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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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木偶の砂

 向かった先の空には、色々な国々の戦闘機が空にいる。豊たちに次々と撃ち落とされているというのに、まだこんなに数が残っていることに、イレブンスはある意味驚いた。

 ミサイルは絶え間なく明蘭の敷地内へと落とされて行く。それの大多数を不発とさせているが、この光景を客観的に見たら、大規模爆撃にしか思えない。

「正義の味方の癖して、偉く嫌われたもんだ」

 イレブンスはそう呟いて、和弓を構え明蘭学園校舎の頭上に落とされたミサイルを撃ち落とす。それを休む暇なく放ち続け、数多くのミサイルが空中で爆発していく。

 そして弓矢でミサイルを撃ち落としているイレブンスに一機の戦闘機が、銃撃をしてきた。地面を抉る様に振ってくる銃弾をイレブンスが後ろへと跳躍し躱す。

 けれどそれでも、イレブンスへの銃撃を止める素振りはない。そんな戦闘機に対してイレブンスは肩を竦めた。

「そんな雑な射撃力で俺を撃ち殺せると思うなよ?」

 小さく呟いて、イレブンスは戦闘機の右翼部分と片方のエンジン部分を見た。

 空間変奏 エニグマ

 地面を抉りイレブンスへと飛んで来ていた銃弾が、イレブンスが視覚で捉えた部分に着弾し、そのまま戦闘機が炎を上げて、地面へと落下していく。

 その間に戦闘機に乗っていたパイロットがコクピットから外に脱出しているが、放っておいても問題はないだろう。

 だがそんな間にも、戦闘機は絶え間なく空を覆い無差別にありとあらゆるミサイルを落としてくる。

 数が多いな。ミサイルを落としてくる戦闘機の中には数多くの無人飛行を行っている戦闘機もある。それらを含めると、遥かに下にいるイレブンスたちよりも数が多い。

 ただ単にミサイルを撃ち落とすだけであっても、その数が多いと結構な重労働になってくる。

 まさに、下手な鉄砲も数撃てば当たるという言葉を実践している様な形だ。

 イレブンスが真上から落ちてくるミサイルに再び狙いを定めた瞬間、そのミサイルを真っ赤な色で燃え盛る炎がミサイルを包み込んできた。

「おまえ……」

 イレブンスがその炎が放たれた方へと向くと、そこには明蘭の制服を着た少女が手にサーベル剣を持っていた。顔は前に海で見た事がある。確か狼の友人だ。そしてその少女はイレブンスと目が合うと、真剣な表情で口を開いてきた。

「どうして、こんな状況になってるのか分からないけど……私たちも戦います」

 そう言った少女の後ろには、他にも明蘭の制服を着た生徒がいて今まさにという感じで戦闘を開始していた。

「勝手にしろよ。ここはおまえらの学校だ」

 イレブンスがそう答えると、少女が微かな笑みを浮かべて空から来る敵に剣を揮い始めた。やれやれとイレブンスは内心で思いながら、辺りを見回す。明蘭に通っているだけあって、この少女以外の生徒も混乱する様子もなく、自分のやるべき事をこなしている……と思ったが、そうではない生徒も中に混ざっていた。

 イレブンスの目に止まったのは、戦闘機の銃撃からスケートボードに乗って叫びながら逃げ惑う俊樹の姿だ。

 あの馬鹿は、何でこんな時にスケボー何かに乗ってるんだ?

 イレブンスはスケートボードに乗っている俊樹に顔を顰めさせながら、俊樹を追いまわしている戦闘機に弓矢を放ち、墜落させる。

「おい、おまえ……こんな時にスケボー何かに乗って遊ぶなよ!」

 自分への攻撃が止んでほっとしていた俊樹へとイレブンスが近づくと、俊樹がイレブンスの方へと振り向き、勢いよくイレブンスの肩を掴んできた。

「こんな状況で遊ぶ奴がどこにいんだよ! 俺は真剣にアイツ等のために敵を撹乱させてたんだ!」

 イレブンスにそう言った俊樹が、少し心もとない手つきで銃型のBRVを持っている生徒たちを指差してきた。イレブンスは不服そうな表情を浮かべる俊樹に目を眇めさせる。

「おまえがアイツ等のために、敵の撹乱をしたっていうのは分かったけど、何でスケボーなんだよ?」

「そんなの、これが俺のBRVだからに決まってんだろ!!」

「え……嘘……」

 割と真剣にイレブンスが驚くと、俊樹が地面に四つん這いになって煮え切れない思いを叩きつけている。そんな俊樹を見ながら、イレブンスはさすがに申し訳ない気持ちになった。

