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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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紅蓮

 火の粉が地面に散った瞬間、高雄の頭上にフォースの剣が振り落される。高雄が横に移動する。フォースの剣が勢いよく振り落された地面が割れた。地面が抉れ、辺りに砂塵が舞い、視界が悪くなる。

 けれど高雄とフォースの視線はお互いを捕らえていた。

 勢いよく二人が地面を蹴り、剣と刃が鍔迫り合う。

 お互いがお互いを押し合い、一時の膠着状態になる。

「ったく、いい歳して変にひねくれやがって。大人として恥ずかしくないのか?」

「まったく、全然! むしろ、目の前にいる誰かさんみたいな嫌いな奴を殺せるから好都合としか思わないね」

「おかしいな。俺はおまえに恨みを買うようなことした憶えないけどな」

「ああ、そうね~。そういう記憶はないかもね……でもよ、そういうのがないのに、嫌悪感を抱くってことは、それこそどうしようもない、本物の嫌悪ってことだろーな」

 フォースの口調はすごくあっさりとしていた。至極当然のことでも言っているかのように。

 だからこそ、フォースの言葉は嘘偽りないものだとわかる。

 高雄とフォースは特段、仲悪くも仲良くもない兄弟だった。フォースの減らず口は昔からだし、高雄自身、フォースに対して下手な干渉はしていなかった。

 黒樹の本家にいるときは時折、重蔵が高雄とフォースを戦わせていた。黒樹の次期当主をどちらにするか見定めるためだ。

 それで高雄が黒樹の当主として選ばれても、フォースはあっけらかんとしていた。

 だから名家あるあるではないが、当主に選ばれなかったから恨んでいるという理由はフォースには当てはまると思えない。

 むしろ、高雄にしてもフォースにしても当主という肩書きに興味なく、お互いに擦り付け合っていたくらいだ。

「まっ、おまえに嫌われていようと、嫌われてまいとどっちでもいいけどな」

 軽く肩を竦めて高雄がフォースの剣から刀を離し、後ろに後退する。そして後退しながら、フォースの足元を狙って、斬撃を放つ。

 フォースがその斬撃を避けようと後ろに跳躍する。そんなフォースに高雄は刺突の衝撃波を重ねて放った。

 その衝撃波がフォースの腹に直撃する。そこを高雄が一気に責めようと踏み込む。だがその判断は間違いだった。踏み込み、地面を蹴った瞬間。背中に嫌な悪寒が走った。

 高雄の放った衝撃波は、間違いなくフォースに直撃し、ダメージを与えた。しかし、高雄の直感がこれはフォースの仕掛けた罠だと訴えていた。

 だが気づいた所でもう遅い。もうすでにフォースの技が高雄へと向かってきて、左腕から血と吹き出すのと同時に、皮膚が焼ける激痛が走った。

 熱閃(ねっせん)という技をフォースは高雄から斬撃が飛んできた瞬間に、放っていたのだ。熱閃は、無色透明な斬撃で、高温の熱を含んだ一閃だ。

 しかし無色透明とはいえ、熱閃を見破る方法ならある。熱閃は、通常の斬撃に含まれる熱よりも高温の熱を含んでいる。そのため熱閃が通ると、その周りには陽炎が発生するからだ。

 だからこそ、フォースは高雄が斬撃を放った瞬間に、熱閃を放ってきたのだろう。

 己の技を熟知しているからこそ、こんな小細工を仕掛けてくる。

「和巳、おまえにしては上出来な小細工じゃねーか」

 左の肩から左手の指先までの感覚が失われている。フォースの斬撃は高雄の腕の骨にまで達し、焦がしている。

 でも、充分だ。まだ右腕がある。足がある。頭がある。

 黒く焦げた左腕は痛みを通り越している。なら無視してもいい。

 高雄がフォースから距離を取る。

 片手で大太刀を頭の後ろで構え、左足を一歩前に出す。

 因子を大太刀へ、そして自分の身体全身に一気に流す。右手に持っている刀さえ自分の身体の一部とさえ感じる。

 そしてこのとき、高雄の身体には接種型の因子持ちと同じレベルの因子を身体に巡らせていた。そのため、身体が一気に膨張しているような錯覚に襲われる。だが錯覚は錯覚だ。

 見た目はなにも変わらない。

 だから例え因子持ちであっても、今の高雄の身体に大量の因子が巡っているとは、わからないだろう。

 身体に巡る大量の因子の熱で、体内の血が、沸き立つ。

 高雄の身体は因子を流し込まれたBRVに匹敵するほどの体温に上がっていた。

 身体は悲鳴を上げている。当然だ。高雄は接種型の因子持ちというわけではない。普通の武器を使用する因子持ちなら、体温が急激に上がったことで、地面に倒れてもおかしくない。

 けれど、そんな自分の身体に負荷を与えてまでも、行える技が黒樹にはある。

 高雄が次の手を加える前にフォースも動く。因子を流した剣から巨大な炎が燃え盛る車輪が高雄へと勢いよく向かってくる。炎の車輪が地面に焦げ目をつけながら、炎を荒ぶらせている。

 しかしその技では次の一手を防ぐことはできない。

 炎爆刀技 紅蓮

 高雄が大太刀を横薙ぎに払う。その瞬間……紅い炎が一気に界隈に広がり、炎の車輪を飲み込み、フォースをも飲み込む。視界が全て炎に包まれる。

 だが紅蓮の炎は炎でありながら、熱を通り越し、極寒の冷気を纏っている。そのため紅蓮に触れた地面には焦げ目と共に、地面に生えていた草の葉が氷付き、ガラスのように砕けている。

