ラウンドゲーム
傷を手当てしたイレブンスの元に、セカンドからの通信が入った。
『中枢システムにアクセス完了して地下通路に通じるゲートのロックは解除した』
「割と早めにシステムへのアクセスは上手く行ったんだな」
イレブンスが通信モニター越しに映るセカンドにそう言うと、セカンドが晴れない顔をしてきた。
『普通だったら、もっと早く出来る。それに……』
「それに? なんだ?」
言葉を言い淀むセカンドに対してイレブンスが首を傾げさせる。するとセカンドが子供らしからぬ深い溜息を吐いてきた。
『あの男がわざとやったんだ。あの男がわざとあたしが侵入しやすいようにシステムを上書きしてきた。つまり、アイツに私も含め、イレブンスの動きが把握されてる』
「だろうな。だからこそ、俺たちが待ち伏せをくらったわけだし……」
「つまり、これは條逢君たちが私たちを罠にかけようとしていると考えた方がいいのかな?」
セカンドとイレブンスの会話を聞いていた操生が、顎に手を当てながらそう呟いた。
「さぁな。まぁ普通に考えれば罠だろうけど……俺的にはどっちでもいい。結論を言うとな。むしろ、俺がここに侵入した時点で、敵の罠がある事は覚悟してたからな」
イレブンスがそう言うと、操生が少し呆れたように肩を竦めてきた。そしてそのまま操生が口を開いた。
「でも、せっかく地下通路に続くゲートがある生徒会室は、さっき滅茶苦茶になっちゃったんだよね。まぁ、ゲート事態はきっと大丈夫だろうけど……そのゲートを見つけるための仕掛けが無事なのか不安だね」
隣で操生の言葉を聞きながら、イレブンスはニヤリと笑った。
「仕掛けは無事じゃないかもしれないが、あの女が派手に自分の部屋を壊してくれたおかげで、ゲートを見つけやすくなったと思うぞ」
「その含み笑いを見る限り、出流……強硬手段でゲートを見つけ出すつもりだね」
「当然」
「確かに今の状態だと、一番手っとり早いかもね。きっと本格的に戦闘になるとしたら……地下でだろうし」
「ああ。でも操生、ここまで付き合わせてから聞くのもあれだけど、いいのか? 一応ここでは教官なんだろ?」
「本当に今さらだね。でもきっと私がトゥレイターと繋がっていることは、理事長たちには元々バレてるだろうから、そこは別に構わないんだけど、校舎を壊したらさすがに解任されちゃうかな?」
イレブンスの言葉に冗談めかして、言ってきた。
そんな操生にイレブンスが苦笑を零した。
「されるかもな……でも今回校舎を壊したのは、ここの生徒だ」
「だね」
『そっちの話は纏まったみたいだから、地下内の地図を送っておく。それと地下内部では敵の妨害を受ける可能性が高いと思う。それだけは覚えといて』
「ああ、わかった」
イレブンがそう答えるとセカンドが通信を切り、すぐあとに地下内の地図を送ってきた。
送られてきた地図を見ると、地下にある施設は地下三階建てほどの深さがあり、建物の横幅も明蘭学園のほぼ半分ほどの広さがあることが分かる。
「これまたでかい土竜の巣穴だな」
「本当だね。私もここまで広大だとは思ってなかったよ」
「ああ、よし地図も手に入れたし、土竜の巣穴に潜入するとするか」
「了解だよ」
操生がイレブンスに頷き、再び綾芽と戦った生徒会室までやってきた。生徒会室はさきほどの爆破でかなり、大破しているようにみえるが、よく見てみれば壁などは核攻撃にも耐える事のできる核シェルターに使われる素材で出来ていたらしく、黒く焦げてはいるが大破して崩れたり、他の部屋に熱を通している様子はない。
「操生、これだけ頑丈ならちょっとやそっとじゃ、壊れないと思うぞ」
目を細めながら部屋の様子を見ていたイレブンスが操生にそう言うと、同じ光景を見ていた操生も苦笑気味に頷いてきた。
