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真に倒せる者

 フィデリオは体内に流していた因子を一気に斬撃という形で放出させ、斬撃となって出たフィデリオの因子が宙で大小の爆発を至る所で引き起こす。爆発による光の放射で辺りが光り輝き、自分たちの姿もホレスの姿も見えなくなる。けれどフィデリオはルカに頼んで、ホレスの位置を自分とサードに教えて貰っていた。爆風に抗う様に、フィデリオはホレスの元に向かう。きっとルカの指示によってサードは反対側からホレスへと肉薄していはるずだ。

『フィデリオ、ここで一つ良い事が判明した』

 ホレスへと肉薄するフィデリオにルカがそう通信してきた。

「どんな?」

『あの対アストライヤー兵器の動力源は因子だ。しかもさっきサードから聞いた情報によると兵器に使用されている因子は彼の物じゃない。つまり、兵器の使用回数には限度があるんだ。ただ、サードも兵器の使用回数がどれほどの物かは分からないみたいだけどね。けどそれが分かれば俺にだって、策がないわけじゃない。けど時間はかかると思う』

「じゃあ、ルカがその対策を打ってる間、俺たちは持ちこたえれば言いわけか」

『そういうことだね。俺の予想からして兵器に内蔵されてる因子の量は少ないとは思うけど、正直……サード、彼女の因子はほぼ尽きかけてるし、フィデリオだって万全の状態ってわけでもないから、気をつけないと行けないのは確かだけど』

 突っ走りそうな自分を遠まわしにルカが諌めているのがわかって、思わずフィデリオは苦笑を零した。

「わかってるよ。ルカ」

『なら、良いけどさ。フィデリオは勝算が出てくると焦り出す癖みたいなのがあるから、見てるこっちの方がヒヤヒヤさせられるよ』

「できるだけ気をつける」

 ルカの言葉にフィデリオは肩を竦めた。そしてホレスへと近づくフィデリオの視界に爆発の中心で焦りなど皆無といった様子のホレスの姿が見えてきた。

フィデリオは剣身に因子を込めたまま、ルカが示した地点にいたホレスに向かって、斬りかかり、そしてホレスのサーベルと衝突し合う。剣身に因子を込めていたためか、先ほどの様に、後方に吹き飛ばされることはない。そしてフィデリオの因子を消滅させたということもなさそうだ。

やっぱり、兵器には回数制限があるのか。

 フィデリオが因子の熱をさらに上げると、ホレスも自身の因子の熱を上げてくる。そしてそんなホレスを後ろから挟撃するように、ワルサーWA2000をホレスに向け銃撃する。だがその瞬間ホレスの姿が消え、サードの放った銃弾は氷の上を跳ね、流れ弾がフィデリオへと向かってきただけだ。

「俺はこんな所でコント劇を見たいわけじゃないがな」

 宙へと移動したホレスがさもつまらなそうな顔でフィデリオとサードのことを見下ろしてきた。

「サード、彼には普通の銃撃じゃ、まったく通用しない」

「最悪だわ。まったく、命中精度が売りなんじゃないの? この銃」

「確かにそうだけど……この場でその定理が通用するわけないだろ?」

 不服そうにふくれっ面をしているものの、サードは少し離れた氷の上に着地したホレスから視線を外していない。

 あの兵器がある以上、ルカを使ってホレスの瞬間移動場所を予測するのは、厳しいだろう。それにルカも新兵器に対して何らかの策があると言っていた。その策をしているルカの邪魔をする気にはなれない。

「やっぱり、今は下手に作戦を立てずに、俺たちは俺たちなりにあの兵器をどうにすか使用不能にすることを考えよう。あの兵器さえ何とか出来れば、俺たちに勝機はあるはずだから。俺が前衛になるから、サード、君は補助を頼んだ」

 フィデリオの言葉にサードが肩を竦めて返事をしてきた。

「まったく、普段からデトレスやナインスに作戦立案を頼んでいるからこうなるんだ」

 ホレスの言葉がすぐ近くにあった。その瞬間ホレスによる強烈な蹴りがフィデリオを襲ってくる。反射的にフィデリオがその蹴りを受け止める。そしてホレスはフィデリオに蹴りを入れた瞬間、サードに向け斬撃を放った。

 サードが手に持っていたワルサーで斬撃を受け止め、斬撃と衝突したワルサーが小規模な爆発して破砕される。

「きゃあああああああああああ」

 その瞬間、けたたましい程のサードの悲鳴があたりに響き渡る。ワルサーは破壊されてしまったが、ホレスの斬撃がサードに直撃することはなかったはずだ。それなのに、彼女は自分の手で顔を触り、手を見つめながら震え、氷の上でのたうち回っている。

