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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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特別な感情

「そんなことよりも、姉さんがいる場所についたらパラグライダーみたいに飛び下りるんでしょ? 私もやりたい。ねぇ、付いて行っても良い?」

「…………」

「ねぇ!!」

「……何だよ?」

 動揺して話を聞いていなかったイレブンスの耳を引っ張って、大きい声で呼んできたリーザに、はっとして答える。

「J―11が返事しないからいけないんだもん。もういいや。オースティンとかに訊くから」

 そう言って、リーザが少し離れた所に居るオースティンの元に行ってしまった。

 そんなリーザの後ろ姿を見ながら、イレブンスは貨物室の質素な壁に背もたれて溜息を吐いた。



 8thが操縦する飛行機は一〇分も経たずに目的地まで着いた。操生に連絡すると、操生もうすぐ目標地点まで辿り着くらしい。

 開いたカードドアから下を見ると、海の端と木々は生える林が見える。それを見ながらイレブンスは為依頼なく、真下へと飛び下りる。

 下からの空気が勢いよくイレブンスの顔を吹きつけてきた。イレブンスは出来るだけ風に煽られて目的地の場所から離れないように注意しながら落下していく。

 それから、イレブンスはイレブンスは因子を体外に放出させ、因子と空気を衝突させるイメージで落下速度を減速させ、無事に床へと着地した。

 そしてイレブンスの後と追う様にオースティンが降りてくると思いきや、そのオースティンと共にリーザが一緒に落下してくるのが見えた。

 何でオースティンの奴……余計な奴まで連れて来てるんだ?

 楽しそうな声を上げているリーザと、その横に居るオースティンを見る。すると、辟易とした表情を浮かべるオースティンと目が合った。

「おい、オースティン……何でいきなりリーザを連れてきたんだよ?」

「仕方ないだろ。こっちの言う事聞かないんだから」

「だからって、下手に人数増やすなよ」

「うるせー、おまえが偉そうに言うな」

「明らかに俺の方が正論だろ」

 反論してきたオースティンとイレブンスがいがみ合っていると、そこに自分の事を言われているとは思っていないリーザがやってきた。

「何、何、オースティンたち喧嘩してるの? デス・マッチ? 面白そー!」

 自分たちを見てそんな見当違いな事を言ってきたリーザに、イレブンスたちは自分たちがいがみ合っているのもバカバカしく思えてきた。

 こうやって、人のやる気を削ぐ所は、姉妹共通しているのかもしれない。

 イレブンスは、外見以外のヴァレンティーネとリーザの共通点を見つけて、軽く息を吐いた。そして保管庫の方まで歩いた。

 保管庫前に出ると、古ぼけた木造建築の建物が現れた。まるで一昔前のホラー映画に出てきそうな佇まいにリーザが感激したように、はしゃぐ声を上げている。

 そこに、何かのエンジン音が聞こえてきたと思ったら、その瞬間に勢いよく横たわる大木を跳ね避けた操生がやってきた。

「結果的に待たせちゃったみたいだね」

 操生が軽やかにバイクを停止させ、そう言ってきた。そんな操生がこの場に居る人数がいきなり増えていることに気づいて、目をぱちくりと瞬かせた。

「おや、一人増えてると思ったけど、あれは、北米・南米地区のボスかな?」

「何だ、操生知ってるのか?」

「まぁね。Ⅺがフラウエンフェルト家の家族写真を持っていて、前に見せてもらったことがあるんだ。その時に聞いてね、知ってるんだ」

「何で、アイツがフラウエンフェルト家の家族写真を持ってるんだよ?」

「自分の好きな人の家族だからじゃないかな?」

「いや、まったく納得できないんだけど?」

「そうだね……私も家族写真だったらソロで映ってくれて方が良いかな? まぁ、一番は自分と映ってるのが良いけどね」

「そういう問題でもないだろ!」

 イレブンスがそう言うと、操生が愉快そうに笑ってきた。多分、誰かがⅪにフラウエンフェルト家の家族写真なんて渡すはずがない。

 絶対に盗んだな。

 イレブンスはキリウスが映る写真を盗むⅪの姿を想像して、身震いさせた。そしてそれは近くで聞いていたオースティンも同じらしく、口許を引き攣らせながら「品がねぇー」と呟いていた。

「あれ? もう一人来たの? 私はリーザ・フラウエンフェルト。よろしくね」

「こちらこそ。私は欧州地区の5で、杜若操生と申します」

 リーザに向き直って、操生がにっこり笑顔で自己紹介をする。

「オッケー。じゃあ、もう後来る人いないでしょ? だったら、早くあの建物の中に入ろー」

 軽いノリでリーザがそう言って、保管庫の入口の方まで歩き始め、イレブンスたちもそれに続いて歩きだす。するとその時、何故かほっとしたような表情を浮かべたオースティンに、イレブンスは首を傾げさせた。




 イレブンスたちよりも先に保管庫に辿り着いていたマイアたちは、保管庫内の仕掛けに苦戦していた。

「どうにかして、ここから先へ進まなければ……」

 マイアが眉を潜ませながら、そう呟く。

 マイアたちは保管庫に入ってから、少し進んだ所でいきなり、歩いていた床が開き、出口も窓もない部屋に閉じ込められていた。

 閉じ込められた部屋は、何もないただの四角の部屋だ。どこかに隠しスイッチがある様にも見えない。しかも、この部屋に閉じ込められたのは、Ⅹとマイアだけだ。この部屋に落ちてきたときには、もう情報操作士である7thの姿はなく二人きりになっていた。

