると安易な気持ちでいた。でもそれは大きな間違いだったのだ。

 狼は再びため息を吐いて、部室小屋にあるパイプ椅子に腰かける。

「まぁまぁ、そんな落ち込まないの。ほら條逢先輩もイザナギと認証コードが何か調べてみるって言ってたし、鳩子ちゃんも調べてあげるからさ。ほら、元気出して」

 鳩子がそう言いながら背中をバシバシ叩いてきた。鳩子なりに狼を励ましてくれいる。それはとても有り難いが、期待していただけに失望感は大きい。

「確かにいつまでも落ち込んでても仕方ないけど、やっぱりショックだなぁ」

 そんな狼の言葉を聞いてた季凛が

「どうする?ホントはイザナギに不良じゃなくて、狼くんの技量不足だったら?」

 と言ってきた。

 そんな季凛の言葉を聞いて、これまでにないくらいの絶句をする狼。沈黙するデンメンバー。

「・・・いや、それは流石にないんじゃない?」

「うん・・・そもそも技量不足だったらイザナギを復元できないだろうしねぇ」

「私も違うと思う」

 という狼に対してのフォローが、根津、鳩子、名莉から入る。だがそれもみんな視線を宙に泳がせながらの半信半疑状態だ。

 狼はそんな優しくも残酷なデンのメンバーの言葉に悶絶したくなった。しかもやはりそこに追い打ちをかける季凛。

「ありえるかもよ。だってよくあるでしょ?ゲームなんかでパワーアップしないとゲットできない技とかアイテムとか。もしかしたらイザナギもその用法で、輝崎くんの場合はイザナミを扱うのに技量が達してるから、イザナミはパワーアップが出来るのかもよ?」

 季凛の言葉は説得力が抜群にあり、納得せざるおえない。

「はは、やっぱり僕・・・学園去ろうかな・・・?」

「ちょっと、狼!あんた何早まってるのよ!?」

「そうだよ。狼、落ち着きなって!!」

「狼、頑張って」

 名莉たちが必至で狼を揺さぶりながら、狼を奮い立たせている。

「季凛、アンタが余計な事言って落ち込ませたんだから。なにか言いなさいよっ!」

 そう言いながら根津が季凛へと振り返っている。

 すると季凛は狼の前へと来て、豊かな胸部を強調するように中腰姿勢で狼の顔を覗き込んできた。

「あはっ。仕方ないなぁ。狼くんは季凛にどんな言葉をかけて欲しいの?それとも、言葉じゃなくて別の方法がいいのかな?」

 そんな言葉を季凛が艶のある目線を向けながら言ってきた。そんなコケティッシュさを見せる季凛の頭上に、鳩子がクロスチョップをきめている。

「誰がそこで色気を行使しろなんて言った?馬鹿者」

 見事なクロスチョップをきめられた季凛は不服そうに唇を尖らせ

「いたーい。どうして季凛がチョップされないといけないの?狼くんが弱いからいけないのに」

 と頭を擦りながら、ぶーぶーと文句を言っている。

 地味に季凛は、狼の胸に突き刺さるような言葉を言っているが、鳩子からのチョップを受けて天罰が下っているため、狼は気にしないことにした。

 実際自分が弱いのは本当の事だ。否定する意味もない。

 だがそれでも、やっぱり悔しさはある。自分は別にアストライヤーになりたいわけでもないが、弱いままでみんなの荷物になるのは嫌だ。だからこの現状をなんとかしなければならないのだが、どうしたらいいのかが分からない。

 狼だって根津や名莉に習いBRVの練習は行っている。別にその練習方法が甘いわけでも簡単なわけでもないが、何故か狼にはしっくりこない。いや、しっくりこないというより、物足りないのかもしれない。

