表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
275/493

征服者

 狼たちが自宅へ戻ると、狼の家の前に真紘と共に左京と誠の姿があった。

「ちょっと待って、なんなの? あの格好……?」

 玄関先で自分たちのことを待っている真紘たちを指差しながら、根津が疑問を口にする。

「あはっ。あの格好……いくら真紘君でもダサすぎでしょ」

 そういう季凛は表情をかなり引き攣らせ苦笑を浮かべている。そしてそんな季凛を含む狼たちをドン引きさせた真紘たちの格好は、赤色のハイビスカスがふんだんに描かれたアロハシャツと白い短パン姿で、足元はビーチサンダルというスタイルだ。真紘の左右にいる左京や誠はその色違いで、左京は青、誠は黄色のアロハシャツを着ている。

「夜分に呼びだして、すまなかったな」

「いや、それは大丈夫だけど……その格好どうしたの?」

 狼が苦笑気味に訊くと、真紘が「ああ」という声を漏らしてから答えてきた。

「最初は明蘭の制服を着ていたんだが……その格好だと島では浮きすぎだと言われてしまってな」

 これを言うとしたら一人しかいない。狼が内心でそう思っていると真紘の隣にいた左京が澄まし顔で口を開いてきた。

「それで黒樹高雄様からこのアロハシャツを進呈されたのです。まぁ、私たちも南の島感が出ていて良いかなと思い、着させていただいている所存です」

「いや、でも南の島だからって絶対アロハシャツなんて決まりないですから。それ絶対父さんにからかわれただけです」

 むしろ、アロハシャツ=南の島と思って欲しくない。だが今はそんな下らないことに時間を費やしている場合ではない。

 一度アロハシャツのことは閑話休題だ。

「それはそうと、真紘が僕に話したいことっていうのは?」

「そうだな。早く話したいのはやまやまなのだが、少しゴタゴタしている。だからそれを話す前に、まず先に決定したことだけ言っておく。明日の朝一で島民を安全な沖縄か九州に避難させることにした」

 真紘の言葉に狼も含め、デンメンバーの表情が一気に強張った。

「避難って……つまり、戦いが起きるってことか?」

「ああ、そうだ。しかも、この戦いで一番に狙われるのは……」

 真紘が言葉を一度区切り、狼から小世美の方へと視線を向けた。

「黒樹小世美。貴様の命が狙われる事になる」

 真紘は険しい表情でそう言い切った。それを聞いて狼が目を丸くさせる。いきなり、小世美の命が狙われると言われ、動揺が身体に走る。

「誰が小世美の命を狙ってるの?」

 そう訊ねたのは名莉だ。

「狙っているのは、トゥレイターのナンバーズだ。いや、もしかすると、国の軍部も狙っているかもしれない」

「ちょっと、トゥレイターに、国の軍っておかしいんじゃない?」

 根津が眉を潜ませて、真紘の言葉に反論する。狼も同じ意見だった。だがしかし、真紘がなんの理由もなくそんなことを言うはずもない。

 狼たちが真紘の言葉を待っていると、真紘の代わりに左京と誠が口を開いた。

「皆さん、逸る気持ちはわかりますが……ここでは落ちついて話ができないでしょう」

「それに、中でもう一人の方がお待ちです。これからの話はその方を含めて話合いましょう。きっと黒樹高雄様もお戻りになる頃かと思います」

 誠がそう言い終わった、ちょうどその時、高雄が乗る原付バイクのライトが狼たちの背中を照らしてきた。

 そのため、狼たちも仕方なく話を切り中へと入ることにした。狼が小世美の方に視線を向ける。小世美の顔にはやはりかなりの動揺が走っている様子だ。

 小世美を気遣う様に近くに居た鳩子と季凛が背中を優しく撫でている。小世美はそんな二人に笑みを向けようとしているが、その笑みはとてもぎこちないものだ。

 絶対、小世美は僕が護る。なにがなんでも。これはまだ予測でしかないが、小世美が狙われる原因として小世美が持つ能力にあるのだろう。

 むしろその原因以外、考えられない。げんにその能力の所為で小世美は大城家に捕まったのだから。

 狼たちが家のダイニングとしている一〇畳の広さの和室に入る。普段は狼、小世美、高雄の三人しかいないため、十分にあまる広さだが、今の人数だと窮屈に感じる。そのため、ダイニングの襖を開け隣の八畳の部屋と二間続きにしてあった。その二間にいつもはテーブルが二つ縦に並んでいる。

