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掃討

 時間が少し戻り。

 名莉たちは、国防軍の兵士たちと交戦していた。名莉たちが相手にしているのは、国防軍の兵士、約千人強。その中に、肉体を無理矢理改造し、強化している兵士も含まれており、名莉たちの前に立っている男が、それだ。

「おいおい、敵の中には餓鬼が混ぜってんのかよぉ? うわっ、めんどくせー」

 手に四本の長い鉤爪を付けている男が、片眉を吊り上げて口許を引き攣らせている。その隣にいる細身の男は、中国刀のような刃物を手に持っている。

 名莉がその男たちへと、銃弾を連射する。硝煙の臭いが鼻を掠める。名莉の視線は訝しげに顰められる。

 名莉の放った銃弾は、男たちの顔を掠める。けれど地肌に銃弾が衝突した所で、男たちの顔が弾け跳ぶことはない。

 むしろ、銃弾を辺りに弾き返している。

『あの皮膚……ケブラ―繊維で出来た人工皮膚と特定。つまり、普通の銃弾じゃ意味ないってこと』

 ここから少し離れた所にいる鳩子からの通信が入る。男が名莉たちへと突撃してきた。これも普通の人間離れした速度で。

 名莉が後ろへ跳躍。跳躍しながら相手への銃弾を放つ。今度は普通の銃弾ではない。因子を含有している銃弾だ。鉤爪の男が名莉の銃弾をもう片方の手で防ぐ。

 微かに男の身体が微動するが、男にダメージがあるわけではなさそうだ。

「おい、このピンク髪は俺がやる。神威(かむい)は向こうの奴を相手にしろ」

「了解。矢風(やかぜ)はほどほどに」

 神威と呼ばれる、中国刀を持つ男が後ろから斬りかかる誠へと中国刀を揮う。

「お返しだ。お譲ちゃん」

 矢風と呼ばれる男がにやりと勝ち誇った笑みを浮かべ、名莉へと伸縮自在のワイヤーのついた鉤爪を飛翔させてきた。

 名莉が銃弾で向かってくる爪の軌道を逸らす。しかし男が腕を巧みに操り、鉤爪の軌道を修正してきた。

 弾いた鉤爪が名莉の頭上へと凄い勢いで落下してくる。名莉が軽く横に避け、男の足元、脇下辺りへと銃弾を飛ばす。

『メイっち。そこより後ろに着地して』

 鳩子の言葉で名莉は、着地しそうになった足を上に上げ、そのままバク転し、後ろに着地する。その瞬間、前の砂が盛り上がり、砂柱が上がった。

 その砂柱から出てきたのは、大きい顎を広げ鋭い牙を突き立てるKa―4シリーズの怪物だ。

 名莉は冷静に、怪物の眼球へと銃弾を飛ばし、顔を弾き飛ばさせる。

 怪物が大きな奇声を上げている間に、矢風が名莉へと肉薄してきた。一気に近づいてきた矢風が名莉へと鉤爪のついていない左拳を突き出してきた。

 名莉がその拳を銃身で受け止める。受け止めた瞬間、名莉の身体に強烈な電流が流れる。

 電流で身体が痺れる。痺れ一瞬動けない名莉へと男が鉤爪を向けてきた。顔面へと迫ってくる。

 だがそれが名莉へと襲ってくることはなかった。男の太い首に鎖鎌の鎖が巻きつく。

「ああ?」

 男が名莉への攻撃を止め、後ろを振り返る。後ろには鎖鎌の先を持ち、鋭い視線で口許に微かな笑みを浮かべるマイアの姿があった。

 電磁破壊 死神(スメルト)

 矢風の首へと細く黒い電撃が放電される。電撃の熱で特殊繊維のスーツが焦げ、皮膚が浅黒く焦げる。矢風が身を地面へと転がる。名莉はその間に、敵から距離を取り、身体に流す因子で身体の痺れを掻き消す。痺れは消えるが、その変わりにビリビリとした痛みが残る。

「強化兵というだけあって、少しはタフらしい」

 マイアの冷たい言葉が矢風に向けられていた。矢風は自分の首にきつく巻き付いた鎖を力任せに外そうとしている。

 名莉はすぐさま二丁の銃へと因子を流す。装填する。地中に身を顰める移動する怪物たちへと銃弾を飛ばし、射止める。背後から迫ってきた怪物も気配のみで、狙いを定め銃弾を撃ち込んでいく。

 国防軍の戦艦から、巨大な砲撃が容赦なく発射された。

 その砲撃を、まるでボールを蹴り飛ばすように砂浜から高く跳躍したリーザが、上空へと蹴り飛ばす。そしてそのリーザの横を春香がすり抜け、国防軍の戦艦に付いている放射台を、手品のように一瞬で消滅させてしまう。

 その一部始終を見ていた一般の兵士たちが、半狂乱しながら銃を手に向かってくる。照準などあったものではない。

 無造作に乱射される銃弾は砂を巻上げる。防波堤に銃痕を付けて行く。

 名莉は真上へと跳躍し、銃を乱射する兵士の手元に向けて普通の銃弾を撃ち込んでいく。名莉の銃弾が、銃を持つ兵士の手を掠めていく。

 銃弾が手を掠めた痛みで、兵士たちが砂浜に銃器を落としている。銃を落とした兵士は一気に身体を強張らせ、身を震えさせている。

 恐怖に支配されているような表情だ。名莉はそれを見て、心が痛くなる。けれどその痛みを一瞬だけ目を閉じ、無視する。そして次に目を開いたときには、マイアの鎖鎌から逃れた矢風とマイアの近くへと着地し、引金を引く。

