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メッセージ

「まさか、嘘でしょう?」

 信じられない事が起きて動揺しているのは、前に出ているイレブンス、オースティン、マイアの後ろにいる7thだ。

 自分たちを睥睨している男と戦おうとしていた所、今前に出ている三人以外のBRVが使用できなくなってしまったのだ。原因は敵の情報操作士による妨害。そのため武器を使ってまともに戦えるのが、イレブンスを含め、前に出ている三人しかいない。

「敵も分かってるな。さっきまでぶっ倒れてた不安要素を残しておくなんて」

 オースティンが隣に立つイレブンスを横目で睨みながら皮肉を言ってきた。しかしイレブンスはオースティンの皮肉を無視して、向こうの動きを注視する。

 手に突撃槍を持っている男の後ろには、場にそぐわない笑みを浮かべる男と長刀を持った女が立って、イレブンスたちを見ている。

「結構、生徒たちくらいの子もいますねぇ」

舘成(たてなし)教官、年齢が若くても反逆者は反逆者だ」

「榊教官は厳しいですね。だから生徒にも怖がられるんじゃないですか? 桐生(きりゅう)教官もそう思いません?」

「さてね。むしろどうでもいい話をあたしに振るな」

「はは。いや、こんな風に敵と戦うのは久しぶりかと思って、緊張を解そうとしただけですよ」

「別に必要ない。すぐに決着(ケリ)をつけるからな」

 笑う舘成に榊がそう言うと……イレブンスたちへと向かって跳躍し、真上からイレブンスへと槍の穂先を突き出す。突き出された穂先をイレブンスは横へと跳びながら交わし、榊に向け銃撃を開始する。

 榊は自分へと向かってくる銃弾の軌道を見極め、銃弾を交わしながら再びイレブンスへと肉薄してきた。近づいて来る榊と距離を取ろうと後退する。すると前にいたはずの榊の姿が一瞬で消えた。

 どこだ?

 そう思った瞬間に殺気が後ろからやってきた。

 イレブンスは咄嗟に身を後ろへと翻し、突き出された突撃槍の攻撃をM4カービンで受け止める。しかしその瞬間、M4カービンに異変が起きた。

 穂先を受けた箇所から霜のような物が銃全体に広がり、銃を持っていたイレブンスの手までも子終わらせてきた。

 その様子にイレブンスは思わず舌打ちをし、銃を離す。イレブンスは新たにBRVを復元することはせず、そのまま榊へと近づく。その瞬間にも榊からの刺突は続く。

 鋭い突撃槍の穂先はイレブンスの上半身、致命的な箇所ばかりを狙ってくる。そして因子によって刺突の速さを増しているのか、どんどん避けることが困難になってくる。

 けれどそれでもイレブンスは榊へと近づき、突撃槍を持っている方の榊の腕を左手で掴んだ。

 榊の腕を掴んだ瞬間、手に重度の火傷を負ったかのような激痛が走る。

「ッ」

 一瞬で自分を貫いてきた痛みにイレブンスが苦悶の表情を浮かべる。榊の手はイレブンスの体温を一気に奪ってしまいそうな程、冷たかった。

 しかし痛みに意識を持っていかれたのは、刹那的な時間だ。そのためイレブンスは手ぶらとなっていた手の方にデザートイーグルを復元し、榊へと連続的に銃撃する。

 血飛沫が宙を舞い、服が血に染まる。

「かはっ」

 腹の底から逆流してきた血を一気に口から吐き出される。イレブンスは自分の身に何が起きたのか、分からず混乱した。

 何が起きた?

