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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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少年のセンチメンタル

 狼たちは、イレブンスたちと共に自分たちへと襲い来る、銃弾やKaーシリーズと呼ばれる怪物たちの獰猛な牙や爪から逃れていた。

 リーザと8thは、他の仲間を探しに行くと言って、この場を離脱している。そのため、残っているのは、狼、誠、操生、イレブンスの四人だ。

 銃弾が無造作に狼へと向かってくる。向かってきた銃弾を狼がイザナギの刀身で弾き、返す。だがその瞬間に、飛び交う銃弾の合間を縫うように狼へと進んできた、怪物の獰猛な爪が狼へと襲いかかってくる。

「連携攻撃かよっ」

 皮肉混じりの言葉を唾棄しながら、狼が真横に跳躍して、怪物の爪を避ける。怪物の爪が衝突した爪が地面に穴を開けた。

 大神刀技 天之尾羽張

 狼の因子によって強化されたイザナギの刃が、怪物の身体を木っ端微塵に切り裂かれる。群れるようにいた、他の同種の怪物も切り刻んで倒して行く。

 だがそのペースも国防軍の攻撃によって崩されてしまう。

「面倒だな」

 そう呟いたのは狼ではなく、近くで和弓を引いていたイレブンスだ。

 イレブンスの引いた弓矢が、次々に兵士たちの片や足に突き刺し、兵士たちの足止めをおこなっている。だがしかし、それでも海岸の方から、続々と兵士がやってきていた。

「狼、俺とおまえで無駄に再生能力の高いKaーシリーズを相手にするぞ。操生と誠は人間を相手にしてくれ」

 イレブンスの言葉に操生が頷き、それに続いて狼と誠が頷く。

 それから狼はイレブンスと共に人よりも重量感のある身体で襲いかかってくる、Kaーシリーズを相手にする。

「僕は右側のを相手にする」

「じゃあ俺は左だ」

 狼は自分たちから見て右側にいる怪物へと肉薄する。狼の前にいる怪物の数は二十五体ほどだ。怪物が大きな顎を大きく開き、近づいて来る狼を食い千切ろうと襲ってくる。

 狼はそんな怪物の頭を一度蹴り、怪物の身体が一瞬よろめいた隙に頭を身体から切り落とす。

 大神刀技 (あつ)(とう)

 怪物へと狼がイザナギを振り下ろした瞬間、怪物の身体が押し潰され、なんの跡形もなく消滅する。狼は一体目を倒したあとすぐに、身を捻り、自分の背後に回っていた怪物を続けて、一刀両断する。

 だが怪物たちも狼の動きに対応するように、動きが速くなっている。そのため、怪物の鋭い爪が狼の背中を引き裂く。

 引き裂かれた箇所から血が溢れ、激痛が狼を襲う。襲ってきた痛みで身体の体勢が崩れる。

 そんな狼を怪物たちが目ざとく、襲いかかってきた。

 獰猛な怪物の牙が狼の首に突き刺さる。

 音もなく突き刺さった太い怪物の牙は、首の骨をそのまま突き刺さんと、深く入り込もうとしてきた。

 そんな怪物の腹にイザナギを突き刺し、大穴を開ける。

 すると怪物はその痛みに絶叫し、狼から離れてきた。狼も首を押さえながら、後ろに後退する。

 怪物の牙により抉られた首の傷が、熱を帯び、血が次々と溢れだす。痛みが後からやってきた。いや、怪物の牙が刺さっているときは、無我夢中で怪物を引き剥がすことに集中していた。

