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衝突はさけれられない

 アメリカ、ニューヨーク州のニューヨーク市。

 世界最高水準の世界都市で5つの行政区が存在している。その行政区の一つマンハッタンの北にあるリバーデイル、リッジウェイル校。そこのキャンパス内にあるテラスカフェの端で、オースティンは不機嫌な顔で机に座っていた。この学校は主にアストライヤー関係と軍事関係の道に進む生徒が在籍する学校だ。勿論、因子を持っている、持っていないでクラスやコースは分かれており、因子持ちの生徒がアルファ生徒と呼ばれ、無しの生徒はデルタ生徒と呼ばれている。しかし数学や語学学習などの一般科目などは基本的に分かれていない。

オースティンは、テラス席で楽しそうに会話する生徒の中で一際目立つ集団を見て、辟易としていた。オースティンの視線の先にいる集団。それは紛れもない現アメリカ代表候補に選ばれている五人組だ。その内のライアンとテレサとは、ほんの少し前に戦った間柄でもある。

 二人は二学年上の生徒のため、授業が被ったりもしない。ましてや、オースティンは因子持ちでありながら、軍事関係に進むコースへと進んでいるため、実践授業でも彼らと一緒になることはないのだ。因子を使った訓練ならトゥレイターの支部にいるときにもできる。それこそ、ここにオースティンが在籍しているのは、単なる一定の学歴習得のためだけだ。

 そして今オースティンが久しぶりにここに来たのも、軍とアストライヤーの内情を調べるためだ。ここは学校といえど、軍ともアストライヤー関係者とも密接に関係している。

 今の軍とアストライヤーが睨み合っている緊迫状態の中で、双方の未来を担う若者が集うこの場所は、異端的な場所であり、互いの情報が取れる隠れた採取場所でもある。

 しかもここは、キャンパス内のカフェスペース。因子の有無に関わらず、この学校の生徒ならば誰でも利用可能な場所だ。

 だからこそ、オースティンは多数の生徒たちが囲む輪の中心にいる五人組の存在を発見してしまった。

 向こうはまだオースティンの存在に気づいていないが……気づかれれば面倒な自体になるのは目に見えている。

 オースティンは、飲みかけのコーヒーを片手にその場を去ろうとした。

 けれどその足は止まった。いきなり大音量のふざけたBGMが鳴り始めたせいで。

 かかった曲は、ジョン・ウィリアムズ作曲の『スーパーマン』、アメリカを代表するヒーロー映画の楽曲だ。それを掛けながら、アストライヤー候補生たちは肩をすくめながら、首を振っている。

 一体、あの馬鹿たちは何をやってるんだ?

 オースティンは横目で渋い顔で何かを話し合うライアンたちを一瞥した。

 隣にいる黒人のビリーだけは、妙にノリノリでテンションを上げている。

 まさか、自分たちの登場BGMでも考えてるんじゃないだろうな? オースティンは脳裏に浮かんだ派手好きのアレクたちの顔を思い浮かべた。アレクは東アジア地区のシックススとの衝突により壊れたムリーヤを完璧に修理すると言って、コネがある航空機製造工場の方へと行ってしまっている。

 情報操作士であるシーラも米国に於けるアストライヤーと軍の動きを入念に探っている最中だ。オースティンは聴こえてくる耳障りなBGMを聞き流して、テラスカフェを後にした。

 行き交う学生たちは、教材を手に様々な話をしていた。授業の話、身なりの話、気になる異性の話……それこそ、日本で起きた戦いが嘘かのような平和ボケしている内容だ。

 けれどそんな生徒たち中でも「アメリカでもいつ、軍とアストライヤーが衝突してもおかしくない」という内容を話している者もいる。

 無論、オースティンは雨生から香港で起きた事件の情報も聞いているし、パリで起きた軍と国際防衛連盟の衝突の事件の深奥をベルバルトから聞き出している。

 パリでの衝突自体は治まっており、少しずつ街の復興作業が始まったというニュースも流れているが、その背景の裏では市民たちによる怒りの暴動も起きているらしい。

 ドイツの次はフランスでテロが起きてしまったため、欧州では市民たちから不安の声が相次ぎ、軍ともアストライヤーとも関係ない市民の意見が二つに分断されている。

 アメリカでもそれは同じだ。アストライヤーを支援する支持者と軍を支援する支持者の間で激論が日々、繰り広げられている。

 けれどその激論がどちらかの意見で治まる兆しなどまるでない。

 だからこそ、アメリカでもアストライヤーと軍の衝突は避けられないと誰しも思っている。

 それこそ、その両者を止められるヒーローがいない限りは……

「馬鹿げてるな。品がねぇ」

 オースティンは自分の考えに首を振りながら、転がってきたバスケットボールをバスケコートの中にいる生徒にではなく、そのままリングの中にボールをシュートする。ボールは吸寄せられるように、リングの中に入った。

 一部を見ていた生徒からの喝采が起こる。オースティンがそのまま立ち去ろうとすると、慌てた様子でコートの中にいた生徒がオースティンの元にやってきた。

 近づいて来る男は、背は高いが、華奢な身体付きのため細い木の枝を連想させる男子生徒だ。

「おまえ、オースティン・ガルシアだろ? 俺はロビン・ウエスト。おまえと同じ国外での軍事的侵攻に於ける摩擦と有意義性についての授業を専攻してる。俺のこと覚えてるか?」