「わ、悪かった。こんな玩具みたいなBRVがあるのを知らなかったんだ。許せ」

「お、おも、おもちゃ……」

 しまった。地雷を踏んだ。

 イレブンスは顔を上げてきた俊樹の顔を見て、顔を引き攣らせる。だがそんなイレブンスの耳に少し離れた所から、オースティンの怒声が聞こえてきた。

「おい、テメェ! こんな時にそんな玩具持ちだして、舐めてんのか!?」

 オースティンの怒声を受けているのは、いつも俊樹と一緒に居て、先ほどエロ本を校舎まで取りに来た秀作だ。秀作の手には、木偶で出来た味気ない人形を持っている。

「い、いや、これは玩具ではなくてですね……」

 オースティンの事をまるで知らない秀作が、目尻を釣り上げるオースティンにたじたじになっている。そして秀作の周りに居る生徒も何とか、秀作をフォローしようとしているが、撃ち落としても撃ち落としても減らないミサイルに対する苛立ちで殺気を放っているオースティンに何も言えなくなっている。

「玩具じゃないなら、何なんだよ?」

 ギロリと鋭い視線のオースティンに銃口を突きつけられ、秀作が顔を青くしている。

 イレブンスはそんな二人を見て、溜息を吐き……

「おい、オースティン……そいつが言ってる事は本当だ」

「はぁ? そんなわけねぇーだろ! 俺はこんなふざけたBRVが存在するなんて知らねーぞ?」

「いや、事実そうなんだよ。情報操作士のBRVだって、武器型の奴と比べると変わってるだろ」

 内心ではオースティンに激しく同意しながらも、イレブンスがそう言うと、オースティンが眉を潜めながら渋々納得した様子を見せて来た。

 そんなオースティンを見た後に、イレブンスも横目でチラリと秀作のBRVを見る。

 秀作の手に握られているのは、どこからどう見ても木偶の人形だ。あれが使えるBRVに変貌するとは全く思えないな。

 …………駄目だ。戦力として何も期待できない。

 そんなイレブンスの内心とは裏腹に、秀作からはキラキラとした好意的な視線を向けられた。

「おまえ、よくぞ武器型のBRVになれなかった俺たちの気持ちを報わせてくれた。まだ確かに、ミサっちとの事を全ては看過できないけど……うん、少しは認めてやってもいい」

 勝手に話を進めて、しかも微妙に上から目線。

 庇ってやったのは失敗だったか? 

 イレブンスは上から目線の秀作に、ほとほと呆れ果てたくなったが、今のこの現状がそうはさせてくれなかった。二機の戦闘機がイレブンスや秀作たち目掛けて、銃撃を行って来たからだ。

 イレブンスがすぐにその二機を墜落させようとしたが、そのイレブンスの事を秀作が止めて来た。

「おい、何だよ?」

 自分を止めて来た秀作にイレブンスが怪訝そうに眉を潜めさせると、秀作が顔を顰めさせるイレブンスに何故がキメ顔を決めてから、その二機の戦闘機に向けて木偶の人形を放り投げる。

 すると放り投げられた木偶の人形を中心に、細かい砂塵が渦を巻き始め……そしてすぐに巨大な砂人形へと変貌した。

「おおっ!」

 使えないと思っていた木偶の人形が、何だか使えそうな気配を漂わせて来て、イレブンスは思わず感声を上げた。そしてその巨大な砂人形がイレブンスたちへと撃たれる銃撃をはね除けている。