「さすが、アストライヤーの卵たちが育成される学校だ」
そんな操生のジョークを聞きながら、イレブンスは復元言語を唱え、手にカールグスタフM3を取り出す。そして躊躇いなど一切なく、生徒会室の床へと因子を込めた砲弾を打ち込む。
近距離から砲撃が衝突した床から爆音が響き、埃が部屋中に広がる。イレブンスはそこに連続で同じ様に砲撃を繰り返す。
その度に爆音と埃の濃度が上がるが、床に穴を開けたという感覚はない。
「頑丈だな」
抑揚のない声でそう呟きながら、イレブンスはさらに砲撃を続ける。するとツルツルとした素材で出来ていた床に亀裂が入り始めた、亀裂音が耳に聞こえてきた。
イレブンスはそこに念を押すようにもう一撃加え、床から地下通路に繋がっているゲートを掘り起こした。かなり強固な床の下にあった地下通路の入口は、床下収納くらいのサイズの物で、想像していたのより呆気ない感じだ。
ただ先ほどの因子を込めた連続砲撃を受けても、傷一つない所を見ると、地下フィルターの素材以上に強度ということだ。
イレブンスが地下通路へと続くゲートの端にあったスイッチを押し、ゲートが静かに開く。するとゲートが開くと自動センサーで地下内の照明がつき、地下へと続く階段を照らしてきた。
現れた地下階段を見ながら、イレブンスが操生と目配せをして地下へと入って行く。
「まるで、地獄行きの道を歩かされてる気分だね」
自分たちが奥へ奥へと進む度に、自動で点灯する照明と人の気配がまるでしない通路を見ながら、操生がそう言った。
イレブンスはそんな操生の言葉を聞きながら、手に持っていたカールグスタフから和弓へとBRVを変更する。
「操生、あの能力は使えそうか?」
「やってみる」
イレブンスの言葉を聞いた操生が立ち止まり、耳を澄まし始める。意識を集中させるために目を瞑っていた操生が瞼を上げ、口を開いた。
「微かに言葉とも言えない程の声は聞こえてくるけど、鮮明じゃないね。離れ過ぎてる。きっと二〇〇メートルくらいは離れてるよ」
「敵がいるってことが分かれば十分だ」
そう言って、イレブンスが和弓の弦を強く引き、因子の矢を前方へと撃つ。本物の矢の様に空気を切りながら飛んでいく矢がイレブンスたちの前方で破裂する。
破裂したのと同時に複数人の足音が一斉にやってきた。
イレブンスと操生の元にやってくる黒ベースの戦闘服に身を包んでいる敵の手には、銃器や軍事用ナイフの形をしたBRVを手に持っている。
「これが噂の零部隊の奴らか?」
「そうだろうね」
イレブンスの言葉に頷いた操生の手には薙刀のBRVが復元されている。
「治療後の軽いウォーミングアップと行くか」
酷薄な笑みを浮かべながらイレブンスが、自分たちへと向かってくる零部隊隊員、八名へと連続で矢を放つ。ナイフを持った隊員が自らに飛んでくる矢を斬り払おうとするが、イレブンスが放ったのは普通の矢ではない。無形エネルギーを矢に模様した物だ。
そのため物体と衝突した瞬間、当たりに光を放ちながら爆発し、隊員を吹き飛ばす。それを見ていた他の物は自分たちへと飛んでくる矢を躱し、代わりに銃弾を発砲しナイフを投擲してくる。
投擲されたナイフが操生へと飛翔するが、それを薙刀で弾き落とす。そしてイレブンスは自分へと飛んでくる銃弾を弓の弓幹を回しながら弾いた後、すぐに次なる攻撃を射る。
空間変奏 一射絶命
隊員たちの背後の空間が歪み、イレブンスが射た一矢が数十の矢となって、向かってくる敵を撃ち抜いて行く。
因子の矢は相手へと的中すると、その瞬間に相手の肉を抉る様に爆発する。相手が苦渋の悲鳴を漏らした。イレブンスの攻撃を躱した者は、操生との交戦により床に倒れ込んでいる。
「近くにいるのはこいつらで、終わりか?」
