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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第12章〜Queen of the night aria〜
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ダンスと格闘

 酷薄な笑みを浮かべたイレブンスが襲いかかってくる敵へと銃撃を開始する。イレブンスの放った銃弾は相手の勢いを殺し、床へと敵を倒して行く。

「俺と操生を最初に襲ってきた女より格下連中だな」

床に倒れ、身体に走る痛みに悶えている相手を見ながら、イレブンスがそう呟く。零部隊の戦闘服を着てはいるが実力的に上位にいるような奴等じゃない。

「もしかしたら、因子を疲弊させている俺たちなら、数で敵うと思われたのかもしれないな」

 フィフスが自分へと襲い来る敵を足刀による衝撃波で一気に吹き飛ばしながら、肩を竦めさせてきた。

「そうかもな……まっ、その条件に当てはまるのは俺と操生くらいしかいないけどな」

 自分へと投擲されたナイフを銃で硬球のように弾き返す。弾き返した後、イレブンスは身体を背中から抗体するように跳躍し、斜から敵へと銃弾の驟雨を浴びせる。

 斜め上から強烈な銃撃を受けた敵は、戦意を失くしそのまま床へと倒れ込んできた。

「まったく、あたしたち女子の出る幕が無くなっちゃったわ」

「本当にねぇ」

 床へと着地したイレブンスの後ろでⅪと操生がそんな会話をしている。

「女は操生しかいないだろーが」

「あら! 失礼しちゃうわね。身体はこうでも、心は女よ」

 真面目にそう答えてきたⅪにイレブンスは、突っ込んだ方が負けかもしれないという境地になった。

「でも、良かったわね。やってきた敵が雑魚で。あともうちょっとで東アジア地区のボスの所まで辿り着くわよ」

 Ⅺの言葉を聞いてイレブンスは、身が引き締まる様な気持になった。まだ油断はできない。まだヴァレンティーネの姿を目にしたわけではないからだ。

 それに……

「このまますんなり、通してくれるとは思えないけどな」

「正解」

 イレブンスの呟きに、どこからともなく少年の声が聞こえてきた。

「この声……條逢君の声だね」

 操生がそう言った瞬間に、ガコンという不気味な音がイレブンスの耳元に聴こえてきた。その不気味な音にイレブンスは、嫌な予感が脳裏に掠め、気づいた時には左右の壁がイレブンスたちを押し潰すように迫ってきた。

「ここに来て、何とも古典的な仕掛けだね」

「いやん。ちょっとあたしに不利なんじゃないの?」

「つべこべ言わず、走れ!」

 操生とⅪにそう叫びながら、イレブンスがだんだん狭まって行く廊下を走る。

「でも、どこまで走り切ればいいんだろうね?」

 後ろを走る操生の言葉にイレブンスは、口許を引き攣らせた。

「おいおい、まさか終わりがないとかそんな悪趣味な仕掛けじゃないよな?」

「もしそれが当たってたら……この廊下自体が俺たちの処刑場になるな」

「フィフス、今の状況で本当にあり得そうな冗談言うな!」

「悪い、悪い」

 イレブンスは大きく溜息を吐いた。

「こんな所で押し潰されてたまるか!」

 手に持っていた銃をイレブンスが特化型のBRVである和弓に変えて、因子の矢を片方の壁に向け射る。すると壁がイレブンスの射た矢で穴が開き、その穴にイレブンスたちは跳び込んだ。

 すると穴へと跳び込んだイレブンスたちの耳に、超爆音で流れる『吼えろ、ドラゴン』が耳に入ってきた。そして音楽が流れてきたと思ったら、キラキラと光るミラーボールが赤、紫、ピンク、緑、黄色などの蛍光色の光を暗かった部屋に撒き散らす。

 一瞬、穴へと入り込んだイレブンスたちは、自分たちが異色の世界に飛び込んでしまったという錯覚に陥る。そしてそんな『吼えろ、ドラゴン』が流れる部屋にはミラーボールの奥に、周りの床より一段高くなっている円形の台があり、そこに癖の強い長髪の男が、ジーンズにダウンジャケットというスタイルで、キメキメなダンスを踊っている。そしてその男がターンすると、究極なソース顔の暑苦しい顔をした男が立っていた。

「理事……長?」

 操生が若干引き気味に呟く。するとその瞬間に爆音で流れていた音楽が止み、宇摩豊とよく似た男がダンスを止めた。そしてダンスを止めた男が人差し指をイレブンスたちへと突き出して指を振ってきた。

「ヘイ、ベイビー、俺は理事長じゃないぜ。え? 何で、俺が理事長と顔が似てるかだって? それは彼が俺の顔を気に行って、俺の顔に変装してすごしてるからだぁーっぜ!」

 別に質問もしていないのに、勝手に話を進め始めた男にイレブンスを含め、操生にフィフス、そしてⅪまでもが呆れた顔を浮かべている。

 けれど暑苦しい顔で、音楽が掛かっていないのにも関わらず、ダンスを踊り始めている男にそれを気にする様子はない。

「じゃあ、貴方は何者なのかな?」

 ダンスに夢中で自分の世界に入り込んでいる男に操生が訊ねる。

「俺か? 俺はヒーローを題材にした曲を踊るダンサーだ。ここの理事長とは昔からの知り合いでな。能力を買われて、ここでダンスの練習をしながら、侵入者の足止めを依頼された」

