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緊迫状態

 イザナミが熱を帯び、紅く染まる。それを見た武政が辟易とした溜息を吐いてきた。

「やっぱり最後は、因子に頼るんじゃねぇーか。けどそれも無意味って奴だ!」

 男が腕につけている新型兵器をかざす。だが真紘はイザナミへ因子を流し続けることをやめなかった。

『真紘、斜め前方上からだよ』

 棗の指示で真紘がそこへ斬撃を放つ。真紘の放った紅い斬撃が天井を破砕する。

 天井が武政の頭上へと落下する。

「小細工なんてきかねぇーよ!」

 鼻を鳴らす武政だが、棗が捉えた者、真紘が狙った者は武政ではない。その存在に敵である武政も気づいた。

「誰だ?」

 武政が気色ばみ、天井から姿を現した女に誰何した。

「軍の情報もまだまだ甘いわね? 零部隊所属、鬼頭(きとう)涼子(りょうこ)の情報をキャッチしてないなんて」

「ふん。顔見れば分かる? 零部隊の女が公家に何しにきた?」

「アンタに関係ないでしょ? 生意気な口きくガキね。年上への口の利き方を叩き直してやらないと。それから、輝崎の当主に言っておくけど、アンタのやり合うのは、この糞ガキを倒してからね」

 涼子が真紘にそう言って、涼子が両手に大きな手裏剣型のBRVを復元する。そしてその涼子は真紘とではなく、武政の方に攻撃体勢を取った。

 その様子を見る限り、本当に涼子は武政が倒れるまでは、真紘に攻撃を仕掛けてくる気はないようだ。

 真紘が気を取り直して、武政へ刀を構え、そして床を思い切り蹴った。疾走する真紘に平行するように、涼子も武政へと向かって行く。

 涼子と真紘が武政へと接近した瞬間、二人の因子が消失する。二人の因子を消失させたことで、強気に出た武政が二人へと拳、蹴り技を繰り出して来た。

 拳を真紘に突き出し、次の攻撃として涼子に足蹴りを繰り出す。鳩尾へと繰り出された拳を真紘が左手で受け止め、後ろへと距離を取る。涼子も真紘と同じように半歩後ろへと退く。

 これで新型兵器の干渉範囲が大体わかった。

「棗、新型兵器の効果が発動するまでの時間を調べてくれ」

『了解。多分、一分程度で判明するよ』

 因子を介したやり取りで棗に連絡する。その瞬間武政がナイフを手に真紘へと攻撃を開始してきた。鋭利なナイフが真紘へと向かってくる。それをイザナミで受け止めながら……真紘は涼子の方へと視線を向けた。

「一分だ」

 一言そう告げる。すると涼子が一瞬、怪訝そうな表情を浮かべてから、何か察知したように目を見開いてきた。

「勝手に意味わかねぇーこと言ってんじゃねぇ!」

 武政が苛立たしげに声を張り上げ、真紘の腕を掴みそのままナイフで裂く。一瞬の痛みが腕から真紘の身体に走る。けれど痛みを無視し、真紘が武政の顔面を殴る。

「かはっ」

 顔面を強打された武政が顔や身体を仰け反らせる。

「はっ!」

 そこに間髪容れず、涼子が武政に腹蹴りを喰らわす。足蹴りを勢いよく入れられた衝撃で、武政が壁に勢いよく衝突する。

『真紘、兵器の効果は起動から約一〇秒で発動する。効果継続時間は30秒程度。仕える回数は十数回が限度ってところだよ』

 壁に打ち付けられよろめく武政を目で追い、棗からの情報に耳を貸す。

 武政が口から血を吐き捨て、真紘たちを睨む。

「そうやって、おまえらは……俺たちの命を歯牙にも掛けずに奪ってくんだろ? 俺の兄貴を殺したときのようにっ!!」

 武政が声を張り上げ、真紘たちへと向かってくる。その姿は、真紘を悲痛な気持ちにさせた。殺意という牙を向けてくる男は、自分とは違う脅威に向かって行く兵士だ。

 向かってくる男の瞳、奥底には恐怖が見て取れた。だがその恐怖を怒りで塗り潰し、自分たちへと向かって来ている。

「人聞き悪いこと言わないでくれる? アンタの兄って武政公一でしょ? アイツは行方(なめがた)首相を暗殺しようとしてた一派じゃない。まっ、あたし達が防諜して未然に阻止させてもらいましたけど。それで死んだからって恨まれる筋合いはないでしょうが。駄々こねるのもいい加減にしな」