 だから痛みが頭の隅に追いやられていた。けれど一度冷静になれば、首に走る痛みは強烈で、狼の表情を歪めた。

 まだ怪物は残っている。

 いっそのこと大きな技を放って、一気に片をつけてしまおうか? そんな考えが脳裏に過る。しかしすぐに考え直した。

 それをやってしまうことはできない。

 大きな技を放てば、危ない接近戦をせずとも怪物たちを倒すことはできるだろう。しかしそれでは、別の所に被害を出してしまうかもしれない。

 今も誠や操生は、数をどんどん増やしている国防軍の兵士と戦っている。もし狼が安易な考えで広範囲の技を放ち、それが兵士たちの方に当たったら……

 それを考えて、狼は背中に冷や汗が浮かんだ。

 戦場にいるのだから、人に手を上げることに躊躇いを見せてはいけない。相手は自分を殺そうとしているのだから。狼の中にある理屈がそう叫ぶ。

 けれどそんな理屈を、狼は受け入れられない。

 もっと僕が強ければ……

 こんなことで悩まずに済んだのかもしれない。

「狼! 前から来るぞ!」

 イレブンスの声が狼の意識を、現実に引き戻してきた。目の前から口から唾液を撒き散らし、四つん這いの格好で、自分へと肉薄してくる怪物がいる。しかも一匹だけではない。全部で一〇体もの怪物が一気に、狼へと詰め寄って来ていた。

 狼は身体に因子を流し、首と背中の止血をするとすぐにイザナギを構え、疾走する。

「はぁあああ!」

 声を吐きだし、自分を叱咤する。

 余計なことは考えるな。ただ目の前の敵を倒すことだけ、考えろ。

 大神刀技 天下一閃

 隙間なく密集していた怪物たちへと横薙ぎの斬撃が放たれる。斬撃を受けた怪物たちの身体が、体液が天下一閃の熱で沸騰し、身体が膨張爆発する。

 飛び散る肉片。

 しかしその肉片も、天下一閃の帯びていた余熱で、丸焦げになり消滅する。その瞬間、狼の耳に金属と金属が擦れたような高い音が聞こえた。

 音がした方を狼が横目で見る。すると、音を出していたのは、跳躍して真上にいた、イレブンスが放った弓矢からだ。

 弓矢からの音波で空気が大きく揺れ、怪物の足元に亀裂が走る。そして弓矢が怪物たちの元に到達した瞬間、大きな爆発が起き、怪物たちが激しい炎に包み込まれる。

「やべ。鬱陶しくてつい……」

 狼の近くに着地したイレブンスが、そんな呟きをしまった顔で呟いている。

「つい、じゃないだろ! 僕だって悶々しながらセーブしてるっていうのに、なにやってるんだよ!?」

「仕方ないだろ。面倒だったんだから。それに一応、人の死人は出してない。つまりセーフだ。気にすんな」

「気にするだろ! 普通! さっきまで、少しセンチメンタルに入ってた自分が馬鹿みたいじゃないか!」

「そんなこと俺がしるか。ほら、そんな小言なんか言ってないで、残りを片付けるぞ」

「ああ、もう! わかったよ」

 自分の言葉を一蹴された狼が、イレブンスと共に残った五体の怪物へと疾駆する。

 イザナギを構え、刀身に因子を注ぎ込む。蒼く光ったイザナギが熱を放出し、目の前にいた怪物を切り裂く。燃やし、焦がす。

 そして残りの一体となった怪物の身体を狼がイザナギで切り裂き、イレブンスの放った矢が頭を撃ち抜く。すると最後の一体は断末魔の咆哮を上げることなく消滅した。

 狼とイレブンスがKa―シリーズと呼ばる怪物を倒し終えると、誠と操生と戦っていた兵士たちが後退していく。

「どこに行く気なんだろう?」

 狼が逃げて行く兵士たちの背中を見ながら、首を傾げる。すると狼と同様に兵士たちの背中を見ていた誠が口を開いた。

「自分たちの陣地に後退したんだと思います。自慢の怪物たちが倒されて、この場に留まることが危険だと判断したのでしょう」

「後退ってことは、まだ攻撃を仕掛けてくるってことですよね?」

「ええ、おそらく。まだこのくらいでは、この島からの撤退はしないと思います」

 誠の言葉に狼は表情を曇らせた。するとそこに操生がやってきた。

「まぁまぁ、今は大酉君なりに連絡を入れて、状況を伝えた方がいいんじゃないのかな? それで問題なさそうなら、今の内に休息をとっておくべきだよ。黒樹君は痛々しい傷を負ってるからね」

