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少年の言葉

 ヤーナは非難する人々の救援活動を手伝いながら、少し遠くにいるフィデリオとナンバーズの戦いへと視線を向けた。ヤーナの視界には巨大な水と氷の氷柱が天へと伸びる様に聳え立っているように見える。

 それを見ながら、ヤーナは静かな憤りを感じていた。

 どうして、彼等はこんなことをするのだろう? こんなに多くの人たちを傷つけて殺して。

 ヤーナが助けた人たちの顔には、心底から来る怯えがあった。そしてその怯えはこの事件を起こした者たちだけではなく、出来る限りの被害を出さないように動いているデトレスとアデーレ、より安全な避難ルートを示しているルカに、敵と衝突しているフィデリオにも向けられている。

 近くにいた小さい少年もヤーナが近づいただけで、「怖い……」と泣き叫び、母親の元へと走って逃げて行く。小さい子供や周りの人たちからすれば、自分たちもこの事件を引き起こした犯人たちと同じ様に見えているのだと思うと、ヤーナはひどく悲しくなった。

 こんな気持ちになるくらいなら、いっそこの場から逃げ去りたいとさえ、思ってしまう。

 ダメ、こんなこと思っちゃ……

 皆も同じ痛みに耐えながら頑張ってる。

 目をきつく瞑りながら、ヤーナは自分を叱咤する。そんなヤーナに一人の男性が声を荒げてきた。

「俺たちがこんな思いをしてるのは、おまえらの所為だ! おまえらみたいなのがいるから、あそこにいる奴らみたいな過激なテロリストが生まれてくる……どうしてくれるんだ!?」

「どうしろ……っていわれても……」

 激昂している男性の勢いに呑まれて、ヤーナは返答ができずにたじろぐ。そんなヤーナの態度が気に入らなかったのか、男性はさらに声を荒げて非難を浴びせてきた。

「何、自分の所為じゃないみたいな、顔してるんだ? ふざけんなっ! おまえらは良いよな? 銃で撃たれても、ナイフで斬りつけられても、死なないんだから。けどな、俺たちは死ぬんだよ!! おまえらみたいな奴等とは違うんだ!!」

 おまらとは違う。その一言がヤーナの胸を抉る。激昂してる男性は顔を赤らめながら、今の状況に対する不満を爆発させている。そしてそれはその男性だけではない。周りにいる人々が男性の言葉に同意しているかのように、冷たい視線をヤーナに向けていた。

 冷たい視線がヤーナを襲い、その恐怖でヤーナの足は震え、竦んでしまう。

「皆さんの不満は分かりますが、今はそれを言うより先に避難して下さい」

 足の竦んでいたヤーナの横に、避難ルートを指し締めた地図を浮かび上がらせるルカがやってきた。

 そんなルカの言葉に、怒りを露わにしていた男性が舌打ちしながら仕方なくという空気を醸し出して、足を進める。

「ちょっと待て!」

 男性とその男性に続いて、歩き出した住人をデトレスが肩を貸す五十を少し過ぎたくらいの男性が呼び止めた。男性は止血されているものの、身体の至るところから血を流している。

「あの人は確か……元空軍のエトヴィン・ダーヴィット大佐だ」

「知ってるの?」

「うん、あの人は軍の中でも色んな勲章を取ってたり、パイロットとしての色々な記録を作ってる人だから、軍関係者と航空関係の人で彼を知らない人はいないよ」

「そんなに凄い人だったなんて……」

 ヤーナはもう一度、デトレスに肩を貸してもらいながら立っているエトヴィンの方を見た。エトヴィンの顔は真剣で、人々の足を止めるのには十分な威圧がある。

「なんだよ?」

 呼び止められた方の男性が、エトヴィンの威圧に動揺しながらも彼を訝しげに睨む。だがエトヴィンは、その男性ではなく、今度はヤーナの方に向いてきた。

「そこの子、おまえはさっきここにいる奴等から理不尽に叱責されて、怖かったか?」

 予想をしていなかったエトヴィンの言葉に、ヤーナは一瞬どう答えようか迷ったが、正直に顔を頷かせた。するとエトヴィンが満足げに頷き返し、男性の方へと向き直る。

「おまえたち、自分たちがあそこにいるテロリスト共と同じだと思わないか?」

「じいさん、いきなりふざけたこと抜かすなよ。何で俺たちがテロリストと同じになるんだよ? それを言うなら、そっちの奴等の方がテロリストに近いだろ?」

 男性が鼻白む様子で、エトヴィンとヤーナに引き攣った苦笑を浮かべてきた。

「確かに持っている力を基準として考えれば、テロリストに近いのは俺たちより、こいつらだ」

 そう言ってエトヴィンがデトレスを一瞥し、それから再び男性の方を向いて話始める。

「けど、別の基準で考えれば奴等と似てるのは、おまえたちだと俺は思う。おまえにその基準がどういうものか分かるか?」

「分かるわけないだろ? 意味分からないことをゴタゴタ言うなよ」

「分からないなら教えてやる。おまえはそこの少女に恐怖を与えた。しかも自分の苛立ちを発散するために。そしてその行動は、向こうにいるテロリストと何が違う? そこの少女はおまえたちに何をした?」