 向かってくる武政に対して涼子が眉間に皺を寄せ、言葉を吐き捨てる。

「ふざけるなぁあああ!」

「はぁ。馬鹿な奴……」

 涼子がそう言って、BRVを静かに構える。だがそんな涼子が動くよりも先に真紘が動いていた。

「これ以上、妄念に取りつかれているのは止せ」

「妄念だと?」

 真紘の言葉に武政の表情が、引き攣る。そんな武政が真紘にナイフを揮う。けれど感情に呑まれた攻撃は、隙だらけだ。それを躱すことは容易。

 真紘は軽やかにナイフを避け、一気に相手の懐へと入る。そして真紘はイザナミで男の身体を斬りつけた。

 武政がその瞬間、後ろによろけ倒れる。イザナミの切り口は深い。だが、すぐに死ぬという傷でもないだろう。

 口から血を流す武政へと真紘が近づくと、最後の悪足掻きのように武政がナイフを投げつけてきた。投げつけられたナイフを首だけ動かし避ける。

「化物がっ!」

「……貴様にどう言われても構わない。だが貴様に聞きたい事がある。貴様たちは公家に何を奏上しようとした?」

「おまえらに教える情報なんて何もない」

「口を割らないつもりか?」

「いいや。そうじゃない。おまえらは俺が公家に奏上しに来たと思ったらしいけどな。それは間違いだ。軍は端から口頭で奏上しようとなんて、考えていない。口頭での申し出が無意味なことくらい分かってるからな。公家に奏上するっていうのは、九卿家の要人をここに集めるための陽動に過ぎない。思いがけず零部隊の奴まで付いてきたけどな」

 武政がそう言って、呼吸を荒くさせた口許で笑みを浮かべる。

「答えろ。何を企んでいる!?」

 嫌な予感を感じた真紘が微かに語尾を強めて、問い質す。

「今さら聞きだした所でもう遅いけどな。俺はただの囮だ。我は死神なり、世界の破壊者なり……この名言で意味は分かるだろ? 約三〇分後には舞鶴湾海中にいる潜水艇から射程距離を200キロほどに抑えた超短距離弾道ミサイルで向かってくる。国民の声を聞かない象徴なんていらないからな」

「ふざけるなっ! 貴様たちがやろうとしていることが如何なるものか分かってるのか!」

 真紘が武政の胸倉を掴み、怒声を浴びせる。しかし武政は何も口にせず自虐的な笑みを浮かべるだけだ。

 公家に対して正面衝突はまずしないと思っていただけに、遠距離による攻撃を行使されるという所までに、考えが至らなかった。まさに不覚を突かれたのだ。真紘が顔を顰め臍を噛む。

 真紘は武政を突き離し、オープン通信で棗に連絡を入れた。

「棗! 大至急だ! 舞鶴湾に潜伏している国防軍の潜水艇のシステムに介入しろ!」

 国防軍の放つ核ミサイルを国土上空に入れてはいけない。

『システム介入には成功してるけど、肝心な発射システムには侵入できないように、複雑なロックをかけてる。しかもこれは……ウザいことに條逢慶吾が掛けた奴だよ』

「何だと!?」

 何故、国防軍の超弾道ミサイル発射システムに條逢慶吾がロックを掛けている? 国防軍は豊にとっても敵のはずだ。それなのに、何故?