 しかも習っているとは言っても、根津や名莉とはBRVの形状が違う。そのため一緒に練習しているのは主に瞬発力や体力といった基礎的な練習に過ぎない。

 やっぱり、真紘とかに頼むのが一番良いのかもしれない。だが、まだまだBRVを持って日の浅い狼が真紘について行けるのかが心配だ。

 真紘だったら快く練習に付き合ってくれるだろうが、そのせいで真紘の練習を引っ張るというのも、悪い気がする。

 でも、これも建前なのかな。

 ふと狼はそう考えた。まだ狼はここにいるみんなにあって、自分にはない強くなるための覚悟というものを決められていない。だから自分は前に進まないまま足踏みしているのではないか。そう考えてしまう。

 ぼんやりと狼が考え込んでいると

「おーい、ちゃんと季凛の話、聞いてる?」

 と言いながら季凛が狼の目前で手を振っている。

「あ、ああ・・・ごめん。聞いてなかった」

「もう、季凛は同じこと言うの嫌いなのに。・・・だから明日の準備は出来てるのか訊いてたの」

「明日の準備?」

「あはっ。狼くんってやっぱお頭弱いね。昨日トゥレイターの研究所に奇襲しかけに行こうって言ったでしょ?もう忘れちゃった?」

「ああ!」

 確かに言っていた。

 狼はすっかり今日のサマー・スノウ宣戦のことで、頭がいっぱいになり忘れていた。そんな狼を見ながら、季凛が肩を上下させる。

「それで、狼くんは明日行けるの?みんなは大丈夫だって」

 狼は根津たちの顔を見回してから、ゆっくりと頷いた。

「行ける」

 明日行けば、何かが変わるかもしれない。狼はそう感じた。




 あー、苛々する。

 イレブンスはトゥレイター本部の一室で殺気立っていた。理由は簡単。目の前にいるEU地区から戻ってきたナンバーズの所為だ。

「やっぱ、おまえら俺がいないとダメダメじゃね?しかも、イレブンスなんて無人島で遭難って・・・マジ、ダサくねぇ?」

 という独特な話し方で、シックススが哄笑している。

 シックススはスペイン出身の青年で、自分に自信があり自分に酔っている節がある。シックススもファーストと同じ様に長髪なのだが、ファーストとは違い髪を束ねたりはしていない。

