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最初から

 階段へと通じる出入口の前で待機していたジョージの元にオースティンが向かう。するとやってきた自分を見て、ジョージが肩を竦めてきた。

「初めて生で見た。因子を使って戦ってる奴を」

「そうか。じゃあ念のため感想でも訊いといた方が良いか?」

「言う訳ないだろ。ほら、さっさと先に進むんだろ?」

 ジョージがそう言ってから、瓦礫が散乱するエントラスを一瞥し、鉄骨でできた簡易の階段を降り始めた。

 カンカンと鳴る鉄骨の階段を薄暗い照明が照らし、オースティンたちが静かに階段を降りて行く。

「B2……ここか」

 階段には仕掛けらしい仕掛けが特になかったが、問題なのはここから先だ。

 軽くジョージと目配せをし、B2の扉を開ける。

 扉の向こうには、無骨な廊下が伸びており両サイドには、いくつかの扉がある。オースティンは、端末を再度見て、アレクたちの位置を確認した。

 アレクたちの場所を示す点は、変わっていない。

「よし、行くぞ」

 オースティンが一言、声をかけて地下二階の通路へと足を踏み入れた。

 廊下を進んでいくと、こちらに向かって兵士たちが走って来た。

 兵士たちは、特殊防護服に身を包んでいる。以前、日本の黒島にやってきた奴等と同じ格好だ。やはり、あの時の件にアメリカも噛んでいたらしい。

「まっ、そんな服を来た所で意味ないんだけどな!!」

 オースティンが、向かってくる兵士を次々に撃ち抜いて行く。主に狙うのは足元と武器を使用する両手。手間は掛かるが、オースティンは敢えて手間をかけることにした。

 やってきた兵士たち四名を倒し、ジョージと共に先へ行く。

「どうして、急所を外した? まさか、俺を気にしてなんて言わないだろ?」

「違うね。楽する方ばっかり選んで、後で軍の奴等に変な言いがかりつけられるのは迷惑だからだ。そうだろ?」

 オースティンの言葉にジョージが肩を軽く上下させた。

「まぁ、いい。早く行くぞ。いくらタフな奴らだとはいえ……向こうには魔女もいるからな」

「さっきの男を変えた奴だな」

 顔を顰めさせるジョージにオースティンが頷いた。

 オースティンたちは閑散としたB2の廊下を突き進む。

 本心を言ってしまえば、身体に因子を流し目標地点まで突き進みたい。けれどそんなオースティンの本心は、壁をぶち破るように現れたkaー4シリーズの怪物たちによって阻まれた。

 怪物たちのサイズは、前に見た奴よりも小型化されている。前の奴を改良したものなのか、元々の奴なのかは分からない。しかし悪質な見た目も、鼻を抑えたくなる異臭は前見た奴と同じだ。