「今の会話から状況は分かっているな? どういうことだ?」

 真紘が鋭い視線で涼子を睨む。

 すると深い焦慮を顔に浮かべた涼子が口を開いてきた。

「知るかっ! いくら味方側だとしてもあのへそ曲がりの考えが分かるわけないでしょう? ……こうなったら、一時時的に結託するわよ?」

 どうやら、本当に涼子はこの事態と無関係らしい。

「わかった。すぐに舞鶴に向かえる手配をする」

「それは必要ないわ。近くにヘリを用意してる。けどどうミサイルを止めるかが問題になるけどね」

 涼子の表情が焦りと苛立ちで歪む。

「それなら、問題はない。すぐに齋彬家当主か雪村家当主に緊急事態につき、対処してもらえばいい。むしろ、あの二人以外に核を完全に防げる者はいない」

 ミサイルの破壊ならば、それこそ真紘でも行える。けれど核という兵器が厄介なのは、爆発時に出る光線の熱と凄まじい爆風だ。つまりミサイルを破壊することに何の意味はない。

 それこそ、ミサイルがどのくらいの規模の破壊力を持つ核燃料を積んでいるかが、判明しない以上、ただ国土から距離を取って破壊するという方策も取れない。

 しかし絶対的な防御を持つ勝利の力ならば、ミサイルごと防壁で囲み、防御包囲の中に爆風、熱線を閉じ込めることができる。藤華の因子ならば、ミサイルが爆発する前にその核燃料ごと消滅させることが可能だろう。

「手立てがあるなら、後は行動に移すのみ」

 涼子がそう言って、真紘と共に御所を後にする。公家への説明は一先ず先送りにする。状況が状況だ。時間が惜しい。

 御所を出て、真紘が勝利に連絡を取る。

 だが幾ら呼びだしても勝利が通信に出ない。

「……どうしたの?」

 端末を見ながら、眉根を寄せる真紘に涼子が怪訝そうに声を掛けてきた。

「断定はできないが……向こうでも何かが起きているかもしれない」

 そして真紘のその言葉は奇しくも的中していた。




 真紘が御所到着と同時刻。

 齋彬家で動きがあった。それを感知したのは家屋の一室にいた勝利と黒樹家当主、重蔵だ。その二人の側に、懐刀の真里、大志、帯刀(おびたな)の三人がいる。

「一人での襲撃とは……我々もなめられたものじゃの? そう思わんか? 勝利よ?」

「同意ですな。我が目が光るこの土地に下種張った心を持って入ってくるとは……。重蔵様、ここは私が鄭重(ていちょう)に出迎えねばなりますまい?」

「まぁ、そうだな。外国の若造の実力を試したい気持ちもあるが、まぁいいだろう」

「では……。真里、大志、行くぞ」

 勝利の言葉に真里と大志が、黙ったまま立ち上がりついて行く。勝利の手にはすでに復元された美しい刃文が浮かぶ、刀が握られていた。

 そしてそのまま、齋彬家の門前に立つ。

 真正面の道からは、銀髪の髪に紅い瞳をした男が悠然と歩いてやってきた。この男のことは、すでに真紘から情報を得ている。

 強力な因子を大量に有している者。そしてそれを遺漏なく巧妙に使いこなす者。キリウス・フラウエンフェルト。

「感知した通り、敵は一人……いや、二人」

 キリウスから遠くも近くもない、一定の距離の場所に二名程の気配を感じる。

「大志、情報操作士に残り二名の情報を集積させろ」

「了解」

 大志に命令しながら、勝利は目の前にやってきたキリウスを見据えた。

「無作法ではないか? 何の連絡も無しに他人の屋敷に出向くとは?」

 見合った敵に出涸らしで話を持ちかける。だが目の前にいるキリウスはそれに応じる気配はないようだ。

 そのため勝利は、ゆっくりと溜息を吐いた。

「話は無用か」

 そう言って、勝利は右手に持っていた刀でキリウスと自分の間に横一本の亀裂を入れた。それを見て、キリウスが怪訝そうに目を細める。

「これは境界線だ。そして出向いてもらったのに申し訳ないが……貴様はこの線を一歩たりとも入ることはできん」

「貴様が何を言おうと、私の行く手を邪魔させはしない」

 言葉と共に放たれたキリウスからの強烈な斬撃。斬撃が地面を抉り、空気を唸らせ、齋彬家近くにある竹林を余波だけで大きく薙ぎ倒す。

 けれどその斬撃が勝利に当たることも、屋敷を破壊することもない。

 斬撃は目に見えぬ防壁によって、完膚無きまでに防がれてしまったのだ。

 勝利が口許に優美な笑みを浮かべる。

「このような小手で我が防壁を破ろうなどと……私を侮るのも大概にしろ」

 言葉を言い放ち、勝利がキリウスへと刀を構えた。

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