「いいや」

「そう答えられると思ったよ。でもまぁいい。これで知り合いになったな。おまえが物忘れ激しくなきゃ」

「ああ、そうだな。それで? 俺に何の様だ?」

 快活な舌で会話をするロビンに、オースティンが片目を眇めさせる。するとロビンが指を鳴らして、バスケコートの方を指差してきた。

「今からアルファの生徒たちと試合をするんだ。良かったら、おまえも入ってくれないか? さっき一人が付き指してさ……人数が不足してるんだ」

 ロビンが罰の悪そうな表情で、コートに座っている生徒を一瞥する。それからすぐにオースティンに懇願するような視線を向けてきた。

「その試合に出て、俺に何の得があるんだよ?」

「あるさ。もしここでデルタの生徒がアルファの生徒に勝てたら、それこそ英雄だ。それに一カ月分のランチで使える食券もゲットできる」

「やるか。品がねぇ……」

「おいおい、何言ってんだよ? 食券一カ月分だぞ。惹かれないはずないだろ? それに、それにだ! この試合に勝てば、いつも俺たちよりも目立ってるアイツ等に一泡吹かせられるんだぜ? 同じデルタの生徒だろ? 頼むぜ、ヒーロー」

「俺が調子の良い言葉に乗るわけ……」

 ロビンの言葉をすぐさま一蹴しようとしたオースティンの視界に、先ほどカフェで騒いでいた五人組がこっちにやってくるのが見えた。

 慌ててオースティンがバスケコートの方に寄り、ライアンたちと距離を取る。するとオースティンの行動を見ていた、ロビンが不思議そうに首を傾げてくる。

「おい、どうした?」

「なんでもねぇーよ」

「彼らを呼びたいのか?」

「ちげぇーよ。勝手な解釈すんな」

 小声でロビンに怒ると、ロビンが肩眉を吊り上げてきた。

「わかった。今から彼らに俺が話しかけてこよう。やぁ、こんにちはアメリカの英雄になるかもしれない人たち。突然話しかけて悪いんだけど、君たちを気にしてバスケの試合に出てくれない生徒がいるんだ。是非、応援してくれないか? ってな」

「どんな脅しだよ? ああ、わかった。バスケの試合に出てやる! だからあいつ等に声を掛けるな」

「もし掛けたら?」

 素っ頓狂な顔でアホな質問をしてくるロビンの首根っこをオースティンが鷲掴みにする。

「シュートされるのが、ボールじゃなくておまえの頭になる。いいな?」

 ギロッとオースティンが睨むと、ロビンが首を小刻みに頷かせてきた。

 ったく、面倒なのに掴まった。そう思いながら、オースティンが不満げな表情でバスケコートの中に入った。すでにコートには試合に出るらしき、もう一人の男子生徒が不満げにこちらを向いている。

「あいつは、ジョージ。真面目で少しとっつき難い奴だが、根は良い奴だ」

 補足説明かのように、ロビンがオースティンにジョージのことを紹介してきた。しかし、そこで握手など交されるはずもない。

 ジョージはロビンが連れてきたオースティンに対して、やや嫌悪感と懐疑心を抱くような視線を向けており、ロビンがそれを窘める。オースティンは呆れて溜息を吐いた。

 するとほどなくして、アルファの生徒である男たち三人がやってきた。右にいる奴はガムを噛み、左に居る奴は欠伸をしている。そして真ん中にいる奴は、見下すような顔でオースティンたちを見ていた。

「逃げずに来たことは、褒めてやるよ。これで俺たちの昼飯代が浮くぜ」

 真ん中に立っている、偉そうな男が酷薄な笑みを浮かべてきた。真ん中に立つロビンは、そんな男を負けじと睨みつけていた。

「今日も勝てると思うなよ。KJ? 言っとくけど、今日の俺たちはすげぇ助っ人を呼んだんだからな」

 ロビンの言葉で、KJと呼ばれる男が鼻で笑い、それからオースティンを見た。

「見ない顔だな。この馬鹿な試合に付き合ってくれる奴がいなくなって、とうとう不登校児にでも頼ることにしたのか?」

「まぁ、否定はしない」

「否定しろよ!! 品がねぇ!!」

 オースティンがロビンに怒鳴ると、KJたち三人が手を叩いて大笑いし始めた。

「おいおい、ルーク聞いたか? 不登校児だってよ?」

「まぁ、そういうなよ、デイブ。隠居生活してたデルタの救世主が巣穴から出てきたんだからな」

 大笑いしながら、KJの横にいるガムを噛むルークと垂れ目気味のデイブが肩を叩き合っている。

「舐めやがって……」

 馬鹿みたいに大笑いをしてる三人に、オースティンの怒気が上がる。今の立場が立場でなければ、すぐにでもBRVを復元して、三人の頭を一瞬で吹き飛ばしたい衝動に駆られる。

 けれど、横目で先ほど自分たちが居る所に、アメリカ代表候補生の五人組が円を描いて、(たむろ)しているため、下手な行動はできない。

 ならば……今の自分がやるべきことは何か? そんなもの考えるまでもない。今の自分がやるべきことは、余裕ぶっこいて下品に笑うあの三人の顔を焦りと屈辱の顔に染めるのみ。

「おい、ハイウッド!」

「ちょっと待て。ハイウッドって俺のことかよ?」

「ああ、そうだよ。いいか? おまえらがこの馬鹿三人衆に勝ちたいなら、俺の指示に従え」

 こっちを向いてきたロビンに対して、オースティンがそう言い放つ。そしてKJたちとの3on3の試合が始まった。

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