 確かに攻撃したのは自分のはずだ。けれど今、血に染まっているのは榊ではなく自分だ。しかも槍は背中から刺されたように突き出されている。

「おまえは一回、この技を見た事があるはずだ。まだまだ詰めが甘い奴だけどな……」

 自分の身体を貫いた槍が引き抜かれ、大量の血が床へと落ちる。声は後ろからやってきた。二つの事柄からイレブンスはようやく自分が置かれた状況を理解した。

 理解してイレブンスは前にいる榊の顔面を足で蹴り砕く。砕かれた氷の(れき)(かい)が辺りへと転がり落ちる。

「やられたな。まんまと」

 イレブンスは傷口を押さえ、額から汗を流しながら後ろに立っていた本物の榊を睨む。

「まだ威勢だけは残ってるか。クソガキ。けどな、もうここまでにしろ。クソガキの面倒な反抗期に付き合っていられるほど、こっちも暇じゃない」

 うんざりとした様子で榊が言葉を唾棄してきた。言葉を唾棄してから再び突撃槍を構え始める。

 最後の止めを刺そうということだろうか? いや、現実的にそうしようとしているのだろう。だがそれをイレブンスは受け入れない。受け入れず反逆することを選ぶ。

 想いの熱が自分自身の状況を忘れさせ、理性が冷やされて行く。冷やされた事でイレブンスは今の自分の愚かで無様な姿を認識した。滅びる原因は、自らの内にあるという言葉があるが、まさにその通りだ。

 俺は自分が何であるかを忘れていた。今までの戦いで擦り減っていた思考と先に進まなくてはいけないという、消すに消せない焦燥感から自分を完全に見失っていた。

 けれど……自分を思い出した。思い出せた。

 だからこそ……

「俺は倒れない。絶対にな」

 イレブンスはデザートイーグルからF2000へと持ち変え、因子を流す。

「威勢だけで世の中が上手く転がると思うな。それを俺が今からしっかりと身体に叩きつけてやる」

 榊がイレブンスに向け疾走する。

 けれどイレブンスが焦る事はない。もう目の前に敵がいて、敵は自分の銃弾を避けることはできないのだから。

 空間変奏 小糠雨

 自分へと向かってくる榊の空間が歪み、そこからイレブンスの因子を元から含んだ無数の銃弾が飛び出す。歪んだ空間から飛び出す銃弾は、勢いよく榊の身体を貫通する。

 イレブンスの能力のもっとも強みは、イレブンス自身の視覚で敵を捉えていれば「どこの場所からも可能な銃撃」だ。

 そんな自分の強みを忘れて、ただ早く相手を倒すことだけを考え焦っていた。焦りが自分を追い込むことを知っているというのにそれを忘れ、自分を追い詰めていた。

 これでは、オースティンに不安要素と言われてしまっても無理はない。それくらい自分はみっともなかったのだ。

 でも、もうそうは言わせない。

 オースティンの奴に言われっぱなしっていうのは癪に障るからな。

 イレブンスの攻撃によるダメージを軽減させるように、防御の体勢を取っている榊へとイレブンスは走る。イレブンスによる小糠雨を最小限のダメージで防ぎ切った榊を拳打による打撃を食らわせる。

 打撃を喰らわせた所で、イレブンスの頭上には強大で鋭く尖った氷柱が向かっていた。敵の攻撃を耐えながら周囲に因子を放散させ、次の手に備えていたという事だろう。

 しかもイレブンスが近づいて来ることが分かった時から、氷柱が出来上がるまでの時間は約0・七秒。その間に人の大きさとは比べ物にもならない氷柱を造った榊に、イレブンスは思わず舌を巻いた。

 そして頭上から勢いよく飛翔してくる氷柱に向け、銃弾を放つ。けれど、銃弾が氷柱に衝突するまえに、氷柱から放たれる冷気によって、銃弾が凍り付いてしまう。

 そうしている間にも落下し続ける氷柱の破壊を諦め、イレブンスは後ろへと後退しながら回避する。イレブンスが避けた氷柱は床へと衝突した際に、白い冷気を辺りに撒き散らしながら砕けた。

