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成長した姿を

「それはつまり、俺に向こうに戻れって言ってるのか?」

 出流が豊を警戒しつつ、横目で真紘に訊ねてきた。

 その視線には微かな憤りが滲んでいるように見える。しかし真紘は、イザナミを豊に構えながら頷いた。

「大酉から向こうの状況は知らされているはずだ」

「ああ、知ってる。けど俺は自分の意思で進むことを選んだんだ」

 空気が揺れた。豊が動いてきたのだ。

 それと同時に出流が矢を放ち、真紘が斬撃を放つ。しかし豊はその二つの攻撃を避け、真紘たちへと無形弾を放ってきた。

 真紘がそれを跳びかわし、イザナギの刃を滑らせ、風の斬撃を放つ。大きな爪痕を地面に残しながら、豊へと走る斬撃。

 その斬撃を復元した刀で豊が受け止めてきた。真紘の斬撃が豊の髪先を切り刻み、刀を押し切ろうと荒れ狂うが、豊は平然とその斬撃を受け止めている。

「輝崎君、やはり君は忠紘譲り、いやそれを超える才能を持っていると思うけどね。まだ忠紘レベルには成熟しきっていない。つまりその強さでは私を押し切ることはできないよ」

 そう言って、豊が真紘の斬撃をいとも容易く両断してきた。けれどそんな豊へと間髪入れず、出流の矢が飛んで行く。幾千本という数の矢が一気に豊を射ち殺さんと向かっていく。

「はは、これまた……」

 豊が愉快そうに笑みを浮かべてきた。

 この攻撃も避けられる。そのため真紘は因子を練り、迷うことなく豊へと疾走する。

 真紘の一歩が前へと踏み出された、その瞬間。何千本の矢が豊の放つ因子に触れ、爆発し、次々に誘爆する。煙が上がり豊の姿が隠れる。

 二歩目で、煙幕が横に切り裂かれ、目を細めて厭らしく笑う豊の顔が覗き見えた。真紘はそこへと強烈な刺突を繰り出す。

 真紘の刺突で煙が一気に霧散し、豊の姿が露わになった。けれどやはり、豊を仕留められてはいない。真紘の刺突は、豊の刃によって受け止められている。

「バカ殿! 退けっ!」

 出流の声が発しられたのと同時に真紘は身体を後ろへと跳躍する。

 跳躍した真紘の足場が、地雷でも仕掛けられていたように無音で爆発した。

「この技は……」

「はは。君も一度体験しただろ? ドイツのフィデリオ君の技だ。使い勝手が良さそうだったからね。コピーさせてもらったよ」

 豊からのその言葉は、さすがの真紘にも動揺を走らせた。

 宇摩豊という者の能力が如何なる者の技をコピーすることだとは知っていた。けれどまさか、豊自身で戦ったことない者の技まで、コピーできるとは思っていなかった。

 きっとコピーするのには、何らかの条件が必要なはずだ。そこを見つけ出さなければ……。

 しかしいくら考えても、その実態が掴めない。

 この者に弱点はないのか? 因子を消す以外で豊の能力を無効にすることはできないのか?

「ええいっ!」

 真紘は声を張り答えの出ない自問から、再び意識を戦いへと集中させる。雑念を捨て、戦いに身を賭して行け。自分の本能が自分を叱咤し、真紘の身体を突き動かす。

 後退した真紘がすぐさま、豊へと疾走する。そんな豊は長槍を持つ男と接近戦を行っている。男からの槍を豊が素早い動きでかわしながら、男の隙を突いて刃を揮う。

 男の腕から血が噴き出した。

 近くまで迫っていた真紘の顔にその血飛沫が付着する。けれど構わず、真紘は豊の背中へと刃を揮う。豊がその真紘の奇襲を後ろ向きのまま刀だけで防いでくる。

 真紘が顔を顰めながら刀を切り返し、豊の刀を弾く。

 それと同時に真紘が横へと移動する。その瞬間、空間を歪めるほどの強烈なエネルギー熱量を含んだ矢が豊へと疾走していた。

 さらに真紘がそこへ夕霧を放つ。出流の放った矢と真紘の放った夕霧が同時に豊へと襲い来る。すると熱の光で、一瞬全ての視界がホワイトアウトする。

 熱が一瞬で、この場にいた者の水分を吹き飛ばしてくるような感覚だ。

 その熱へ近くで戦っていた綾芽が吠える。

 帝血神技 迦楼(かる)()(えん)