「多分ね……ただ、こいつらは零部隊でも下っ端分類だね。因子の使い方も荒い所を見ると」
倒れた隊員たちを見ながら操生がそう言った。
「かもな。まぁなんにせよ、面倒な奴が来て足止め喰らうよりはマシだな」
「そうだね」
イレブンスの言葉に操生が微笑を浮かべながら頷き、さらに奥へと進む。
進んで行くと、やはり最初にイレブンスたちへと向かってきた者と同じ服を着た隊員がやってくる。その数は奥になればなるほど多くなり、身につけている武器の装備もだんだん高くなっている。
まるで安いRPGでやらされる、ステージごとのモンスターの様に現れる敵に、イレブンスは目を細めた。
いや、もしかしたらアイツ等にとって今はまだゲーム感覚で自分たちの動きを楽しんでいるのかもしれない、そう内心でイレブンスは思った。
そんな事を思いながら進んでいると真正面から、セミロングくらいのうねり髪に、手には大きな手裏剣型の武器を手に持っている女が立っていた。
「今迄の奴等とは違う雰囲気を醸し出してるね」
「第一ステージのボスって奴か?」
「なるほど。確かにそんな感じもするね……出流、彼女の相手は私がするから、出流は先に進んでくれ」
「いいのか?」
「構わないよ。私もJ―2から地図は受け取ってるし、相手は一人みたいだし。だったら二人で足止めされるよりは、一人足止めの方が良くないかな?」
「ああ、そうだな。わかった。ここは操生に頼んだ。ただ無茶だけはするなよ」
「勿論だよ。私にはまだまだやりたいことが多いからね」
笑顔で操生がそう言うと、イレブンスの背をそっと押した。
「ねぇ、もうそろそろ攻撃を始めてもいいわけ?」
女がそう言葉を発した瞬間には、もう女の打った手裏剣がイレブンスたちへと向かって来ていた。イレブンスは弓幹でそれを弾く。その瞬間、手に物凄い衝撃波が流れイレブンスの腕の所々から血が噴き出す。
女の打った手裏剣はイレブンスに弾かれたのにも、関わらず女の手元にブーメランのように戻って行く。
「んー、まぁこんくらいは防げるか。ウチの息子もこんくらい出来れば良かったのに……あーあ」
イレブンスたちの方を見て、頭を掻いた女がそんな独り言を言った。そして手に戻ってきた手裏剣を改変して、やや大きさが小ぶりとなった手裏剣二つにする。
それを間隙入れず、操生とイレブンスへと打つ。
イレブンスが操生をと目を合わせて頷く。
そしてイレブンスと操生が一斉に前方へと駆ける。
操生は敵の武器へ。
イレブンスは片方の武器を矢で弾きながら、敵を抜ける様に駆ける。
「男の癖に女を置いてくなやぁっ!」
自分を抜けようとしているイレブンスに女が怒鳴り、手から無形弾を放つ。イレブンスは飛んでくる無形弾を睨みながら、技を放つ。
空間変奏 エニグマ
イレブンスの前方の空間が歪む。するとそこに女が放った無形弾が接触し、そのまま無形弾がイレブンスに当たることなく消えて行く。
その様子を見て、女が少し眉を顰めさせる。
「悪いな。今はアンタの世代より男女の平等性が進歩してるみたいだ」
イレブンスがそう言った瞬間、女の放った無形弾が女の背後から現れる。女はそれに気づいて、咄嗟に手裏剣の一つを自分の手元に戻し、その手裏剣で背後に現れた無形弾を防ぐ。
「彼ばっかり相手してないで、私の相手もしてくれるかな?」
イレブンスの攻撃を防いでいる間に、操生が女へと肉薄し、薙刀を振り下ろす。
「あたしを舐めんな、小娘」
女が薙刀を振り下ろす操生にそう言うと、背後見ていた身体を捻り手に持った手裏剣で薙刀を止めている。イレブンスは操生を一瞬だけ一瞥すると、操生がウィンクを返してきた。
そんな操生にイレブンスが頷き、さらに奥へと足を進めさせた。