 その光景には、イレブンスだけでなく先ほど秀作に怒声を浴びせていたオースティンも地味に感動している様子だ。

「よし、そのまま翼部分を破壊して二機とも墜落させろ」

「おうよ!」

 イレブンスの言葉に秀作が威勢良く答えて来た。秀作の威勢に合わせるように、巨大な砂人形の両腕が動く。だがしかし……

「遅すぎるだろ!」

 砂人形の動きの鈍さにイレブンスは、思わず叫んだ。銃撃をはね除けられた二機のパイロットたちも、難なく、砂人形の動作から回避するように旋回している。

「いや、これでも最大限の速度で操ってるんだけど……いや、おかしいな。今日は調子が悪い日だったかな?」

「「ふざけんなっ!」」

 秀作の言葉に、一度は巨大な砂人形に感動していたイレブンスとオースティンが怒鳴りながら、イレブンスの弓矢とオースティンの電磁砲が再び攻撃を開始した戦闘機を撃ち落とす。

「高坂先輩、せっかく目立てるチャンスだったのに、惜しかったすね」

 秀作の肩に手を置き、そう言っているのはイレブンスが先ほどスケボーに乗って遊んでいると思っていた俊樹だ。そんな俊樹に秀作が神妙な面持ちで頷いている。

 まったく惜しくもなんともなかったのに、真剣に惜しがっている秀作とそれをフォローする俊樹を見て、イレブンスは微かな殺意を感じ、オースティンは舌打ちをした。

「おい、俺は日本人にこんなバカな奴がいると思ってなかったんだけどな」

「いや、日本人でも探せば幾らでもバカは出てくる……それこそ世界共通だ」

 イレブンスの言葉にオースティンが肩を竦めさせてきた。それから一斉にイレブンスとオースティンが動く。二人の目の前にいる戦闘機の数は大凡、二〇機。それらを撃ち落とすために動く。

「むしろ、何でⅤの奴はあのバカたちに変なあだ名で呼ばれてんだよ?」

「俺が知るか。あのバカたちが勝手に呼んで、操生も気にせず反応してるんだろ」

 話している間に戦闘機が積んでいたミサイルが空中で盛大な花を咲かせ、五、六機の戦闘機が墜落させられていく。そしてその墜落する戦闘機から脱出したパイロットをスケボーに乗った俊樹がキャッチし、グランドの隅で縄を持って待機していた生徒に手渡している。

 その間に、秀作が造った巨大な砂人形といえば……

「ブォオオオオオオオオオオオ……」

 という雰囲気を盛り上げるだけの雄叫びを上げているだけだ。後は辛うじてその待機している生徒に振ってくるミサイルをゆっくり動作で叩き落としたり、銃撃から護る防御壁になっている。

 イレブンスとオースティンが自分たちの近くを飛んでいた二〇機ほどの戦闘機を墜落させ終わると、そこに操生と共に別の場所でミサイルを撃ち落としていたⅪがやってきた。

「うわっ、何か化け物が来た……」

 見た相手に強烈なインパクトを与えるⅪを見た秀作を含む明蘭生徒が、やや引き気味の表情を浮かべている。まぁ、無理もない。

 そう思いながら自分たちの元へとやってきたⅪへとイレブンスが口を開いた。

「向こうは済んだのか?」

「ええ、とりあえずはね。イレブンスちゃんたちも二人で仲良く戦闘機を撃ち落としてたみたいじゃない?」

「気色悪い事言うなよ」

「本当にな」

 イレブンスとオースティンが二人で嫌な顔をする。だがそんな二人をⅪが片手を頬に当てながら、やれやれと言わんばかりの表情をしてきた。

「それで? 俺たちにそんな下らない事を言いに来たのか?」

「違うわよ。さっきFー7から連絡を受けたのよ。東アジア地区のボスの場所を突き止めたから、先にあのアパズレとⅩと共にそっちに向かうってね」

「本当か?」

 イレブンスが目を丸くして訊ね返すと、Ⅺが口許に笑みを浮かべて頷いて来た。

 

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