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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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「この……爆発音って」

「敵がやってきたってことよね?」

 狼と根津の言葉に小世美やデンメンバーが顔を強張らせる。すると真紘が静かに立ち上がった。

「まだ音は遠い。だがすぐに近くなるだろう……セット・アップ」

 真紘が手にイザナミを復元する。狼はそんな真紘に頷き、デンメンバーへと視線を向けた。

「僕たちも行こう」

 デンメンバーにそう言って、次に小世美へと視線を向ける。小世美と目が合う。

「小世美、小世美にはここに居て欲しいんだ……」

 この言葉を聞いて小世美がどう思うかは分からない。自分が小世美を足手まといだと思っていると勘違いされてしまうかもしれない。それを考えると、少し忍びない気持ちなる。

 けれど、小世美に敵からの攻撃が来る危険な場所に居て欲しくない。その気持ちの方が小世美から誤解される心配よりも強かった。

 狼が小世美に本心を言ってから、ほんの少しの間があった。やはり小世美を傷つけてしまったかも。そう内心で心配した狼に、小世美が口を開いてきた。

「うん。私ちゃんとここで皆を待ってるね」

 小世美がそう言って、にっこりと微笑んできた。

 微笑んだ小世美の瞳に陰りなどはない。自分で考え、自分で決断した顔だ。そんな小世美の表情を見て、狼は狼は心から安堵した。そして、狼はしっかりとした口調で小世美に言葉を投げる。

「行ってきます」

「いってらっしゃい」

 そんな言葉を小世美と交わしている狼に、春香が柔らかい表情で口を開いてきた。

「狼、安心しなさい。狼がいない間はお母さんがちゃんと小世美ちゃんを守ってあげるから」

 春香がそう言いながら、狼にウィンクをしてきた。

 狼はそんな春香に苦笑を零しながら、頷く。少し前の自分なら春香の話を聞いても、春香を信頼できたかは怪しい。いや、むしろどんな理由があれ、自分たちを置いて行ったことに変わりはないと、春香のことを許せなかったかもしれない。

 それを考えると、狼は春香のことを許せた自分がほんの少し誇らしくなった。

「うん、よろしく……母さん」

 春香が狼の言葉に驚いて目を丸くしてきた。そのため、狼は自分の言ったことに気恥ずかしくなる。しかもそれに追い打ちをかけるように、デンメンバーや真紘が優しくほ吠えんでいるのがわかる。

 こうも暖かく微笑まれていると、狼はなんとも言えない微妙な気持ちになる。

「ほら、僕たちも急がないと。もう攻撃が来てるんだろ?」

 狼が皆に声をかけ、そのまま家を出た。

 手にイザナギを復元する。身体に因子を流し、爆発音がした方向へと疾走する。

「やはり、家族とは良いものだな」

 あとからやってきた真紘がにっこりとした表情で声を掛けてきた。

「あんまり言うなよ。なんか照れるだろ」

「あはっ。そうだよね。お母さん嫌いの狼くんが、反動でマザコンになったら笑いだもんね」

「えー、狼、マザコンとかやめてよ。いくら自分のお母さんが超絶美人だからって」

 季凛と鳩子の言葉に狼が顔を引きつらせる。

「あたしもどんな理由があれマザコンは無理ね」

「でも、本当に狼のお母さん、綺麗だった」

 根津と名莉が季凛たちに続いてそんなことを言ってくる。

「黒樹、母を慕う気持ちはわかるが……マザーコンプレックスにはならない方がいい」

「なるかっ!」

 真剣な表情で自分を諭してきた真紘に、狼は勢いよく声を張り上げた。自分がマザコンなんて、想像しただけでもおぞましい。狼は真紘やデンメンバーの言葉を聞いて気持ちをげんなりさせていると、少し離れたところに防波堤と海が見えてきた。

 海自体は、すごく穏やかだ。けれどそんな海の上空から狼たちへと突っ込んでくる飛翔物が見えた。

 敵からの砲弾ではない。けれど確実に狼たちへと危害を加えるものだ。飛翔物は大きい。テレビなどでたまに見る戦闘機よりも大きかった。きっと全長二、三十メートルはあるだろう。大きな翼を合わせると、それ以上にも見える。