 エトヴィンがはっきりとした口調でそう言うと、さすがの男性も口籠る。

 するとエトヴィンが再び口を開いた。だがその言葉は男性にではなく、ヤーナに向けられていた。

「名前を言ってなかったな。俺の名前はエトヴィン・ダーヴィットだ。おまえの名前は?」

「ヤーナ・アイクです」

「そうか。では改めてヤーナ、おまえに訊く。さっきおまえは俺の質問に頷いたな?」

「はい」

「では、恐怖以外に何を思った?」

 エトヴィンに訊ねられ、ヤーナは戸惑いを感じた。だがそんなヤーナをエトヴィンが黙ったままじっと見つめてきた。

 はっきり言って、ヤーナが恐怖以外で思っていたことは、決して良い物ではない。ヤーナの言葉を聞いて怒りだす人もいるかもしれない。

 それを思うとヤーナはエトヴィンの問いに答える事を躊躇ってしまう。

 どうしよう? ヤーナは考える。

 こんなときフィデリオだったら、どうするだろう? それを考えてから、ヤーナは口を開いた。

「恐怖以外で何かを思うとしたら……それは怒りです」

 静かな口調ではあるものの、はっきりとそう答えた。そしてヤーナはエトヴィンから視線を激昂していた男性の方へと移した。

「どうして、私がこんなこと言われるんだろうって。自分たちはただ助けただけなのに、どうしてって……正直、自分のやっていることが馬鹿らしく思えて、こんな思いをするなら逃げたいって思いました」

 少し俯きながらヤーナは自分の正直な気持ちを言葉にする。けれどヤーナは改めて自分の気持ちを素直に言葉にしてみて、自分の嫌な部分が垣間見えて気分が重くなった。

 自分の言葉を聞いた人たちはどう思うだろうか? ヤーナ・アイクという人物に嫌悪感を抱いてしまったかもしれない。そう思うとヤーナは凄く怖くなった。

 そんなヤーナの恐怖に追い打ちをかけるように、誰も言葉を発しない。

 やっぱり、幻滅されちゃったのかも。

 手を強く握りながら、泣きそうになるのを堪えていると……

「ヤーナ、おまえの正直な気持ちが聞けて良かった」

 そうエトヴィンが、目を優しくしながら言ってきた。ヤーナがそんなエトヴィンに驚いていると、エトヴィンが口を開く。

「おまえが感じることは人として普通の事だ。恩を仇で返されたら誰だった頭に来る。俺だって腹立つさ。でも、俺はおまえに腹を立てた奴の気持ちも分かる。俺たちはおまえらと比べると脆い。きっとおまえたちのような奴が、本気を出せば欠伸をしながらでも俺たちを殺せるだろう。それを俺たちは漠然とだが、頭の片隅で思ってる。だからこそ、自分たちに危害を簡単に加えられる存在のおまえたちに、恐怖し、憤りを感じる。力ない奴が力ある奴を信じることは難しい。俺たち人って言う奴は、そういうもんだ。困ったもんでな」

 悲しそうな表情を浮かべるエトヴィンに、ヤーナを含めこの場にいた人たちが沈黙する。エトヴィンの言葉を聞いて色々考えるべきことはたくさんある。だがそれはどれも途方もない事だということも分かる。

 考えるべきことに答えが見い出せす、ヤーナが俯いていると……先ほどヤーナから「怖い」と泣き叫びながら、逃げて行った少年がヤーナの元に近づいてきた。

「お姉ちゃん、ごめんなさい。泣いた僕のこと許してくれる?」

 少年が弱々しい声でヤーナに訊ねてきた。

 そんな少年の様子にはっとして、ヤーナは力強く頷いた。

「うん、いいよ。お姉ちゃんも皆に怒ったりしてごめんね」

「ありがとう。僕たちのことを助けてくれて、本当にありがとう」

 近寄って来た先ほど助けた少年の言葉に、思わずヤーナは涙を流した。



「我々との合流時間に来ないと思ったら、まさかこんなことになっているとはな……」

 息をしていないナインスをいぶかしむようにホレスが目を細める。

「Ⅷ(エイス)、一体どういうことよ? 何でナインスを殺したの?」

 怒りに震えるサードが声を荒げさせる。

「彼女は、もう自分の目的を見失いそうになっていた。だから殺した。目的を完遂することのできない者は堕落した奴等だ。俺は彼女を堕落した奴等に成り下がる前に、殺しただけだ」

「あたしはあんたの持論なんてどうでもいい……いいわ。あんたには死んでもらう」

 冷え切ったサードの身体から熱を上げた因子の残滓が宙に漂う。その残滓がホレスにこびりつく様に集まって行く。

「なるほど。俺を洗脳して殺そうとしているのか? だが無駄だな。おまえの洗脳に俺はかからない」

「どこからその自身が来るのか知らないけど、あたしの洗脳が掛からない奴なんていない。これは靴が私用のない事実よ」

「いや、それが覆る。これを使えばな」

 そう言って、ホレスが徐に内ポケットから取り出したのは、腕輪のようなリングだ。ホレスがそのリングを腕に嵌めると、ホレスを取り撒こうとしていたサードの因子がリングによって消滅する。

 ホレスのつけるリングを見ながら、あれがオランダのアムステルダムで使用された、トゥレイターが保持するアストライヤー向けに開発された新型兵器だということが分かった。

「ずる賢い男ね。そんな者を隠し持ってたなんて……でも、だからってあたしは屈しない。ナインスを殺した奴をあたしは絶対に許さない」



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