 そして紅蓮の炎を帯びた斬撃を受けとめようとしたのか地面には、二本の足跡で線を引いたような黒い痕が残っていた。その線の先には、防波堤に背中から激突したフォースが座り込んだまま、頭を下げている。

 強烈な冷気で裂けたフォースの身体からは、血が流れている。

「この技の威力なら、この馬鹿も知ってるはずなんだけどな。馬鹿なりの意地って奴か?」

 少し重くなった足を引きずりながら、高雄がフォースへと近づく

 一応脈を調べると、大分弱ってはいるが……まだ脈は動いている。

「……本当に男兄弟ってのは、面倒なもんだ」

 高雄はそう、力なく呟いた。




 目の前で鮮やかな花の刺繍が入った着物が翻る。そしてその着物を着た少女が嬉しそうに笑みを浮かべ、鉈を揮ってくる。揮われる鉈を受け止めながら真紘は訝しげに表情を歪めた。

 だが決して如月雪乃が自分に対して歪曲した執着を持っているからではない。真紘が表情を歪めた理由。それは、自分に対する敵意というものが雪乃から、まったく感じられないということだ。

 他者から見れば、雪乃は真紘に対して刃を向けて、斬りかかって来ているように見えるだろう。しかし戦ってみればわかる。それが本物の敵意ではないことが。

 雪乃が真紘に向けているのは、敵意ではない。好意的なものではない。雪乃が真紘に抱いているのは、もっと歪で敵意よりも恐ろしい何かだ。

「真紘君、どうしたんですか? 私の攻撃を受け止めてるばかりではつまらないですよ? さぁ、もっと……楽しみましょう」

 安い挑発。普段の敵ならばそう素直に受け取るだろう。しかし雪乃の言葉となると、それが安い挑発とも思えなくなってくる。

 現に雪乃は凄く楽しそだ。それこそ無邪気に戯れる少女のように。

 鉈の刃とイザナミの刃が衝突し、その衝撃で雪乃が後ろに教え返される。すると雪乃が宙で身を翻し、軽やかに地面に着地した。

 地面に着地した瞬間、真紘に向けて斬撃を放ってきた。

 真紘はその斬撃を刀で払い除け、そして雪乃に斬りかかる。真紘の刃が雪乃の身体を切りつけ、血が溢れ出す。傷は浅い。雪乃が微かに後ろに身を引いたからだ。しかしやはり雪乃の口許には、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

 そして口許に笑みを浮かべていた雪乃が、鉈を持っていない右手を、真紘へと伸ばす。雪乃の白く細い指が真紘の頬をなぞる。

 真紘は目を見開いて、しまったと自分を叱咤する。戦い中に敵に隙を見せるなど……真紘はすぐに雪乃の腹を足蹴りして、後方に飛ばす。

 雪乃を蹴り飛ばしたのと同時に、因子をイザナミの刀身に流し、練る。

 大神刀技 風神

 暴風を引き起こす竜巻が蹴り飛ばされた雪乃へと向かって行く。雪乃はすでに体勢を整えていた。真紘の放った風神の影響力が少ないところにいる。風神の影響下に入れば、風神の荒い気流によって、あっという間にいかなる物も微塵に切り刻む竜巻の中へと押し込まれてしまうだろう。

 しかし、雪乃は逃げようともせずその場に立っている。

 風神の暴風が雪乃の髪や、着物を激しく揺らす。

 このまま切り刻まれる気か? そう疑ってしまうほど雪乃は微動だにしない。そして風神が雪乃の身体を、渦を巻く風の刃で、切り刻もうとしている。手を伸ばせば、風神に触れることができる距離になった瞬間、雪乃が鉈を構え、自身へと襲いかかってくる竜巻を、横一線に両断するように払う。

 鉈と風の渦である竜巻が衝突する。着物の袖が竜巻によって切り刻まれる。しかし雪乃は臆することなく、竜巻を裂くように鉈を揮う。

 空気の渦である竜巻をそう易々と裂くことは困難だ。

 しかし、雪乃は半ば強引に力を振り絞り、真紘の放った竜巻に鉈で斬り込みを入れると、一気に横に疾駆し、直径四メートルはある竜巻を横に切り裂いた。

 だがそんな雪乃に真紘からの追撃が襲って来ていた。イザナギの刃から伸びた志那(しな)都比(つひ)()が雪乃の胴を容赦なく貫く。

 貫かれた雪乃が宙にふわっと浮く。

「真紘君……やっぱりダメダメですね」

 雪乃がそう呟いた。

 ただの虚言だと真紘は冷ややかな視線で雪乃を見る。しかしその直後真紘の身体に異変があった。全身がしびれる様な感覚だ。真紘の身体に異変が起きた瞬間、雪乃の胴を貫いていた風の刃が霧散する。

「なにっ!?」

 真紘の口から思わず、そんな言葉が漏れる。

 言葉を漏らし、真紘ははっとした。これは雪乃の仕業に違いない。

「貴様、何をした?」

 痺れる手を見ながら、口許から血を流し笑う雪乃を睨みつける。

「私の因子を真紘君へと流しこんだんです。この技は空中に放たれる技ではなく、イザナミに付随している技なので、それが可能でした」

「つまり俺の因子を媒介にしたということか」

「はい、そういうことです」

 雪乃が頷いて、足を引きずるように真紘の元へとやってくる。その間にも身体からは血が滴り流れている。因子で止血をしていないのか、出血が止まる様子がない。

 真紘は雪乃から距離を取ろうと身体を動かそうとするが、もう全身に雪乃の因子が回ってしまっている。そのため、全身が痺れ、思うように身体を動かすことができない。

 痺れて思うように身体を動かせないでいる真紘に雪乃が愛おしそうな視線を向けていた。

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