「くっ、ははははは」

 氷の上で蹲りながら、のたうち回っているサードに愕然としているフィデリオを余所にホレスが頭を手で押さえながら笑っている。

「幻影を見せられてるのか?」

「その通り。だが……ただの幻影ではない。ちゃんと痛みを伴っている。四肢などを切断した者がなる、幻肢痛(ファントムペイン)と少し類似した症状だ。つまり、サードは自分の手と顔がぐちゃぐちゃに潰された時の様な痛みを味わっているということだっ!」

 ホレスによる刺突がフィデリオへと向かってくる。ホレスの刺突はフィデリオの急所を確実に狙う軌道をとっている。フィデリオはホレスの刺突を避けながら、ホレスへの反撃の隙を探す。けれど激痛で悲鳴を上げるサードの声が耳に響いて、フィデリオは上手く集中しきれない。

 そんなフィデリオをあざ笑うかのように、ホレスが口を開いてきた。

「どうやら、集中しきれていないようだな、フィデリオ? だがそれだと、俺は倒せないぞ?」

 言葉を言い終えた瞬間、フィデリオが剣身に込めていた因子の流れがなくなり、ほんのわずかな時間、身体の力が抜けた。

「なっ!」

 身体の力が抜け、思わず声を漏らしたフィデリオの身体にホレスの刃が斜め下の斬線で斬り込まれる。身体に走った痛みでフィデリオは瞬時に体内に因子を流し、ホレスから距離を取るように跳躍し後退した。

 服からはドクドクと静かに流血し、フィデリオはその痛みに表情を歪めながらも止血に専念する。

 そんなフィデリオからホレスが視線を外し、氷の上で自分の肩を丸めながら震えているサードへと近づいて行く。

「何をっ?」

 フィデリオの叫びにホレスは答えない。答えないかわりにぶら下げられるように手で持たれているサーベル剣の刃が怪しく光る。

 殺す気だ。

 フィデリオはすぐさまホレスの元へと跳躍する。けれどフィデリオがホレスの元へと到達する前に、ホレスを真っ赤な炎で出来た振り子が襲いかかった。

 剣炎処術 ペンデル

『この技ってドイツ代表のフランツ・デア・ヘルツベルトの技……』

 ルカの言葉の後、すぐに炎の振り子によって宙に吹き飛ばされたホレスに別方向にいたゲオルクからさらなる追撃が加わる。

 騎兵剣技 英雄(ヘルト)

 水面を切り裂く程の強烈な威力を保持している風による斬撃がホレスへと向かって行く。

「来てしまったか……」

 ホレスが肩を竦めながらそう呟いてから、ホレスが瞬間移動でその技を回避する。

「厄介な能力を隠し持ってたもんだな」

 眉を顰めながらフランツが自分たちの攻撃を瞬間移動で回避したホレスを見ている。そんなホレスに一足飛びでゲオルクがホレスへと接近すると、ケルト神話に出てくるヌアザが所有するクラウ・ソラスをモチーフにした剣でホレスの胴を横薙ぎに斬りかかる。その一連の動作は目にも止まらぬ速さで、ホレスにダメージを与える。ゲオルクによる高速の剣戟にホレスが、眉間に皺を寄せる。しかしそれでもホレスの戦意を削ることにはなっていない。ゲオルクによるホレスへの攻撃は続いており、今まで余裕そうにしていたホレスにも焦りの色が濃くなっているのがはっきりとわかった。

 これが、現ドイツ代表の実力なのかと思い知らされる。瞬間移動という能力を持つ相手にゲオルクは一歩も引いておらず、むしろ相手を圧倒している。

 こんな実力を自分がつけられるのか?

