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BIGなヒーロー

 自分の前に現れたライアンたちが、左右に別れて怪物たちを殲滅し始める。ライアンの斬劇が怪物たちの胴体と頭を分断し、メタリックなマントを棚引かせるビリーは、怪物たちの頭上を飛行し、足で怪物たちの頭を踏み潰している。

正義(ヒーロー)の定義を言う前に、もっと早く来いよ。ったく、品がねぇー」

 しかもスペシャルな武器と言っていたのは、やはり前に見た時とデザインが少し変わったBRVのことなのだろうか?

 しかしそれにしては、開発の進捗が早すぎるような気がする。なにせ、アメリカはついこの間、第三世代機を世界に披露したばかりだ。これを考えると、まず次の世代のBRV開発に意向したとは考えにくい。むしろビリーにいたっては接種型だ。世代など関係あるはずがない。

 オースティンは怪物たちの頭を二丁の銃で撃ち落とし、どんどん前へと前進していく。

 辺りは、怪物たちの死骸や元々アスファルト舗装されていた道の残骸などが転がっており、足元が悪い。

 怪物たちの死骸の肉片を足で踏むと、少し弾力性のあるスライムのような感触だ。その感触にオースティンが眉間に皺を寄せる。まるで道端に落ちているガムを踏んだときのような不快さだ。

 きっと、ライアンが周りを気にせず怪物たちの残骸を飛び散らしている所為だ。

 オースティンの少し前を先行するライアンは、それこそ映画のワンシーンでも見ているかのような、無駄の多いド派手な動きで怪物たちを相手にしている。

 斬った後に、身体を一回転させる意味がどこにあんだよ?

 前で一回転したライアンを見ながら、オースティンは溜息を吐く。それだったら、まだ左の方で、怪物たちの足を踏み潰しながら進むビリーの方がマシだ。

 とはいっても、ビリーもいちいち口笛を吹いたり、言葉を通じない怪物相手に挑発している様がなんとも痛い。

「不機嫌そうな顔だな? まさか俺たちの武器がカッコよく改良されたからって、僻んでるのか?」

 呆れ顔を浮かべるオースティンに気付いたライアンが、勝ち誇ったような顔で見てきた。

「どこに俺が僻む要素が入ってるんだよ?」

「ハハッ。強がるなよ。俺的には青の方が良かったんだけどな。ディブ博士が赤の方が好みだって、勝手に赤にされちまったんだ」

「そんな話、訊いてねぇ―よ。むしろディブって誰だよ? むしろ変わったのは色だけかよ!!」

「ディブ博士は、俺たちのBRVの開発改良を担当するスペシャルエンジニアだ。おまえが元いた所にはいなかったのか? ん?」

 妙に自慢話っぽい口調で話すライアンに、オースティンは米神に青筋を浮かべる。怪物たちの死骸の中にライアンの屍を添えたい気持ちをグッと抑える。

 今はこんな馬鹿を相手にしてる場合じゃない。

 自分にそう言い聞かせながら、息を吐き出し自分と共にヘリから降りたジョージたちの姿を確認する。

 すると自分から少し離れた南東と南西の方に一つずつパラシュートが着地しているのが見えた。とりあえず、闇雲に空を飛び交う砲撃に当たらず目標地点に着地したらしい。

 よし。あとはアイツ等が兵士たちを上手い具合に先導すれば……

 オースティンがそんなことを思っていると、

「ちょ、うわっ、マジかよぉぉぉぉ」

 という落胆の声を上げながら、味方の砲撃に当たってしまったビリーが地面に落下しているのが見えた。

 マジかよ、言いたいのはオースティンの方だ。

「おい、何であいつ砲撃に当たってんだよ? パラシュートの奴等はちゃんと避けてるぞ!?」

 オースティンが、地面に落下したビリーの方を一瞥しながらライアンに訊ねる。

 すると目の前で、カッコつけて剣を揮っていたライアンがオースティンに首を振って来た。

「心配するな。あれくらいの攻撃じゃ、ビリーは屁でもないぜ」

 ライアンの言葉を聞きながら、オースティンがビリーの方へと向く。するとビリーが首の後ろに片手を当てながら溜息を吐いている。

「完全に戦意損失しているじゃねぇーか!!」

「大丈夫、大丈夫! 問題なんてあるもんか!」

 口ではそんなこと言いながら、オースティンやビリーの方をライアンはまったく見ていない。かなり適当な返事だ。

 これまでトゥレイターのナンバーズとして戦っていたアストライヤーたちが、こんなアホばっかりだと思うと……真面目にやっていた過去の自分に落胆したくなる。

 むしろ、こんな奴等にアメリカの代表を任せて良いのか? アメリカの未来が心配になってくる。こんな奴等に頼むなら、まだジョージたちに任せた方が安心なんじゃないのか? いや、むしろ、こんなアホたちに大威張りされてたら、確かに憤激したくなる気持ちもわからなくない。

 とはいえ、こんなふざけたライアンたちの登場により、先ほどより格段と怪物たちの侵攻が遅まったのも事実だ。ジョージたちの呼びかけが上手く行っているのか、正面にいる戦車がだんだん後退し始めている。

