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革命に犠牲はつきもの

 アーサーは車に乗り、パリにある病院を回っていた。

 車の中でアーサーは車窓から曇り空を見ながら、怪訝な表情を浮かべている。

 情報操作士のイーニアスからイタリアの情報操作士による妨害を受けているという連絡を受けた。イーニアスを妨害させているのは、ベルバルトによる差し金だろう。

 まったく、面倒な動きをしてくれる。

 ベルバルトが先ほどの話をフランス警察に伝えるかは分からないが……できればこの件に警察を関与させたくないというのが本音だ。警察は軍よりもアストライヤーよりも市民との距離が近い。

 勿論、警察にだって守秘義務はあるだろうし、市民を下手に混乱させることはないとは思うが……こちらにコンタクトを取っている警官が一個人の念で動いているとなると、その動きに規律性は一気に欠けてしまう。

 行動に干渉する集団がない場合、個人の行動を突き動かすのは感情だ。

 感情による行動は斑がある。気づかぬ内に自らを危険に陥れていることだって多い。

 しかも感情というものは、厄介で自分で上手くコントロールしようとしても中々できない。アーサー自身、感情に流されてしまうことだってある。それこそ、数え切れないほど。

「面倒なことになってないといいが……」

 溜息混じりに懇願する。

 けれどこの懇願が無意味に終わるということも、分かっていた。

 もうすでに面倒なことは起きているのだから。

 病院の輸血記録で分かったことは、メリーヌ・ローレンの血液はフランス国外にも出回っている可能性があるということ。そしてその血液の輸血先が軍とアストライヤー関係者に行きわたっている。

 当然と言えば当然だ。軍や自分たちの方が血を流す確率が高い。なら輸血を施される頻度も比例して高くなるのだから。

 一つの救いとしては、メリーヌが能力を発動できる範囲が決まっていること。そして彼女はまだこのパリにいる。確実に。

 なにせ、彼女は自分を狙っているのだから。きっと自分がここにいる限り、メリーヌは虎視眈々とアーサーの命を狙い続ける。

 それこそ、幾多の市民の命を人質にしてまで。

「……車を止めるんだ」

 アーサーはパリ郊外近くの車通りの少ない道に入った所で、運転手に車を止めさせた。運転手は、少し首を傾げながらもアーサーに言われた通り車を停車させる。

「ありがとう。君はここまでで良い。あとはイギリス大使館にでも戻っていてくれ」

 運転手にそう告げて、アーサーが人気のない道路で降りる。

 アーサーが降りた道沿いには、二階建てのアパートや普通の民家や背の高い街路樹が立ち並んでいるような、静かな場所だ。自分が乗っていた車が去り、アーサーは周りを見渡す。

 潜んでいるのは、四、五人という所だろう。

 全員が因子を持っている。パリの国際防衛連盟の隊員だろうか?

「隠れてないで出てきたら、どうだろう? せっかく私も車を降りたのだから」

 アーサーが声をかける。すると街路樹の陰や、地下鉄の入口、停車していた車の中からアーサーが予想したとおり、国際防衛連盟の隊員が姿を現してきた。その中には、ホルシアの兄、ガスパールの姿もあった。手には復元された西洋剣型のBRVを持っている。

「君たちに敵意を向けられることはした覚えがないが?」

「……そうだろう。しかし、事情が変わった。こちらにもこちらの事情がある」

「テロリストに懐柔でもされたということか?」

 アーサーの言葉に、ガスパールが峻厳な瞳を細めさせてきた。

「パリに住む市民は守らなければならない」

「立派な言葉だ。だがしかし、それは身から出た錆びではないのかな?」

 アーサーがそう言いながら、突撃槍型のBRVを復元する。アーサーが武器を持った瞬間、ガスパールが勢いよく突撃してきた。

 突撃槍で剣先を受け止める。攻撃の余波が辺りに波及する。民家の窓が割れ、街路樹の枝が次々と折れる。

 身体に走る衝撃が、攻撃力の高さを物語ってくる。

 けれどアーサーとて、引き下がるわけにはいかない。ガスパールの剣先を払い、間髪いれずに鋭い刺突攻撃を繰り出す。

 ガスパールが刺突を避ける。けれど構うものかとアーサーは攻撃を続ける。相手が一度自分と距離を開けてくる。しかし開けさせはしない。

 次なる手を考えさせる余裕など与えはしない。

「良い機会だ。これを機に君たちの腹の底に抱えている者を全て吐き出させようじゃないか」

「戯言だ」

 ガスパールが因子の熱を上げてきた。攻撃は前から……いや、下からだ。ガスパールが剣で十字を切る。すると地面が大きく避け、アーサーの足元が瞬時に陥没する。

 反射的にアーサーが跳躍する。ガスパールが跳躍したアーサーへと斬撃を放ってきた。

 アーサーがその斬撃を衝撃波で対応する。

 騎士聖槍 唸る(クウェスティングビースト)

 まだ宙にいるアーサーが強烈な衝撃波を、地上にいるガスパールたちへと放つ。その瞬間、ガスパールを除く隊員たちが、瞬く間に後方に吹き飛ばされる。

 ガスパールは腰を低くする姿勢で、強烈な衝撃波に抗っている。

「見事だ」

 アーサーが地面に着地しながらガスパールへと声をかける。するとガスパールが剣を正眼に構えたまま、口を開く。

「国は違えど、貴様が大変優秀な人材であることは認めている。まさにUK(ユナイテッドキングダム)の顔に相応しい男だ。けれど、いくら優秀な人材と言っても時に犠牲にしなければいけない時がある。革命とはそういうものだ」