 硬そうな皮膚。大きな目。そして鋭い牙に鋭い爪。

「嘘でしょう?」

 根津が目を丸くして呟く。できるなら狼もなにかの冗談だと思いたい。けれど狼たちへと飛んでくる飛翔物は、紛れもない本物の……

「竜だ」

 驚きながらも狼が短く言葉を吐く。その瞬間、狼たちへと飛んできた竜が口から勢いよく炎を吹きかけてきた。

 視界が一気に赤く染まる。だがその赤く燃える炎に焼かれる前に、狼たちは炎を避けるように跳躍していた。

「はっ!」

 真紘が竜に向け、風の刃を纏った斬撃を放つ。斬撃は竜の首を両断せんと襲いかかる。けれど真紘の斬撃は竜の首に当たるよりも前に、爆散した。

 その光景に真紘が眉を潜めさせている。それは爆散した自分の攻撃に大してではない。竜の背中に立って現れた男を見てだ。

「あーあ、どうせ野郎からの攻撃を受け止めるほど、気分悪いものはねぇーな」

「貴様、トゥレイターの」

「そっ。おまえと戦うのは二度目か? 惜しいよな。おまえが女だったら少しは手加減してやったのに」

 溜息を吐きながら、真紘にそう言葉を掛けたのはトゥレイターのナンバーズで、イタリア代表のバリージオ・アマルフィの兄。セブンスだ。

「ここに来たってことは、あなたも小世美の命を狙いに?」

 狼が顔を怪訝そうに歪めて訊ねると、セブンスが肩を竦めてきた。

「まっ、そういうことだ。でも俺は基本的に女の子を殺さない主義だ。だからその子を殺す役はコイツに任せる」

 セブンスがそう言って竜を手で叩く。けれど叩かれた竜はそれに反応する素振りはない。いや、叩かれたことも気づいていない様子だ。

「ふざけるなっ!」

 狼が吠える。吠えてイザナギを構え、竜と共にセブンスへと攻撃を放った。

 大神刀技 千光白夜

 強烈な白い閃光がセブンスたちへと放たれる。けれど千光白夜を避けるように竜が急旋回して、狼たちへと接近してきた。

 狼の頭上に大きな影ができる。狼は咄嗟にイザナギを頭上に構える。するとイザナギに竜の鋭い爪が襲いかかってきた。鋭い爪とイザナギが火花を散らしながら衝突する。狼は二つが衝突したときの衝撃で狼の立っていた地面に、大きな亀裂が入った。

 竜の腕力が強く、イザナギで受け止めたはずなのに腕がビリビリと痛む。だが竜の爪にばかり気をとられていられない。

 狼の背中に強烈な痛みと内蔵が前に押し出されるような衝撃がきた。口から血を吐き、そのまま前方へと吹き飛ばされる。

 狼は身を翻し、地面にイザナギを突き立てる。そのため民家の壁に勢いよく叩き付けられることは間逃れた。それに身を翻したことにより、自分の背中に襲った衝撃がセブンスによる蹴り技だったということも分かった。

 セブンスと目が合うと、セブンスが軽い調子で片目をつぶってきた。

 狼は口に残った血を吐き出し、セブンスを睨む。

「そう睨むなよ。戦うってこういうことだろう?」

「ええ、そうよねっ!」

 セブンスの言葉に青龍偃月刀を頭上に振り上げた根津が答える。そして振り下ろした。だがその青龍偃月刀をセブンスの細く、強靭な糸が刃を受け止める。

 刃と糸が擦れ合い、毛が逆立つような嫌な音がする。けれどその音を振り払うように、根津が二手目をセブンスに繰り出す。刃は横薙ぎに払う軌道で、セブンスの胴を二つに裂くには充分の払いだ。

 けれどその二手目は、長くて太い竜の尻尾が邪魔をする。根津が憎々しい顔で後退した。

 根津が飛びのいた瞬間、竜の横腹と頭から血が噴き出した。名莉が銃弾を撃ち込んだのだ。

銃弾を撃ち込まれた竜は、苦痛の叫びを上げながら、宙を飛びながら身体をくねらせる。

「おいおい、シックスス。そんな激しく飛ぶなよ!」

 背中に乗っていたセブンスが、竜に向かって怒鳴る。けれど見をくねらせている竜の耳には届いてない。そのためか、セブンスが竜から振り下ろされる前に、自ら地面に着地する。着地したセブンスが溜息を吐き出した。