 よし、このまま状況が進めば……

 オースティンがそう思った矢先、後退する戦車の後ろの地面に大きな亀裂が入り、そこからまた新たな怪物たちが這い出てきた。

「おいおい、勘弁してくれって」

 ライアンが少し大袈裟に溜息を吐く。けれどその表情は曇ってはいない。理由は簡単だ。

 新たに地中から顔を出した怪物たちの後ろに、巨大な波が迫っていたからだ。しかもそれは普通の波ではない。砂で出来た津波だ。津波は直径五〇〇メートルは下らないだろう。

 技だけを見れば称賛に値するかもしれない。けれどその津波の上に、サーファー気取りで乗っているアダムの姿が全てを台無しにしていた。

「アイツ……WVAの時に似た技で倒されてたからな。悔しい気持ちも込めてるんだろうに」

 ライアンが息をやれやれと言わんばかりの息を吐き出しながら、怪物たちを津波の中へ一気に押し込むアダムの姿に首を振っている。

「どこに悔しい気持ちが籠ってんだよ? ただ単に遊んでるだけだろ?」

「おまえには、分からないだろうな……アダムの悔しさが」

「ああ、一生な」

 むしろ分かりたくない。

 しかし、アダムの登場により新たに増えた怪物たちも一掃されただけでなく……

『オー……スティン! 聞こえてる? シーラよ?』

 オースティンの端末に、今まで途絶えていたシーラからの通信が入る。

 アダムの攻撃によって、どこかに設置されていた電波妨害装置が破壊されたのだろう。

「聞こえてる。シーラ、おまえの方は今の状況を把握してるか?」

『急いで把握してるところ。けど、もうアメリカの国際防衛連盟の方には支援申請を出してあって、もう幾つかの部隊がそっちに向かってる。その基地一体の地中の中にいるKa―4たちも全体の五分の二程度になってきてるわ。数にすると……二万匹弱。むしろ、オースティン、貴方の因子の方はどうなの?』

「安心しろよ。五分の二を撃ち抜き切るくらいは、残ってる」

『あらそう? じゃあ支援部隊があと三〇分ほどで到着するんだけど……それまでに終わりそうかしら?』

「調子の良い事言うなよ。因子が残ってるって言っても、攻撃範囲を考えろよ。俺の攻撃一回で二〇〇。さっきの津波で千、接近戦重視の奴等は一回の攻撃で一〇~二〇倒せれば良い方だ」

『攻撃範囲ねぇ……それならそれを拡大すれば良い事でしょう?』

「おい、それはどういう意味だ?」

 造作も無いといわんばかりのシーラにオースティンが眉を寄せる。けれどシーラの表情には余裕の笑みが浮かべられている。

『オースティン、近くにいるアメリカの代表候補たちに伝えておいて。今からBIGなヒーローになるのよって』

 今からBIGになるのよって、おい、まさか……

 余裕の表情を浮かべるシーラに悪い予感しかしないオースティン。

「おい、シーラ! さっきの言葉が本当に言葉通りだとしたら……俺は降りる!!」

 端末越しのシーラに向かって、オースティンが拒絶を訴えかける。

 だが……

「オースティン! 一緒にBIGになろうぜ~~」

 来た。来てしまった。

 先ほどの自分と同じようにヘリから飛び降りたアレクが。しかも嬉々とした顔で。

「おい、やめろ! 俺に近づくな!」

 オースティンが叫ぶ。けれど、自分へと猛進してくるアレクには届かない。

 何とか、アイツに触れられる前に……

 しかしそんなオースティンの肩を近くにいたライアンが力強く持ってきた。

「なっ、なんだよ!」

「さっきテレサからの通信で聞いたぜ。アイツに触れれば俺たちはBIGになるんだってな?」

「……だから、どうした?」

「なろうぜ。BIGに」

 白い歯をニコッと見せて笑ってきたライアンに思わず顔が引き攣る。

「おまえ、一人だけでなってろよ!!」

 ライアンの手を肩からひっぺ剥がす。けれどそんなオースティンたちの前に第一号の巨人が現れた。

「こりゃあいいぜ。まさにこれこそスペシャルヒーローだ!」

 ぱっと見、通常時の一〇倍ほどの大きさになったビリーが空に向かってガッツポーズ。

「やめろ。品がねぇ……」

 思わず手で目を押さえながら、因子持ちの恥曝しになっているビリーから目を背ける。しかし目を背けている場合ではなかった。なにせ、もう既に目の前にはテンションの上げたアレクが来てるのだから。

 次はお前の番だといわんばかりに、近寄ってくるアレクに恐怖を感じる。むしろ、この瞬間だけで言えば、怪物たちよりも恐ろしい。

「や、やめろ。来るな!」

 再度、アレクに向かって叫ぶ。しかし……

「俺たちもビリーに続いてBIGになるぞ!!」

 さっきの叫びもげんなりとしたオースティンの表情もまるで無視して、ライアンがオースティンの手を引き、アレクの元へと駆け寄って行く。

「ふざけんな。俺を巻き込むな!」

 最後の最後まで抵抗を試みたオースティンだったが、もうすでにアレクの右手がオースティンの肩に触れていた。

 肩にアレクの手が触れていると、意識が状況を飲み込むまで数秒かかった。そしてオースティンが状況を飲み込む頃には、自分はビリーやライアン、アレクたちと共に巨大化した後だ。

 下を見ると、自分の膝下くらいの怪物たちが見える。ついでに後退した戦車と自分たちを仰ぎ見る兵士たちの姿も見える。

 もう羞恥心なんてものは越えていた。

 巨大化したオースティンの耳には近くにいる三人の巨人の言葉は耳に入って来ない。

 全ては無。

 この悪夢を終わらせるには、無心にただ下の怪物たちを倒すしかない。

 自分の共に復元したBRVを大きくなっている。そう全てが大きくなっている。オースティンは無言のまま二丁の銃の引金を引いた。

 引いた瞬間、地上に群がる二万匹を少し下回った数の怪物たちが気化していく。

 今までの苦労は何だったのか? オースティンの口許から苦笑が零れる。

 そして気化していく怪物たちの群れを見ながら、オースティンの頭は自分にこんな醜態を晒す状況を作ったアレクたちと、地上から爆笑しながら写真を取るキャロンをどう八つ裂きにするかを考えていた。


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