 ガスパールの因子が再び熱を帯びる。それに合わせてアーサーも因子の熱を上げる。

「確かに革命に犠牲は付きものだ。だが、私は君たちが行う革命で命を無駄にする気はない」

「そうか。では強硬突破させてもらおう!!」

 ガスパールが姿勢を低くし、そのままアーサーに肉薄してきた。アーサーが突撃槍を構える。

「では、その革命を打ち砕くとしよう。紳士的にな」

 一気に距離を詰めてきたガスパールが剣を横薙ぎに払う。アーサーが間一髪のタイミングで身体を一歩後ろへと後退させ、ガスパールの攻撃を避けそのまま敵の腹に、槍先から衝撃波を放つ。

 だがその瞬間、アーサーとガスパールの間に土壁が形成される。

 衝撃波が土壁を抉るものの、相手には届かない。

 目を細めさせ、アーサーが真上に跳躍した。土壁を跳び越え、壁の向こう側にいるガスパールへと槍先を向ける。

 するとガスパールが自分に矛先を向けるアーサーにうすら笑いを浮かべてきた。

 アーサーが技を放つ。けれどその瞬間……アーサーの胸を鋭い刃物が貫いた。

「しまった……」

 口の中に血が溢れる。

「そうか。君の兄は私の注意を引くための囮だったということか。ホルシア?」

 自分の胸を彼女のBRVである可変式の剣が、貫いている。

 背後にいるホルシアは無言のまま、口を開かずそのまま自分の胸から剣を引き抜いてきた。そして間髪いれず、ホルシアの能力である変幻自在の銀がアーサーの自由を瞬く間に奪う。

「ガスパール副隊長、これで任務は遂行されました」

 ホルシアの口から紡がれたのは、そんな抑揚のない言葉だった。




 メリーヌへ視線を戻したベルバルトは、笑みを浮かべて口を開いた。

「さぁて、これで二人きりだ。さっきよりももっと濃厚なお話をしようか?」

「セレーナには聞かせられない話ですか?」

「まぁな。話を聞くと言うことは関係者になるのと同義だからな。さて、念のための確認なんだが、俺たちの敵は君をテロリスト扱いする国際防衛連盟で良いかな?」

 ベルバルトがそう訊ねると、メリーヌが少し躊躇い気味に頷いてきた。

 するとその瞬間、メリーヌの端末に誰かからの通信が入ってきた。

 メリーヌが画面を確認してから、ベルバルトに目配せして席から離れる。

 丁度、そのときベルバルトにも一件の情報が入ってきた。

 ベルバルトはその情報を見ながら、肩をすくめさせる。

 少し離れた所で通信を受けたメリーヌはベルバルトに背を向けて、誰かと話している最中だ。

 横目でメリーヌを見つつ、ベルバルトがミケーレに通信を入れた。

「おい、ミケーレ。さっきの情報は本当なのか?」

『まぁな。どうだ? ショックか?』

「ああ、ショック過ぎて涙が出そうだぜ。堪えてる自分を褒めたいくらいだよ。でもどこでこの情報を掴んだんだ?」

『知り合いの伝手って奴だな。けど、その情報は序章に過ぎないぜ? 肝心なのはおまえが見た情報の下だ。下』

「悪りぃな。序章の情報にパンチが効き過ぎて下まで見てなかったわ。後で確認する」

『後でじゃなくて、今! 今すぐ確認しろよ。せっかくイギリスの奴とファイトしながらゲットした情報なんだからよぉ』

 モニター越しに映し出されたミケーレが若干キレ気味に怒鳴ってきた。

「仕方ねぇな。わかった。すぐにチェックするよ」

 ぶつぶつ文句を呟いているミケーレとの通信を切り、先ほどミケーレから送られてきた情報を見返した。

「……どれほど俺を驚かせれば良いんだよ。もはやギャグだぜ」

 さすがのベルバルトでも思わず溜息を吐きそうになる。けれどその溜息が外に漏れることはなかった。通信を終えたメリーヌが戻ってきたからだ。

 戻ってきたメリーヌの表情は、先ほどよりも表情が些か固くなっている。

「表情が固いが、どうかしたのか?」

「はい。先ほど通信を入れてきたのは私の父です。と言っても連絡を入れたのは軍のオペレーターからでした」

「軍のオペレーター? 用件は?」

 自然とベルバルトの眉間に皺が寄る。

「父は私の立たせられている境遇を知っています。だからこそ、それを理由に国際防衛連盟に攻撃を仕掛けると……」

 メリーヌの表情が瞬く間に曇り始めた。

「メリーヌちゃんの親父さんも強気だねぇ。でも奇襲を仕掛けて勝ち目なんてあるのか? 返り討ちにされる可能性もあるだろ?」

「ええ。ですから父は対面で相手と戦う気はないと思います。きっと予てより用意していた新兵器を試験運用する気なのでしょうね」

「まぁ、因子を持ってるからって不死ってわけじゃないからな。それでメリーヌは、その兵器がどんなものか知ってるのか?」

「詳細までは……私が聞かされたのはフランス、イギリス、アメリカの三国で共同開発したとしか」

 これまた面倒な国が絡んでやがる。

 ベルバルトはメリーヌの言葉に目を細めさせながら、息を吐きだした。

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