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ライバル

 自分のありったけの力を込めることに専念する。自分の出し切れる力を一滴残らず、絞り出す様に。絞り出した因子を凝縮した矢がイレブンスの手元から放たれた瞬間に、綾芽が自分の喉元に手を押さえ、腹の底から外気へと勢いよく発声をする。

 空間変奏 鳴弦・破魔矢

 帝血神技 滅音

 イレブンスの放った技が部屋一面を眩い山吹色で染め上げ、綾芽の強烈な音波がその光を波立たせる。その攻撃は静寂であり激烈だった。

 二つのぶつかり合う因子が補完的にも見える形で衝突し、せめぎ合っている。その熱で一面の壁が溶解しぐにゃりと曲がる。爆風があたりに吹き荒れ、イレブンスたちの身体に迫りくる。

 拮抗している二つの攻撃が梱着状態に入る。それを見ながらイレブンスは自分の足元がぐらりと揺れている感覚に陥った。

 頭がクラクラする。血を流し過ぎたのか? そして身体全体の力が抜け、意識がやや薄れて行くような感じがする。もしかしたら貧血と共に因子疲労を起こしているのかもしれない。

 イレブンスは内心で舌打ちをした。

 まだ決着がどうなるかさえ、わからない状態の時に自分の意識が飛んでしまっては、駄目だ。そう……今意識を削ることはできない。けれど、そんなイレブンスの気持ちを嘲笑するかのように、意識の瞼がどんどん閉じようとしている。もう思考では何も考えられない。

 どんなに意気込んでも上手くいかないときは、上手くいかない。その現実を突き付けられて、イレブンスは力なく笑うしかない。

 もうこの時点で自分の攻撃が綾芽を倒さない限り、自分が倒される事は逃れられない事実となってしまった。綾芽の方は、イレブンスと違って、今まで継続的に戦っていたわけではない。つまり、因子的な余力も綾芽の方が十分に残っているということになる。だからもし、イレブンスの攻撃で自分の攻撃がやられたとしても、綾芽にはまだイレブンスを殺すことは十分に可能なのだ。

 いや、もしかすると綾芽は自分を殺さず、もっと別の場所に自分を追いやるかもしれない。最初に会ったときに自分と代われる存在うんぬんと言っていた気がする。

 けれど例え命が助かっても、綾芽という女が用意する未来に良い未来を想像することはできない。むしろ死んだ方が良いとさえ、思うかもしれない。もし本当にそんな未来が来るとしたら、それは悪夢だ。最悪にも程がある。

 そしてそれを考えれば考えるほど、それに抗いたいと思うのにイレブンスの身体には、まったく力が沸いてこない。

 瞼が一気に重くなる。

 意識が抜け落ちて行く。

 そんなとき……イレブンスの耳元に勢いよく天井が破壊される音とやけに耳障りな声が聞こえてきた。

「おい、こんな所で寝てんのか?(HeyAre you asleep now?) くそ野郎(Fucker.)」

 突き破られた天井からは、暗い空と利かん気そうな顔に笑みを浮かべたオースティンがMH―47GからM82の銃口を綾芽へと突き出し、イレブンスの攻撃を補助するように強烈な電撃を纏った銃弾が放たれる。

「はっ(Huh)……バカ言え(Say fool)」

 予想外の助っ人にイレブンスは、思わず口元に苦笑を浮かべていた。そしてオースティンの攻撃が合わさったイレブンスの攻撃が拮抗していた綾芽の攻撃を打ち破り、そのまま綾芽の胴を大きく抉るように貫く。

 イレブンスとオースティンの攻撃に胴を貫かれた綾芽が床に、何の抵抗もなく倒れ込む。そんな綾芽をマイアと戦っていた柾三郎が抱え、自分の影に飲み込まれるように消えて行く。