 眉を顰めながら握り拳を強く握ったフィデリオに、フランツが口を開いてきた。

「フィデリオ、ゲオルクになろうとするな。おまえはおまえの強さを見極めろ。それに、きっとホレスを本当の意味で倒せるのは、ゲオルクじゃない。俺が思うにそれはおまえじゃないと出来ないことだ」

「本当の意味で倒す?」

「ああ。確かにゲオルクだったら相手を物理的に倒すことはできるだろう。けど精神的に相手を倒すことはできない。そうだろ? そして今倒す相手は物理的ではなく、精神的に倒さないとならない相手なんだ」

 何となくだが、フランツの言わんとしていることがわかった。けれど自信がない。

「フランツさん、俺……自信ないです。ホレス兄さんを本当の意味で倒せるかが」

「らしくないな、フィデリオ。おまえが自信ないなんて」

「俺にだって自信がなくなることくらいありますよ」

 フィデリオがそう言うと、フランツがこの場にそぐわない、大きな声で笑ってきた。そしてその後、少し困った様に首を横に振ってきた。

「おまえがどうして強いのか分かるか? フィデリオ?」

 フィデリオが黙ったまま首を振る。

「おまえは自分自身に自信を持てるからだ。どんなに良い才能を持ってても自分に自惚れるくらい、自分を信じることができなかったら、強くなれはしない。勿論、自分の弱さを知っている上での、事だがな」

 フランツがそう言って、茶目っけのあるウィンクをしてから、腕につけている端末に目を通すと、ホレスとの空中戦をしていたゲオルクに声をかけた。

「ゲオルク! 向こうでの準備が整ったみたいだぞー!」

 するとゲオルクがホレスを剣戟で後方へと吹き飛ばし、そのままゲオルクとフィデリオの元にやってきた。そしてゲオルクがいつもの厳しい視線のまま、フィデリオを見てきた。

「フィデリオ、奴等は伊400という相性で呼ばれていた旧日本軍の潜水艦を原子力型に改良した物をハンブルク港に停泊させている。きっとあの艦内には核弾道ミサイルを積んでいる可能性がある。おおよそ潜水艦からミサイルを打ち上げ、ドイツ軍の壊滅及びドイツの主要都市を狙い撃ちするつもりらしい」

「絶対にそんな事、させはしない」

「よし、これから我々はそちらの潜水艦の方へ向かう……自分のやるべきことは分かっているな?」

 自分を試すようなゲオルクの言葉に、フィデリオは力強く頷いた。フィデリオが頷くとそのままゲオルクがハンブルク港の方へと向かい、フランツはフィデリオの肩を叩いてからゲオルクの後に続いた。

「潜水艦の存在に気づいた様だな。なるほど……流石に自慢の潜水艦に土足で上がられるのは好ましいものではないな。よし、フィデリオ……おまえは昔から知っている弟分だ。特別に潜水艦まで案内してやる」

「貴方が俺を案内する前に、俺が貴方をここで倒す」

 フィデリオはアルスター湖に架かる橋に移動したホレスへと跳躍した。

跳躍しながらフィデリオは電荷を帯電した斬撃をホレスへと放つ。ホレスはその斬撃をサーベルで往なす。斬撃を往なされた瞬間フィデリオはホレスへと突貫し、刺突する。

 フィデリオの刺突をホレスが身体を横に逸らし回避するが、完璧に回避されずホレスの首の皮が避け、血が溢れ出てくる。そしてホレスの首横をすり抜けた刃に重力へと変換した因子を流し、そのまま勢いよく肩ごと左半分を削ぎ落すように剣を真下に振り下ろす。けれどフィデリオの剣がホレスの左半分を削ぎ落すことはなかった。ホレスはもうすでにフィデリオの後ろにおり、サーベルでフィデリオを切り込もうとしているからだ。

 フィデリオは身を捻転させ、ホレスの攻撃を受け切り、そのままホレスを切り払う様に後方へと弾き飛ばす。弾き飛ばされたホレスが橋の壁に垂直に着地するとそのまま、フィデリオに剣先を向けて突撃してきた。

 突撃してきたホレスをフィデリオが避ける。しかし避けた瞬間に横からサーベルの刃がフィデリオの身体を撫でてきた。

 右肩側面から血が出る。だが傷は浅い。けれどもうすでにホレスの姿とサーベルの穂先はフィデリオの頭上にあった。あと数ミリで眼球に刃の穂先が突き刺さるというギリギリの所でフィデリオは身を屈め、低姿勢のまま、前方へと移動しホレスの攻撃を避ける。

 避けた瞬間、フィデリオが瞬時に技を放つ。

 聖剣四技 (ヒルデ)(ブラント)

 蒼い炎がホレスを捕縛し、捕縛した瞬間にホレスの身体を焼く。身を焼く熱さにさすがのホレスも苦悶の表情を一瞬だけ浮かべてきた。

 だがその瞬間、ホレスが瞬間移動で炎の捕縛から逃れ、どこかに姿を消してしまった。フィデリオは急いで辺りを見回すが、どこにもホレスの姿は見当たらない。

 一体どこへ消えた?

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