「何だよ? あれ?」

 初めて目にする異性物に、ジョージが震え混じりの声を漏らす。

「馬鹿な研究者が造った怪物だ。出来るだけ頭を狙え。奴は再生能力が高いからな」

 ぶち破られた壁から、傾れ込む怪物たち。先ほどの男のように腹を空かせており、我先にと目の前の獲物に食いつこうとしているのだ。

 しかも、オースティンの隣にいるジョージは腕から血を流している。奴らからしたら、溜まらない臭いだろう。

 オースティンが怯む事なく、有象無象の怪物たちに向かって行く。

「邪魔だぁああああああああ」

 怒鳴り、引き金を引く。

 銃口から放たれた電磁砲の火力に、怪物たちが甲高い叫びを上げながら悶える。けれどそんな仲間の叫びなど、お構いなしに二陣目にいた怪物たちが強行突進してきた。

 オースティンの後ろにいたジョージも、オースティンに言われた通り怪物たちの頭を狙って銃弾を的確に打ち込む。

 しかし、撃破速度が怪物たちの速度に追いついていない。

 オースティンは、汎用型のカラシニコフを復元し、ジョージへと突撃する怪物たちの頭に銃弾を早撃ちする。怪物たちの伸縮性の触手がジョージに触れる一歩手前のことだ。

 オースティンからの銃弾で頭が爆ぜた怪物たちの残骸が、狭い廊下に散乱する。

 怪物たちから放たれる異臭と、その光景にジョージが口許を手で抑える。

 オースティンはそんなジョージから視線を外し、今もなおその数を増やし続ける怪物たちに目を細める。

「数だけで押し通せると思ってんじゃねぇーよ。品がねぇー」

 オースティンが後ろに跳躍し、自分が先ほどまでいた廊下の床へと、銃口を向ける。

「落ちな」

 銃口から放たれた電磁砲が床に大きな風穴を空ける。空いた穴はかなり深い。B2とB3の間は、かなり間が空いていたらしい。

 穴の下の方からは、微かに人間の悲鳴らしき声が上がる。

 けれどもう悲鳴を上げても遅い。

 すでにオースティンたちへと突進しようとしていた怪物たちが、次から次へとその穴の中へと落ちて行く。怪物たちが落下する音と人々の悲鳴。

 その中にリリアはいるのだろうか?

 ……まさか、な。

 一瞬だけ過った自分の考えを、苦笑混じりに否定する。

 あの女が、こんな簡単に死ぬ奴じゃない。アイツはきっとここにいる誰よりも注意深く、慎重な奴だ。これくらいの変則状況に屈しないだろう。

 ジョージの横に着地したオースティンの耳には、穴に落ちずに残った怪物たちの頭を撃ち抜く、銃撃音が聞こえた。

 息を荒くし、脂汗を額から流しているジョージが必死に拳銃の引金を引いている。懸命に自分の置かれた状況を把握し、自分のやるべきことに集中しているのだろう。

 オースティンも汎用型のカラシニコフを使い、B2に残っていた怪物たちを掃討した。

「おい、補填用の弾は持って来てるだろうな」

「当たり前なこと訊くなよ……」

 用意していた銃弾を素早く装填する。けれどそんなジョージの手は小刻みに震えていた。銃撃音が響かなくなったフロアには、変わりに下の方から聞こえてくる人々の阿鼻叫喚が切れ切れに響いている。

「行くぞ」

 オースティンが弾を装填し終えたジョージに短い言葉をかけると、ジョージの服の襟元を掴んだ。そしてそのまま、怪物たちを落とした穴を跳躍し跳び越えた。

「あの化物は一体、何だってんだ? どうして、軍はあんなのを……」

 両手、両膝をついたジョージが混乱を吐き出す。

「それこそ、訊くまでもないだろーが」

 オースティンの言葉に、ジョージが目を見開いて言葉を失う。

 何のため?

 そんなこと、決まっている。

 敵を殺すためだ。

 皮肉なことに、その生物兵器の獰猛な食欲は、味方であるはずの自分たちへと向いてしまっている。けれどオースティンからしてみれば、身から出た錆なのだから、自分たちでしっかり尻拭いをしろ、というのが本音だ。

 だからこそ、どんなに怪物たちの餌食に遭い、泣き叫んでいようとオースティンの心が痛むことはない。

 ジョージは言葉を失ったままではあるが、立ち上がり先を歩くオースティンに付いて来ている。まだ歩く気力は残っているようだ。

 オースティンもジョージと同じく沈黙していた。

 先ほどの銃声や人々の声、Kaー4シリーズが上げた咆哮が嘘のようにフロアは閑散に包まれている。

 早歩きで前へと進みながら、オースティンとジョージは目的の場所へと辿り着いた。

 銃弾で強引に扉のロックを外す。

 壊した扉のドアノブを下に降ろしながら、扉を開く。

 しかし、開いたドアノブの先にアレクたちは愚かロビンたちの姿はない。

「誰もいない……まさか、もう別の所に連れて行かれたってことか?」

 硬くなっていたジョージの瞳が窄み、表情も青ざめ無気力となっていく。オースティンは、口を開かないまま、部屋の中を隈なく見回した。

 部屋には家具ひとつない。窓も無い。つまりこの部屋を出るためには、オースティンたちがこじ開けた扉を使うしか方法はないが、壊す前の扉に誰かがこじ開けた様子は見当たらなかった。