 ぼんやりとした表情のままの綾芽が影に消えて行く際に、一瞬だけイレブンスと目が合った。そして微かに笑みを浮かべ、口を微細に動かした。

「また……」

 影に消える綾芽を見ながらイレブンスも床へと仰向けに倒れ込んだ。

 視界がグルグルと回る。意識が朦朧として気分が物凄く悪い。自分の身の内に起きた因子疲労の感覚は、これまでに経験したことのないほど、イレブンスの体を気怠くさせる。こうして意識を繋ぎ止めているのが奇跡に思えるほどだ。

 そんなイレブンスの元に、着陸したMH―47GからオースティンやFー1、Fー6、Fー7、などが降りて来た。

「さすが……トゥレイターで特殊改良されたエンジンね。ニューヨークから約七時間で日本に来れたわ」

 自分たちが乗って来たMH―47Gを7thが軽く叩いた。

 それから落ち着いた足取りで7thが床に片膝を付きながら、今にも気絶しそうなイレブンスの元にやってくる。

「こんなことだろうと思って、回復役を持って来ておいて良かった」

 7thが床に倒れ込むイレブンスの腕の裾を捲り、持参していた回復薬を注射する。

「因子の回復には時間掛かるけど、これで死ぬ心配はなし」

「ああ、助かった」

 注射をする7thにイレブンスがそう言うと、7thは何も言わず肩を竦めて来た。

「おい、ここにはおまえとロシア女しかいねぇーのか?」

「見れば分かるだろ? 何でだ?」

 イレブンスが近づいて来たオースティンにそう訊ねると、オースティンが鼻を鳴らしてきた。

「気になってるのはEー5の事でしょう?」

「おい、7th余計な事言うなっ」

「はいはい。それで? Jー11、こっちの11thが気になっているEー5は? 一緒だったんでしょ?」

 7thの問いにイレブンスは軽く息を吐いてから口を開く。

「Eー5は別の場所で戦っているはずだ。Fー7、ここでEー5を探知出来るか? 離れてる所からだと、敵の情報操作士に妨害されて、上手く情報を掴めないみたいなんだ」

「わかった。調べてみる」

 7thがすぐに自分のBRVを使い、辺りを調べ始める。彼女のBRVは腕に嵌めている情報端末とは違い、従来の手で持つ携帯のような端末だ。それを使い情報をかき集める7thを見ながら、イレブンスは静かに息を吐く。息を吐く事で疲れが吹き飛ぶわけではない。けれど体の中にある疲れという物、全てを外に吐き出したい気分だった。

 むしろ、そうすることくらいしか今のイレブンスにはやることがない。

 体が未だ上手く機能しないからだ。因子疲労を起こすとは、つくづく面倒な事だと改めて思う。その所為で綾芽を完全に倒すことはできず、オースティンに窮地を救われてしまった。

「ああ、最悪の気分だ」

「やっぱ、おまえとは気が合わないな。俺は最高の気分だぜ」

 倒れ込むイレブンスを斜から見下ろし、得意げな笑みをオースティンが浮かべていた。自分に向けられている笑みを見ているだけで、オースティンが何を言いたいのかが何となくわかる。言葉無くしてオースティンはイレブンスに伝えてくる。これでおまえからの借りはもうチャラだ、と。

