表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/493

日常BRV

「さっきの恥ずかしい詩、なんだったんだ?」

 いきなりの綾芽の詩の朗読に呆気にとられている狼の横では、俊樹と瞬、沙希と奈緒、そして季凛が腹を抱えて哄笑していた。

「あはは、前原寮長やるな~。あれは相当はずかしだろうに。っていうか、あのポエムって輝崎に宛てだろ?ウケるよなぁ」

 という笑い声混じりの瞬の言葉に狼が目を見開く。

「え、それ本当なんですか?」

「ああ、本当だよ。中等部の頃には輝崎の写真を持ってたらしい。女子の話によると」

「へぇー、写真まで・・・」

 狼は思わず感心してしまう。写真を持つほど真紘に好意を向けていたみゆきは、何となく想像しにくいが、あんなに残念な詩を書いてしまっているのも事実。本当に真紘のことを好きだったのだろう。

「でも、あんな全校生徒の前で、公開処刑されるとは思ってなかったでしょうね。前原寮長ポエムも」

 奈緒が苦笑いを浮かべながら、奈緒がみゆきがいる方に視線を向けている。狼もそれに合わせて同じ方に視線を送ると、そこには秀作に慰められているみゆきの姿と近くにはデンのメンバーの姿があった。

 デンのメンバーを見かけて狼が思わず視線を逸らすと、季凛がひょこっと顔を覗いてきた。

「狼くんはやっぱりみんなのことが気になる?もしかして、こんな年になっても寂しいとか?」

 季凛の言葉に狼は言い返せないまま、言葉を詰まらせる。

 確かに気になるのは事実だ。けど別に寂しいとかそういう稚拙的、感情ではない・・・と思う。多分。もしあったとしても、そんな感情は少しだ。きっとそうに違いない。

 狼はそう自分に言い聞かせた。

「それにしても前原寮長はすごいよなぁ」

 瞬がしみじみとそんなことを言うと、他の二年生も「確かに」と口を揃えている。

「なにが、すごいですか?」

 納得している先輩軍に、狼が不思議そうに訊ねる。

 すると俊樹が「ああ」と声を上げて、自分のBRVを復元した。

 俊樹が復元したBRVは、見た目だけでは普通のスノボー型のBRVだ。狼がそんなBRVをぽけーっとしながら、見ていると俊樹が口を開いた。

「黒樹、おまえ武器型以外のBRVを見るのは初めてだろ?」

「え、ああ、まぁ。初めてです」

「そうだろ。おまえの周りは武器型がほぼだからな。でもな、誰でも武器型のBRVを取れるとは限らないんだ。そう、俺みたいに、『これ、武器として使えんのか?』っていうのもある。武器型のカッコイイBRVは選ばれた者しか使えない!!」

「そうなんですか?」

「ああ、武器型のBRVとの相性が合わなかったら、俺みたいな日常玩具型になりかねない」

「日常玩具って・・・」

 狼が少し引き気味に答えている傍で、隣にいる季凛がぼそりと

「あはっ、玩具型BRVとか、持ってる意味」

 と呟いている。幸い俊樹には聞こえていない様子だったため、狼はその言葉をあえてスルーした。本人に聴こえていないなら、無理に波風を立てない方がいい。絶対に。

「でも、そんな日常玩具みたいなものでも、強化しようによっては、使えるようになるわよ。だって、前原寮長の初期は、ただの布で、技は相手に巻きつくしかできなかったんだから」

