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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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誰にも予想はできない

「まんまと逃げられた……」

 イレブンスが消えた豊を見て、苛立った口調で言葉を吐き捨てる。

「今はいない相手に怒ったって仕方ない。さっきの話が本当ならここで長居は無用だろ?」

「ああ、そうだな。さっさと外に出て、アイツからティーネの居場所を吐かせるしかないな」

「ここの真上に穴を開ければ、外に出られると思うか?」

 フィフスの言葉にイレブンスが黙ったまま肩を竦めると、フィフスが丁度ベッドが置かれている真上に向けて、手刀による斬撃を放つ。その瞬間大きな爆発音が部屋中に響き渡り、施設内全体が揺れた。

「先に言っておくと、俺の所為じゃない」

 イレブンスを含め、天井に穴を開けたフィフスに視線を向けた操生たちにフィフスがそんな言葉を返してきた。

「じゃあ、さっきの爆発音は……」

 なんだ? と続けようとしたイレブンスの言葉を再び大きな爆発音が遮る。どうやら音は自分たちの真上からしている音のようだ。

「各軍による爆撃が開始されたってことか?」

 音の正体が判明し、イレブンスは目を細めた。

 まったくもって余計な事をしてくれる。

 自分たちを軍事行動を起こすための上手い出しに使っただけだろうが、何もこんなタイミングで奇襲作戦を実行するなと苛立ちをぶつけたくなる。

「そういうことだろうね。さっ、私たちも早くこの土竜の巣穴から出ようじゃないか。いくら出流が一緒だからと言っても、こんな所で生き埋めにされるなんて御免だからね」

「あたしだって、御免よ。どうせ死ぬならキリウス様の腕の中って決めてるの」

 うっとりとした表情を浮かべるⅪにイレブンスが小さく嘆息を吐いた。

「叶う見込みのない願望ほど、虚しくなるのはないよな……」

 イレブンスがぼそりとそう言うと、イレブンスの顔面に一発の弾丸が掠め去って行った。横目でイレブンスがⅪの方を見ると、Ⅺが真顔で

「あら、ごめんなさい。手元が狂っちゃったわ。確か昔の言葉で猿も木から落ちるって言葉があったわよね?」

 と皮肉交じりの言葉をイレブンスに投げてきた。どうやら、小声で呟いた言葉をしっかり聞いていたらしい。

「せっかく上に出る道を開拓したんだ。さっさと地上に上がるぞ」

 フィフスがそう言って、イレブンスは地味に自分を睨んでくるⅪから逃れるようにフィフスや操生の後に続いて上へと昇る。

 その間にも爆撃が続けられているような音は聴こえるが、最初にあった施設内を揺らす振動がまるでない。これでは、爆撃をされているというよりは、空に大きな花火が打ち上がっただけのような感覚だ。けれどⅪの探知範囲に戦闘機が入って来てるということは、本物の爆撃を受けているということだろう。

 豊たちが率いるアストライヤー側が軍の爆撃を防いでいるということだろうか?

 イレブンスがそんな事を考えている間に、フィフスが地下二階の天井にも穴を開け、そしてそのまま地上に出る穴を開ける。

 イレブンスたちは止まることなく、その穴を抜け地上に出た。

「これはまた……」

 地上に出た操生が外の様子を見て、目を細める。操生が目を細めた先には、明蘭学園が所有するグランドがあり、そこには墜落した日本の国防軍の戦闘機があり、勢いよく炎が巻き上がっている。そしてそれはグランドの至る所にあり、まるで戦闘機の墓地のようになっている。

 そしてそんな炎が上がるグランドの上空には、未だに無数の戦闘機が旋回しながら飛びまわっている。その下には、豊やイレブンスたちと戦った零部隊の戦闘員……

「九卿家の当主までいるみたいだね」

 目を細めた操生がそう言葉を吐いた。イレブンスは豊の傍にいるスーツ姿の男と着物姿の女の姿が見えた。きっと操生が言っているのは、あの二人の事だろう。

 九卿家は公家直属の護衛を担当する家であり、その当主となるとかなりの実力を保持しているらしい。そしてそんな九卿家の当主らしき人物が二人もいるということは、並大抵の事態ではないのは確かだ。

「俺たちにちょっかいを出す前に、自分たちの問題を片付けろよな」

「本当だよ。まだ臨時教官になりたてとはいえ、ここには私の可愛い教え子がいるんだからね。下手に学校を荒らさないで欲しいよ」

 自分が諜報活動のために潜り込んだだけということを、忘れてグランドを火の海に返られたことに操生が憤慨している。そこに自分たちへと近づく足音が聞こえてきた。

 イレブンスがその足音の方に視線を向けた瞬間、数弾の弾丸がイレブンスへと飛んできた。

「またかよ……」

 うんざりとした様子でイレブンスが銃弾を飛ばしてきたオースティンたちの方に視線を向ける。

「何ブツブツ文句言ってんだよ? いきなりこっちが戦ってる時に戦線離脱しやがって」

「どうとでも言えよ。俺はちゃんと先に行くっていうメッセージをF―7に伝えといたはずだけどな」

「だから何だよ? おまえがいきなり戦線離脱したことには変わりないんだ。だからテメェは大人しく俺に撃たれろ。今すぐ楽にしてやる」

「おまえ、何かと理由をこじつけて俺を撃ち殺したいだけだろ? けどな、俺はおまえをかまってる暇はないんだ」

 そう言って、イレブンスは強烈な斬撃を放ち、一気に数十台の戦闘機を破壊しているスーツ姿の男と共にいる豊の方へと視線を移した。

 豊かに聞かなければならない。ヴァレンティーネの居場所を。

「あの男がティーネ様を連れ去った張本人か?」

 イレブンスの視線の先に気づいたマイアがそう訊ねてきた。イレブンスは黙ったままマイアに頷く。

「そうか。なら私も奴の元へと向かう。貴様一人を行かせるわけには行かない」

「……わかった」

 イレブンスがマイアの言葉に頷くと、そのまま身体に因子を流し豊の元へと疾走した。




 これは一体どういうこと?