「やってらんないね。あれくらいの怪我、すぐ治るくせに」

「あはっ。呟く暇はないと思うけど?」

 セブンスを季凛が投擲した矢が飛んでいく。

「おっ、ボインちゃんからの攻撃なら大歓迎だぜ。確か君の名前はキリンちゃんだっけ?」

「おまえみたいな、スケベに名前を覚えられるとかマジ気分悪りぃ。あはっ」

「俺は一度会った女の子の名前は絶対に覚えてる。君みたいに可愛い子は特にな」

「あはっ。うざっ」

 自分に向かってくる矢を糸でセブンスが切り刻んでいく。そんな二人の頭上では狼と真紘が宙に飛んでいる竜より高い位置まで跳躍していた。

 狼と真紘が左右に広がり、両側からそれぞれ竜へと斬撃を繰り出す。

 けれど竜が身を捻りながら急降下し、狼と真紘の斬撃を避けた。そしてそのまま、真下にいた根津や名莉を翼で起こした風で、吹き飛ばす。

『みんな、戦い中に悪いけど……あんまりここでの戦いに時間を裂いてられないみたいよ』

「どういうことだ?」

 真紘が竜による突進を避けながら、訊ねる。

『こことは反対側の海上に国防軍の軍艦が五隻がこっちに近づいてきてる。向こうのシステムにアクセスしたら、この島に向けての砲撃準備は整ってるみたいよ』

「そうか。わかった。では、軍がこちらに到着するまであとどのくらいの時間が残ってる?」

『せいぜい十五分ってとこかな』

 十五分。狼は頭の中で鳩子の言葉を反芻させながら自分たちと戦うトゥレイターのナンバーズへと目を向けた。この二人を相手に十五分で決着をつけることはできるだろうか? そんな不安が狼の胸中に沸き起こる。

 弱気になってたら、ダメだ。僕たちを信じて待ってくれてる小世美のためにも自分が弱気になっている場合ではない。

 狼は家で待っている小世美のことを考え、自分を奮い立たせる。

 待つという選択肢をした小世美はきっとすごく心細くて不安に決まっている。自分の命が狙われているという状況で、ただ待つだけということは誰でも不安で、怖くて堪らないはずだ。

 それでも小世美は狼たちを待つことを選んでくれたのだ。

「はぁあ!」

 狼は声を上げ、真上にいる竜へと高く跳躍する。斬撃だけではなく直接、竜の腹へと斬り掛かる。

 刃が竜の下腹の肉に食い込む。その感触はすごく硬い。まるで物凄く巨大な巌にでも斬り掛かっているようだ。

 そのため、イザナギで斬りつけても、そこから少量の血が出るだけで、すぐに傷口は塞がってしまう。竜の皮膚に弾かれるように狼は地面に着地した。

 斬りつけた箇所を見て、相手の強靭な再生能力に狼は顔を顰める。

「黒樹、二人でバラバラに攻撃せずに一カ所を二人で狙うぞ」

「わかった」

「呼吸を合わせてくれ。静かにだ」

 真紘の言葉に狼が頷く。

 真紘が目線で狼に示してきたのは、左側からの首の付け根。そこを狙おうと考えているらしい。そのため、狼は真紘の横に立ち、イザナギに因子を注ぎ込みながら構える。

 隣では真紘もイザナミに因子を注いでいるのか、真紘の周りに微弱な空気が集中し始める。狼は真紘に言われたとおり、敵に動きがバレないように静かに因子を注ぐ。

「シックスス、野郎二人から狙われる気分はどうだ? ……おっと」

 セブンスが竜となったシックススをからかいながら、名莉による銃撃を避けている。

 だがそんなセブンスの言葉により、一瞬だけ狼の集中力が削がれる。しまった。そう思うがもう遅い。相手は狼たちが因子をBRVに注ぎ込んでいることに気づいてしまった。

 そのため、巨大な体躯からは想像できないスピードで狼たちが居る場所から遠ざかってしまう。

「ごめん、真紘」

「いや、気にするな。奴の仲間がもうすでに俺たちの動きを知らせていた。次の機会を狙うぞ」

 真紘が狼にそう言って、遠く離れたシックススへと疾駆する。狼もそれに続いて動いた。

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