「おまえらが来たってことは、他の奴らも来るんだろうな……」

「Oh,yeah!」

 溜息を吐くイレブンスに答えてきたのは、オースティンと共にやってきたFー6だ。

「俺たちは先に日本に来たが、後でFー8とかも来るぜ。これを奴の言い方で言うとBIGなことが起こる。そう言う事だ」

 まったく、やれやれだ。イレブンスは内心で溜息を吐いた。確か似たようなことを、綾芽も言っていた気がする。

 もうこれでは、ただ単純にイレブンスたちがヴァレンティーネを奪還したら終わりということには、ならないだろう。きっと奪還した後でも次なる戦いが起きる。

 イレブンスは直感的にそう感じた。

「情報ノイズに妨害されながらも、何とか情報は集まったよ。Eー5はここから少し離れた地点で戦ってる」

「そうか……なら良いんだ」

 戦っているとはいえ、自分が考えていた嫌な憶測が杞憂に終わったことに、イレブンスは心が軽くなるような安堵を感じた。

「しかも、Jー5とEー11も一緒に共闘しているらしい」

「そうだったのか……ってEー11まで来てるのか? 確かあいつも他のナンバーズと一緒にやられたはずだぞ?」

「化け物はタフなんだよ」

 目を細めたオースティンが投げやり気味に吐き捨てる。

 確かにそうかもしれない。けれど、それでも充分に完治していないはずだ。それにも関わらずここにⅪがここに来たという事実に感服する。

「欧州のナンバーズでEー5、Eー11の他に動いているのはいるのか?」

 携帯型の情報端末で情報を集める7thにそう訊ねたのは、近づいて来たマイアだ。すると7thは少しの間、マイアを見てから肩を竦めた。

「動きが確認できたとしたら……Eー10、Eー6くらいかしらね」

「そうか。わかった」

 7thの言葉にマイアが頷く。すると頷いたマイアに辺りを見回していた1stが口を開いた。

「確か貴女って欧州地区のボスに仕える従者なんでしょ? 何でこんな所にいるの?」

「私が仕えているのは、厳密に言うとキリウス様ではなくティーネ様だ。だから私はティーネ様を助け出すために動いている」

「ふーん、でもそのティーネ様も確か欧州にいたんじゃなかった?」

「そうだ。けれどキリウス様がこちらに向かわれる際にティーネ様も一緒に来た。そしてアストライヤー関係の者たちに奪取された。私はそのとき、キリウス様からの別命で別の船で東京湾に向かっていた。そのため、私は敵と直接接触していない」

「ふーん。でもその別命ってなんなわけ?」

 1stが目を眇めながら、マイアに訊ねる。するとマイアは何の躊躇いもなく、いつもの淡々とした口調で答えた。

「一人の少女をJ―4たちと共に殺せという命令が出た」

 マイアの言葉を聞きながらイレブンスは、目を細めさせた。マイアが言う少女とは、操生が言っていた狼の妹の事だろう。

 きっとフォースたちがちゃんと任務を遂行するかの監視役としてマイアを寄こしたのだろう。

「少女を殺せねぇ……それで? その少女は始末できたわけ?」

「いや、それはまだ出来ていない。その少女はここに通っている生徒という情報を掴んでいたのだが、少女の姿はここにはなかった。そのため、今はJ―4たちが少女の行方を追っている」

「だから、J―4たちは、こことは別の所で動いてたわけね。納得。それにしても、貴女はいいの? J―4たちと一緒になって、その少女を探さなくて」

 首を傾げる1stにそう訊ねられると、マイアが首を頷かせた。

「私は少女を殺せとは言われたが、J―4たちのように捜索しろとは言われていない。つまり、私の中で最優先事項はティーネ様の奪還ということになる」

 マイアの言葉を聞いた1stが肩を竦めた。

 竦めさせてから何を思ったのか、今度は床に倒れ込むイレブンスを見てきた。

「あたしが倒す前に、何倒れてんの?」

 いきなり1stからそう言われ、イレブンスは眉を顰めさせた。

「何でって言われても、俺が困る」

「はぁ、なんか……裏切られた気分」

「はぁ?」

 理不尽なことを言いながら溜息を吐く1stに、イレブンスが呆気にとられる。なんで、自分が1stを裏切ったことになるのか分からない。

「まぁ、1stは自分が勝った事ないJ―11に対して、ライバル心的な尊敬を抱いてたからな。仕方ないだろ。そういう所は、バディ同士でよく似てるよな」

「似てねぇ。俺はこんなクソ野郎にライバル心もましてや尊敬なんてもってるわけないだろ。変な言いがかりを言うのは止せよ」

 肩の位置に手を上げ同時に肩を竦める6thに、オースティンが表情を曇らせた。


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