 そう言って操生が狼たちへと苦笑を零してきた。

 確かに操生の言う通りだ。まだ戦いが起こるというのなら、休める内に休んでいた方がいいに決まっている。

「そうですね、わかりました」

 操生に頷き返して、狼は情報端末を開いた。

 情報端末を開くと、二件のメッセージが入っていた。送り主は真紘と鳩子からのものだ。どちらも受信時間を見ると、つい先ほど送られてきたものらしい。

 二件のメッセージを開くと、どちらも敵を倒したという報告と、狼の状況を知りたがっている内容だった。

 狼はすぐさまそのメッセージに返信して、操生たちへと向き直る。

「あの、杜若教官たちに訊いてもいいですか?」

「構わないよ。私たちになにを訊きたいのかな?」

「さっき杜若教官たちは、僕たちの助っ人に来たって言ってましたよね?」

「言ったよ。だって私たちは小世美君の命を奪わせないために、来たんだからね。それはさっき出流も言ってたと思うけど」

「聞きました。でもじゃあどうして、杜若教官たちと、最初に来た人たちのやってることは、真逆なんですか? 同じトゥレイターですよね?」

「トゥレイター全体の意見は、小世美君を殺すだけど……私たちはその意見に反逆中なんだよ。元々私たち、トゥレイターの人たちは、反逆精神旺盛でね。自分の意見と食い違えば、自分の所属する組織相手だろうと、反逆するんだよ」

「じゃあ、本当に杜若教官や出流は、僕たちの味方って思っても大丈夫ってことですか?」

 狼が真剣な表情で訊ねる。すると操生が優しい笑みを浮かべてきた。

「答えはイエスだよ。まだ一応、私は明蘭の臨時教官だからね。可愛い生徒が困っていたら、それを助けるのも教官の役目だからね」

「……ありがとうございます。杜若教官。あと出流も」

「別に、礼なんていい」

 素っ気なく返事を返してきたイレブンスに狼が片目を眇めさせる。

「あれは出流の照れ隠しです。だから気にしなくて平気ですよ」

 誠が苦笑を浮かべて、狼にそう言ってきた。するとイレブンスが誠を恨めしげな視線で睨んだ。

「私は本当のことを言っただけだが? なにか問題でもあったか?」

「ああ、大いにな」

「そうか。それは大変だな。だが私は自分の言った事を撤回する気はないぞ」

 誠がしれっとした表情でそう言うと、イレブンスは罰の悪そうな表情をして溜息を吐いた。

「まぁまぁ、とりあえず僕の家に戻って休息しませんか? どうせ休息するならちゃんと休める所がいいと思うし」

 狼がそう切り出すと、誠が少し申し訳なさそうに口を開いてきた。

「申し訳ありません、黒樹様。私はまだ連絡の取れない左京のことが気になりますから、先に行っていてください」

「わかりました。一人で大丈夫そうですか?」

「はい。大丈夫です。もし何かあれば連絡いたしますから。それでは」

 誠がそう言って、狼たちに踵を返して別の場所へと移動し始めた。狼は誠の背中を見送ったあと、再びイレブンスたちへと視線を戻して、口を開いた。

「出流たちはどうする? 確か一緒に来た人がいるんだろ?」

 狼がそう訊ねると、イレブンスは軽く肩を竦めさせてきた。

「ああ。丁度その一緒に来てた奴から、さっきメッセージが来てた。しかも驚きの写真つきで」

「驚きの写真?」

 狼が疑問符を浮かべながら、首を傾げさせると……イレブンスが一枚の写真を見せてきた。

 その写真を見て、狼が思わず目を丸くさせる。

「えっ、どういうこと?」

 思わずそんな言葉が狼の口から漏れる。

「さぁな。でもどうやら、俺と一緒に来た奴は、狼の仲間と共におまえの家にいるみたいだな」

「でも、殺伐とした空気が流れる写真が送られて来なくて良かったじゃないか」

 操生が狼とイレブンスの間から顔を出し、トゥレイターメンバーとデンメンバーが写る、画像を見て、楽しそうに笑ってきた。

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