 砕けた氷柱が第二次攻撃として辺りに散乱し、周りで戦っていたマイアやオースティンにまで向かって行く。

「おい、不安要素! 人が戦っている最中に迷惑かけてんじゃねぇー」

「榊ッ! アンタ味方のあたしにまで被害出してどうすんのさ?」

 オースティンと桐生からの文句を聞きながらイレブンスは溜息を漏らす。戦っている最中に、こっちに向けて大きい声を出せる余裕があるんだから、ほっといても平気だろう。

「桐生、いちいちこのくらいでビービー騒ぐな」

「榊、テメー! コイツ等片付けたら、次はアンタを絞めてやるから覚悟してな」

 そう叫ぶ桐生を無視して、榊がイレブンスへと肉薄してきた。

 これは本当に後で仲間割れだな。

 イレブンスはふとそんな事を思いながら、自分へと近寄ってくる榊と距離を保つように後退しながら、銃撃を開始した。

 榊が突撃槍をイレブンスへと突き出すと、冷気を伴った衝撃波が床を削りながらやってきた。イレブンスはその衝撃波を銃で受けとめる。

 銃が衝撃波によって削られ、悲鳴を上げる。

 悲鳴を上げる銃へと因子を流し、そのまま衝撃波を銃で引き裂く様に攻撃を無効化させる。その瞬間、骨が軋むような痛みを感じた。

 まだまだ一時的回復しかしていない因子が、イレブンスの身体に危険信号を出し始めているのだ。

 こんな身体であとどのくらい戦えるのか?

 イレブンスの脳裏にまたもや焦燥感が沸き起こりそうになる。だがその焦燥感を喉元で呑みこむ。焦りを消す為に深く息を吸い、気持ちを静めさせる。

 その瞬間、イレブンスの横腹を榊の突撃層が掠めて去って行く。そしてイレブンスの横腹を掠め去った突撃槍がそのままイレブンスを横へと吹き飛ばしてきた。

 吹き飛ばされたイレブンスは宙で体勢を整えながら、榊へ銃弾を撃ち込む。

 銃火が激しく上がり、銃弾が榊へと飛んでいく。榊が勢いよく突撃槍を回転させ、上から降ってくる銃弾を弾く。弾き返された銃弾が床へと衝突し、榊の左右で爆発し爆炎を上げた。

 イレブンスの周りには白い硝煙が立ち込め、榊の周りでは黒煙と冷気が混ざり合いながら、漂っている。爆発の熱と榊から放たれる冷気のせいで、暑いのか寒いのか体温の感覚が麻痺してくる。

 汗に濡れたイレブンスの身体をその汗を冷やす冷気が通り抜けて行く。まさに身体をゾクリと揮わせる様な冷たさだ。

 そんな冷気を鼻から吸い上げ、口から吐き出す。

 身体への危険信号は今も出され続けているが、まださっきみたいに動かなくなるということはなさそうだ。

 静かにそれを確認してから、イレブンスは自分の動きを見定めている榊を見る。イレブンスが動いた瞬間に次の攻撃を放つ、という気迫が空気の流れを介して、伝わってくる。

 だがそれはイレブンスも同じだった。

 体内で因子の熱を上げ因子を練る。因子の熱が空気を震え、自身の髪を揺らした。そんな空気の震えを合図とし、イレブンスはF2000の銃爪を引き、榊も同時に物凄い冷気を纏った衝撃波を槍から繰り出してきた。

 空間変奏 アンリミテッド バースト

 氷槍奥義 氷槍撃波

 飛翔軌道で無制限の爆発を引き起こす銃弾、アンリミテッド バーストとありとあらゆる物を一瞬の内に凍結させてしまう衝撃波が衝突して、その凄まじい余波でイレブンスと榊の双方が後方へと吹き飛ばされる。

 後方に吹き飛ばされたイレブンスは余波による爆風で、体勢を上手く整えられず、壁に激突する。鈍い痛みがイレブンスの身体を這う。元々、ダメージがあった身体には結構堪える痛みだ。

 イレブンスは荒い息を繰り返しながら、壁に衝突し座り込んでしまった自分の重たい身体を立ち上がらせる。そんなイレブンスの端末に一通のメッセージが届いた。情報端末が自動的に映し出したメッセージの送り主は、條逢慶吾。今7thたちの妨害をしているであろう張本人からのメッセージだ。

 イレブンスは慶吾からのメッセージを見た後、まだなお爆発の威力を上げている攻撃の残滓を見ながら、情報端末で短いメッセージを打ち、先へと続く廊下へと足を進めた。


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