 そして閉じ込められた後は、何とか外に出る方法を考えているものの、一人では何も思いつかない。だが一緒にいるⅩは、マイアの方を一度も見ることなく何かを考えている。

 Ⅹと共にここに来る事になったのも、ただ自分とⅩが近くに居る所に7thがやってきて、ヴァレンティーネの居場所が判明したという情報を受け取ったからだ。

 マイアは何故、自分がⅩに拒絶されているのかわからない。もし今までだったら、拒絶されているなら仕方ないと、割り切ってⅩと関わろうと思わなかっただろう。

 けれど、ここに来る前に敵であるアストライヤーのための機関を軍のミサイルから護る操生たちのことを思い出した。

 あの時は、一時的とはいえ敵である者と協力し合えていた。だったら、自分とⅩも出来るのではないかと思った。だからこそ、背中を向けるⅩへとマイアは口を開く。

「Ⅹ、何かここから出る方法は見つけられそうか?」

 マイアがそう声を掛けると、Ⅹが少しだけマイアの方へと向いてきた。

「いいえ、まだです」

「そうか」

 Ⅹの言葉は短い言葉だった。それからまたすぐにⅩは顔の位置を元の場所に戻してしまった。

「一つ訊きたい事がある」

 マイアがⅩに向かってそう切り出したが、今回は短い言葉もⅩは答えなかった。必要最低限の事を話したくないということなのかは分からない。けれどマイアは次の言葉を紡いだ。

「時々、貴様は私に殺気を放つことがある。いや、貴様だけではない。E―11もか。だが、私は貴様たちから何故、殺気を放たれているのか分からない。だから教えてほしい」

 マイアがこの言葉を言ってから、しばらくの間があった。そのため、マイアは自分がⅩたちから拒絶されている理由を知るのを諦めようと思った。

「何故? そんなの貴方が私の居たい場所にいるからです」

「居たい場所?」

「ええ、そうです。私の居たい場所、それはキリウス様のお傍」

「……私はキリウス様の傍にいたことはない」

 マイアがそう答えると、Ⅹが鋭い怒りの籠った視線でマイアを見てきた。だがそんな視線で見られても正直、マイアは困った。

 今までずっとフラウエンフェルト家にいたと言っても、ほとんどはティーネやリーザと過ごしていた。キリウスは、ガーブリエルと共にどこかに出かけている事が多かった。

「では、何故、貴方は時々……キリウス様のお部屋から出て来たのですか?」

 マイアに言い逃れはさせまいと、Ⅹが後ろを振り返って訊ねてきた。そしてその言葉でマイアはⅩが何を言わんとしているのかを理解した。

 確かにマイアは時々、キリウスの部屋に行く事があった。それは、キリウスに呼ばれ、性欲の捌け口として。だが、性欲の捌け口はただの捌け口なのだ。

「あの行為に意味はない。キリウス様が傍にいるとしたら、それこそ、ティーネ様だろう」

「そんな事言われなくても分かっています!! でもそれが何ですか? 貴方とヴァレンティーネ様は違うでしょう? ヴァレンティーネ様との事は、私がキリウス様と会う前から決まっていたことです。ですが、ですが、貴女は違う! 貴女は私となんら変わらない立場のはず。それなのに、何故、貴女が、貴女だけがキリウス様に触れられているの? 私はそれが許せません」

 言葉を荒立たせるⅩの姿を、マイアは初めて見た。きっと彼女が口調を荒立たせることなど滅多にないに違いない。そんなⅩがこんなにも口調を荒立たせている。

 その事実にマイアは驚愕した。そして一つの事実をマイアは気づいてしまった。

 きっとⅩを近くで見ていたなら、誰しもすぐに分かったはずの彼女の気持ち。それをマイアは今更ながら気づいた。

「Ⅹはキリウス様に特別な感情を抱いているのか?」

「ええ、そうです。だからこそ、どんな理由であれ、どんな形であれ、不当にキリウス様の傍にいる貴女が嫌なんです」

 Ⅹは自分の気持ちを隠さず、マイアにぶつけてきた。そして真正面からぶつけられたⅩの視線に、マイアは次に返す言葉が思い浮かばない。

 前までの自分ならば、キリウスが望んだことで、自分はそれに従っただけだと言いきれたに違いない。けれど、今のマイアにはそれが出来なかった。

 すると再びⅩが口を開いてきた。その口調は荒立っているものではなく、彼女らしい冷静な口調だった。

「ですが、少し意外ですね……貴女が私にこんなことを訊ねてくるのもそうですが、言い返してこないというのも。てっきり、私は貴女らしい言い分で反論してくると思っていましたが」

「きっと少し前だったらきっと、私は貴様に反論を返した。けれど今の私は自分の中に、ティーネ様以外の誰かを特別だと思う気持ちがあるとあると分かったから、反論が出来なかった」

 マイアがⅩから視線を逸らさずにそう言うと、Ⅹが肩を竦めてきた。

「こんな所で貴女からそんな事を言われるとは思っていませんでしたが……これを聞いたからといって、私が貴女を嫌いだと思う気持ちに変わりはありません。それだけは言っておきます」

「わかった。別にそれで構わない。だが、話してもらえて良かった」

 マイアがⅩにそう言ってから、Ⅹに背を向けるように何の変哲もない部屋から出る方法を模索することにした。

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