 音の衝撃波が炎を纏い、地面を瞬時に焼き焦がす。その炎が真紘を絡み取ろうと押し迫る。真紘はその炎の勢いを殺すため、颶風を放った。

 炎と爆弾風が衝突し合い、炎が揺らぎ空中に舞い上がる。そのため炎が少し離れた草木に燃え移り、真紘たちがいる場所から直径一キロほどの範囲の全てが炎の海と化した。

「これは、これは……盛り上がってきたじゃないか!!」

 祭りを盛り上げる野次のような叫びで、豊が真紘の背後に迫って来ていた。そしてそのまま真紘の背中に豊の刃が突き刺さる。

 背中から突き刺された刀は紅い血糊をつけながら、真紘の腹から顔を出す。

 わずか五センチほどに距離を詰めてきた豊の攻撃を防ぐことはできない。

 けれどそれは、豊かにとっても同じ事だ。

 真紘が逆手に持ち変えた刀で豊の腹を突き刺し、続けて豊に後ろ蹴りをくらわせる。

「あちゃー、やっぱり初対面レベルの相手だと息が合わんわ」

 そうぼやきながら、槍を手に持っていた男が先ほど豊が居た場所へと落下してきた。

 どうやら、真紘が豊の動きを止めていた隙に真上から攻撃を与えようとしていたらしい。

「すまない。反射的に動いてしまった」

 真紘が男にそう言うと、男が笑いながら肩をすくめてきた。

「別に謝ることちゃうで。別に合わせたわけやないし、どうせ向こうにも気づかれとったからな。……なぁ、一つ頼みごとしてええか?」

 槍を持つ男が豊と、その豊と交戦する出流を見ながら真紘に話を持ちかけてきた。そのため、真紘が黙ったまま頷くと、男が苦笑を浮かべて話を続けてきた。

「さっきイレブンス……出流の奴に持ち場に行け、ゆうてたやろ? あれを強制実行しようや。セマにはわいから連絡する。そうでもしないとアイツは変に考えすぎて、アホな意地を突き通そうとするからな」