 明蘭学園へと戻った希沙樹は表情を歪めていた。希沙樹の視界には明蘭学園に爆撃を行う軍の戦闘機の姿と、その戦闘機を薙ぎ倒している豊や大城時臣、そして雪村藤華の姿が映っていた。五月女家も輝崎家の傘下に入る名家だ。輝崎以外の九卿家当主の事は、面識なくとも常識として認識している。

 棗の情報によると、明蘭の生徒は緊急事態のため戦闘準備待機という名目で、校舎の裏側にある講堂に集められているという。

 戦闘準備。それはきっと明蘭へと対地用のミサイルなどを落としている軍との戦闘を指しているのだろう。けれど、これはかなり異常な事態ではないのか? 何故、軍はアストライヤーを攻撃しているのだろう? まったく状況が掴みきれない。

 真紘が言っていたのは、豊が欧州からやってきたトゥレイターと交戦したという情報しか聞いていない。真紘は自分たちが戻る頃には、状況がどうなっているか分からないと言っていた。

 だがしかし、こんな状況になっているとは、さすがの真紘も想像していなかっただろう。

「棗、この事を真紘には?」

「いや、まだ伝えてない。はっきり言って、今なお動いている状態を遠くに居る真紘に伝えても無意味だから。それだったら、この状況が収束してから伝えた方が良い。この状況で俺たちが思ったことも含めてね」

「ええ、そうね」

 棗の言っている事は一理ある。真紘も予想していないであろう状況だ。いや、誰がこんな事を予想していただろう? 希沙樹は表情を歪めながら狐につままれた様な気分になっていた。

「とりあえず、私たちも講堂へ……あれは……」

 希沙樹は火の海と化したグランドの中に、ナンバーズの格好をしたイレブンスたちを発見した。

「トゥレイターまでいるのか?」

 陽向が希沙樹と同様にナンバーズに気づき、眉間に皺を寄せた。希沙樹はそんな陽向の横を抜けるように、ナンバーズへと近づく。手には突撃槍のBRVを復元する。

 今までの概念でいけば、彼等は自分たちに謀反を起こすテロリストだ。けれどそんな彼らを気にも留める様子もなく、豊たちが相手しているのは自分たちの味方である、国防軍と敵対している。

 まったくもって、今の状況がどんな状況なのかが分からない。

「不法侵入者の貴方達に訊きたい事があるのだけど?」

 希沙樹がトゥレイターのナンバーズたちの前に立ち、強気な口調で口を開く。すると予想もしていなかった人物が答えてきた。

「五月女君が訊きたいのは、この奇妙極まりないこの状況のことかな?」

「杜若教官……どうして、貴方がトゥレイターと?」

「この状況で隠しても仕方ないから言わせてもらうと、実は私もトゥレイターのナンバーズなんだ」

「俺たちを騙していたということか?」

 目を丸くした希沙樹の横に立った陽向が、顔を険しくさせながら操生に訊ねる。すると操生が少し困った表情をしながら頷いてきた。

「理由はどうあれ、そういうことになるね」

「それは内部からこちらの情報をトゥレイターに流すため?」

 操生に突撃槍の穂先を希沙樹が向けると、操生の周りにいたナンバーズたちが微かな殺気を放ち始めた。ナンバーズの手にも、復元されたBRVが持たれている。もし希沙樹が少しでも動けば、きっと一斉に攻撃を仕掛けてくるだろう。だからこそ、希沙樹の隣に居る陽向もトンファーを構え、正義もいつでも動ける体勢を取っている。

「いや、私がここにいる目的は別に明蘭学園の情報をトゥレイターに流すためじゃないよ。多分ね」

「多分とは?」

「私自身、私をこちらに向かわせた上部の考えを、正確に把握していなからね。だから多分なんだよ。けど私に調査させていた内容が、君たちの命に関わったり、今のような状況を引き起こすための内容ではないことは確かだよ」

 自分たちの命に関わったり、今の様な戦闘を起こすための調査ではないと言うが、それでは一体どんな事を操生は調査していたのだろうか? 

 どんな事を調査していたいのかが判明しない以上、操生の言葉を信じ切ることはできない。けれど今の状況下で無駄な詮索をしている場合でもない。

「完璧に信じたわけではないけど……今は一応信じるわ。だから、私たちにも教えて頂けないかしら? 今のこの状況を」

「仕方ないね……」

 希沙樹の言葉に操生が息を吐いて、それから話し始めた。今起っている状況を。何故、こんな事が起きたのかを。

 そしてその話に、希沙樹は動揺を感じずにはいられなかった。

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