「出流……とんでもない部屋に続いてる壁に穴を開けちゃったもんだね」

「前々から、イレブンスちゃんってクジ運がないと思ってたのよねぇ」

「俺だって、ここに来たくて壁に穴を開けたわけじゃねぇーよ!」

 ジト目で自分を見てくる操生とⅪにイレブンスが反論していると、その瞬間に再び先ほど鳴り止んだ音楽が掛かり始めた。

「この音楽は俺の魂の曲だ。この音楽さえ掛かっていれば俺に怖いものなんて何もありはしない! そう、この俺、設楽(したら)(さとし)にはなっ!」

 声高らかにそう叫んだ聡がノリノリに音楽に乗り始める。

「ふざけんな。お前みたいな時代遅れの糞じじいに誰が付き合ってられるか」

 出流がそう言って、和弓を構えた……だがしかし

「何だ? 身体がっ」

 勝手に聡が踊っている物と同じ踊りを身体がリズムを取り踊り始めている。そしてそれは操生やⅪも同じ状況になってしまっている。

 しかもその踊りの振り付けが、まさに七〇年代物という古臭さで、勝手に身体が勝手に動いているとはいえ、かなり恥ずかしい。

「イヤァア! テロリストの少年少女たち、かなりホットなダンスに決まってるぜ!」

「どこがだ!!」

 恥ずかしさと怒りが相まって、聡に怒鳴り声をあげるがまったく聡の耳には届いてない。

「まさに理事長のご友人のことだけはあるよ……」

「うそ〜。こんなダンスが日本にあったなんて驚きだわ」

「みたいだね。私もこの曲が流行った年に生まれていたわけではないから、よく分からないけど」

 もうすでに自分たちの身体、自分の意思に背いて動いていることを受け入れたかのように、操生とⅪがそんなどうでもいい与太話をし始めている。

 呑気にもほどがあるだろ? こいつら……

「おい、フィフス! 何かこの催眠的な音楽から逃れる方法はないか?」

 イレブンスは操生とⅪとは反対側に居るフィフスの方に振り向くと、そこにフィフスの姿はない。

「この映画なら、昔香港で見た事がある。揮い映画にしては良作だったな」

 そんな事を言いながら、黒い円形の大の上で踊っていた聡の頭上めがけて、強烈なフィフスの踵落としが繰り出される。

 そんなフィフスの踵落としを聡が右腕で受け止めた瞬間、衝突した衝撃の余波がイレブンスたちの髪を大きく揺らし、室内の壁に亀裂が入った。

「これは驚いたな。俺の熱いダンスを踊らない輩がいるなんて……どうして洗脳に掛からないんだ? ボーイ?」

 聡がフィフスに訊ねるが、フィフスが薄い笑みを浮かべたまま口を開かず、今度は貫手による攻撃を開始した。フィフスが繰り出す高速の貫手は、まるで鋭い刃物の刺突と同じレベルの切れ味を有している。それに加え、因子で強化されたフィフスの攻撃は、厚い壁でもいとも簡単に貫いてしまうレベルだ。

 だがしかし、そんなフィフスの攻撃を聡も曲のリズムに乗りながら避け躱し、フィフスの胴に強烈な蹴りを入れて来た。その蹴りは両腕で受け止めたフィフスを後ろへと吹き飛ばすほどの威力を持っている。

 後ろへと吹き飛ばされたフィフスが床に着地し、目を細める。細めてすぐに床を思い切り蹴り上げ、聡へと肉薄した。聡は片足で円形の舞台に放物線の線を描いてから、自分へと突貫してきたフィフスにもう片方の足で後ろ回し蹴りを繰り出す。自分の顔面横から飛んでくる聡の蹴りを受け止める。空気が揺れる。

「なかなか良い蹴りだ」

「イエス、当然だ。この強烈な蹴りはアマゾンの奥地、夜のサバンナで獣たちと戦い抜いた戦闘能力だ」

「なるほど。つまり、獣と戦い抜き自己流とも呼べる貴方の格闘術と厳しい鍛錬で身につけた俺の格闘術……どちらが強いかを確かめて見るのも悪くない」

 聡にそう言ったフィフスがそのまま後ろにバク転し、床へと着地すると今度は低姿勢のまま相手へと接近した。そして聡の足を払うように蹴り倒す。

「うおっと! それでも俺は踊る、踊りきるぜ」

 足を素早い横蹴りで払われた聡がニヤリと笑みを浮かべたまま、一瞬だけ床に手を付き体勢を立て直すと、そのまま勢いよく自分の頭でフィフスの額を頭突きした。

「ボリュームアップ! カモーンミュージック!」

 指を鳴らした聡に合わせて、室内に流れる音楽の音量とスピードが過激になっていく。だがそれは音楽だけではない。イレブンスたちの身体もその音楽に合わせて動きが早くなった。

「おい、何で俺がこんなダサいダンスをキレッキレに踊らないと行けないんだよ?」

「Fー11が見たら腹を抱えて笑い出しそうな構図でもあり、怒りだす光景でもあるわね」

 顔中にびっしょりの汗を掻いているⅪの言葉にイレブンスは、思わず顔を青ざめさせた。ここを離れる前に助けられるという失態をしているのに、さらにこんな最悪な格好を笑われた日には、イレブンスは現実逃避に走るかもしれない。いや確実に入る。

「おい、日本には言霊っていう言葉がある。だからそんな事、冗談でも言うな」

「あら? もしかしてオースティンもこっちに来てるの?」

「ああ、ついさっきな」

 青ざめたイレブンスと汗をかくⅪがそんな話をしている間にも、聡とフィフスが幾度となく繰り広げられている。天井を蹴り相手へと手刀を構えるフィフスと、それをリズムを取りながら身体を絶妙な角度で逸らし、避け、反撃する聡。

 足の膝でフィフスの顎を狙う聡の攻撃をフィフスも上半身を後ろへと逸らし躱す。そのため聡の柔軟な身体から繰り出される膝蹴りは、フィフスの髪先を揺らしただけだ。

「ダンサーは身体全てを使って、リズムという名の波に乗る。俺のリズムを受けてみろ」

「ああ、望む所だ」

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