「……わかった。そうしよう。だが彼女に連絡する必要はないぞ」

「なんでや?」

「彼女には、宇治の方に一人を運んだあと、こちらに戻ってくるように言ってある」

 首を傾げた男に真紘がそう言った瞬間、タイミングよく先ほど自分をここまで運んだ、ティーガ―のライトが真紘たちの背中を照らしてきた。

 ティーガーの姿を見た真紘が出流の元へと疾駆する。

「なんで、アイツまた戻ってきたんだ?」

 ティーガ―が自分たちの頭上に現れたことを訝しむ出流に、真紘が微かに笑みを浮かべて。口を開いた。

「迎えだ。言っただろ? 貴様の持ち場に行けと」

「なっ」

 真紘が目を丸くした出流を風神の竜巻で、空中へと吹き飛ばす。

 すると上空へと吹き飛ばされた出流は、セマと共にヘリに乗っていたターシャの能力によって抵抗する余地もないまま、ヘリへと乗り込まされている。

「逃がさんっ!」

 綾芽がそう言って拳をヘリへと突き出し、衝撃波を放つ。

「だめっ!」

 綾芽の衝撃波を跳躍したセツナが、サーベル剣で受け止め防ぐ。受け止めた衝撃でセツナが後ろに吹き飛ばされるものの、そのおかげでヘリに綾芽の技が当たることはなかった。

 出流を乗せたヘリを逃がしたことに、綾芽が不愉快そうに眉を顰めさせる。

「これで終わらせぬぞ、愚弟」

 鋭い視線を一瞬空に向けながら、綾芽は自分へと牙を向ける根津の炎へと視線を戻している。そして真紘も目の前の豊へとすでに刀を走らせていた。

 豊は真紘を見ながら、楽しげな笑みを浮かべ真紘の剣戟を往なしてくる。

 刀と刀が触れあっただけで、衝撃が二人の身体を強く揺らした。けれどその衝撃を諸共せず、二人は剣戟戦を続ける。

 近くも遠くもない距離から槍の男が、自分の入るべき機会を注意深く窺っている。いやそうでなければ、自分に被害が及ぶことはわかっているかもしれない。

 下手に真紘と豊の切り合いに入れば、それこそ自分で死に行くようなものだ。

 二人が生み出す衝撃は、まるで刀のように触れたものを木端微塵に切り裂くだろう。

 だがずっとこのまま、拮抗し怠惰と化した剣戟戦を続けているわけにもいかない。

 早くこの場に決着をつけなれば。

 真紘の直感がそう自分に告げてくる。

 そのため真紘は、イザナミへと隠すことなく因子を練り始めた。それはある意味、真紘からの合図だ。次へと動くための。

「輝崎君にしては、慎重性の欠けた動きだね。慶吾ではないが実に興味深い。そうだね……私もそれに少しは答えようじゃないか」

 そう言って、豊が刀に因子を込め始めた。

 けれどその豊の動きは、槍を持つ男によって阻まれた。男が豊の胴にめがけて槍を突く。豊がその槍を刀で受け止める。

 その瞬間、槍が無数の紙とへなり、そしてそのまま鋭利は刃の破片となって、豊へと勢いよく飛来する。

 その紙の紙片は、人には見えないほどの微細な破片だ。そしてその破片が豊へと襲いかかる。

「悪いねっ!」

 豊が言葉という音に乗せて、微細な刃を破壊する。

 だがそのおかげで、真紘と豊の拮抗が崩れた。豊のペースが乱されたのだ。その隙を真紘がつく。けれどその瞬間、真紘の顔面を別の衝撃が襲ってきた。

 真紘が横に勢いよく吹き飛ばされる。そして吹き飛ばされながら真紘は何が起きたのかを理解した。先ほどの攻撃は綾芽によるものだ。

 セツナと根津を遠くへ吹き飛ばした隙に、真紘にも攻撃を放ってきたのだろう。そして自分が吹き飛ばした真紘を追い詰めるように、綾芽が拳を突き出しながら向かってきた。

 真紘はその拳を寸でのところで、身を転がしよける。

 そしてすぐに体勢を整え、綾芽の三手目を刀で防ぐ。彼女の拳からくる圧力で、受け止めた真紘の身体にビリビリとした痛みが駆け巡る。

「輝崎よ、何も考えるな。己の本能のままに戦えばそれでいい」

 遠回しに真紘に公家の者に対する、畏怖の念を消せと言ってくる。綾芽は強い者と戦うことを望む。それが故に、自分へと本領発揮を見せようとしてこない九卿家の在り方に不満があるのだ。

 けれど、真紘はその言葉に敢えて頷くことはしなかった。

 その変わりに否定の言葉を綾芽へと発する。

「いえ、そう訳にはいきません。貴方は公家です。そんな貴方に本能を剥き出しにして戦うことは、九卿家として絶対にありえません」

 すると綾芽が深淵の怒りを瞳に揺らめかせてきた。

 これが吉とでるか凶とでるかは分からない。ただもう後戻りはできないだろう。

 そんな真紘の隣に身体の至る所に傷を造っているセツナがやってきた。

「マヒロ! 私も貴方と一緒に戦わせて。頼りないかもしれないけど……私も成長したんだってところ、貴方に見せたい!」

 力強い言葉でそう言ったセツナが、傷だらけの身体に闘志を宿す。

 真紘はそんなセツナに少しだけ見開き、微笑を浮かべて頷いた。

「ああ、わかった。……根津、そちらは頼んだぞ」

 真紘が豊へと疾駆する根津にそう声を掛ける。

「ええ、勿論よ! この理事長に聞きたい事が答えきれないほどあるんだから! それを聞きだすまで、あたしは倒れないから!」

 根津が叫び答えてきた。そしてそのとき、静かな怒りを宿した綾芽が真紘たちへと貫手を突き出してきた。


 そして、宇治駐屯基地では名莉たちが大城時臣と対峙していた。


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