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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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ムリーヤ

 イレブンスはすかさず、明蘭の状況を把握しているであろうセカンドに連絡を入れた。まず一番確かめておきたかったのは、明蘭に豊の姿が存在しているか、だ。

 豊は瞬間移動をすることも可能だと分かっているからこそ、豊の姿が見えなくなっていたら、危険だ。ヴァレンティーネの居場所を移し替えられてしまうかもしれない。

 そして、セカンドからの返事はすぐに返ってきた。

『軍、撤退の予兆あり。標的人物の所存、観測中有り』

 という内容だった。

 とりあえず、一番危惧していた豊の姿が自分たちがいなくなってから、見えなくならなかったという所にイレブンスは、安堵した。

 一応、イレブンスはこのセカンドから送られてきた情報と豊の能力についての情報を操生とオースティンに送っておく。

 するとオースティンは、イレブンスから送られてきた内容を見て、舌打ちをしてきた。

「呑気にここを走ってもいられねぇーな」

 眉を潜ませながらそう呟いているオースティンも、もしかしたら、イレブンスの胸算と同じことを考えついたのかもしれない。

 確かに豊の姿がまだ明蘭にあるといっても、軍が撤退した後の事はわからない。どんなにセカンドが豊の姿を確認しているからといって、瞬間移動を阻止することができるはずもない。

 厄介だな。

 何とか、豊が動き出す前に自分たちがヴァレンティーネの元に行きつかなければならない。

「おい」

 斜め後ろを走るオースティンに声を掛けられた。イレブンスが横目でオースティンの方へと振り向くと、オースティンがニヤリとした笑みを浮かべながら、片方の親指で後方の空を指差してきた。

 イレブンスは一瞬だけオースティンの様子に怪訝な表情を浮かべたが、すぐにそれから目を丸くさせた。

「あれは……」

 オースティンの指が指し示す上空には、世界最大級の航空機……An―225、ムリーヤがこっちに飛んでくるきているのが見えた。

 そしてそのAn―225のコクピットをイレブンスは因子で視力強化した目で見た。するとそこにはマイクをつけて、手でグッドポーズをしている8thの姿が見えた。

 するとイレブンスとオースティンが付けているインカムに爆音と思ってしまうほどの、8thの声が響いた。

『見つけたぜ! どうだ? この俺の最高にBIGな機体は? 最高すぎて涙が出るだろ?』

「別にでねぇーよ! てか、わざわざそれで俺たちを迎えに来てくれたのか?」

 8thの大きな声に、うんざりとした表情のオースティンがそう言うと、8thが『yeah!!』と答えてきた。ただ一言を返事するだけにも関わらず、8thはいちいち声が大きく、イレブンスとオースティンは、思わずインカムの耳から外す。

 そしてイレブンスたちを迎えに来たという8thが運転するAn―225がすぐさま、イレブンスたちを追い越して、前方の上空にやってきた。

 An―225は、最大級の航空機というだけあって、大きさは勿論、存在感がすごい。全長が80メートル以上あって、片側だけでも三つのエンジンがついている。

 しかもAn―225くらいの大きさがあると、どうしても機動力が落ちてしまうものだが、An―225の場合、尾翼の形や性能の良いエンジンに加え、主翼に取り付けられた高揚力装置の性能の高さから戦闘機並みの機動力を持っているのだ。

 しかし、このムリーヤは生産数が少ない。それにも関わらず、8thはどうやってこの機体を手に入れたのだろうか? 時々イレブンスは8thのコレクション入手ルートが気になる時がある。

 だが今はそんな事に頭を悩ませている暇はない。周りを走る一般車両も突如上空に現れた巨大な航空機に目を見張り、車を停止させて見入って、前の車に衝突してしまったりしている。

 まだ、死亡事故になっていないだけマシだが、このまま民間の警察があつまってきても困る。それにAn―225の巨大さでは、ビルでごちゃごちゃとした東京を低空で飛ぶのは無理だ。

「オースティン! どっかのビルの屋上からあれに乗り込むぞ」

 イレブンスが後ろにいるオースティンにそう言うと、オースティンが肩を竦めて返事をしてきた。それから国道から逸れ、東京湾に浮かぶ再開発地区の高層ビルの外階段をバイクで昇り切る。

 バイクで昇り切ったビルの屋上はヘリが着陸するためのヘリパッドがあった。ここならば、周りが建物だらけの町の中よりは、飛行機も近づけやすい。

 オースティンが自分たちの位置を8thに送ると、少し遠くを旋回していたAn―225がイレブンスたちの方へと近づいて来る。

 近づいてきたAn―225は、イレブンスたちの上空で見事な旋回をすると後方のカーゴドアをゆっくりと開いてきた。

「おーい! 二人とも元気―?」

 手を振りながら、呑気な調子でそんな事を聞いてきたのは、リーザ・フラウエンフェルトだ。開いたカーゴドアの近くに立っているリーザは上空を吹く大気で、髪や着ていたワンピースなどがはためいている。けれどそんな強い風などお構いなしに、その場でぴょんぴょんと跳ねて、身体が風でよろついている。

 はっきり言って、見ている側からしてみるとかなり危ない。いや、仮に落ちたとしてキリウスの攻撃を受けてピンピンしていたから、死ぬことはないだろう。

 けれど、もしリーザが飛行機から落ちれば面倒な事が増えることは間違いない。もうこれ以上無駄なタイムロスをするわけにもいかないため、イレブンスとオースティンはアクセルを全開にして、ビルの屋上を大周りするように、速度を上げて行く。ビルの屋上から飛行機の距離は大体四〇メートル。一〇〇キロ以上の速度で飛び移れば、重力加速度を考えても一、二秒で飛び移れるだろう。