 そんなダイニングに足を踏み入れた所で、誠が言っていた待ち人と目が合う。目が合った瞬間、狼は息が詰まった。

「はるちゃん!」

 小世美が驚愕の声を上げる。すると「はるちゃん」と呼ばれた、狼の実母である雪村春香が柔らかい笑みを小世美に向け、そして驚いて言葉を失くしている狼へと向けてきた。

「なんで……アンタがここにいるんだよ?」

 狼は視線を春香から外して、唸る様な声でそう訊ねる。

「それは、今回のことを俺たちに教えてくれたのは彼女だからだ」

 狼の問いに真紘が答える。けれど狼はそんなことどうでも良かった。顔を見た瞬間怒りがどっと噴き出してくるようだ。

「よく、平然と僕たちの前に姿を表せるな!? 自分が昔とんでもない事をした挙句、僕たちを父さんの所に置いて逃げた癖に!」

 狼がそう怒り散らした瞬間、狼の後ろ頭に強烈な拳骨が振り落された。その所為で一瞬意識が飛んでしまいそうになるほどの力で、頭がジンジンと痛み、視界が明滅する。倒れなかっただけ僥倖だろう。

「これから面倒な話するってときに、母親に怒鳴ってる場合じゃないだろ。ったく」

 狼が頭を押さえながら後ろを見ると、呆れたといわんばかりの視線で狼を見る高雄と目が合った。

「なんでだよ? 普通に考えて怒りたくなるだろ?」

 狼が頭を押さえながら反論すると、高雄が肩を竦めさせてきた。

「怒りたければ、あとで勝手に怒れ。けど今はおまえの怒り発散に時間を費やしてる時間はないだろーが。おまえと春香の親子喧嘩を見に、ここに集まったわけじゃないんだからな」

 まだ怒りはあるものの、高雄の言葉は正しい。そのため狼はまだまだ治まらない怒りを飲み込み、しぶしぶ口を閉じた。

「ウチのバカ息子が空気読まなくて悪かったな。じゃあとりあえず座って……忠紘の息子から今回の本題を話すか?」

 高雄が真紘のほうに視線を送ると、テーブルの前に座った真紘が頷き、

「真紘様、我々は玄関先で警護を行っております」

「ですので無用な心配をせず、お話しください」

 誠と左京がそう言って、部屋を出て行く。きっと左京たちは狼たちが来る前に、大方の話を聞いているのだろう。

 二人が出て行くのを確かめたあと、真紘が狼たちへと視線を戻し、口を開いた。

「ではまず、今の状況から話をさせてもらう。その後で黒樹の妹についての話をする」

 真紘がそう置いてから、再び口を開いた。

「黒樹たちが仙台にいるとき、欧州からきたトゥレイターと宇摩が交戦している事は言ったな?」

「うん、聞いた」

 狼が頷く。

「欧州からトゥレイターが来たのは、新型兵器を日本に搬入することと、黒樹の妹を殺害することにあった。トゥレイター側にとって、黒樹の妹の因子は邪魔な存在だからな。結果的には、宇摩が引き攣れていた零部隊と共に、新型兵器を全て押収して、黒樹の妹も東京を離れていたのは僥倖だっただろう。だが奴らは諦めたわけではないし、奴らの情報網も侮れない。現に状況として既に追っては来ている。だからなにかしらの対策を考えたいというのが一つだ。あと黒樹たちに聞いてもらいたいのは、これだけではない」