火炎爆技 ベテルギウス

 名莉の放った銃弾が炎を吹き出しながら、矢風の姿を覆い尽くす。数弾の銃弾が一斉に爆発し、大きな爆発を生んでいた。

 咆哮を上げるように、炎が火柱を上げる。そこにマイアが鎖鎌を投げ込む。けれどその鎖鎌が標的を切り裂く前に、矢風がベテルギウスの炎から脱け出す。

 ケブラ―繊維で出来た皮膚は大きく爛れ落ち、身体の所々の内側から筋肉繊維が露わになっている。

「これだから、因子持ちって奴は嫌になるよな? 身体を大改造したっていうのに、この様かなんて。ああ、嫌になる。テメェらみたいな化物がいるとよぉー。純粋に強くなろうとしてる俺たちがアホみてぇーだ」

 男が口許を引き攣り上げ、自虐的なせせら笑いを浮かべる。

 そして勢いよくマイアへと、さっきの炎で熱を帯びた鉤爪を勢いよくマイアへと噴射する。マイアがその鉤爪を避けようと動く。

 だがその足が、地中から飛び出た怪物の手によって、掴まれる。名莉が急いで銃弾で怪物の手を吹き飛ばす。けれどその時には、四つの鉤爪がマイアへと突き刺さっていた。

 マイアの顔が微かに歪む。

 矢風が突き刺した四つの鉤爪を、外側へと開き……マイアの腹をそのまま広げ裂こうとしている。そして矢風がニヤリと笑みを浮かべ、鉤爪と腕を繋げているワイヤーを使って、マイアを地面に勢いよく叩きつける。それを何度か繰り返し、自分の元へと引きつける。片腕に拳を造り、引き寄せるマイアの顔に狙いを定める。

 ワイヤーに引き寄せられたマイアが矢風の拳をすんでの所で、顔を横にずらし避ける。そして変わりに自分の拳を男へと喰らわせる。

「やれ」

 マイアの言葉を合図に名莉の銃弾が矢風の首元。ケブラ―繊維で出来た皮膚の下の筋肉へと撃ち込む。それと同時にマイアが鉤爪のワイヤーを切断した。

 矢風が口から血を溢れだし、そのまま砂浜へと倒れ込んだ。

「矢風め、因子持ちとはいえ女二人に……」

 シルバーグリーン色の髪の男が、真上から苛立っているような表情を浮かべ、勢いよく両足で名莉たちの前に着地してきた。男が着地した個所の地面が大きくへこみ、足元の砂がそのへこみへと流れ込む。名莉とマイアはその砂に足を取られないように、相手と距離を取る。

 そこへ……

「なに? その足、強化義足系? てか、砂浜に穴なんて作っちゃ、駄目でしょ」

 やってきたフォースが、大剣を真上からやってきた男へと振り下ろす。男が間一髪の所でフォースの大剣を避ける。だがしかしフォースから逃れられていない。もうすでにフォースは男の後ろを取り、獲物を捕らえた獣のような視線をし、笑みを浮かべているからだ。

「残念でした。おじさん、今腹の虫が凄く悪いんだ……なっ!」

 フォースが剣を使わず、両手で男の頭を持つと、足膝で男の顔面を殴打する。容赦なく左右の足で何回も。

「あの男は、フォースに任せておけばいい。私たちは他の奴だ」

 マイアの言葉に名莉が頷く。そんな名莉たちの頭上では、オースティンが放った電磁砲が放たれていた。

 頭上で雷の轟音が響く。そしてその砲撃の先には三つ網の一つ縛りをした男が、戦艦の側面の方へと吹き飛ばされていた。

 強化兵の一人だろう。まだ動ける強化兵が四人。その他に一般兵が六〇〇人と、一気に数が減っている。

 このまま行けば、すぐにこの戦いは鎮静することができるだろう。

 そうすれば、真紘たちと同じように反対岸で敵と交戦している狼を援護しに行ける。名莉は早くこの場を収めて、そちらに向かいたかった。

 何か嫌な予感がする。その予感が名莉の気持ちを落ち着かなくさせていた。

 もしも、狼の身に何かあったら……

「鳩子、今狼たちの状況は?」

 名莉が鳩子にそう訊ねるが、鳩子からの返事が帰ってこない。

「鳩子? どうしたの?」

 再度、訊ねる。けれどやはり……返事は返ってこない。もしかして、鳩子の方に何かあったのだろうか?

「ネズミ、鳩子の様子が変。何かあったのかも」

 少し余裕ができた様子の根津に通信を入れる。

『本当に? もしそれが本当なら大変だわ。すぐにそっちに向かいましょう』

「わかった」

 話が纏まり、名莉が根津と共に移動しようとした瞬間……

「なんか、飛んでくるぞ」

 竜の姿をしたシックススの背中に乗るセブンスが大声で叫ぶ。そしてセブンスが見たものは、名莉たちにも見えた。

『あれって……』

 根津の呟きが通信越しに、名莉の耳に届く。

「狼……」

 こちらへと向かって飛翔してきた熱源体は、紛れもなく狼の因子を含んだ斬撃だった。けれど何故、狼の斬撃が?

 名莉がそんな疑問を浮かべたが、それをすぐに驚愕が飲み込んだ。

 狼の放った斬撃が、国防軍の戦艦に命中し……戦艦の一つ一瞬で爆発と炎に包み込まれ、姿形が崩れる。凄まじい衝撃波が敵味方関係なく、襲いかかる。名莉も思わず身を屈めて、衝撃波から身を護る。

 そして海から一隻の戦艦の姿が消滅していた。海面には、火の粉となった戦艦の残骸が降り注ぐ。そして二手目が、続けて飛翔してきた。


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