 十分にバイクの速度を上げてから、リーザが危なっかしく建っているAn―225の貨物室へと飛び移る。

 一二〇メートル下には、民間人の通報によって集まってきた警察車が見えた。だがやはりそれも一瞬の光景だ。イレブンスたちは速度を保ったまま、An―225の貨物室へと飛び込む。しかし勢いのついたバイクはそう簡単には止まれない。そのため巨大なスペースを誇るAn―225の貨物室だとしても、早くしないと乗員スペースと貨物室を区切る壁にこのまま突っ込みかねない。壁に突っ込んでこんな密閉空間でバイクを大破、炎上させるのは危険だ。もしそうなったら、バイクから上がった炎が機体の変な所に引火して墜落となっては最悪すぎる。

 イレブンスたちはハンドルブレーキを思い切り掴み、後輪を浮かせるように急ブレーキをかける。床にブレーキ痕がつきながら、バイクのタイヤとブレーキパッドが思い切りすれて火花が散らして、何とか入口から二〇メートルくらい走った所で、停止した。

 イレブンスがバイクから降り、後方を見るとすでにカーゴドアは閉まっており、機内灯が貨物室内を照らしている。

 イレブンスがコクピットに居る8thにインカムで通信を入れる。

「おい、F―8、俺たちを迎えに来たってことは、俺たちが向かおうとしている場所知ってるのか?」

『ああ、まぁな。少し前に俺たちが日本に着いて、状況を1st(キャロン)に聞こうと連絡入れたら、こっちに向かってやれって言われたんだ。おまえたちの位置情報はJ―2から聞いて飛んできたってわけだ』

「なるほどな。じゃあコイツで目的地まではどのくらいで到着するのか、分かるか?」

『まっ、BIGなコイツの最高速で行けば一〇分って所だな』

「よし、じゃあ最高速度で頼んだ」

 イレブンスが8thにそう言って、通信を切った。するとそこに何故かふくれっ面のリーザがやってきた。

「ねぇ、J―11聞いて。オースティンったらひどいんだよ?」

「……何でだ?」

「だって、私もビルの上からバイクで飛び移りたいから、今度ドバイのブルジュ・ハリファでやろうって言ったら、却下してきたんだよ? ひどいと思わない?」

「あー……まぁな。ほら、アイツ今、へばってるから却下したんだって。だから元気が在り余ってる時に、言えばオッケーだすんじゃないか?」

 自分だったら絶対に付き合わされたくないと思うが、相手がオースティンならどうなっても良いかと思いながら答える。するとそんなイレブンスの返事を聞いたリーザが少し考え込むように唸ってきた。

「そっか。タイミングの問題か……」

 と一人でぶつぶつ言葉を呟いている。

 そんな事を呟いているリーザを見て、イレブンスは小さく溜息を吐いた。自分の姉が大変な事になっているというのに、呑気すぎる。

「なぁ、おまえ……自分の姉が大変なときに、こんな呑気な事を言ってていいのか?」

 やや呆れながらイレブンスがリーザに訊ねると、リーザは迷うことなく頷いてきた。

「うん、大丈夫だと思う。だって、私が心配しなくても兄さんが死ぬほど心配してるだろうし。あっ、でも私が姉さんのこと嫌いとか仲悪いとかじゃないよ。ただ、姉さんの事を猛烈に心配してる兄さんを見てると、私まで心配しなくても良いんじゃないかな~? って思うんだよね」

「猛烈にって……」

 イレブンスは妹であるヴァレンティーネを猛烈に心配しているキリウスの姿がうまく想像できない。むしろ、嘘臭い。非常に。

「キリウスがおまえの言う様に、ティーネを心配してる所が想像できない」

 思っている事をイレブンスが正直に話すと、リーザがきょとんとした表情で首を傾げさせた。

「それは心配するよ。兄さんは姉さんのこと大好きだもん」

「大好きって……アイツ、あんな顔でシスコンなのか?」

 イレブンスが予想外なキリウスの意外すぎる事実に、思わず口許を引き攣らせた。なんか、自分の周りには、真紘なども含め、意外な人物がシスコンな気がする。

「うーん、兄さんの場合シスコンって感じじゃないかも。だって、姉さんと兄さんは婚約者同士でもあるから」

「なっ! 嘘だろ?」

「本当だよ」

 そう言ってきたリーザの表情から、言っていることが冗談ではないことが分かった。けれどキリウスとヴァレンティーネは兄妹のはずだ。それで婚約者とはどういう事なのか? イレブンスにはまったく想像が付かない。

「それはティーネも知ってるのか?」

「知ってるよ。だから私も兄さんと姉さんは結婚するんだと思ってた。だって、私たちの家系だとそういうのって珍しくないって。勿論、別の血筋の人と結婚する事もあるけどね」

 リーザの言葉にイレブンスは思わず顔を顰めさせた。はっきり言って、近親相姦だとか、そういう一般的な常識を押し付けられる相手だとは思っていない。

 けれど、それでも……動揺は隠せない。

 だがそんなイレブンスの動揺などまるで気づいていない様子のリーザが、何かを思いついたように口を開いてきた。

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