「まだ、なにかあるっていうの?」

 根津がそう訊ねると、真紘が力強く頷いた。

「ああ、まぁな。宇摩たちは欧州のトゥレイターと交戦したあと、明蘭で東アジアのトゥレイターとも交戦している。多分、押収された新型兵器を取り戻すための行動だと見ているが、実際はよくわからない。明蘭にいた棗からの報告だと、明蘭に軍が何百機にもなる戦闘機で奇襲を仕掛けてきたという情報もある。つまり、俺たちの敵はトゥレイターだけというわけではなくなったということだ」

「軍が敵ってことは、政治家たちも明蘭を襲った件に一枚かんでると思った方がよさそうね」

「全員が全員ってわけじゃないけどね」

 根津の言葉に口を開いたのは、難しい顔をした春香だった。そんな春香の声に狼は微かに眉を潜めさせた。けれど、狼は口を開きはしなかった。今開いたら、どんな悪態が口から出るかわからない。そう思ったからだ。それに春香の言葉に、鳩子が口を開く。

「そういうってことは、軍の動きや政治家の動きに内通しているということですか?」

「ええ、まぁね。今までとある所で色々、彼らの情報を嗅ぎ回っていたのよ。そこでトゥレイターは各国の軍と繋がりがあることを知ったわけ。それは蜂須賀さん、貴女なら知ってるわよね?」

 春香が季凛を見る。すると季凛が一息吐いてから肩をすくめた。

「まぁ、あたしはぶっちゃけ、下っ端だったんで……噂程度にしか聞いていませんでしたけどね。トゥレイターには因子もってなくても、入れるは入れるし」

「でも、どうして軍の人はトゥレイターの人と手を組んでるの? だってトゥレイターの人ってテロリストなんだよね?」

 小世美が軍の動きが理解できないと言わんばかりに顔を潜めさせている。

「それはね、アストライヤー関係の人たちが軍の将校より上の位についているという政治形態と軍人の中に因子を持っている人が少ないというのも、トゥレイターと裏で繋がっている要因ね」

「でもトゥレイターの人だって因子を……」

 小世美がやはりわからないというような顔をすると、名莉がかわりに口を開いた。

「きっと、トゥレイターの人たちがアストライヤーに対抗できる唯一の手段だと考えたんだと思う。それであわよくばアストライヤーとトゥレイターで潰し合えばいいと考えた」

「でも、そんなの……」

 小世美が顔を伏せ暗い表情を浮かべる。すると小世美に春香が優しい笑みを浮かべた。

「ひどいわよね〜。良い年いった大人なのにね〜。でも、大人か大人じゃないかなんて、実際年齢は関係ないのよね。そしてその軍の考えをどうしても許せない人物がいるのよ。それが貴方たちの学園の理事長である豊君ね」

 春香の言葉に高雄が深々と溜息を吐いた。

「どうして溜息なんて? さっきの話を聞いてたら理事長が許せないって思うのは、別におかしいことじゃないと思うけど」

「私もそう思います」

 狼の意見に根津が大きく頷いた。すると高雄以外の二人も揃って、眉を顰めさせた。

「その気持ちを小規模に納めてくれれば、私たちも問題視することはないんだけどね……」

「それって、どういう?」

 根津が怪訝そうに表情を歪める。

「……宇摩は、世界各国の軍施設を崩壊させ、そのまま政界へと手を伸ばし、世界各国の政権を因子を持っている者だけで完全に掌握しようとしている。そしてその計画を成功させるためならば、どんな犠牲も厭わない覚悟らしい。げんにドイツで起きた事件に宇摩の息が掛かっている」

 真紘の言葉は冷静だったが、けれど表情は豊の考えが理解できず険しい顔をしている。

「あはっ。それってつまり、世界征服しますってことじゃん。あの馬鹿理事長」

 季凛が発した言葉に狼たちは、思わず息を呑んだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