 だが自分に酔っているシックススは女子顔負けの、髪艶を保持している。

「ったく、戻ってこなくてもよかったのに」

 舌打ちしながらイレブンスがそう言うと、シックススが人差し指を突きだしながら、指を振っている。

「自分がダサいからって、俺に当たるなし。てか、おまえがダサイのは元々だから今さら心配しても無駄じゃね?」

「うぜー。おまえの指、圧し折るぞっ!」

 イレブンスがシックススの人差し指を握りながら、威圧する。

 するとシックススが音もなく消えた。

「くそ、テメー。また・・・」

 イレブンスがキョロキョロと周囲を見渡すと、少し離れた壁にシックススが寄りかかっていいた。

「ふむ。いつみても見事だな。貴様の透視化は」

 イレブンスとのやり取りを見ていたファーストが感心した声を上げる。

「当たり前じゃね?なんせ俺だし」

 シックススは鼻を高くしている。それをイレブンスが呆れながら見ていると、後ろから肩を叩かれた。

「そんな眉間に皺ばっか寄せてると、せっかくレディーが喜びそうな容姿してるのに、勿体ないぜ?」

 そう言ってきたのは、イタリア出身の青年。セブンスだ。

 セブンスは無類の女性好きで、暇があれば女性を口説き回っている。はっきり言ってどうしようもない奴だ。

「うるせーよ。俺はおまえとは違う」

「ははーん、強がるなって。俺たち男はどんな女性も平等に喜ばせる。それが男の宿命なんだ」

「なにが宿命だよ。くだらねー」

 イレブンスがそう言うと、セブンスがやれやれと首を横に振っている。

 するとそこに

「あー、シックススとセブンス!」

 という驚きの声を上げるサードと裏腹に、少し後ろにいたナインスが明らかに嫌悪感たっぷりの表情を浮かべている。ナインスは無人島で受けた傷はすっかり完治したようだ。

 そんな二人にセブンスがにこやかな笑みを浮かべて手を振っている。

 サードは普通に振り返してから、イレブンスの腕に巻きついてきた。ナインスは目線も合わせず無視。以前セブンスに散々口説かれていたため、嫌っているのだろう。

「相変わらず、つれない女性たちだ・・・」

 少し憂いを帯びた視線で、きめ顔を決めいているセブンス。

 それを見て目をぱちくりさせているサードと、呆れているイレブンスとナインス。

「あとの四人は?」

 冷たい口調でナインスがセブンスに訊く。

 すると、セブンスが「ああ」と声を上げた。

「あいつ等ならまだ、中東辺りにいると思うぜ」

「ふーん」

 納得したように、それ以上ナインスは訊ねなかった。

 すると部屋にあるソファーで寝そべっていたフォースが口を開いた。

「随分、賑やかじゃないの。いいねぇ。若いって。こういう楽しい時には、何か起こりそうだよねぇ~」

「楽しいことって、なんだよ?」

目を眇めながらイレブンスがフォースに聞き返す。

「別に具体的に分かってるわけじゃないんだけどね?長年の感って奴かな?」

 そう言いながらフォースがニヤリと笑う。

 またこの笑いか。

 イレブンスはそう思った。

 この笑みを浮かべたフォースは、これから何かが起きることを知っているのだろう。だがそれをどんなに言及しようと、口を割るような男ではない。そのことをイレブンスは知っている。

 だから事が起こるのを待つしかない。

「そんな事はどうでもいいんだけどさぁ、どこにいるんだ?」

「どこにって誰が?」

 辺りを見回しているセブンスにイレブンスが訊くと、セブンスがフォースとは違った笑みを浮かべた。

「ほら、俺たちより前に来たっていう、美人のボスだよ」

「ああ、あいつか。あいつならお前らと入れ違いに、出て行ったぞ」

「なんてペテン師の悪戯だ。俺と美女の出会いを阻むなんて・・・てか、おまえ女性のことをあいつ呼ばわりはナンセンスだぜ?てか、おまえ、なんか馴れ慣れしくないか?」

 訝しんだ表情でセブンスがイレブンスを見ている。

「別に普通だろ?おまえ、あいつのことを知らないからそう言うんだよ。あいつを見たら拍子抜けするぞ?」

「またまた~。おまえ、手を出してないだろうな?」

「出してねぇよ!このスケベ野郎」

 そう言いながら、セブンスにど突く。

「そうそう。あたしの彼に変な言いがかりやめてよね」

「おっ、サード。ついにゲットしたか?もし、そいつに飽きたら俺のとこ、来てもいいからな」

「このあたしがイレブンス以外の男に行くわけないでしょ」

「そりゃあ、残念だ」

 そんな会話を勝手に進めている二人。

「ふざけた妄想話に俺を巻き込むな。てか、サード。おまえいつまでくっついてんだよ!」

 イレブンスが自分の腕にくっついているサードをひっぺ剥がす。「いやん」というこれまたふざけた声を出しながら、サードが不満たっぷりの顔をしている。

 そしてそんな所に、失笑を浮かべたシックススが近づいて来た。

「おまえらの話下らなすぎじゃね?もっと俺に相応しい知的な話を話せし」 

「なにが知的だよ。一番、おまえに似合わないだろうが」

「はっ!何自分の事言っちゃってんの?おまえ、頭逝ってね?」

そんなシックススの言葉を聞きながら、イレブンスはアサルトライフルを復元していた。

 ここまで来れば、言葉は不要。

 シックススイレブンスによる攻防戦が始まっていた。

 イレブンスの周りは空間が水面模様のように歪み、幾つもの銃弾が飛び交っている。それをシックススも透明化して、避けている。

「あらら~。まったくみんな戦い好きで嫌だねぇ。・・・・身内でやらなくても、どうせすぐに暴れられるのになぁ」

 勿論、そんなフォースの言葉は誰の耳にも届いていなかった。


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