「アレク。おまえ、まだこの部屋にいるのか?」

 もしかすると、アレクたちは自身を小さくしているだけかもしれない。その可能性を考えてオースティンがアレクに声をかける。けれど返答はない。

 オースティンが端末に目を通す。しかし、オースティンの端末では未だにアレクたちの素材をここだと告げていた。

 何かが、おかしい?

 オースティンが眉を潜めた瞬間、空気を裂く砲撃音と共に建物が大きく揺れた。

 ……誰かがこの建物に向けて、攻撃している?

 考えられるとしたら、テレサたちを含めた国際防衛連盟のはずだ。けれどオースティンの直感が嫌な予感を感じていた。

「おい、どうかしたのか? 何が起きてる?」

 顔を顰めるオースティンにジョージが眉間に深い皺を寄せてきた。声音には明確な動揺がある。

「確かめるぞ」

 短く言葉を吐き、オースティンたちはそのまま部屋を出て、地下二階から地上五階まで、一気に駆け上がる。下からでは全体の状況を俯瞰することはできない。

 オースティンたちが階段を上がっている途中も、砲撃の反動からか建物が幾度となく揺れる。先ほどの戦いで脆くなった建物の壁や天井が抜けたりもするが、幸い上への道は続いている。

 五階に上がったオースティンはすぐさま、砲撃で窓一つない壁に穴を開ける。ここは建物の端にある部屋だ。壁を壊せば否応なく外の景色が見える。

 砲撃を受けた壁からは白い煙が上がり、縁は砲撃の熱で溶解した。そして大きく広がった穴から、オースティンたちがいる建物を照らす光と、建物の横に空いた大きな穴から次から次へと出てくるKa―4たちの大群衆。

 この光景にオースティンが思わず舌打ちした。

「軍の奴等……この基地諸共作戦を放棄したみたいだぞ? しかも俺たちを含め、自分たちが連れてきた下っ端の兵士を切り捨てて」

 オースティンたちに当たる照明は、いきなり基地の地中から現れた怪物たちに抗うために用意された戦車のライトだ。

 取り残された兵士たちからの怒号と混乱の声が、戦車から発射される砲弾と重機機関銃が絶え間なく弾を撃つ音に掻き消されていく。

「上が基地を放棄だと? それは俺たちがやることに気づいたからってことか?」

「ああ……いや、待てよ?」

 ジョージの言葉に頷きかけた首を止め、オースティンは別の可能性に思考を切り替えた。

 もしかすると、これは……

「おい、ジョージ……おまえと同じように軍の実験を食い止めようとしてた奴等は、他にもいるのか?」

 ジョージが少し思案してから、オースティンに頷き返してきた。

「俺も全ての奴を把握してるわけじゃないけどな……けど、何で今そんなことを訊く?」

「ここまで来て分からないのか? 奴等はお前等みたいな軍に反感を抱いている奴らを挑発する情報を秘密裏に見せかけて、丁寧に流し回ってた理由が」

 ジョージがはっと目を剥いてきた。

「まさか、奴等の頭に始めから人体実験なんて頭になかったってことか?」

「さぁな。けど驚いてる暇はねぇーぞ。このまま奴等の罠に嵌ったままでいられないだろ。違うか?」

 オースティンがジョージに言葉を投げる。するとオースティンの意図を読み取ったジョージが険しい表情で歯を喰いしばってから……

「当然だ」

 と毅然とした声で頷き返してきた。

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