 と沙希が人差し指を立てながら、説明を加えている。

「巻きつくって、某ゲームの技かよなぁ」

 瞬が半笑いを浮かべながら、そんなことを言っている。

「でもそんな巻きつくから、宙に浮かべるようになるなんて、本当に前原寮長、すごいじゃないですか」

「そうでしょ。だから、武器型じゃなくても、強化次第でなんとかなるってこと。ちなみにあたしのBRVは筆ね。書いた字によって、攻撃が出せるわけ」

 そう言いながら、沙希が片目を瞑って大きい大筆型のBRVを出してきた。その大きさは先の背丈ほどもある。

「ちなみに私のは、これ」

 奈緒が片手の平を開きながら、復元したBRVは手鏡型の物だった。

「鏡型かぁ、なんか三田先輩っぽいかも」

 と狼が妙に納得していると、三田先輩はうふっという声を上げて口を開いた。

「私のBRVは、三分間だけ違う人物になれる物なの」

「ああ、テクマクマヤコンの劣化版な・・・別名『ウルトラ手鏡』」

 にこっ。

 どすっ。

 奈緒が満面の笑みを浮かべながら、瞬に肘拳を喰らわせている。肘拳を受けた瞬は腹を押さえながら、

「うおぉぉ、いてぇ」

 という唸り声をあげている。

 余計なことを言わなきゃ、いいのに。と狼は呆れるしかない。そして満面な笑みを保ったまま奈緒が再び口を開いた。

「人のBRVに難癖と共に、ダサいあだ名つけるのやめてくれるぅ?そういう自分のBRVだって使い物にならない青いロボットの秘密道具みたいな奴の癖して」

「なに、俺のが使えないだと?馬鹿言うな。俺のBRVは上手く使えば強敵すらも倒せるすごいBRVなんだ」

 奈緒から受けた肘拳の痛みから回復した、瞬が胸を張って反論する。

 だが奈緒が言う『使い物にならない秘密道具』と称される瞬のBRVが果たして期待できるBRVなのか?狼は少し不安を感じる。

「じゃあ、稲葉先輩のBRVってどういう物なんですか?」

 そう瞬に訊ねたのは、上目使いをしている季凛だ。

 そんな季凛を見て、瞬がデレっとしただらしない表情を作りながら、片腕を大袈裟に上へと上げ

「セット・アップ!!」

 とまるで変身するヒーローのような声を上げ、手に自身のBRVを復元した。

 狼と季凛が瞬の手に注目する。

 だが瞬の手に復元されたBRVは・・・・・・・・・ただの赤い色の懐中電灯だった。

 狼と季凛が白けたように、ぼそりと

「うわっ、本当に使えなさそうな秘密道具だよ・・・」

「あはっ、超ダサーい。むしろ、そこら辺のホームセンターで買えるんじゃないの?」

 と呟く。

 そんな狼たちの呟き声が聴こえていない瞬は、自信ありげに自分のBRVについての説明を一人勝手にし始めた。

「俺のBRVのすごいところは、なんといっても、どんな物でも小さくできることだな。俺のBRVを使えばどんな超人だろうと小さくしてしまう、すごいBRVなんだ」

「え、人を小さくできるなんてすごいじゃないですか!」

「だろ。もっと尊敬してくれてもいいんだぜ」

 と誇らしげに仁王立ちする瞬だったが、その言葉に水を差すかのように奈緒が口を開いた。

「でも、それを使うのに丸一日、ゲッシュ因子の充電が必要で、しかもそのライトを使えるのが2~3回、小さくできる時間も5分じゃない。あたしと変わらないと思うけど?」

「えっ、BRVを使うために一日も充電が必要なんですか!?」

 思わず口をあんぐりと開ける狼。

「あはっ、やっぱり使えなーい。燃費悪すぎでしょ。こんなに使えないBRV見たの季凛初めて。ある意味レアアイテムかも。しかもそんなBRVと相性が合った稲葉先輩って・・・・あはっ、すっごく残念な人ですよね」

 笑顔でフツーにひどい事を言う季凛。

「うっ」

 狼と季凛に絶句する瞬。さっきの威勢はどこに行ったのか?

 それにしても、BRVを使うのに一日も充電が必要で、しかも使用回数が2~3回なんて、狼が使う千光白夜よりも燃費が悪い。いくら千光白夜が燃費の悪い技だとしても、こんな瞬の技のように、前日から準備しなければならないということはない。

 こんなにも実用的ではないBRVを始めて目の当たりにし、驚愕している狼を見て瞬が弁解するように、必死な声を上げ始めた。

「いやいや、絶対おまえのウルトラ手鏡より俺のBRVの方が使えるからな」

「えー、どうだか。あたし瞬のBRVが活躍してたところなんて、見たことないけど」

「はっ、おまえが見てない所で日夜、活躍してんだよ」

 そんな言い争いを、奈緒と瞬が開始した頃。

「すまない、待たせたな」

 と言いながら、やってきたのは首元に長い襟巻を巻いた女子が立っていた。彼女がきっと俊樹たちが言っていた、如月加夜という二年生だろう。

「おー、やっときたか、如月。けっこう待ってたんだぞ?んで、あっちの様子はどうだ?九条会長は規格外だから、除外だとして・・・他の奴らはどうだ?」

「まずは状況から報告する。一年の強敵といえば、輝崎だ・・・しかし柾三郎とやり合いそうだ。先ほどは九条殿たちの邪魔が入り、気が散っていたようだが、すぐに開始するだろう。そこは二人で打ち合いさせて、漁夫の利で我々が勝利するという手がいいかもしれない。他の生徒も段々熱が高まってきている。熱する前に倒すか、冷めるのを待つかどちらにする?」

 淡々とした口調で、加夜がグランド内の状況を報告している。その話を聞きながら俊樹が珍しく悩んでいるような仕草を見せている。

 するとそれを聞いていた季凛が手を上げて発言をした。

「はいはーい。熱する前でも、冷えた後でもなくて、頭が熱くなってる相手の方が隙を突きやすいと思いまーす」

「よしっ、季凛ちゃんがそう言うなら決定!!これからの拒否権は一切なしだからな」

 元気いっぱい!という演出をする季凛を見た俊樹は、顔がゆるゆるに綻び、先ほどの瞬と同じように弛緩しきった顔を露わにしている。

 腹黒の季凛からしたら、笑顔一つですぐ思い通りになりそうな俊樹と瞬はいいカモだろう。

 そんな俊樹に沙希や加夜は、呆れたため息を吐いている。

「あっ、それと如月、比較的に敵が少なかったルートとかあるか?」

「比較的なら・・・教官たちが座っている場所を横切る形で外縁部を進むルートがいいだろう。それでも小さい衝突は避けられないとは思うが」

「おっけー、おっけー。よーし、進むルートが決まったらな行動あるのみ!よし、いざ出陣」

 気分の上がった俊樹が、そんなことを言いながらぐいぐいと進んでいく。狼たちもそのまま流れに任せて、一緒に行動することを決めたが、季凛の笑顔を見てテンションを上げた俊樹、どこか気の抜けた沙希、喧嘩を続けている瞬と奈緒、黙々とその列に続く加夜。こんなメンバーでサマー・スノウ宣戦を勝ち抜けられるのか、その不安は拭えないが、狼はやるしかない。という決意を固め、夏の雪原を踏みしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